【和楽器バンド インタビューvol.1】黒流「自分が生きた証がここに作れた」

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2024年末をもって、和楽器バンドが無期限活動休止する。

和楽器バンドは、ボーカル、ギター、ベース、ドラムといった一般的なバンド編成に加え、箏、尺八、津軽三味線、和太鼓の和楽器を加えた8人で構成。新感覚のロックエンタテインメントバンドとして、10年間唯一無二の存在感を放ち続けてきた。

そんな彼らは、10月に全ての人に送る“GIFT”のようなベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS ~八奏ノ音~』と、映像作品『和楽器バンド 大新年会2024日本武道館 ~八重ノ翼~』をリリース。今回BARKSではこれを機に活動休止前最後となるソロインタビューを実施、それぞれに今の素直な気持ちを語ってもらった。

第一回目は、黒流(和太鼓)のインタビューをお届け。最年長メンバーとして常に責任と誠意を持ってバンドを支え、まさに大黒柱のような存在であった黒流。そしてその身を持って“エンタテインメント”を体現してきた。そんな彼が、未来の和楽器バンドに贈る言葉を聞いてほしい。

   ◆   ◆   ◆


◾︎誰かの背中を押す音楽が作れたことは本当に自分の人生の宝物

──和楽器バンドは、2024年1月に開催した<和楽器バンド 大新年会 2024 日本武道館 ~八重ノ翼~>で活動休止を発表しました。そこから時間も経ちましたが、今の考えをお聴かせください。

黒流:僕はずっと公言してるんですけど、個人の感情としては一日でも和楽器バンドを長くやりたい。たくさんやりたい。メンバーミーティングでも対外的にもずっとそれを伝えてきて、もちろん今でもその気持ちは変わってないんですが、やはりバンドは集団でやっているものだから……。例えば無理に続けることで精神的につらくなるメンバーがいたりとか歪みができてしまうのはやはり良くないので、今回は和楽器バンドらしく、全員の平均値を出した上での活休になりました。だからと言って、大きな声で「活休です!」って言って回るわけじゃなく、ちょっと冷静に見ていますね。

──とは言え、やはり寂しい気持ちは当然ありますよね。

黒流:活休が決まるまでは僕もすごくつらかったし、もちろん感情的になってしまうこともありました。あと、もったいないなって。和楽器バンドはもっともっとできると思うし、これから海外もどんどん行けると思っていたので。でも、 10年経って、それぞれのメンバーの生き方の選択なんだなって納得はしています。僕は一番年上なので、「確かにこの年齢のときはいろいろ考えたな」っていう経験値もありますし。人生で選択をするタイミングってあると思うんですよ。それが、たまたま今だったという。僕はそういった年齢なりのいろいろも経てのいまなのでいいですけど、メンバーがそう思ってしまうということはしっかり理解してあげなきゃいけないですよね。だから自分の中では、活休に対しての気持ちはすごく落ち着いたというか、着地した感じです。

──最年長ならではの俯瞰した思いもあったんですね。

黒流:まあ、解散じゃないので。あくまでも活休。じゃないと、このタイミングでバンドを止めるのは意味がないなと思っています。何よりも、ずっと応援していただいてる皆さんにショッキングで悲しい思いをさせてしまうので、僕らはしっかりと強い思いを持って作品を届けていかないといけない。それは僕らの責任だなと思っています。僕らが悲しいとか寂しいとか言ってる暇はなくて。自分らで決めたことなんだし、自分らが悲しませてしまってるんだから、僕らはもう全力でやるしかない。それが応援していただいてる皆さんへの誠意かなと思っています。

──一方で、やはり受け止めきれないファンの方もいらっしゃって。黒流さんはファンクラブのブログなどで代表して、和楽器バンドの思いも伝えてきてくれました。それも誠意の表れだなと見ていました。

黒流:僕は基本SNSで重い話はしたくなくて。せっかくエンタメとして見にきていただいているのであれば楽しいことを発信していきたいという気持ちがあるんです。ファンクラブのブログであれば、みなさん活休のこともわかった上で読んでいただけるので、あの場に思いを綴ったんですよね。やっぱり一言説明するだけで心が軽くなったりするじゃないですか。“わからないこと”が一番モヤモヤしてしまうし、思いが強いからこそ不満も出る。「もっとこうして欲しかった」という意見が出るということは、その分愛情が強かったということですよね。だとしたら、「今こういう状況でメンバーからは発言ができないんですよ」という説明があるだけでも、納得できるはずで。それはスタッフさんやチームの方々では、より大きな大人の事情があるから難しかったりするんですよね。だから、メンバーの中でも僕がいうのが一番みなさんに納得してもらいやすいのかなと思って。経験上、思っているだけでは伝わらないことはたくさんあるので、これからも伝えられることは伝えていこうと思います。

──私自身もやはり活休のニュースを見たときは正直悲しかったです。ですが、今回このベストアルバム『ALL TIME BEST ALBUM THANKS 〜八奏ノ音〜』を聴いて、「もうこれが全ての答えだ」と思いました。バンドの気持ちが、直接伝わってきたんです。

黒流:本当にこれが全てを表しているし、作品を聴いてもらってライブを見に来てもらえれば多分納得できると思います。



──本当に、活休前最後の最高のプレゼントになると思います。具体的に、作品の内容についても聞いていきたいと思います。収録曲を決めるファン投票の結果は、いかがでしたか?

黒流:ファンの楽曲人気はいつも気にしながらライブを作っていたので、僕らの予想通りの結果でしたね。

──入るべき曲が入っているなと思ったのですが、こうして並びが変わるだけでもまたひとつ違う聴こえ方がするので非常に面白いですよね。

黒流:初期の作品は、8人が“先にレコーディングしたもん勝ち”みたいなアレンジで作っていたので、今回こうして改めてまとめて録り直すと、やはり音がひとつの作品としてまとまりましたね。ただ、アレンジはほぼ変えていないんです。それはわざとそういう風にしていて。展開やフレーズを変えれば、違った感じは出しやすいんですけど、それって「聴きたいのはこれじゃないのに」になってしまう。だから今回のそのまま再録するというのは、すごくいいなと思っていました。僕も自分の好きなアーティストがアレンジしていると「あぁそれもいいんだけど元のバージョンを聴きたかったんだよな」って思っちゃうことがありますし。

──今回に関しては、改変ではなく、改良といった感じですよね。格段に音が良くなっている。

黒流:アレンジし直すわけじゃないけど、ライブでやってる曲たちなので、ライブをやりながらフレーズがどんどん変わっていくということはあるんですよ。それをそのまま出しているので、ライブのグルーヴ感もあると思いますし、いい感じでまとまったなと思っています。

──アレンジをあえて変えた部分はないんですね。

黒流:「起死回生(Re-Recording)」で一瞬だけ、僕がちょっとフィルを変えるとかくらいですかね。「起死回生(Re-Recording)」はラストサビのフィルをちょっと変えてるんですけど、それは原曲のデモには入っていた音なんですよ。

──へぇ!

黒流:まっちー(町屋)にも「ちょっとデモバージョンに戻してみていい?」って話して、取り入れてみました。それは歴史だから、意味があるのかなと思って。

──「六兆年と一夜物語(Re-Recording)」に関してはいかがでしたか。

黒流:そうですね。あの時はまだフレーズ的にもそんなに凝ったこともしてなくて、キメに合わせて打ってる感じなので、改めてアレンジを聴き直してみて、シンプルなことをやってたなぁって。もう何十回、何百回ってやってきた曲だから、自分のフレーズの作り方の違いをすごく感じましたね。でも、これはこれで自分の歴史でもあるから、あんまり手を加えずに、あの当時のままのプレイで再現しました。こんなにシンプルでも伝わるんだなと、逆に新鮮でもありましたね。こんなシンプルなアレンジも、あえてちょっとやってみたいなと。

──手数が増えたように感じていたのですが。

黒流:あぁ、聴こえるようになったんです。先行配信したときにファンの方が、僕の音が増えたとか声が増えたとか、たくさんSNSに書いてくださっていたんですけど、実は変わってなくて。声に関してはわざとオリジナルと同じところでしか発声してないですし。

──だいぶミックスで印象が変わるということですね。

黒流:はい。まっちーが設計図を作って、ここの周波数にはこの音を、って全部聴こえるようにしてくれているんです。全員の音がクリアになって、いろんなフレーズが見えるようになってるだけなんですよ。ミックス作業に立ち会うの、すごい楽しかったですよ。他のメンバーの「あ、こういうこと弾いてたんだ」っていうのを知れたのも面白くて。

──ご自身の作詞・作曲「起死回生」は、印象変わりましたか?

黒流:僕、ライブではサビで打ってなくて煽ってるじゃないですか。だから、レコーディングでサビのフレーズを打ったら山葵やまっちーが「こういう風に打ってたんですね! 初めて聴いた!」って驚いてて(笑)。音楽って、そのときの情景が自然と思い出されますよね。レコーディングしてたらそのときの精神状態がフラッシュバックしてきて……なんていうのかな、「エモい」だとちょっと軽い感じになっちゃうけど、感慨深くなりました。いまだに「起死回生」をきいて受験頑張れました、仕事頑張れました、っていうお声をいただくことがあるんですが、誰かの背中を押す音楽が作れて、世に残すことができたことは、本当に自分の人生の宝物だと思います。

──黒流さんは昔から、応援ソングを書いてきましたよね。それはご自身を鼓舞するためでもあったとおっしゃっていました。

黒流:本当に色々な曲作りましたけど、結局そういう曲になってしまいますね。最近はデモ出すにしても、そういう曲しか書いてなかったんです。採用されるか否かじゃなくて、自分が出したいと思う、自分が得意だと思うものを出していこうと。本当は「月に叫ぶ夜」が自分のリアルに一番近いんですけど、それだと誰も元気になんないし面白くないですしね(笑)。僕も音楽に力をもらって生きてきたタイプなので、これからも人を応援するような音楽活動をしていきたいと思っていますね。



──ほか、リレコーディング曲で聴いてほしいポイントがあれば教えてください。

黒流:「細雪(Re-Recording)」が今回一番形が変わってます。オリジナルはオーケストラも入ってて、僕も大太鼓を使ってかなり派手だったんですけど、今回は削ぎ落としたアレンジにしています。太鼓も、大太鼓じゃなくて宮太鼓の小さいものを使って、音の広がりをなくしました。全体的に侘び寂びを意識したアレンジですね。引き算ってとても大事。“和”っていうと派手なイメージもあると思うんですけど、僕は侘び寂びの趣のあるものが本当の和のかっこよさだと思っているので、そういう意味では「細雪(Re-Recording)」はかなり進化していますね。

──10年培ってきたものとか、年齢を重ねたことによる人間の深みとかも現れているような気がしました。

黒流:そうですね。多分8人全員が、このアレンジいいねって思える年になってきたんじゃないですかね。昔のイケイケの時だったらもっと激しくしようってなってたと思います(笑)。

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