2023年飛躍まちがいなしのソロアーティスト

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世界的にも激動の数年を経て、2023年がスタートした。音楽シーンはと言えば、多様化、細分化が当たり前になって久しく、表現形態も本当にそれぞれになっている。今回、期待の新人として自信を持って紹介させてもらう3組のソロアーティストも個々のスタイルがユニークであり、かつ良質な音楽を届けるアーティストだ。本稿が、新しい才能と出会うきっかけになれば幸いだ。

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■Tele




Teleは、作詞作曲編曲全てを担当するボーカル谷口喜多朗のソロプロジェクト。2022年6月にリリースされた初のアルバム『NEW BORN GHOST』の覚醒感に驚いた。孤独、焦燥、愛情といった観念に鋭く向き合う文学的な歌詞は、やけにシニカルだが、それだけ人生や世界に対する切実さや渇望を感じさせ、鈍感になっていた感性も刺激してくる作品だ。ポップなサウンドに乗って、時にピエロやヒールになりながら真実や希望を伝える詩人の素質があるTeleのイノセントな歌声は、これから多くの人の喉元に迫っていくのだと思う。もちろんいい意味で。だが、もっと鮮烈だったのは、昨年11月に開催された初ワンマンライブ<東京宣言>のステージだった。東京キネマ倶楽部の雰囲気とも相まって、逐一オーバーなTeleのアクションや、ミュージカル〜寸劇のようなシーンが新鮮であったとともに、Teleというプロジェクトに宿る野心に触れて興奮した。「僕がこのライブを終えてからみなさんに見せるのは、人間がフィクションになっていくところです。バンドじゃなくなって、一人でやるってときに、素晴らしいフィクションになることを決めました」と誓ったMCには息を呑んだ。そして、ミュージシャンとしてこれからリスナーを救ってみせる、と声を荒げて奮起する姿を目の当たりにしたとき、こんな刺激的なエンターテナーを待っていたんだと悟ったものだ。


なおTeleは、先述のワンマンライブでも披露した楽曲「ロックスター」を昨年末に配信リリースしたばかり。2月には、東京・Spotify O-EASTおよび大阪・BIGCATにて<東阪ワンマンライブ 「nai ma ze」>を開催する。

◆Tele オフィシャルYouTubeチャンネル
◆Tele オフィシャルTwitter

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■きばやし




2000年生まれのニューカマーでありながら新人らしからぬ重みのある歌を聴かせるのが、シンガーソングライターのきばやしだ。女性アーティストならではの情念や母性を自在に表現する凄みを備えている。日本の歌謡史を彩ってきた歌姫のようなスケールの歌声、抒情的で粋な歌詞、琴線に触れるメロディといった彼女の持ち味を詰め込んだ1st EP『生活』がリリースされたのは2022年11月。ファストが良しとされタイパが重視されがちな時世や、目まぐるしいスピードで右から左へ流行が流れていく音楽シーンにおいて、きばやしは一目置かざるを得ない存在だと感じさせた作品だ。12月に渋谷・LOFT HEAVENにて開催した1st EP『生活』のリリース記念ライブ<生活の随に(せいかつのまにまに)>で初めて見たライブも、令和のゲームチェンジャーになることを予感させた。ひと呼吸したのち、ロウなトーンから始まった「独生」の歌い出しの緊張感が今でも蘇る。歌唱中のどこか達観したようなまなざしなど、既に貫禄のあるステージに魅せられた。(きばやし本人の意向は知り得ないが)すぐにでも「紅白歌合戦」に出れそうだ、と思ったほどである。


老若男女が親しむ「みんなの歌」を歌うシンガーソングライターが出現した、と意気揚々とYouTubeチャンネルを覗いてみれば、玉置浩二「メロディ」や森田童子「ぼくたちの失敗」など昭和の名曲もカバーする嗜好も興味深い。きばやしの音楽も、歌い継がれていく可能性を大いに秘めているのではないだろうか。

◆きばやし オフィシャルYouTubeチャンネル
◆きばやし オフィシャルTwitter

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■doggie




都内を中心に活動するラッパー。まだ若いがバンドのドラマーとしてのキャリアもあり、2020年6月に個人の活動を開始した彼は、とにかく音楽センスが抜群。ヒップホップを軸としながら、ロックミュージックのエッセンスも感じられるトラックとメロディは自由なミクスチャー精神に溢れている。繊細で内省的なリリックは親密であり、本人も自負する「メロディアスなラップ」はリスナーに寄り添い、既に若い世代のシンパを呼んでいる。2022年12月にはビクターエンタテインメント内レーベルのCONNECTUNEより、1stミニアルバム『AEROBLUE』をリリース。時代と呼応するようにフューチャー・ベースを多様し2分台の尺に思春期性豊かな描写を詰めこんだ、タイトル通りの瑞々しい作品だ。だが、決してアンダーグラウンドに潜っていかないポップセンスも持ち合わせたdoggieは、この界隈で異彩を放つ。個人的だがみんなに愛される楽曲作りは天才的だ。そのためだろうか、私はAviciiの曲を聴いている時と似た感触を覚える。


加えて、SEKAI NO OWARI・Fukase監修ブランド「BAD MOOD」とストリートブランド「9090」のコラボアイテム着用モデルをするなど、モデルとしても活躍の場を広げているdoggie自身にもカリスマ性が宿っている。恵比寿Baticaで開催した『AEROBLUE』のリリースパーティーもエモーショナルでオーラ全開だった。ユースカルチャーとしての音楽をカリスマ性を伴ってオーバーグラウンドへ発信する、それってつまりロックスターの姿だと思った。カリスマ不在が続くなか、新時代の救世主が登場したと期待している。

◆doggie オフィシャルYouTubeチャンネル
◆doggie オフィシャルTwitter

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文:堺 涼子

◆BARKS<2022年〜2023年>年末年始企画まとめページ
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