【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.25「表現の自由か、芸術への冒涜か」
偉人とは、死してなお人々に影響を及ぼし、世の中にある種の現象をも巻き起こすことがしばしばあります。昨年末に亡くなったモーターヘッドのレミー、そして先週亡くなったデヴィッド・ボウイの残した作品たちが彼らの自国・イギリスで大きく動いているようです。
モーターヘッドの「Ace Of Spades」は全英チャートで過去最高位を記録、ボウイに至っては遺作『★』が全英アルバム・チャート1位となり、トップ100には過去のアルバム19枚がランクインするという物凄い現象が起きました。このことからも彼らの作品がイギリス国民の間で強く愛されていることがよくわかりますし、自作でチャートの4分の1を占めるとはさすがボウイ、恐れいる大偉業です。
イギリスのみならず、各国の報道機関は彼らの功績を称える記事や特別番組を組み、彼らと彼らの遺した作品の素晴らしさを惜しみなく報じています。それを人々が、世界が求めているということなのでしょう。
そんな哀悼で溢れる中、日本のある新聞社がボウイの功績について不適切極まりない表現で報じました。この事件を受けて、ふと、ある考えが過ぎりました。日本には素晴らしい文化がたくさんあるのに育たない、伝わらない、続かないのには、報道機関に携わる人々の感受性の乏しさも一因かもしれないということです。
表現の自由、報道の自由があるとはいえ、事実からはあまりに遠過ぎて多勢から反感を得るほどの描写では、本質を大きく外れて誤解を招く報道となる恐れが大きく、芸術を冒涜する行為にもなりかねません。
確かにROCKは日本人のソウル・ミュージックとは言えないマイノリティなものですし、人によっては不快にも子供だましにも感じるでしょう。ROCKに限らず芸術に触れた時、人は好きか嫌いかで判断をする生き物ですし、十人十色の受け止め方があることは当然です。しかし、芸術を冒涜するような報道はいただけません。
目からは絵画や彫刻、建築物などの造形美、映画や舞台、書物などの想像世界と瞬間美を愛で、耳からは良質で多彩な音楽をふんだんに注ぎ込む。それ以外にも世に溢れる美や魅力あるものが心まで響き、その体験数が多ければ多いほど豊かな心を育み、想像力や人生観の広がりという糧となる。それが芸術・文化と共に生きる意義だと言えるのではないでしょうか。そのためにも、影響力のある新聞社には政治や時事問題と芸術を一辺倒に評するのではなく、良いものを良いと伝達するシンプルな報道も忘れずに活動されることを期待します。
今回の事件は音楽を生業にしている者として素通りすることができず、僭越ながら自身の考えを述べました。己を振り返って自戒するとともに、これから先も日本や世界各国の音楽家、芸術家が生み出す作品を楽しませていただきながら、作者に対する尊敬の念を忘れることなく責任を持って自分の言葉を綴っていく所存です。
出典:http://www.officialcharts.com/charts/albums-chart/
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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