【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.143「Foo Fightersを<フジロック>で観るということ」

ポスト

<FUJI ROCK FESTIVAL’23>でFoo Fightersを観てから1ヵ月が経った。あの日のことを反芻する暇なく過ごしてきたので今一度ここで振り返ってみようと思う。



遡ること2月3日。この日は<FUJI ROCK FESTIVAL’23>のラインナップ第一弾が発表され、ヘッドライナーにFoo Fighters、Lizzo、The Strokes、そのほか22年ぶりとなるAlanis Morissetteらの出演が一挙解禁となった。コロナ以前と変わらぬ海外アーティストの充実ぶりにメディアやSNSでは2020年から苦境が続いた日本音楽フェスのパイオニアに贈る祝辞のごとく“フジロック完全復活”の文字が躍り、大賑わいを見せた。

これは筆者にとっても非常に大きなニュースだった。現存するバンドの中でFoo Fightersを最高峰のライブバンドと位置づけている身としては、その屋台骨であったテイラー・ホーキンスの早すぎる死を受け入れることができず、バンドの動向は固唾を呑んで見守りながらも彼が逝去した2022年3月25日から1年あまりの間は彼らの音源を聴けないでいた。だからこそ<フジロック>のファースト・ラインナップ・アナウンス・ムービーで使われていた「Best of You」を耳にした時の衝撃たるや凄まじいもので、涙が吹き出すように流れ出た。


Foo Fightersは2022年9月、ホーキンスの追悼ライブをアメリカとイギリスで開催した後、同年大晦日にバンド継続をアナウンス。2023年の年明けには5月開催の<Boston Calling Music Festival>を皮切りに、ライブ活動を再開することを発表。その出演直前の5月22日に配信したグローバル・ストリーミングにおいて、Devo、The Vandalsのメンバーであり、Guns N' Roses、Nine Inch Nails、Sting、The Offspringら数多のアーティストとプレイしてきたジョシュ・フリーズを新ドラマーとして迎えたことを発表し、新曲をセッションするバンドの現況を公開した。そこに悲壮感は微塵もなく、ユーモアのあるカジュアルな演出でバンドが前に進んでいくことをアピールしていたのがなんともフーファイらしくてよかった。そして6月2日には11枚目となるスタジオ・アルバム『But Here We Are』をリリース。こうした一連の流れから、彼らの来日公演をもちろん願っていたし、あるとすれば今夏のフェスになるのではないかという薄い期待もしていたけれど、来日頻度が低いバンドなだけにこれほど早く実現するとは思っていなかった。


話を戻すようだが、毎回ワクワクしながら心待ちにしている<フジロック>のラインナップ発表ではあるけれど、それを聞いて肩をふるわせ、むせび泣く日が来るだなんてことも予想外で我がことながら大変に驚いたし、当時のメモを見返してみたところ「これほど晴れ晴れとした気持ちになれたのはいつぶりだろう」とも書かれており、コロナ禍となって以降、気分を陰らせ続けていた暗雲が心の中からパッと消えたのは間違いなくこの時だった。希望と音楽はいつだって心を晴れやかにしてくれる。そんな求めに応えてくれる音楽フェス、<フジロック>の重要性やその存在について改めて感じ入る出来事だった。



そして迎えた7月29日、史上最高気温をマークした灼熱の<フジロック>2日目の21時過ぎ、Green Stageは王者の帰還をひと目見ようと詰めかけた人々で埋め尽くされていた。8年ぶりとなる苗場でのステージは「All My Life」で幕が開けられ、「Pretender」へと突入するという同時期に出演していたフェスでのスタイルと同じ展開でスタート。“Can you sing with me?”とのっけからオーディエンスを煽るフロントマン、デイヴ・グロールも、前回出演時は足を骨折していたために玉座でのパフォーマンスを強いられていたが今回は自由にステージ上を動き回っている。「No Son Of Mine」「Rescued」「Walk」とたたみかけてから、<フジロック>に再び帰ってきた喜びを語ると共に、嵐の天神山で開催された初回を含め、過去の<フジロック>出演を振り返った。そして“過去に一度もやったことがないことを特別な理由により行う”とした上で、1組目のゲストAlanis Morissetteを呼び込み「Mandinka」をカヴァー。Sinéad O'Connorを追悼した。

「Learn To Fly」を挟み、これまでにFoo Fightersを観たことがある人はどのぐらいいるのか、初めての人は?とオーディエンスに問いかけてから「今夜は一緒に歌いたい」と語り、これまでのバンド歴28年で生まれた曲の中から「Times Like These」をチョイス。懐かしさを噛みしめた後は最新アルバムから「Under You」を届けると再び99年リリースの「Breakout」、97年リリースの「My Hero」をパフォーマンス。時代を遡ってファンを沸かせた。



ここでメンバーのクリス・シフレット(G)、ネイト・メンデル(B)、ラミ・ジャフィー(Key)、パット・スメア(G)、そして、“フー・ファイターズが今ここにいることを可能にした男”として新メンバーのジョシュ・フリーズ(Dr)を紹介。さらに、7人目のフー・ファイターズのメンバーとして呼び込まれたのはWeezerのパット。翌日の出演にも関わらず、1日前倒して会場入りした28年来の友がドラムではなくギターで参加するという超レアな「Big Me」が始まった。その間、フーファイのパットは楽器も持たずにニコニコと見守っているのもよかった。そしてパットをさらっと見送ってからの「Monkey Wrench」で盛り上げた後、「テイラーとは日本でもいい時間を過ごした」と思い出に触れてから「Aurora」を披露。エモーショルに歌い上げ、ノスタルジックな空気へと一変させた。



「もう1曲聴きたい?2曲?」とフランクに話した後、「この曲も一緒に歌おう」とシャウトして始まったのは「Best Of You」。瞬時にオーディエンスの大合唱が響きわたった。ラストとなったMCではオーディエンスに感謝を述べ、近いうちにJapanツアーで戻ってくる可能性を示唆。その日までの間を埋めるように「最後に踊ろう」と投下されたのはやはりこの曲「Everlong」。この曲も、その他の曲でも、ホーキンスの在りし日の姿を何度も思い出しながら観たステージは、誰一人後ろ向きにさせることなくロックの王者らしい大団円で幕を閉じた。



こうして新旧楽曲が織り交ぜられた、期待を裏切らないパフォーマンスにおよそ3万人が歓喜した。ホーキンスと縁深いアラニスや、旧知の仲であるWeezerのパットのサプライズ出演もフェスならではの貴重なシーンだった。そして「次に入れるタトゥーは決まった」と言うほど自身が放ったフレーズ“for Fuji”をいたく気に入った様子で連呼していたデイヴ。6月に全世界配信された<Glastonbury Festival>での鬼気迫るステージングとは違った、いい意味で肩の力が抜けたような自然体のライブだった。



好きなアーティストを好きなフェスで観るという喜びはこの上ないものだ。特に<フジロック>のGreen Stageは大自然の中で感じる開放感と抱擁感のどちらもが存在していて、そこに音楽が加わるだけで格別になるのだが、とりわけ包容感を持つ音楽が大自然と融合し、オーディエンスと共鳴するとき、そのショーは途轍もない大きな感動を生み、観客の胸に深く刻まれ、後世に語り継がれるものになる。4年ぶりに制限なく開催された今回の<フジロック>でそうした場面に遭遇できることや、フェスが開催されることそのものがけして当たり前ではないということを真に受け止められるようになったのは、一度失ったものを再び手に入れることができたからだろう。

ほかでは得がたい経験と自分の核を確認できる唯一無二の音楽空間である<フジロック>で、もう二度と観られないかもしれないと思ったバンド、Foo Fightersを観た。充分すぎた夜だった。

文◎早乙女‘dorami’ゆうこ
写真◎Taio Konishi(FOO FIGHTERS)、宇宙大使☆スター(GREEN STAGE)

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
この記事をポスト

この記事の関連情報