増田勇一の『今月のヘヴィロテ(3月篇)』
先月の公約どおり、『3月のヘヴィロテ』を熱いうちにお届けしたい。今回も脈絡と節操のなさそうに見える10作品だが、自分的にはこれら全部がストライク。かなりスジの通ったセレクトをしているつもりなのだけども。(以下、作品の序列はあくまでアーティスト名のアルファベット順)
●ビーグルハット『オレンジ・グルーヴ』
●BURN HALO『BURN HALO』(輸入盤)
●イット・バイツ『ザ・トール・シップス』
●吉井和哉『VOLT』
●ライオンハート・ブラザーズ『甘いKISS』
●パパ・ローチ『メタモーフォシズ』
●Pay money To my Pain『after you wake up』
●RED『イノセンス&インスティンクト』
●Rocco DeLuca and the Burden『MERCY』(輸入盤)
●ヴェロニカズ『コンプリート』
まず問題。上記10枚のなかに国内アーティストによる作品はいくつ含まれているでしょうか? 正解は3作品。「2枚」と答えた人の多くはビーグルハットに引っかかったと思うのだけども、彼らは正真正銘、日本のバンド。しかし前作、『マジカル・ハット』(2006年)から、英国の伝説的ポップ・ロック・バンド、パイロットのデイヴィッド・ペイトンがヴォーカルを務めていたりするんだな。正確に言うと、前作でのデイヴィッドの関与はあくまで“ゲスト参加"的なもので、あらかじめ完成していた楽曲を歌っているにすぎなかったが、今作では本当の意味でのコラボレイトが実現している。
蛇足ながら捕捉しておくと、パイロットは僕が中学生の頃から大好きだったバンドのひとつ。そんなバンドの中心人物だった人が日本のバンドに参加していて、その作品のライナーノーツを自分が書いていたりするのだから、時の流れは不思議なもの。そうした個人的な思い入れはともかく、『オレンジ・グルーヴ』は年長組ロック・ファンにもニヤリとさせられるところが多いはずの充実作。英国産ポップ・ロックが好物の方にはおススメしたい。
もう2組の国産アーティストは、言うまでもなくPay money To my Painと吉井和哉。前者については今回も“日本のバンドに聴こえない”し、相変わらずこの人たちは“好きなもの”と“やりたいこと”に温度差がない。僕が彼らにいちばん魅力を感じているのも、そこだ。そして吉井和哉の新作は、現在の彼自身がものすごく突き抜けた状態にあることを実感させてくれる、過去最強のロック・アルバム。双方のアーティストについては、取材する機会にも恵まれた。どちらのインタビュー記事も現在発売中の『GiGS』誌5月号に掲載されているのでチェックしてみて欲しい。
輸入盤の2作品について説明しておくと、BURN HALOは、惜しくも解散してしまったエイティーン・ヴィジョンズのジェイムズ・ハート(vo)が始動させた新バンドのデビュー作。前バンドの末期作品には「もしかしてヴェルヴェット・リヴォルヴァーの登場に触発された?」と指摘したくなるような部分が多々あったが、このバンドではそうした方向にさらに振り切っている感じ。アヴェンジド・セヴンフォールドのシニスター・ゲイツ(g)がゲスト参加しているのも見逃せないし、作品上ですべてのベースを演奏しているのがアラニス・モリセットやジェーンズ・アディクションとの活動歴で知られるクリス・チェイニーだったりする事実もある。さらにそのクリスが吉井和哉の『VOLT』に全面参加していることも付け加えておきたい。そして、Rocco DeLuca and the Burden。こちらについては敢えてあれこれ書かずにおくが、ジェフ・バックリーを愛している人たちには是非聴いてもらいたい1枚だ。
約20年ぶりに復活したイット・バイツは、フランシス・ダナリーが不在なのに素晴らしいアルバムを届けてくれた。逸材というのは“居るところには居るもの”なのだな、と実感。パパ・ローチは、従来のイメージに縛られることなくハジケた感じ。楽曲も充実しているし、ジャコビー・シャディックスのヴォーカルがやはり美味。実はテスラのジェフ・キースと重なる部分のある声の持ち主だったりもするのだな、と、今回改めて気付かされた。
双子の美人ロック姐ちゃん、ヴェロニカズの作品も痛快。勢いあまって僕自身のなかでは“ヴェルーカ・ソルト再評価熱”まで急激に高まってしまった。サマソニでの来日も決まっているというし、早くこの目でライヴを目撃してみたいものだ。また、メンバー全員がスキンヘッド及び短髪というだけで僕的には親近感が湧くのがRED。彼らのメロディックでメランコリックなラウド・ロックには、なんだか自然に日常に溶け込んでくるような中毒性がある。デュラン・デュランの「オーディナリー・ワールド」をカヴァーしているあたり、意外でもあるが、驚くほどハマっている。
で、それ以上に中毒性が高かったのが、ライオンハート・ブラザーズ。ノルウェー出身の新人なのだが、『甘いKISS』という時代がかったベタな邦題に惑わされてはいけない。北欧的な色彩感覚とシューゲイザーの匂い、さらにはビーチ・ボーイズを思わせる空気感まで持ち合わせたポップでサイケでヴィンテージなこの作品が、実は3月に手に入れたアルバムのなかでもいちばんの“ヘヴィロテ"だった気がする。
そして、CDではないから10選には敢えて入れなかったけども、『甘いKISS』以上に3月の僕を束縛することが多かったのが“地獄”のほうのKISS。長いこと国内発売の待たれていた集大成的映像作品、『KISSOLOGY』シリーズの日本発売が、ようやく先頃実現に至った。で、『地獄大全:完全生産限定~究極!'77BUDO-KANステージボックス&開けてはいけない地獄の封書付き~』と銘打たれた超大型ボックス・セットは、実にボーナス・ディスクも含めて全18枚組という実に恐ろしいシロモノ。これを一度、見始めてしまうと、あなたの1日は確実にKISSに塗り潰されることになってしまう。ちなみにこのボックス・セットはもはやほぼ完売状態にあって店頭からも姿を消しているが、いわゆる通常盤のほうでも充分すぎるほどに濃密な内容なので、マニアならずとも一度、目を通してみて欲しい。興味本位で全然構わないから。
さて、4月発売の新譜のなかにも強烈なものが目白押しだ。参考までに、もはや次回のヘヴィロテ入り確実と言っていいほど聴いているのが、マストドンとクイーンズライクの新作。これらの作品についてはもちろん、今回選んだ10作品について“書ききれなかったこと”も、これから随時アップしていきたいと思う。
増田勇一
●ビーグルハット『オレンジ・グルーヴ』
●BURN HALO『BURN HALO』(輸入盤)
●イット・バイツ『ザ・トール・シップス』
●吉井和哉『VOLT』
●ライオンハート・ブラザーズ『甘いKISS』
●パパ・ローチ『メタモーフォシズ』
●Pay money To my Pain『after you wake up』
●RED『イノセンス&インスティンクト』
●Rocco DeLuca and the Burden『MERCY』(輸入盤)
●ヴェロニカズ『コンプリート』
まず問題。上記10枚のなかに国内アーティストによる作品はいくつ含まれているでしょうか? 正解は3作品。「2枚」と答えた人の多くはビーグルハットに引っかかったと思うのだけども、彼らは正真正銘、日本のバンド。しかし前作、『マジカル・ハット』(2006年)から、英国の伝説的ポップ・ロック・バンド、パイロットのデイヴィッド・ペイトンがヴォーカルを務めていたりするんだな。正確に言うと、前作でのデイヴィッドの関与はあくまで“ゲスト参加"的なもので、あらかじめ完成していた楽曲を歌っているにすぎなかったが、今作では本当の意味でのコラボレイトが実現している。
蛇足ながら捕捉しておくと、パイロットは僕が中学生の頃から大好きだったバンドのひとつ。そんなバンドの中心人物だった人が日本のバンドに参加していて、その作品のライナーノーツを自分が書いていたりするのだから、時の流れは不思議なもの。そうした個人的な思い入れはともかく、『オレンジ・グルーヴ』は年長組ロック・ファンにもニヤリとさせられるところが多いはずの充実作。英国産ポップ・ロックが好物の方にはおススメしたい。
もう2組の国産アーティストは、言うまでもなくPay money To my Painと吉井和哉。前者については今回も“日本のバンドに聴こえない”し、相変わらずこの人たちは“好きなもの”と“やりたいこと”に温度差がない。僕が彼らにいちばん魅力を感じているのも、そこだ。そして吉井和哉の新作は、現在の彼自身がものすごく突き抜けた状態にあることを実感させてくれる、過去最強のロック・アルバム。双方のアーティストについては、取材する機会にも恵まれた。どちらのインタビュー記事も現在発売中の『GiGS』誌5月号に掲載されているのでチェックしてみて欲しい。
輸入盤の2作品について説明しておくと、BURN HALOは、惜しくも解散してしまったエイティーン・ヴィジョンズのジェイムズ・ハート(vo)が始動させた新バンドのデビュー作。前バンドの末期作品には「もしかしてヴェルヴェット・リヴォルヴァーの登場に触発された?」と指摘したくなるような部分が多々あったが、このバンドではそうした方向にさらに振り切っている感じ。アヴェンジド・セヴンフォールドのシニスター・ゲイツ(g)がゲスト参加しているのも見逃せないし、作品上ですべてのベースを演奏しているのがアラニス・モリセットやジェーンズ・アディクションとの活動歴で知られるクリス・チェイニーだったりする事実もある。さらにそのクリスが吉井和哉の『VOLT』に全面参加していることも付け加えておきたい。そして、Rocco DeLuca and the Burden。こちらについては敢えてあれこれ書かずにおくが、ジェフ・バックリーを愛している人たちには是非聴いてもらいたい1枚だ。
約20年ぶりに復活したイット・バイツは、フランシス・ダナリーが不在なのに素晴らしいアルバムを届けてくれた。逸材というのは“居るところには居るもの”なのだな、と実感。パパ・ローチは、従来のイメージに縛られることなくハジケた感じ。楽曲も充実しているし、ジャコビー・シャディックスのヴォーカルがやはり美味。実はテスラのジェフ・キースと重なる部分のある声の持ち主だったりもするのだな、と、今回改めて気付かされた。
双子の美人ロック姐ちゃん、ヴェロニカズの作品も痛快。勢いあまって僕自身のなかでは“ヴェルーカ・ソルト再評価熱”まで急激に高まってしまった。サマソニでの来日も決まっているというし、早くこの目でライヴを目撃してみたいものだ。また、メンバー全員がスキンヘッド及び短髪というだけで僕的には親近感が湧くのがRED。彼らのメロディックでメランコリックなラウド・ロックには、なんだか自然に日常に溶け込んでくるような中毒性がある。デュラン・デュランの「オーディナリー・ワールド」をカヴァーしているあたり、意外でもあるが、驚くほどハマっている。
で、それ以上に中毒性が高かったのが、ライオンハート・ブラザーズ。ノルウェー出身の新人なのだが、『甘いKISS』という時代がかったベタな邦題に惑わされてはいけない。北欧的な色彩感覚とシューゲイザーの匂い、さらにはビーチ・ボーイズを思わせる空気感まで持ち合わせたポップでサイケでヴィンテージなこの作品が、実は3月に手に入れたアルバムのなかでもいちばんの“ヘヴィロテ"だった気がする。
▲'77BUDO-KANステージボックスは“飛び出す絵本”のような仕様になっていて、箱を展開し、封入されている紙人形を並べるとこんな感じに。さらにこの商品には、やはり'77年当時のスタッフTシャツや公演チケット、メンバー使用のピックなどのレプリカや、特大ブックレット、ミラーボールのミニチュアなども含まれている。これで2万6,250円(税込)は、ハッキリ言って超お買い得! |
さて、4月発売の新譜のなかにも強烈なものが目白押しだ。参考までに、もはや次回のヘヴィロテ入り確実と言っていいほど聴いているのが、マストドンとクイーンズライクの新作。これらの作品についてはもちろん、今回選んだ10作品について“書ききれなかったこと”も、これから随時アップしていきたいと思う。
増田勇一
この記事の関連情報
増田勇一
ビーグルハット
It Bites
吉井和哉
The Lionheart Brothers
Papa Roach
Pay money To my Pain
Red
The Veronicas
PILOT(70's)
Eighteen Visions
Velvet Revolver
Avenged Sevenfold
Alanis Morissette
Jane's Addiction
Jeff Buckley
Tesla
Duran Duran
The Beach Boys
KISS
MASTODON
Queensryche
邦楽
洋楽
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