――Frankはあなたが生活できるように、カタログの売却を望んだわけですね?
GAIL:何をどんな状況で売るべきか、詳細に至るまで検討したわ。彼は「カタログを売った金で山の中か海辺にでも家を買って、このビジネスから足を洗ってほしい」と言ってたの。海辺に家は買ったけど、めったに行くことはないわね。だって家の地下には倉庫があって数多くの遺品が眠っているんだもの。
――Rykodiscは買収した音源をすべてリリースしたのでしょうか?
GAIL:ええ、もちろん(皮肉っぽく)。彼らはとっても賢明だったわ。直ちにすべてを再リリースしたのよ。あらゆるアートワークをこのチャーミングな緑色のプラスティックで覆い隠してね。それからファンに対するスペシャルな贈り物として『The Best Of Frank Zappa』なんていうコンピレーションまで作ってくれたわ。ねえ、あなたがもし65タイトル全部を買ったとしたら、なんて気の利いたやり方だって思うことでしょ? それを連中は実際にやってくれたのよ。
――あなたはただ、彼らの決定を受け入れるしかなかったというわけですね?
GAIL:ファンにしてみれば「これはいったいどうなってるんだ」ってところでしょうし、私としては「うーん、そんなやり方をするんだったら、できるだけ距離を置いたほうが良さそうだわ」って感じだったの。
――さぞ腹が立ったでしょうね。
GAIL:“怒り”という言葉は使いたくないけど、“フラストレーション”はあったわね。彼らがあんなに大急ぎでファミリーに関するあらゆるものを放出したのには本当に失望したわ。最初のリリースではFrankのクレジットを全部はずしてしまって、彼がすべてのレコードのプロデューサーだったという事実を葬り去ってしまったのよ。そしてもちろん、Zappaファミリーに関するあらゆる記述も消し去ってしまったわ。私たちはホットラインを常設して、他の情報を知りたいと思った人が電話できるようにしていたの。彼らはすべてのリリースからあらゆる関連情報を削ってしまったのよ。一晩中続くような長い話し合いを持って、理解しあったうえで契約を終了させることにしたの。
――そうした背景があって、今回Frankの遺した膨大な財産を発掘することになったわけですね。
GAIL:そう。お蔵(vault)に眠ったままになっているライヴ・コンサートのマテリアルに特化した別レーベルの立ち上げを決めたの。名前はVaulternative Recordsって言うのよ。
――クールな名前じゃないですか! いったい何時間分くらいの音楽が残っていると思いますか?
GAIL:'72年から'88年までの、ほとんどすべてのショウが記録されているわ。'64から'72年のあちこちに散らばってしまった素材は別にしてもね。これらはコンサート音源だけで、スタジオワークは含まれていないの。
――うわっ! ブッ飛んじゃいますね。
GAIL:これらは初公開のもので、全部ライヴ・コンサートものになるでしょう。ちょっとしたお宝や貴重な音源があちこちに含まれているわよ。初回リリースには非常にスペシャルなものを用意しているわ。Vaulternativeからの最初のCDは2枚組で、オーストラリアでのコンサートを収録したライヴ盤になる予定なの。
――VaulternativeからのリリースをFrankならどのように感じると思いますか?
GAIL:彼らのようなパフォーマンスをするバンドは他にはなかったから、ライヴの音源を世に出すというアイデアについて、彼はまったく何も気にしなかっただろうと思うわ。これをFrankがやってきたすべての仕事を代表するような作品として提示するつもりはまったくないの。もしもFrankがここにいたならば、こうした会話をすることさえなかったでしょう。おそらく彼はもっと完全に先を行くことをやっているはずよ。何故なら彼は、スタンダードを決めることのできた宇宙でも数少ない存在のひとりだったから。
――こうした音楽が(お蔵から)救出されるべきだということを彼も認識しているでしょうね。
GAIL:ライブラリーを探すにつれて明らかになり始めた歴史には、私たちが夢見た以上にずっと大きな可能性が残されていたのよ。おそらく20くらいの素晴らしいリリースを考えているけど、もちろんそれ以上に展開していくでしょう。私たちが存在すら知らなかったような、完成済みのマスターさえ見つかったんですからね。これこそ考古学的な歓びというものだわ。
――どれくらいの数のアルバムが可能になるのでしょうか?
GAIL:友達のひとりは倉庫に100リリース分ほど眠ってることを夢見ていたけど、私は「どう思う? 実現できそうなんだけど」って言ってやったのよ。全部を世に出すまでストップさせるつもりはないの。Vaulternativeは年に4、5枚のペースでリリースしていければと思っているの。
――これを今やろうと思った理由は何ですか?
GAIL:基本的には、Rykodiscとの間に期待していたような友好な関係を築くことができなかったというフラストレーションが動機なのよ。それとFrankの死からちょうど10年になるという事実かしら。今がタイミングというわけ。
――あなたにはライオンの母(Mama Lion)という評判があります。みんなは「ワォ、Gail Zappaとはf--kしたくないよな!」って言ってますが、Frankはそのことを気に入ってたようですね。
GAIL:それが私のことを気に入っていた理由のひとつじゃないかしら。
――みんなもそのことをリスペクトしていますよ。
GAIL:うまく作用しているのなら、リスペクトされているかどうかは気にしないわ。どうぞご自由に! 私の仕事は作曲家の意志を護ることなの。みんながFrankの音楽を愛してくれるのは嬉しいし、彼は素晴らしいギター奏者だったから、彼がいなければロックンロールはまったく違った形のものになっていたでしょう。でも私が彼の伴侶となった一番で最大の理由は、彼が偉大な作曲家だったからよ。
――私はいつも言っているのですが、100年後に彼はBeethovenやMozartのように崇拝されていることでしょう。
GAIL:ひとつだけ違う点があるわ。彼らは“コマーシャルな”作曲家だったの、現在だと映画のスコアを書いている人たちのようなね。どうやって生計を立てていたかって? 王様が彼らにお金を与えていたのよ。
――Frankは常に様々な活動に手を広げていましたね。Tipper Gore(前副大統領夫人)とPMRCを相手にした、レコードの警告ラベルを巡る悪夢のような論争にも、いつものようにアーティストの自由を支持する立場で参加していました。VH1の映画『Parental Advisory』で描かれていたZappa像についてはどう思われますか。
GAIL:あれは大ウソよ。
――どうして違ってしまったのでしょう?
GAIL:意図的なものね。くだらなすぎて笑っちゃうくらいよ。あれにはRIAAを賛美する意図があったとしか思えないわ。RIAAはアーティストの権利のために頑張っていると大衆に思い込ませようとしている確信犯よ。まったくのジョークよね。あの作品のどこを見てもFrankに少しでも似ているところなんてまったくなかったわ。Frankは個人の権利、憲法修正第一条(表現の自由)、アーティストの自由を支持していたし、さらに重要なのは'71年以降、つまり18歳からの選挙権が認められてから彼のアルバムすべてには“選挙人登録をしよう”と書かれてあったことよ。
――つまり間違ったメッセージを伝えていると。
GAIL:この映画は合衆国憲法に対する侮辱であり、議会に対する侮辱であり、Frankのみならず理由はどうあれPMRCを結成した人々に対する侮辱でもあるのよ。Tipper Gore やAl Goreを代弁しているわけでもないし、上院議員の大半の意見や公聴会の開催実態を反映したものでもない。連中はブランクテープ税を通過させるために、レコード会社を屈服させたかったの。実際に屈服したわけだけど。全体にばかげた作品なのよ。Frankが誰かれかまわず銃を向けたり、脅迫電話をかけたりなんてアイデアはねえ! 実際にあった出来事を取り出して妄想を膨らませて、自分たちのニーズに合うように歪曲してるんだから、誰もが「VH1とRIAAはどういう関係なんだ? オーナーか何かなのか?」って疑問に思うことでしょう。実際に支配されてると思うけどね。
――まったく! 何か法的な手段に訴えられましたか?
GAIL:答えはイエスよ。私の精神的被害に関して法的な賠償を求めているわ。彼らがFrankはステージで破廉恥な行為をするという一般的なイメージに基づいて描いているということはわかっているし、その点に関してはむしろ感謝したいくらいなんだけど、ファミリーの他のメンバーも連中が描いたように同様の行ないを実践していると思っているのなら考えを改めてほしいのよ(笑)! Frankは以前から、レッテル貼りというのは始まったら留まるところを知らないと言ってたけど、今回の件はその予言をみごとに証明して見せたわね。音楽チャンネルではVH1やRIAA、レコード会社の意見を代弁するような形で、彼らのヴァージョンによる真実が発信されている。今度はアメリカ合衆国の上院議会を代弁するメッセージを届けてくれることでしょう! あんな映画に出る理由があるのはDee Sniderだけだと思うわ。
――彼は自分自身を演じて(play)いましたね。
GAIL:自分と戯れて(play)いたんだと思うわ。
――お蔵からのリリースに話を戻しましょう。Dweezilはこんな宝物のプロデュースを任されて興奮していることでしょうね。
GAIL:ええ、彼の役割は音楽的なレベルで作曲者の意図に適っていることを確実にするということなの。私は彼の存在、彼の耳と感性を信頼しきっているわ。だって彼はギタリストでしょ、みんな忘れているようだけどFrankもギター奏者だったのよ。存命中はギタリストとしてのキャリアについて、ほとんど言及されなかったけどね。遺伝子は受け継がれているわ。Dweezilは計り知れない才能を持っているの。彼はいつでも「ギター・ミュージックのレコードを出そうぜ!」って言ってるくらいなのよ。
――これまで未公開だったZappaミュージックで、多くの人々がインスパイアされるのはエキサイティングなことですね。
GAIL:Frankは数多くの人々、多くのミュージシャンにインスピレーションを与えてきた。彼は非常に多作なうえ、強烈で、意志を持った存在だったから。意志があるということがキーなの。Frankに情報の断片を与えれば、想像もしなかったような形に一変して出てくるけど、それが彼の作品というわけ。そして彼は他の誰かがやったこともないような形で作品を所有しているの。再生というものを信じている人々にとっては朗報となるでしょうけど、私はFrankが甦って自分の音楽を聴き、さらに作曲を続けるだろうと考えているのよ。
By Pamela Des Barres