『Future In Light』 70 Drums 2002年10月30日発売 IDCK-1001 2,550(tax in) 1 Awakening 2 Visionary World 3 Auburnia 4 Future Is What We Are 5 Fadeless 6 Liquid Metal 7 Melting Point 8 Presto 9 Beep Twist 10 Strobe Enhanced 11 Neon Sleeper | | ――今作は全体的にほとんどの曲が四つ打ちリズムになっていて、こういうアルバムは今までの作品であまりなかったと思うんですが、フロアー・トラックを意識して作ったんですか? Ken Ishii: 意識したというよりも、そういう曲が単純に作りたい気分になってね。このアルバムは1年半から2年の間にいろいろな国でDJをしてから日本に帰ってきた時に少しずつ作っていったもので、締め切りがあってその為に作ったとかではなく、本当に作りたいものを作ったという感じだね。それにビートに関しても、プレイした時に気分がいいっていうのをそのまま作っていくと、こういう普遍的なテクノの形態の4/4ビートが結果的に多くなったっていう事かな。 ――世界各国でDJした体験からのフィードバックが大きいと。 Ken Ishii: うん。その前とかは映画のサントラだったりメディア的な物だったりとか、ファンの前に出て何かをするのとは別の方向に向っていたから、ファンの前でDJをする事でダイレクトに向かい合えた事がすごく刺激になった。 ――今回は“デトロイト原点回帰”がコンセプトとの事ですが、そうやって作っていった曲が集まったら、自然とデトロイト的な作品になったんですね? Ken Ishii: そうだね。今、自分にとってデトロイトは別に盛り上がっているとかトレンドとかいうわけではなくて、さっきも言ったようにワールドワイドなクラブシーンで起こっているテクノをDJツアーで間近に見た上で、どういうものを作りたいのか、今のシーンでどういった物を入れ込みたいのかが自分の中で積もっていって、実際作っていったら、ハードな方向に向かうよりも、よりファンキーだったり、よりメロディアスだったり、デトロイト的な方向に自然と向かっていった感じ。 ――確かにストリングスなどのデトロイト的な要素は感じたんですけど、所謂デトロイト・フォロワーの曲とは明らかに違うと感じたんですよ。じゃあ、ケンイシイにとってのデトロイト観とはどんなモノかと...。 Ken Ishii: やっぱりさ、デトロイトに行ったことがある人だとわかると思うんだけど、本当にゴーストトタウンみたいな所が多くて、やっぱりああいうところで育った人間と東京みたいに物が溢れて何不自由なく暮らせるような所で育った人間とでは、バックグランドがかなり違うよ。僕なんか東京の人間だから、デトロイトテクノが最初に出て来た時に影響されたものって凄い強いものとしてあるんだけれど、バックグラウンドが完全に違うから、同じものを作りたいというか、単純に真似しようとしても違うものになるんだよね。自分がデトロイトテクノを最初に聴いて得たものは、音楽の細かいスタイルよりも、やっぱりダンスミュージックっていう世界共通の普遍的な物に、面白いアイディアとか、そういうものを入れ込んでもいいんだという音楽的自由さであって、単純にスタイルだったり、アレンジを真似るとかそういう話じゃない。デトロイトから得たのは、そういうスピリットだね。 ――話は変わりますけど、今回は新たにスタートした自身のレーベルからの記念すべき第一弾リリースとのことですが。 Ken Ishii: 今まで契約的な事もあったんだけど…。レーベルは前から凄くやりたくて、デビュー以来音楽を作る事やDJをする以外の仕事のやり方もいろいろ見れたから、人に頼まなくても自分でできるかなって思えてきた。だからこの2年間ぐらいの間、DJでいろいろな国へ旅をするのと同時に、自分ですべてをコントロールする方向に持っていこうと思って。ようやく今それができるようになった状態かな。自分の作品を出す環境をしっかりさせたいという所からスタートして、今回は自分のアルバムが第一弾になったけど、自分以外でも面白いアーティストや良いダンストラックがあればリリースしたいと思ってる。今ぼんやりと考えているのは、12インチのプロジェクトは基本的にDJがプレイできるダンストラック、アルバムはリスニング物中心でという感じでいけたらいいかな。 ――では、最後に、ジェフ・ミルズやアダム・ベイヤーなどハードミニマル~テクノのアーティストが同時期にデトロイト的なアルバムをリリースしたことはどう思いますか? Ken Ishii: たぶんね、実際ジェフにしてもアダムベイヤーにしてもいろんな国に行ってDJやって、フロアでどういう曲がかかっているかというのを体感していると思う。そういう中で自分はもっと面白いものとか自然と意味が出てくるような物を入れ込みたい。新しいテクノファンは、テクノを狭いものと思ってる人も多いと思うから、そういう人達やファンにもテクノっていうのはこういうヴァリエーションなり、深みなりがあるんだよっていうのを伝えたい。多分ジェフやベイヤーも、そういう気持ちがあるんじゃないかな。 取材・文●DJ U(ABEND) | |