【インタビュー】ケンイシイ、「全編テクノという意味では『ヤキトリ』は面白い作品になっているかもしれない」
ケンイシイが、自身初となるアニメ音楽を全編手がけた作品のサウンドトラック盤『Yakitori: Soldiers of Misfortune (Soundtrack from the Netflix Series)』が2023年5月18日(木)にリリースされる。アニメ『ヤキトリ』は、『幼女戦記』で鮮烈なデビューを飾ったカルロ・ゼンによる新作のNetflixシリーズで、『ブライト:サムライソウル』のアレクトがアニメーション制作を手がけ、監督に安保英樹、脚本を堺三保、キャラクターデザインを山形厚史が担当した完全新作のミリタリーSFアニメだ。
◆ケンイシイ『ヤキトリ』 関連映像&画像
■お話をいただいたときは
■期待と不安と両方でしたね
──そもそも今回のプロジェクトはどういうきっかけで始まったのでしょうか?
ケンイシイ お話しをいただいたのが最初なんですが、自分は札幌生まれで、札幌に縁があります。マネージャーはハードコアな札幌人。そして今回のプロデューサー(成田穣)と安保(英樹)監督も札幌の人。ということで“札幌つながり”みたいなものがあって。それに安保監督自身も僕の作品を聴いていてくれていて、僕が過去に出した曲を例に挙げて「こういう曲が欲しい」というイメージもあったみたいで、指名で今回のお話をもらった形です。
──最初は乗り気でしたか? それともできるかな?という気持ち?
ケンイシイ 両方(笑)。まず「それいいね!」という気持ちがあったけど、サントラ全編って今までやったことなかったので単純にできるかなという思いと、どういうものを求められているか不安もありました。普通のシーンの普通の曲、いわゆる劇伴はやったことがないから、そういうものを望まれているんだったらどうしようと……そういう意味で、期待と不安と両方でしたね。
──その後に監督と打ち合わせ。
ケンイシイ 実際に話をしたのが、ちょうどコロナ禍がスタートした直後。慣れないZOOM会議を……人生初のZOOM会議だったな。
──それはどんな内容のミーティングでしたか?
ケンイシイ 挨拶みたいな最初のイントロダクション的なところから、監督、プロデューサーからこういうことを考えてますという話を聞いて、それだったらできそうな気がしますみたいな感じで和気藹々と。
──それからシナリオを読んだ?
ケンイシイ どっちが先だったかな……大体似たようなタイミングで、脚本と絵コンテ、キャラクターや戦闘メカの設定、そういうものをいただいて、最初から全体像はかなり捉えやすかったですね。
──映像を観たのはズーッと後ですか?
ケンイシイ 映像も、コンテを元にした短いムービーみたいなものを少しずつもらって。アップデートしたものをその都度もらって、曲やアイディアを擦り合わせていく形でした。
──シナリオを読んで全体像を知った『ヤキトリ』の感想は?
ケンイシイ “YAKITORI”という名前の傭兵たちの物語なんだけど、そのひとりひとりのキャラクターの分かれ方が興味深い。そして何より戦闘シーンが多いミリタリーもの、というイメージが最初で、それが一本柱としてあると感じました。
──制作はどのように進めましたか?
ケンイシイ オープニングやエンディングなどの何回も使われるであろうところからスタートして、あとは戦闘シーン用の曲に関して監督からいくつかリクエストやキーワードをもらっていたので、それに取り組みました。オープニングは攻めている感じで、エンディングはコントラスト的に原作でも登場するモーツァルトの名曲のカバーをという監督の強い希望があって、そこが僕にとっては一番チャレンジなところだったかな。
──先に映像があって、「このシーンにこういう曲をつけてほしい」という指示があったのですか?
ケンイシイ 最初は監督の言葉で大まかなリクエストがあって、後から少しずつ指示をもらった感じです。
──では監督のキーワードから曲の断片を作っていく感じ?
ケンイシイ 監督の言葉とか、アップデートした映像を自分が観たイメージ……(物語の中の)このシーンなんだろうな、こういう感じの映像なんだろうな、とか、そういう自分なりの解釈を音にしていく作業ですね。
──その音に対して監督からもうちょっとこうしてほしいというリクエストもあったわけですよね?
ケンイシイ 監督が元々テクノ好きで、そのリクエストも面白かったんです。ビートだけ抜いてくれとか、テンポを落としてほしいとか、段々テンポアップしてくれとか。あとはデモをいくつか作っていく中で、監督自ら、こことここを編集してくっつけてほしいとか、途中からは、そういうテクニカルな意味でのアイディアをもらった感じもあります。監督と僕の間で、最初からテクノ的な共通項があったわけ。
──では、普段自分では絶対やらないような作り方になった?
ケンイシイ そうですね。ほかのアーティストとのコラボレーションはあるけれど、ほかのリクエストがあって応えていくという点ではかなり違う作業でしたね。頭の中の違う部分を使って作業しているという感覚。
──自分の曲作りとは違和感がありました?
ケンイシイ そもそものスタートラインが違う感じ。あとは後半からは音響監督、普段アニメ作品の劇伴音楽を発注する方からの映画的な細かなリクエストにも応えていく作業もあって……そっちの方が普通のサントラ的な作り方で、普段の曲作りとは違っていた部分があったのかもしれない。静かなシーンはこれ、不安なシーンはこれで、パターンやテンポのバリエーションはいくつほしいみたいな。
■世界中のだれもが知っている曲で
■どうやって自分のセンスを魅せられるか
──普段自分では使わないような音色を使ったりとかは?
ケンイシイ クラシックのカバーで使っていたかもしれない。単にメロディをシンセでナゾるというやり方もあったけど、クラシックっぽく聴かせるためにストリングスの音を選んだり、アコースティックの綺麗なストリングスの音をいじらないで使ったり、初めてトライした感じでしたね。
──クラシックのカバーなんて、普段イシイさんは絶対やらないですよね(笑)?
ケンイシイ うん(笑)。すごく昔、CM音楽で年末に流す「第九」をエディットしてほしいというのはやったことがあるけど……そのときも難しかったと記憶してます。
──好んではやらないとなると今回もかなりチャレンジングなことでしたね。
ケンイシイ しかも世界中のだれもが知っている曲なので、プレッシャーもかかるし、どうやって自分のセンスを魅せられるかというところはありましたね。
──例えば普段はこういう音色を選ぶけど、映像に合わせてこう変えてみようかとか……。
ケンイシイ 特にオープニングの曲はインダストリアルな感じで……音楽ってメロディやハーモニー、ビートで印象が決まることが多いけれど、今回は音色でも、戦闘感、メカ感を感じられるものを選んだつもりです。
──劇伴は映像に合わせて数十秒作ったわけで、その後サントラ盤を作った?
ケンイシイ まず最初は作品のために全ての劇伴を納品して、サントラ収録曲については後日考えた感じですね。
──フル尺に作り直した感じですか?
ケンイシイ 単純に劇伴を伸ばすだけじゃなくて、別のパートやセクションを入れたり、もう一度作り直した感じです。映画で使われているものは大体1分半くらいを目安に全部作って、これから出るサントラに関しては、同じ尺のものもあるけど、曲によっては少し長くしたり。ダンストラックになりうるようなものはある程度展開を入れたかったので、元々ないブレイクを作ったりはしました。
──映像に合わせて曲を作っているときはフロアの意識はしましたか?
ケンイシイ 構成的な部分は基本、意識してないんだけども、エンジニアリング的な部分……細かなEQとか、コンプレッションとか音のバランス、そういうところは初めからクラブでかかってもおかしくないような、大きな音でも変な風に聴こえないようなものは意識してましたね。普段テクノを作っているこだわりというか、かなり細かく調整して作ってはいます。
──映像で聴ける音と、サントラ盤で聴ける音はだいぶ違う?
ケンイシイ もちろん最終的に修正はしているので、違うと思います。自分で作ったものがそのまま使われているかもしれないけれど、作品の中ではかならずしも大きい音ではなかったり、会話の後ろで使われていたり、目立つところが違うから、聴こえなくなる音が出てくると思うんです。音をハメる時点で少しバランスを変えているかもしれないし、そこはサントラ盤とは聴こえ方が変わるかもしれませんね。
──ちなみに参考にした映像作品、映画などありましたか?
ケンイシイ 初めてサントラ全編に挑戦するということで、過去の映画も観たし……例えば『戦場のメリークリスマス』とか観て、あのメロディはもちろん知ってはいるけど改めて坂本龍一さんはどういう音楽をつけてたのかな、とか。大好きな『マトリックス』シリーズを観て、ミート・ビート・マニフェストとかエレクトロニックなビッグビートものとか使われてるけど、目立ってる曲以外は、割と普通のオーソドックスなオーケストラ作品が使われてるな、とか確認したり……ほかもいろいろ観たけど、今回みたいに全部テクノって映画は、実はほとんどないんだよね。そういう意味では『ヤキトリ』は面白い作品になっているかもしれない。
──好きな映画/アニメ音楽はありますか?
ケンイシイ これまで観た中でインパクト強かったのはやっぱり『AKIRA』。映像もすごいけど、芸能山城組の音楽も、自分が今まで観てきたアニメとは全然違うと思った。あれを超えるものは自分の中ではなかなかないですね。
──今回初トライしてみて、面白かった点と難しかった点を教えてください。
ケンイシイ 基本的には全部楽しくて……コミュニケーションもよく取れるし、質問があればすぐに返してくれるし、非常にやりやすい人たちで、気分的にも心地よかった。しかもサントラを作れるってことで興奮して作業していたところはあります。基本的にズーッとハイテンション(笑)。で、難しいところといえばサントラ全編を作るという点と、さっき言ったクラシックのカバー、それらには今までなかったプレッシャーがかかった。けど、ツラいという感情は全くなかったですね。
あとコロナ禍がちょうどスタートしたときに始まったプロジェクトで、そのときは自分にも不安がガツンと来ていた時期だったわけ。自分の仕事は、半分は人前でDJする仕事で、半分は曲を作る仕事だと思っていて、その半分=DJとして出演するものが全部なくなっちゃって、もう一度制作をしなくちゃと思っていたときに来た仕事だったので、一所懸命になれたし、仕事があってよかったという安堵感もあった。作業をやり始めてからは、やっぱり自分はプロデューサーからスタートしているDJだから、音楽を作ることが好きだなって気付かせてくれた部分はありますね。ダンス・トラックだけじゃないものもチャレンジできたし、プロデューサーとしても、タイミング的にすごくいいお話をもらったなという気がします。感謝してますね。
──今後もまたこういう作品にトライしてみたいですか?
ケンイシイ こういう攻めの音楽というか、“コンバット・テクノ”じゃないけど(笑)、そういう感じは掴んだ気がするので、またトライさせてもらえる作品があればやらせてもらいたいですね。
──テクノに限らず、映画音楽としてトータル的に自分でやってみたいという気持ちはありますか?
ケンイシイ そういう気持ちも少し芽生えているけど、自分が通ってきてない道、例えば普通のオーケストラものとかできないからなあ(笑)。
──例えばビッグビート時代にジャンキーXLというアーティストがいましたが、今はトム・ホーケンバーグ名義で『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『アリータ: バトル・エンジェル』なんかの劇伴を担当していたりします。
ケンイシイ デヴィッド・ホルムズ(『オーシャンズ11』『アウト・オブ・サイト』)とかもそうですよね。挑戦はしてみたいけど、経験的に今すぐできるかな、っていうのはありますね(笑)。でもアニメの劇伴制作は、より自由なことができるし、ジャンルにとらわれなくていい感じはある。
──今回の作品はケンイシイの歴史の中では異色な作品?
ケンイシイ 異色ではあるし、すごくいいトライアル、チャレンジができたと思います。
『Yakitori: Soldiers of Misfortune (Soundtrack from the Netflix Series)』
主要各ストリーミング・ダウンロードサイトにてリリース
スマートリンク:
https://netflixmusic.ffm.to/yakitorisoldiersofmisfortune
■トラックリスト:
1.Yakitori (Full Length Mix)
2.Under Pressure (Full Length Mix)
3.Onslaught (Full Length Mix)
4.Armored Combat
5.MOBS
6.Rage Fist
7.Open Fire
8.Mayday Call (Full Length Mix)
9.Play That Little Night Music
Netflixシリーズ「ヤキトリ」
スタッフ:
原作:カルロ・ゼン「ヤキトリ」(ハヤカワ文庫JA/早川書房)
監督:安保英樹
脚本:堺三保
キャラクターデザイン:山形厚史
音楽:ケンイシイ
アニメーション制作:アレクト
企画・製作:Netflix
キャスト:
伊保津 明:坂泰斗/楊 紫涵:瀬戸麻沙美/タイロン バクスター:武内駿輔/エルランド マルトネン:河西健吾/アマリヤ シュルツ:鬼頭明里/ヴァーシャ パプキン:津田健次郎/リメル武官:高木渉/ジョン・ドゥ:稲田徹/管制AI ”初音ミミ”:初音ミク(藤田咲)
■ストーリー
『幼女戦記』で鮮烈なデビューを飾ったカルロ・ゼンによる完全新作のミリタリーSFノベルのアニメ化が決定。『ブライト:サムライソウル』のアレクトがアニメーション制作を手がけ、監督に安保英樹、脚本を堺三保、キャラクターデザインを山形厚史が担当する。また音楽を手がけるのは、これが自身初のアニメ音楽作品となるケンイシイ。坂泰斗、瀬戸麻沙美、武内駿輔、河西健吾、鬼頭明里、津田健次郎、高木渉、稲田徹らといった豪華キャスト、また劇中で明たちをサポートする管制AI として、バーチャルシンガー『初音ミク』とのコラボレーションにより生まれた派生キャラクター“初音ミミ”が登場するなど、かつてないキャスティングにも注目だ。巨大星間国家「商連」に支配・隷属されている未来の地球で暮らす、青年・伊保津 明。閉鎖的な社会と反りが合わず反抗的な日々を過ごしていたある日、商連の「調理師」パプキンにスカウトされ、惑星軌道歩兵部隊「ヤキトリ」に志願する。それは、作戦遂行時の死亡率が平均70%の過酷な部隊だった。様々な国から集まったはみ出し者たちとともに、明は自らの定められた運命に立ち向かっていく。
◆「ヤキトリ」 オフィシャルサイト(Netflix)
◆ケンイシイ オフィシャルサイト
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