| ベビーブーマー世代最大のポップ・キング2人が、黒く巨大なグランドピアノを挟んで対決した。結果はある意味で予想通りともいえるが、意外というか、おや? と思わされたコンサートでもあった。 Johnは数々のベストヒット曲にアルバム収録の佳曲を2曲ほど加えた最強の選曲で、熱狂的なファンを大いに喜ばせた。しかし、ちょうど30年前、ここLAの伝説的クラブ「Troubadour」で大ブレイクして以来、観客を陶酔させるホットなライヴで定評あるパフォーマーにしては、なぜか拍子抜けするほど地味なショウだ。 一方、Joelの選曲はかなりくせがあり、観客は戸惑っていた。大ヒット曲やシングルをわざわざ避け、「ストーリー的な」曲でまとめていたのだが、ライヴという設定では筋を追うのが大変。良かった点としては、他のアーティストの曲を面白いカヴァーバージョンに仕上げたものが多かったこと。選曲に戸惑い気味だったファンも、その熱気の入ったプレイと動きのあるショウマンシップに触発され、音楽とその合間に繰り出すジョークで観客との掛け合いを楽しもうとする彼の意図によく応えていた。ただ、そのアプローチは確かにユーモラスで親しみが持てるが、キツい冗談やおふざけがあまりに多く、時にうっとうしい感も否めない。ニューヨーク流の毒舌と居丈高な態度が似合うJoelがお茶目にふざけてみても、今ひとつしっくりこないのも一因ではないか。 コンサートのオープニングはあまりぱっとしないものだ。2人が向かい合ってピアノに座り、Johnの“Your Song”とJoelの“I Love You Just The Way You Are”の歌詞を交互に歌うだけという、おざなりなヴァージョン。ボルテージが上がり始めたのは、名曲“Don't Let The Sun Go Down On Me”を2人で聴かせてからだ。これはJohnと作詞家Bernie Taupinが、'72~'76年の絶頂期に書いた曲の1つ。当時彼らは、トップ20ヒットを16曲もたて続きに発表し、そのうち14曲がトップ10入りしたのである。 Joelがステージを降りると、Johnと6人編成のバックバンドが、今夜のハイライトの1つ“Funeral For A Friend/Love Lies Bleeding”をプレイし、出だしはスローだったが最後で盛り上げてくれた。Johnは他にも“Someone Saved My Life Tonight”“Goodbye Yellow Brick Road”“Tiny Dancer”、あまり知られていない“All The Girls Love Alice”、それになんとJoelの“Uptown Girl”まで取り上げたが、そのプレイは必ずしもホットとは言えなかった。とはいえバンドはかなりのハイレベルで、ソールドアウトの1万7000人ものファン(主に20代半ばから50代半ば)を大いに喜ばせた。 観客が立ち上がって踊りだしたのは、驚いたことに比較的新しめの“I'm Still Standing”と“Sad Songs (Say So Much)”だ。もちろん“Crocodile Rock”と“Saturday Night's Alright For Fighting”にも同様の反応があった。筆者はこの2曲はあまりにポップ過ぎると思っていたが、ライヴではパンチが効いて仕上がりがぐっと良くなっていると認めざるを得ない。ただ残念なことに、レコードと違うアレンジを取り入れた曲は1つもなかった。例外は“Levon”と“Rocket Man”で、この2曲には最後ににぎやかな即興が入っていた。 ここまでのステージを一気に変えたのは、Joelと8人編成のバックバンドの登場である。鍵盤を叩きつけるような気合の入ったピアノで、“Movin' Out (Anthony's Song)”“Angry Young Man”“Only The Good Die Young”“It's Still Rock 'N' Roll To Me”と続け、Johnの“Take Me To The Pilot”さえもレコードとはかなり違ったバージョンで聴かせてくれる。Joelのヴォーカルも冴え、音域が広いだけでなく、随所に強烈なスクリームやファルセットを加えてメリハリをつけている。数年前、Johnとのペア・ツアーが企画された時、喉の問題で断念せざるを得なかったとは思えないほどだ。 娘に捧げた“Lullabye (Goodnight, My Angel)”でJoelはガラリとペースを変え、“New York State Of Mind”ではサキソフォンのRichie Cannataが、スモーキーな深夜のキャバレーの雰囲気をかもしだす。続いてボードヴィルを気取ったJoelはElvisの物真似をユーモラスにやってのけ、“Don't Be Cruel”と“Suspicious Minds”のさわりを“ザ・キング”そっくりの声色と腰の動きで披露。 心底楽しめるシーンはこれだけではない。Joelは、1枚175ドルという、今夜のべらぼうに高いチケットのことを茶化して笑いを誘い、軽口を叩きながらピアノをお尻で弾くという悪ふざけまでやって見せたのである。 1回目のアンコールでは双方のバックバンドを全員そろえて、再び2人一緒にステージに立った。Johnもやっとノッてきたようで、オープニングと同様に2人交互に歌詞を歌う。曲は“My Life”“I Guess That's Why They Call It The Blues”“The Bitch Is Back”“You May Be Right”“Bennie And The Jets”、それにJerry Lee Lewisの“Great Balls Of Fire”。最後の曲はJohnのヴォーカルにまさにうってつけだ。 今夜一番のハイライトは、Beatlesの“Come Together”を終えた時にやってきた。JoelとJohnが“A Hard Day's Night”のオープニングコードをガーンと弾き、リードを一緒に歌い始めると、観客の歓声は最大に高まった。2回目のアンコールは2人だけのステージ。3時間半のコンサートを“Candle In The Wind”と“Piano Man”の心温まるヴァージョンで締めくくった。 客電が灯ると、誰の目にも明らかなことが見て取れた。少々の粗はあったものの、EltonとBillyは、年を重ねつつあるファンに笑顔と過ぎ去った日々の楽しい思い出を甦らせてくれたということだ。 ところでこの2人、ラストネームがないってことに気づいてる人いる? |