生まれながらの美貌と生まれながらの才能。R&BシンガーのTamiaをひと言で表せばそうなるだろう、少なくとも表面的には。だが、Tamiaには可愛い顔とパワフルなヴォーカル以外にも、多くの魅力が備わっている。もちろん彼女は女性を嫉妬させ、男性を挑発するほどのルックスを持ち合わせているが、彼女はそんなことを気にもかけていない様子だ。実際に彼女は自分の美しさをほとんど認識していなかったという。 Tamiaは再スタートさせたばかりのキャリアにふさわしいフレッシュな表情で、Elektra(Records) ロスアンゼルス本部の会議室に現われた。彼女は白い無地のTシャツとジーンズを着て、髪はカジュアルな感じに乱れており、肌にはまったく化粧をしていなかった。Tamiaは長年ホーム・レーベルとしてきたQuincy JonesのQwest Recordsをついに離れ、Elektraへの移籍を果たしたのである。 そして変わったのは所属レコード会社だけではなく、この動きによって彼女の音楽も大きく変化したのだった。『A Nu Day』というぴったりのタイトルがついた最新アルバムの12曲は、これまでの作品以上に自信に満ち、アグレッシヴでソリッドな内容である。コンスタントなリプレイに値するトラックは数多くあるが、あえて3曲を挙げるならば「Dear John」「Stranger In My House」、それにHall & Oatesにインスパイアされたシングル曲「Can't Go For That」(こらえきれないMissy Elliotによるプロダクションをフィーチャー)といったところであろう。「Can't Go For That」のビデオクリップにはSnoop Dogが登場するが、これもまたTamiaにとっては新たな分野への挑戦となった。 レーベル移籍についてTamiaは「避けられないことだと思った。自分には変化が必要だと考えたからよ」と語る。「ちょっとした空白の時期があったけど、(レコード会社からの)連絡は少なかった。(セールス面では)うまくいっていたし、ファンは未だにサインを求めてくるくらいだったから、がっかりしたわ」 Quincyの指導を得てグラミーで4回もノミネートされたにもかかわらず、スーパースターの地位に辿り着けなかったことに少し落胆したと彼女は認める。「自分はそれだけの存在なんだと思ってしまうような状況に陥いるのは、ヘルシーではないとわかっていたの。私は争いごとは嫌いだし、他のシンガーと張り合うつもりもないけど、(もっと成功できなかったのには)確かに失望したわね」 だが、Qwestにいるときに音楽ビジネスについて多くのことを学んだと彼女は主張する。「19歳の時にQuincyと出会って、この業界に入ったの」と、今は25歳になったTamiaは言う。「私の期待が非現実的だったのね。今回の変化によって、人生の先を見渡せるようになったわ。小さい時からずっと私はスターになりたいと思っていた。歌うことが私にとって最も重要なことだったのよ。今では個人の生活が一番大切で、1日の終わりに鏡を見て、自分の正気を確認し、自分を好きだと思えることが大事なの」 オンタリオ州ウィンザーで生まれた彼女は、わずか6歳の時に教会で歌い始めて以来、歌うことが人生の中心となっていた。3年後に彼女はヴォーカルのレッスンを受け始める。'93年にはカナダの権威ある放送局の賞、YTV Vocal Achievement Awardを獲得。その直後にQuincy Jonesとめぐり会い、彼のアルバム『Q's Jook Joint』でプロデビューを果たしている。数年後には最初のソロ・アルバムをリリース。Tamiaは順調に歩んできてはいたが、本格的なブレイクには至らなかったようだ。そして自身の人生とキャリアを再検証する時期が来たと決断したのである。 「結婚の1年くらい前のことだったと思うわ」と、'99年にバスケットボールのスター、Grant Hillと結婚したTamiaは回想する。「自己分析が重要ね。私は何の手掛かりもなしに音楽ビジネスに放り込まれたの。糸口の1つさえなくね! 私は本当にナイーヴだったし、そのことは私が選択した音楽にも表れていると思うわ」 今回はMissy Elliot以外にもヒットメーカーのプロデューサー、Shep Crawfordとの共同作業を行なっている(Tamiaが書いたトラック「Tell Me Who」)。「すべてがこのアルバムにぴったりだと思えたの。とってもスムースにいったわ」と彼女は熱を入れて語る。「このアルバムには恋愛関係についてのドラマがたくさんあるの。私が経験したというわけじゃないけど、誰でも本物の王子様を見つけるまでには、何匹ものカエルにキスしなくちゃいけないのよ」 Tamiaは『A Nu Day』のレコーディング前に音楽活動を休んだだけでなく、新しい“王子様”とともにハリウッドを離れて、彼のチーム、Detroit Pistonsが本拠を置いていたデトロイトへと拠点を移している。「仕事を離れて主婦業に専念するのも楽しかったわ」と認めるTamiaは地元での試合を観戦し、彼女の夫がののしられる光景さえもスタンドで目の当たりにした。「もちろん私がシンガーだということをみんなには忘れてほしくないけど、私は妻でもあるのよ。誰かがGrantについて何か言うのを聞けば、振り返ってしまうの。彼は私の夫だからね。誰かが仕事の場にやってきて、自分のことをあれこれ言うのを望む人はいないでしょうけど」 転居と結婚によって、Tamiaは自分自身を取り戻すチャンスを得たという。「2人が家に戻った時には、彼はただのGrantで、私はただのTamiaなの。私たちは外出して普通のことをやっているわ。映画にも行くし、他の人たちと同じように8ドル払わなくちゃいけないのよ。私たち2人にとって、普通の時間を過ごすことがとても重要だと思うの。2人ともエンタテイメントの世界にいるからね。そう、スポーツはエンタテイメントよ。とにかく素顔の自分になる時間が大切なの。ときどきはパジャマのまま店に走っていったり、こそこそ歩いて行ったりしたくなるわ」 Tamiaの音楽キャリアは再び動きを見せ始めたが、彼女がすぐにハリウッドのシーンに戻ってくることは期待できそうもない。彼女とGrantは先だって、彼の移籍先であるMagicsの本拠地フロリダに居を移したからである。それでもTamiaは『A Nu Day』の完成に大きく昂揚しているようだ。「辛抱強く待ち続けてくれていたファンには本当に感謝しているわ」と彼女は強調する。「このアルバムはみんなの期待に応えるものだと思うの」 |