| Ice-Tは戦う準備を整えている。彼は新作映画『Luck Of The Draw』のセットにあるドレッシングルーム用トレーラーでボクシング用トランクス、シューズ、グラブを身につけている。数分後には、お呼びがかかってボクシング・リングのシーンの撮影を開始することになっている。
IceはDennis Hopper主演のこの映画であまりにも見事にストリート・ハスラーを演じている。Iceは「俺の役は麻薬密売人じゃない」と彼が演じるMcNealyについて語る。 「儲けがあるとにらんだものには何にでも手をつけるんだ、本物のギャングのようにね」
Ice-Tは本物のギャングについて実はよく知っている。彼自身O.G.(オリジナル・ギャングスタ)で、Ice Cube、Eazy-E、Dr.DreのN.W.A.など西海岸出身の現役で活躍するギャングスタ・ラップ・シーンの仕掛人である。
Ice Cube同様、Ice-Tの俳優としてのキャリアは着実に上向きであるが(彼は今年だけで少なくとも7作の映画に出演したという)、彼のラップレコードは、New Jack Cityのサントラにも収録されているヒット曲「New Jack Hustler」を生み出した'91年のアルバム『O.G』以来、ヒップホップ界では大きな反響を呼んでいない。 だが、'92年に彼のメタルグループBody Countが「Cop Killer」という物議をかもした曲をレコーディングしたときには大きな話題を呼んだ。ただこの曲の影響で、Iceは当時のレーベルWarner Brosを離れることになった。
Iceの'93年の『Home Invasion』はそれに輪をかけて度が過ぎた作品で、Body Countを酷評した批評家からさらなるひんしゅくを買うかたちとなり、'96年の『VI: Return To The Real』は残念ながら当時のラッパーのトレンドを追いかけるものであった。Iceはレコードレーベルからのプレッシャーが彼の創作意欲を歪ませたと言う。
「レコードレーベルに所属した途端、追い込まれて行き場を失うから辛いもんだよ」とIceは言う。「まあ、あのアルバムは良い出来だったけど、ラジオで流されないからビデオは作りたくなかった。だから最終的に“まあ、いっか”ってことになる」
だが、'99年はIce-Tのラッパーとしてのキャリアにとって良い年になりそうだ。彼の7枚目のアルバム『7th Deadly Sin』は、今年最もぞくぞくするギャングスタ・ラップ・アルバムで、彼をあらためて位置づけしなおしている。
新しいインターネット会社Atomic Popからリリースされたこのアルバムは彼の原点に戻っており、その内の一曲「Always Wanted Ta Be A Hoe」は、ポン引きが必死に若い新人娼婦を洗脳するっていうショッキングなストーリーだ。“This goes out to all you ladies out there(君達みんなに言っておく)”とIceは歌い始める。“A lot of you won't grow up to be lawyers or doctors, but you have a dream. And I think you should follow your dream.(君達のなかで将来弁護士や医者になるってやつはまずいないだろうけど、君達には夢がある。だったら夢の実現にむけて努力したほうがいいだろ)”
Atomic Popはプロモーションからレコード販売までインターネットを主な手段としているため、大手ラジオ局や音楽ビデオ局のサポートはレコードの成功を実現するための主要な方法にはならない。
IceはAtomic Popで『7th Deadly Sin』を10万枚売れば満足だと言う。メジャーレーベルではIceほどの知名度(悪名度)をもつアーティストがたった10万枚しかさばけなければ失敗作と呼ばれる。だが、インディーズでは話がまったく別である。
「精神的には、1枚のレコードでサウンドスキャンをしようとしているわけではない」とIceは『7th Deadly Sin』の極めて非商業的なスタンスを説明する。
「ラジオで全然流されなければ頭にくる。だからいまの俺の心境としては“これで俺達はレコードを作ることができる。一緒にゴキゲンなレコードを作ってやろうぜ”ってな感じ」。
Iceは彼のレーベルCoroner RecordsのディストリビューションもしているAtomic Popとの提携関係を利用して、よりアンダーグラウンドなレコード・プロモーション戦略をとるつもりである。クラブDJやミックスショーDJにレコードを提供する予定で、レコードのどれかがクロスオーバーすれば上乗である。
Ice-Tはインターネット上には無限にチャンスが転がっていることを心得ている。彼はこの3年間World Wide Webの急成長ぶりを見てきた。 Priority RecordsとVirgin Recordsとのライセンス契約が切れ、話し合いが進められていたMotownとのディストリビューション契約の話がお流れになったとき、彼は親友でつい最近Public EnemyをAtomic Popに移籍させたPublic EnemyのChuck Dにこの新興インターネットレーベルとの契約を勧められた。
「これからは何でもインターネットの時代だってずっと思っていた」とIceは言う。
「俺は“インターネットなんて気違いじみてる”なんて言う類の人間じゃない。そんなことは絶対に言わない。サイバースペース上に何かを乗せるとポーランドの人々がそれを見るっていう、こいつの機能は俺にとっては化け物だよ」。
Iceはこの最新技術を最大限に活用し、16万人にのぼるファンクラブリスト“手紙ファン”をネット上のメイリングリストに追加している。
「ヒップホップにはインターネットが必要だと思う」とIceは語りだす。
「…っていうのは、ほんとに度肝を抜くような、ぶっ飛んだヒップホップ・レコードはたぶん5万枚くらいしか売れないはず。こういうのが一番ホットで、何百万枚も売れるようなレコードは気違いじみてる。正直な話、俺は何でもかんでも“嫌い”っていう人間じゃない。けど、『'Wild, Wild West』はヒップホップ・レコードじゃない、でもこのクソは200万はいくんじゃないか。ニューヨークのキタナイMoney Boss Playerのアクトとか、まず人に聴いてもらえないBrotha Lynch Hungとかの類に深く入り込んで行かなきゃだめだよ。俺のレコードの中で一番話題になったのは「6 N The Morning」。これはぜんぜんメジャーリリースじゃなかった。25,000枚ぐらいは売ったけど、これがレコードっていうものさ。何百万枚も売れたレコードも作ったけど、これも立派なレコード。だから、そんな感じのラジオ向きじゃないフォーマットができれば、それが自分のスタイルってことになる」
次のシーンの撮影準備が整い、ボクシング・リングへと向かいながら、Iceはファンも驚くであろう彼のキャリアにおけるもう一つの大きな変化について語る。
このMCのトレードマークになった長くてパーマのかかったヘアスタイルを変える必要に迫られ、ポニーテールがバッサリ切られた。いまIceの髪は短く刈られ、カールしている。
「Eric Robertsと共演したThe Presidentという映画のために髪の毛を切った」とIceは薄笑いを浮かべながら説明する。
「ある日撮影に行ったら“FBI捜査官の役ですよ”って言われて“じゃあ、しかたない。髪の毛を切れよ”って言ったんだ。そしたらみんな“Ice! 髪を切ったのかい!”だってよ。でもクールなのは、みんなまた髪が伸びるのが見られるってことだよ」 |