【インタビュー】2024年の日本の音楽シーン、何が起こったか

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InterFMで放送されているミュージックプログラム「TOKYO MUSIC RADAR」(毎週火曜日よる9:30~10:00)は、日本のみならずグローバルな目線で活躍する日本のアーティストの魅力を紐解きお届けしているラジオ番組だが、今回は2024年の音楽シーンを総括すべく、Billboard JAPANの村田麻衣子氏と株式会社LABの脇田敬氏を招いての、座談会トークが繰り広げられた。もちろん聞き手はパーソナリティを務めるNagie Laneのmikakoだ。

日本の音楽シーンや、マーケティングに精通しているふたりの目には、2024年の日本の音楽シーンはどう映っていたのか、話を聞いてみよう。


左から、村田麻衣子(Billboard JAPAN)、mikako、脇田敬(株式会社LAB)

──(mikako)本日はどうぞよろしくお願いします。おふたりは普段どのようなお仕事・活動をされていらっしゃるんですか?

村田麻衣子(Billboard JAPAN):私は、ビルボードジャパンで毎週発表しているチャートの制作や、ニュース、アーティストのインタビュー、ライブレポートなど記事全般の制作など、Billboard JAPANサイトに掲載されるもののほぼ全てを扱う部署に所属しています。

脇田敬(株式会社LAB):私は株式会社LABという音楽デジタルマーケティング会社の代表をやっております。SNSやサブスク、ストリーミング、動画サイトなどでどうやってアーティストとリスナーを繋いでいくかをサポートする業務です。

──(mikako)早速「Billboard JAPAN Hot 100」に注目したいのですが、これはどういうチャートなんでしょうか。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):楽曲の人気を測る総合ソングチャートという位置付けです。今はCDセールス、 ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、カラオケ、動画再生という6つの指標を各ポイント化し集計しているのがこのチャートです。

──(mikako)2024年の日本の音楽業界で何が人気だったのかを、漏らすことなく知ることができるチャートということですね。

●Hot 100(Billboard JAPAN Year End)
1.「Bling-Bang-Bang-Born」Creepy Nuts
2.「晩餐歌」tuki.
3.「幾億光年」Omoinotake
4.「アイドル」YOASOBI
5.「ライラック」Mrs. GREEN APPLE
6.「ケセラセラ」Mrs. GREEN APPLE
7.「唱」Ado
8.「怪獣の花唄」Vaundy
9.「青と夏」Mrs. GREEN APPLE
10.「ダンスホール」Mrs. GREEN APPLE

──(mikako)このチャートを見て、どういった印象をお持ちですか?

村田麻衣子(Billboard JAPAN):集計の時に社内でも話していたんですけど、2024年の「Hot 100」においては、年内にリリースされた楽曲が特に多かったと感じています。TOP20まで広げて見ると、2024年にリリースされた曲は計6曲なんですが、2023年では年内リリースの楽曲は4曲、2022年では3曲でした。2024年内にリリースされて、そこから勢いよく上がっていった楽曲が特に多い年になったと思います。

脇田敬(株式会社LAB):同じことを私も思っていました。長く続く辛い時代のなかで、やっぱり暗い曲を我々日本人は好んできたところがあると思うんですけど、この6曲に関しては、全て明るめな前向きな曲が揃っているんですね。例えばMrs. GREEN APPLEはたくさんの曲がヒットしましたが「ライラック」も「ケセラセラ」もポジティブな曲ですよね。Mrs. GREEN APPLEがなぜここまでの人気になったのかにも関係してくる話かと思いますが、特に「ライラック」はそれを象徴してる曲だなと思います。tuki.の「晩餐歌」やOmoinotakeの「幾億光年」などは、力強いポジティブさというより、何かこう、ホッとすると言いますか、寒い冬を超えてちょっと温かい春の兆しが来たかのようなところがある。ここ最近、ポジティブな曲を受け入れられるような新しいフェーズが来たようなところを、この2024年の年間チャートからは感じました。

──(mikako)確かに、Mrs. GREEN APPLEの曲には多幸感を感じられるような、みんなで笑顔になっていこうという強いメッセージのある曲も多いですもんね。

脇田敬(株式会社LAB):そうですね。「青と夏」「ダンスホール」も上位に来ましたけど、過去曲の中でも明るめの曲ですよね。



──(mikako)年間チャートと言われると、逆にその年の曲がたくさんチャートインするのだろうと思っていた方もたくさんいる気がするんですが、実は、2024年で6曲ランクインが多い方というのが現実ですよね。それは、ロングラン/ロングヒットが続いているという傾向が日本の音楽業界にあるということですか?

村田麻衣子(Billboard JAPAN):私はそうではないと思っています。例えばVaundyさんの「怪獣の花唄」のリリースは2020年5月ですが、ヒットしたのは「NHK紅白歌合戦」に出場された2022年の大晦日を越えてからなんです。2位に入ってきたtuki.さんの「晩餐歌」も、リリース自体は2023年9月。ヒットした背景には2023年11月に公開された優里さんとのコラボ動画の影響もある。リリースとブレイクが起きるタイミングは必ずしも同時ではないんですね。数年単位で起きますし、間を開けて起きる可能性もある。

──(mikako)そういった傾向は、割とここ最近の話だったりするんですか?

脇田敬(株式会社LAB):ビジネス的にはそうですね。CDを中心としたランキングの時代では、発売週が1番のランキングのピークでしたけど、ストリーミングの場合は再生されたランキングですので、リリース日はさほど影響しない。ビルボードのランキングは、CDだったりダウンロードだったりストリーミングだったり、リスナーの傾向をフラットに捉えるようにミックスされていますから、そういう意味ではストリーミングで強いアーティストは、こうやってロングタームで数字を重ね続けると言えますよね。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):まさに世の中の音楽の聴き方がストリーミングベースに変わっていったところが1番のポイントになるかなと思います。実際、Vaundyさんやtuki.さんなど、CDではなく配信のみでのリリースをメインにしているアーティストも多いので、そこが影響していくのではないかなとは思いますね。

──(mikako)携帯ひとつで音楽に接することができる時代ならではですね。1位はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」でしたが、この曲は2024年1月7日にリリースされ、1月31日にはチャートで首位を獲得、その後週間チャートで13連覇、通算19回の首位を獲得しているということですが、これはどう見ていますか?


村田麻衣子(Billboard JAPAN):「Billboard Global Japan Songs Excl. Japan」という、簡単に言うと「世界で聴かれている日本の楽曲ランキング」のチャートがあります。世界200以上の国と地域のデータから日本の市場を抜いて、日本の楽曲を抽出したチャートになるんですけど、そのチャートで「Bling-Bang-Bang-Born」が通算24回の首位に輝いているんです。すでに有名な話ですが、日本より先に海外で火がついて、その後すぐに日本でもヒットしたという、まさにストリーミング時代ならではの世界同時多発ヒットとなったんですね。

──(mikako)その要因はSNSですか?テレビアニメ『マッシュル-MASHLE-』のテーマ曲でもありましたけど。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):必ずしもSNSだけではないとは思いますが、世界の人が聴きたいと思った時に、スマホ1タップですぐにアクセスできるようになったことが1番大きな要因と思いますね。

脇田敬(株式会社LAB):NetflixやAmazonプライムといった動画プラットフォームで全世界同時に届くという強さがありますよね。アニメが人気というだけじゃなくて、全世界の人が同時体験できる強さこそ、前年のYOASOBI「アイドル」と近い流行り方にも感じます。

──(mikako)Creepy Nuts自体、もともと海外ですごい人気だったという背景も?

村田麻衣子(Billboard JAPAN):実は全くそうではなかったんですよ。それまでグローバルチャートに上がってきていなかったところから、急に1位になったんです。

──(mikako)何が要因でいきなり1位に?

村田麻衣子(Billboard JAPAN):私はTikTokの短尺動画、ダンスとの組み合わせ、そしてあのビート感やサウンド感などとの相乗効果でここまで広がったんじゃないかなと思っています。

脇田敬(株式会社LAB):非常に画期的な時代の変わり目を感じる大ヒットだと思いますね。いわゆるラップというかヒップホップベースのポップスというのは全世界で主流のメインストリームですけど、日本ではそういうヒット曲って出てなかった。それがついに出たなと思います。ヒップホップ/ラップが日本中でみんなが知っている曲になり、それがお茶の間にまで届いたのは画期的なこと。

──(mikako)そして2024年はMrs. GREEN APPLEですよね。20位以内に7曲もランクインされ、レコード大賞も2年連続受賞し、どのテレビ番組を見ても、どこのショップに行ってもMrs. GREEN APPLEの曲が流れていたような1年に感じました。


村田麻衣子(Billboard JAPAN):Mrs. GREEN APPLEのすごいところは、ストリーミングで支持を獲得し出したのが、活動休止をしている間だったんですよね。ストリーミングやMVが何億回再生、というトピックがどんどん増えていった。そこからフェーズ2として再始動したのが2022年の春です。そこから出す新曲もきちんとストリーミングで支持を集め、同時に旧譜も支持を高めるという異様な状況でした。

──(mikako)こういう現象はMrs. GREEN APPLEだけのことですか?

脇田敬(株式会社LAB):いえ、YOASOBIとかOfficial髭男dismあたりでも見られる現象ですけどね。

──(mikako)Mrs. GREEN APPLEは、1億回再生を超えた曲が20曲あるとか。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):そうですね。ビルボードジャパン史上最多ですね。

脇田敬(株式会社LAB):どうしてこれほどの現象が起こったのか…紅白歌合戦を通して広い層に広まるなかで、やっぱり2024年の雰囲気に合った明るい曲が支持された気がします。2024年末に紅白歌合戦を見ていて、時代はなんかちょっと明るい方向に向かっていっているんだなとも思いました。みんな、ハッピーな気分がちょっぴり出てきたのかな。それを象徴するアーティストがMrs. GREEN APPLEなのかな、と。後付けな感想ですけどね。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):Mrs. GREEN APPLEがすごく不思議だなと思うのが、「青と夏」や「ライラック」のような季節に関する曲も、季節や時期に関係なく聴かれているんです。例えばback numberは、四季折々の曲が毎年その季節に合わせてチャートで上がっていて、もはや季語みたいな存在だと思うんですけど、Mrs. GREEN APPLEはそういった季節を無視した動きをするので。

──(mikako)もはや今は、常に「Mrs. GREEN APPLEの時代」みたいになってますよね。このハッピーなパワーが続いているのは、Mrs. GREEN APPLEマジックにかかったみたい。本当にすごいなと思います。「TikTokで踊る」みたいなアプローチでバズを起こす…とかでもないし。

脇田敬(株式会社LAB):サウンドで言えば、元々ロックバンドですよね。で、お休みから復帰してフェーズ2の後に打ち込み感が強くなったというか、ボーカロイドで作る曲のようなテイストが入ってきたなと思っているんです。YOASOBIが出てきた時に、ボカロ楽曲を生歌の歌手が歌ってしまう感覚がちょっと新しかったように、ボカロやボカロPがバンドをやるのではなくロックバンドがボカロっぽい曲に寄っていくというのは、実はあまりなかったことかなと思っていたりします。「ライラック」はYOASOBIがやっててもおかしくない曲調だと感じたり。

──(mikako)冒頭のギターフレーズもそうですよね。

脇田敬(株式会社LAB):そうですね。もちろんYOASOBIとは似ても似つかないMrs. GREEN APPLEの曲ですけれど、こういったジャンル感の話で考えると、そういう新鮮さが2024年のMrs. GREEN APPLEにはあったのかなという気もします。


──(mikako)なんかすごい時代にいるなと感じます。2024年の紅白歌合戦でいえば、tuki.も話題ですね。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):そうですね、tuki.さんの「晩餐歌」は現在、ビルボードジャパンチャートにおいてストリーミングの累計再生数が4億回を超えています。2024年7月の時点で3億回を突破し、そのあと12月には4億回を突破しました。

──(mikako)5ヶ月でプラス1億。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):これって、ソロアーティストとしてBillboard JAPANのチャートにおける史上最年少突破記録になるんですよ。

──(mikako)まだ16歳ですもんね

村田麻衣子(Billboard JAPAN):お父さんから「出世払い」としてお金を借りて「晩餐歌」をリリースしたというエピソードがありますが、tuki.さんのヒットは、アーティストがDIYで世界を席巻することができるという夢のある話だとも思います。そこから、韓国でものすごく人気がある優里さんとのコラボによって、韓国でも聴かれるようになっていったりしていて。

脇田敬(株式会社LAB):優里「ベテルギウス」とtuki.「晩餐歌」がランキングの1位と2位を飾りましたよね。



──(mikako)音楽をやりたいけど、色んな理由で諦めそうになっている人達にも「いや、やってみればいいんだよ」と夢を与えられるような現象になっていますね。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):多分、若い世代の子たちにとってTikTokに動画を上げる行為というのは日常の作業のひとつでしょうから、その流れで、15歳の女の子が出した楽曲が世界に広がっていくというのは、これまでの音楽シーンでは想像できなかったことですよね。

脇田敬(株式会社LAB):彼女独特のユーモアというかな、そこの個性があいみょんみたいに育っていくところが見れるかもしれないと期待します。歌詞もね「フルコース」って言葉も面白いというか、「晩餐歌」は、わかったようなわからないようなこの歌詞が癖になる曲だなと思います。もちろん皆さんがおっしゃるように、声とか、顔を出さないミステリアスな部分とか、Adoがやってきたことのアップデートというか、違う形でアプローチしたようなところとか、これから楽しみですよね。

──(mikako)まだ1曲目ですもんね。

村田麻衣子(Billboard JAPAN):「晩餐歌」は、tuki.さんにとって人生初めてのオリジナル楽曲ですね。

──(mikako)それがこれだけの人気を得ているなんて。

脇田敬(株式会社LAB):その後も曲はいっぱい出して、アルバム『15』が出ましたね。

──(mikako)まだまだこれからで、楽しみな存在ですね。貴重なお話をありがとうございました。



取材◎mikako(Nagie Lane)
文・編集◎烏丸哲也(BARKS)
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