【ライブレポート】文藝天国、2年ぶりワンマン<アセンション>に全方位の総合アート「快適な空の旅をお楽しみください」

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音楽作家のko shinonomeと、色彩作家のすみあいかからなる文藝天国が2月17日、東京・日本橋三井ホールにて自身二度目のワンマンライヴ<2nd one-man live「アセンション」>を開催した。

◆文藝天国 画像

音楽活動だけにとどまらず、香水のプロデュースやカフェイベントなど幅広い表現で世界観を作り上げてきたからこそ、ライヴという空間に懸ける想いとこだわりは人一倍強い。2021年の1stワンマンライヴ<1st one-man live「瞬間的メタ無重力空間 2021」>から約3年という時を経ていよいよ舞台が整った<アセンション>には、席数700に対して応募数2,200枚という前回の10倍近い観客が期待を胸に集まった。



また、ライヴの前には、オリジナルフレグランスを発売する香水ブランド“PARFUM de bungei by 文藝服飾班”と、紅茶やオリジナルスイーツを提供するオルタナティヴ喫茶“喫茶文藝 by 文藝食卓班”のリミテッドストアを別会場で同時開催。表参道Randでのポップアップストア喫茶文藝には多くのリスナーやファンが来場したという。いずれも今回のライヴとリンクした内容になっており、すべて参加すれば1日通して文藝天国の世界を堪能できる仕様だ。聴覚や視覚のみならず、嗅覚や味覚を含めた表現活動は、五感を通して藝術を体験してほしいというメンバーの想いが伝わってくる。

その想いに応えて、ライヴ会場となる日本橋三井ホールには、文藝天国のミュージックビデオの世界観を意識したようなコーディネイトの観客の姿も見受けられた。観客もまた、ライヴを作り上げる一員としての自覚が自然と芽生えるのだろう。開場前のロビーには緊張感が混じった独特のムードが漂い、文藝天国の活動記録や本日のセットリストが載ったパンフレットを受け取って、会場に足を踏み入れた。



SEはない。無音の会場に、「まもなく離陸いたします。快適な空の旅をお楽しみください」というアナウンスが流れ、ゆっくりと場内暗転。ロケットで宇宙に飛び出すカウントダウンと合わせて、勢いよくライヴがスタートした。パンフレットによると、第一部のテーマは“破壊”。1曲目である1st EP『プールサイドに花束を。』のオープニングナンバー「尖ったナイフとテレキャスター」から、ko shinonomeが掻き鳴らす鋭いギターサウンドが牽引していく。

ステージには、ヴォーカルのハルとギターのko shinonome、舞台総合演出を手掛けるすみあいかがVDJとして立っているのみ。真っ白な空間に真っ白な衣装の3人がいる光景は、まるで不思議なラボのようだ。真っ白な背景はビジョンにもなり、さまざまな映像を映し出す。空の歌詞描写とリンクさせた「七階から目薬」、雨音とその映像からの「夢の香りのする朝に。」、水中に沈んでいくような導入からの「シュノーケル」など、SEや映像が合わさることで、楽曲の奥深くへ誘われていった。




ko shinonomeのギターともに、文藝天国の楽曲を支えているのはハルの歌声だ。ウィスパーボイスに近い儚げな中音域から、張り詰めたハイトーンやファルセットまで、のびやかな声色で楽曲を彩る。「夢の香りのする朝に。」など、時にカオティックに展開するアレンジを優雅に泳ぐ凜とした存在感に魅了された。

それまで自然の映像をフィーチャーしていた中、けたたましいタイピング音でサイバーなモードに切り替えられ、「破壊的価値創造」へ。ハッカーの少女が音楽で革命を起こすMusic Film (MV)が映され、映像とリンクしながら演奏の熱量もどんどん上がっていく。サプライズはピークを迎えた終盤。なんとミュージックビデオのラストシーンそのままに、ハッカー役を務めるsoanがアンテナを掲げてステージに登場した。入れ替わりに文藝天国メンバーがステージを降りると、soanがそのままマイクを握り「“破壊的価値創造”始めます」と未発表曲を熱唱し始めたのだ。



文藝天国よりもよりソリッドなロックで、soanもステージから身を乗り出してアグレッシヴに歌いあげて観客を煽る。この夜、初披露されたナンバーは1stシングル「ラスト・フライト」。同日24時には同楽曲が配信リリースされることもヴィジョンでアナウンスされ、楽曲タイトルをそのままユニット名に、文藝天国の派生ユニット“破壊的価値創造”の始動発表となった。この予想外なショーに心を掴まれ、驚きとともに第一部は締め括られた。

一転して、会場には小鳥の声と穏やかなピアノのSEが流れ、ステージの小道具がエレガントなものに置き換えられていく。その幕間の時間でステージ上にセットされたテーブルとイスに着席したko shinonomeとすみあいか。2人のお茶を飲みながらのトークタイムが始まった。


第一部の緊張感とは裏腹に、ゆるいムードで<2nd one-man live「アセンション」>への想いを語り合いつつ、soanをヴォーカルとした派生ユニット“破壊的価値創造”の始動が2人の口からも告げられた。第一部で初披露された破壊的価値創造の「ラスト・フライト」は、ko shinonomeが音楽、すみあいかが視覚を担当したとのことだ。

ステージの準備が整ったところで、すみあいかが、「みなさんも日々、現実は辛いと思いますけど、お茶でも飲みましょう」と語りかけ、第二部“茶会”が幕を開けた。



白いワンピースにお色直ししたハルが姿を現し、「秘密の茶会」から第二部がスタート。ko shinonomeのカッティングリフが軽やかな「天使入門」、瑞々しいサウンドとメロディに包まれる「マリアージュ」など、アップテンポなナンバーが続き、文藝天国のポップサイドを味わう。ハルも甘い声を混ぜたり、少し笑顔を見せたりと第一部とは表情を変えていたようだ。“第一部=破壊”と“第二部=茶会”というテーマで括ることで、音源とはまた違うイメージが膨らんでいくのが面白く、真逆のテーマ名で韻を踏む遊び心も彼ららしい。

「フィルムカメラ」はセリフ劇から始まり、ミュージックビデオに出演していたキャストが同じ扮装で場内に現れるという演出に再び驚かされた。迷い込んだようにふらふらと客席内を練り歩く姿を観客がじっと見守る。ステージ上では、椅子に座ったko shinonomeとハルが切ない楽曲を添え、観客は没入感たっぷりの空間に酔いしれた。




そこからの後半戦は、ko shinonomeのギタープレイがさらに開花。ループペダルでフレーズを重ねながら緻密なソロを奏でてイントロに繋げた「おいしい涙」、中盤に長尺のソロパートが追加された「緑地化計画」と、さまざまな機材を駆使して多彩なフレーズをホールに響かせていく。文藝天国の自由なスタイルだからこそ、画期的な演出や美しい映像と並んで、ギターの音色も、世界を作り上げるひとつの大きな武器となっている。ko shinonome (G)、すみあいか(VDJ)、ハル(Vo)という3人の少数編成ゆえ、個々の個性が際立つのだ。

本編ラストに贈られたのは「エア・ブラスト」。ミラーボールの光が舞う中、“醒めない夢を いつまでも”と歌うハルの声の無垢な透明感に、胸がキュッと締め付けられる。舞台観劇に近い充足感と豊かな余情を残して、3人はステージを降りた。



ビジョンにエンドロールが流れたあと、再びステージに登場した3人は、最新EP『破壊的価値創造』から「奇跡の再定義」を披露。タイトルどおり新たな価値観を提示し、美しさと過激さが共存した、まさに文藝天国の核とも言える1曲だ。ko shinonomeのギターソロが響き渡るアウトロが、<2nd one-man live「アセンション」>全体のエンディングとなって特別な一夜を締め括った。

終演後の会場ロビーには、ライヴ中の小道具が飾られていたり、「本日お会いできた感謝と記念のしるし」として桜の香りのハンドソープが手渡されたりと、最後までこだわり抜かれていた。手作りのぬくもりが宿るそのひとつひとつに、この公演に懸けるメンバーの愛情とメッセージがしっかりと込められていた。果たして、次はどんな仕掛けやアイデアを用意して我々を迎えてくれるのだろうか。今はハンドソープの香りと余韻に浸りながら、再び幕が開く時を待ちたい。


取材・文◎後藤寛子
撮影◎たかつきあお

■ワンマンライヴ<2nd one-man live「アセンション」>2024年2月17日@東京・日本橋三井ホール SETLIST

▼第一部 破壊
01. 尖ったナイフとテレキャスター
02. メタンハイドレート
03. 七階から目薬
04. 夢の香りのする朝に。
05. seifuku
06. プールサイドに花束を。
07. シュノーケル
08. 破壊的価値創造(もっと!)
〜 ラスト・フライト ※新ユニット:破壊的価値創造 〜
▼第二部 茶会
09. 秘密の茶会
10. 天使入門
11. マリアージュ
12. フィルムカメラ
13. おいしい涙
14. 緑地化計画
15. 宿命論とチューリップ
16. エア・ブラスト
17. 奇跡の再定義

■破壊的価値創造 1stシングル「ラスト・フライト」


2024年2月18日(日)配信開始
レーベル:bungei records
Distributed by NexTone
配信リンク:https://nex-tone.link/LastFlight

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