【インタビュー】文藝天国、アルバム『破壊的価値創造』が導く原点「最高傑作であり、ロックンロール魂を忘れずにという決意の作品です」

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音楽作家のko shinonomeと色彩作家のすみあいかのふたりからなるユニットが文藝天国だ。オルタナティヴロックを軸とした刺激的な音楽と繊細な映像作品を創り出す一方、オリジナル香水の発売やアイスクリームショップの期間限定出店など、その活動フィールドは多岐に亘り、五感すべてを表現に取り込んで独自の世界観を確立してきた。

◆文藝天国 画像 / 動画

森がテーマとなる香水から発想した楽曲「緑地化計画」、“紅茶のお風呂に浸かる”をテーマとしたバスパウダーからイメージした楽曲「ゴールデン・ドロップ」など、プロダクツと楽曲を連動させたスタイルは彼らならではのもの。これら個性的なシングル制作を経て、force album(4thアルバム)『破壊的価値創造』が完成した。シングル2作で描いたドラマチックな世界と共に、タイトルどおり、自由を求めて叫ぶ生々しいロックの衝動が溢れる全6曲が収録された。

前回の初インタビュー時、自身の音楽性を「レースとロックが共存している」(すみあいか)と表現していたが、まさにその両方が融合、圧倒的密度をもって類い稀な文藝天国の世界を味わえる仕上がりだ。音楽と映像の相互関係、細部に至るこだわり、そしてついに決定した2度目のワンマンライブまで、ふたりにじっくり語ってもらった。なお、ふたりの写真は「破壊的価値創造」ミュージックフィルムのシューティング地を訪れて撮影したものだ。


   ◆   ◆   ◆

■抑圧に対する大きな反発が生まれた
■やっぱり「破壊的価値創造」が始まり


──完成したアルバム『破壊的価値創造』に対して、どんな印象を持っていますか?

ko:今回は、サウンド的にいつもより硬めというか、よりソリッドでロックな印象があります。1stミニアルバム (『プールサイドに花束を。』 2019年6月発表)と2ndアルバム (『夢の香りのする朝に。』2021年1月発表)がオルタナティヴロック寄りだったところから、去年出した3rdアルバム (『花咲く君の滑走路』2022年2月発表)はちょっとポップな要素が入っていたので、今作は少し原点に戻ったと言えるかもしれません。

──アルバムタイトルにもなっている「破壊的価値創造」は2022年にシングルリリースされましたが、原点回帰したのはこの曲の存在が大きいですか?

ko:そうですね。でも、アルバムを作り始めた時は、このタイトルにするつもりはなかったんですよ。いつもラストナンバーの曲名をアルバムタイトルにしてきたので、今回もアルバム用に作った「奇跡の再定義」を最後に入れて、それをタイトルにしようと思っていたんです。だけど作っていく中で、「破壊的価値創造」という曲への思い入れがかなり強くなってきて、全体のテーマになりました。3rdアルバムが出たあとの最初のシングルで、始まりの1曲でもあったので、巡り巡って戻ってきた感じですね。



すみ:「破壊的価値創造」がシングルとして出たのが去年11月だったのですが、デモはさらにその前の5月くらいに完成していて。完成してからの半年間、契約の問題があったり、活動拠点となる場所を借りる時にトラブルがあったり、なかなか音楽的な活動が出来なくて抑圧されていたんですね。2ndアルバム収録曲の「メタンハイドレート」も、当時、高校卒業間近や直後に世間や周囲から薄々と感じていた抑圧に対して生まれた作品だったのですが、「破壊的価値創造」は、実際に抑圧される場面に遭遇することが増え、抑圧に対するより大きな反発が生まれて作品ができています。活動できない間に溜まったエネルギーが、シングルの「破壊的価値創造」と、武装を意識したアーティスト写真に繋がって。結果的にその経験から以前よりも良い活動環境を整えることができて、少しずつまた動き始め、徐々にシングルが出せて音楽以外の活動も実現できていったので、やっぱり「破壊的価値創造」が始まりであり、“今のわたしたちを代弁する曲なんじゃない?”ということになりました。

ko:文藝天国の曲には、ひとつの物語を基にした楽曲と、文藝天国自体がテーマになっている楽曲の2パターンがあって。「緑地化計画」や「ゴールデンドロップ」はそれぞれ物語がある曲ですけど、「破壊的価値創造」や「メタンハイドレート」は、自分たち自身が世間に対して何かを訴えている曲なんです。

すみ:もの申す曲(笑)。あと、「破壊的価値創造」のミュージックフィルムを撮るつもりはなかったんですけど、シングルリリースの5日前に、突然私が撮りたい映像を思いついてしまって。koくんはシングルバージョンで満足していたから、リアレンジとなる「破壊的価値創造(もっと!)」を書くつもりはなかったと思うんですよ。私が作った映像の企画書に対しても、「それなら新曲を作りたい」と言っていたくらいで。それでも私は、どうしても「破壊的価値創造」でミュージックフィルムを撮りたかったので(笑)、結果、リアレンジになりました。

ko:リアレンジは完全に映像ありきですね。絵コンテをもらって、映像の展開に合わせて作っていきました。


──だから、原曲では間奏にあったギターソロがアウトロ部分に移動して、さらにカオスなアレンジになっているんですね。

ko:そうですね(笑)。絵コンテでは、最後に屋上でギターを掲げたり、激しく弾くシーンが入るということだったので。

すみ:文藝天国で映像を撮り始めた頃から、“屋上で女の子がギターを持って街を見下ろす”みたいなシーンがずっと撮りたかったんですよ。当時は撮影のために屋上を借りることが難しくて断念したので、念願でした。

──映像自体もすごくカッコいいですよね。サイバーな世界観で、映画のようなストーリーが伝わってきました。

すみ:物語としては、“世界を牛耳るホワイトハッカー”がテーマになっていて。もともと私自身が抱えていたものが軸になっているんですけど……学生の時、ニュースやインターネットを見ていると、いろいろ悲しい出来事が多くて。もっといい世界にしたいという思いが強まる一方で、こんなに救いようのない世界ならいっそ終わらせたほうがいいんじゃないかという気持ちになったんですよね。つまり、テロリストやカルト宗教、戦争とかを忌み嫌う思いが強すぎると、自分もそっち側になる可能性があるわけで。世界を変えたいという気持ちと、世界を終わらせたいという気持ちは表裏一体なんだと思ったことが、この映像のテーマになっています。

──なるほど、「破壊的価値創造」というタイトルどおりですね。

すみ:例えば、ミュージックフィルムの主人公の女の子がモニタールームで見ている画面には、戦争やチェルノブイリ、バングラデシュのラナ・プラザ崩落事故の映像が映っていて。どこを見渡しても悲惨なことが起きている世界に向けて爆弾を作っているんですね。最後には、私たちの爆弾は音楽と映像だということで、ギターという爆弾を掲げて、既存の世界を壊して自分の理想を作る…というストーリーなんです。

──すみさんが表現したかった最後の爆発力と、koさんのカオスなアウトロがシンクロしてますよね。

ko:アウトロでどんどんテンポが上がるのは、爆発へのカウントダウンをイメージしています。メトロノームを聴きながらこの勢いを出すのは無理なので、フリーテンポでレコーディングしました。サポートドラムのジュンノスケくんに、「もっとも早い速度でライドを刻んでください」とお願いして(笑)。


──さらにパワーが増したリアレンジは、アルバムを象徴する1曲になったと思います。レコーディングというと、「フィルムカメラ」に実際のシャッター音が入っていたり、「緑地化計画」では森の音を取り入れていたり、収録音に対するこだわりが増していますよね。

ko:「フィルムカメラ」は、昨年、僕の祖父が亡くなったことをきっかけに書いた曲です。人生を「フィルムカメラ」になぞらえて…残り枚数が決まっている中でどれだけいい写真を撮れるか、美しいものを撮っていけるかというテーマで作りました。

すみ:音源の中に入ってる“シャッターを切る音”は、私の祖父がくれたカメラのシャッター音を使っています。koくんから「シャッター音を入れたい」というアイデアが出てきて、「フィルムカメラ持ってるよ!」って。

ko:今はまだ制作中なんですけど、「フィルムカメラ」のミュージックフィルムも、フィルムカメラをテーマにした映像になっています。

すみ:そのミュージックフィルムに、ドラマチックな裏話があるんです。koくんから「フィルムカメラ」のデモが送られてきたのが、ちょうど「マリアージュ」のミュージックフィルムが完成して、出演していただいたモデルの壊死ニキさんにお礼を伝えに行った時だったんですね。お話ししていたらニキさんから、「人からもらったんですけど、自分では使えないから、良かったらすみさん使ってください」ということで、中古市場で高値がつくようなレアなカメラフィルムを譲ってもらって。まさにその話をしている時に、koくんから「フィルムカメラ」のデモ音源が来たので、すごい偶然だなと思っていたんです。


──素敵な偶然ですね。

すみ:一年経って改めて完成した「フィルムカメラ」の音源を聴いていたら、「マリアージュ」のモデルさんのイメージが湧いてきて。これまで同じモデルさんを違う映像で撮らないようにしていたんですけど、特別運命的だったので、再び出演してもらいました。映像も「マリアージュ」の続編的なものになっていて、いただいたレアなフィルムを使って写真を撮るシーンもあります。

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