【楽器人インタビュー】町屋(和楽器バンド)「和楽器バンドのアレンジに必要なのはオーケストレーション」

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町屋が和楽器バンドで使用している 時雨(Sago New Material Guitars)というギターは、和楽器バンドという特異なアンサンブル環境に対応するために開発された、町屋による町屋のためのギターだ。が、ギタリストとしての主張を表現/具現化させるための設計ではなく、和楽器バンドという8人によるアンサンブルをまとめ上げ、音楽としての統制を美しく叶えるための道具として機能している。

◆町屋 楽器/機材 画像

町屋がギタリストとして和楽器バンドに位置する時、そこにはギタリストとしてのエゴがない。バンドの一員としてサウンドを担いながらも、承認欲求ゼロというこのようなアプローチをしているギタリストを私は見たことがない。

ギター、ベース、キーボードにとどまらず、さまざまな和楽器すらも使いこなし、音楽家として誰も到達し得ない世界へ向かう町屋という男は、はたしてどのようなミュージシャンなのか。


   ◆   ◆   ◆

──ギタリストながらプライベートスタジオには様々な楽器がありますが、あれ…全部弾くんですよね?

町屋:木管楽器は演奏しないぐらいで、あとは大体の楽器は演奏しますね。

──あらゆる楽器に興味があるということですか?

町屋:和楽器に関しては和楽器バンドに入ってから始めたんですが、曲を作ったりアレンジするにあたって、例えば三味線とかお箏とかの力学的な仕組みと音域がわかってないと、無理な打ち込みとかのデモを作りがちになると思うんです。ドラムを叩けない人が打ち込みをすると「手が何本あってもできないよ」みたいなことってあると思うんですけど、そういう現象が和楽器バンドでも起こりうると思ったので、最初に全部の楽器の基礎動作だけはとりあえず押さえるっていうのをやりました。一応全部の楽器を置いて、今でもたまにチューニングのチェックとか、音色のインスピレーションだとかで鳴らします。

▲町屋

──実際手にして弾いてみないとわからないことがいっぱいある、ってことですか?

町屋:それまでまったく和楽器に触れたことがなかったので。三味線は竿ものだからギターに近い感覚はあるんですけど、フレットがなくてギターで言うドロップDみたいなチューニングが基本だったりする。三味線で二上りっていう調弦なんですけど。

──ルート/5度/オクターブですね。

町屋:そうです。でも津軽三味線って普通の細棹とか中棹とかと違って力強い音色で速弾きをするっていうのが売りなので、それでネックも太いしバチの当ても強かったりするんです。で、実際やってみると、ピックで弾くと簡単なんだけど、バチの掬(すく)いってめっちゃ難しいことがわかる。それで、現実的にどこまで人間が弾けるのかっていう想像がつくんですよね。

──そのような準備を入念に行うのは自身の性格ですか?ミュージシャンはそうあるべき?

町屋:いや、僕の性格だと思いますよ。このバンドって編成が8人もいて、かつ、それぞれ使える音域がバラバラなんです。なので全部のパートを譜面で書き起こしてみると、和楽器バンドってわりとオーケストラに近いような感じになってくるんです。だから、このバンドのアレンジにすごく必要なのはオーケストレーションで、例えば、曲によってここは唯一音を長く伸ばせる尺八をバイオリンの代わりにしようとか、フルートの代わりにしよう、という発想になる。

──和楽器バンドにとって尺八の強みのひとつは、ロングトーンが出せることなんですね。

町屋:それをオーケストラや和声学の要素も採り入れながら、和楽器のそれぞれの要素を活かしたボイシングを行うことが、このバンドでの大切なキーだと思っています。

──和楽器バンドの楽器構成で、新たな発見にどんなものがありましたか?

町屋:ピッチの問題とかですかね。箏は撥弦してからピッチが上がるんですが、そういう構造の楽器なんですよね。尺八も基本的にピッチが高いんです。

──そのように作られている?

町屋:ただ彼(神永大輔)はちょっと尺八を改造していて、ピッチをちょっと低くしているんです。本当はA=442〜444Hzとか微妙に高いところなんですけど、職人さんに竹の長さを微妙に伸ばしてもらって、ピッチが440Hzに合わせやすいようにしているという。

──微妙なピッチの違いは、曲の中に入ったときの交わり感・しっくり感に影響しますよね。

町屋:そうですね。結成当初からいろんな曲をレコーディングしていく中で、ギターとベース以外のピッチがみんなバラバラだったので、試しに全員440Hzで統一してみようっていう実験をした曲があるんです。でもそうするとすごく馴染むんですけど、代わりに全然抜けてこないっていう現象が起きて。


──それは興味深い。

町屋:三味線とか、バチバチ弾いてるにも関わらずピッチが同じだとギターとかベースとかの音に埋もれちゃうんです。ギター/ベース隊のピッチが440Hzだったら、441Hzとか442Hzとかちょっと上ずっているぐらいじゃないと聞こえてこない。なので逆に「Starlight」では、あえて和楽器を表に出さないようにするために440Hzで統一したんです。

──おもしろい。

町屋:最近は、和太鼓も全部チューニングしてます。

──え?革の張りを調整するっていうことですか?

町屋:それをレコーディングの現場でやるのは大変なので、トラックで太鼓を山のように何十個も運び入れて、その中から選ぶんです。黒流さんは7~8つの太鼓を使うんですけど、とりあえず黒流さんの好きなようにセッティングしてもらってサウンドチェックして、それらの太鼓の音がCなのかC#なのか、DなのかD#なのか全部の太鼓に僕が音階を振ります。それが曲の主音に対して何度の音なのかを確認して、この太鼓は使える、この太鼓はハマりづらいからできれば5度のピッチの太鼓に変えましょう、と決めるんです。となると、今度は5度のピッチが鳴る太鼓を探しましょうってことで、ひとつずつトトントトンと叩いていくという地道な作業をやるんですね。だから太鼓のレコーディングでは、最初の音作りの段階が一番大変なんですよ。

──大変だけど、それによる曲への馴染み方には歴然とした違いが出るでしょうね。それにしてもアコースティック楽器の使いこなしって本来はそんなに大変なんですね。

町屋:普通のバンドで和の要素が欲しいときって、割とワンポイントでしょう?ここで箏のグリスが欲しいとか、三味線のベベンが欲しいとか。太鼓のドドンとか尺八のブホォとか、割とポイント使いが主流だと思うんですけど、和楽器バンドの場合は常にメインの楽器として存在していますから、その場合にどうやって成立させていくかっていうところがポイントなんです。

──やりがいありますね。めんどくさいけど(笑)。

町屋:僕がこのあたりをやり始めたのは3枚目のアルバムぐらいからなんです。それまではあんまりレコーディングに口出ししてなかったんですけど、ちょっとずつ任される仕事の量が増えていって今みたいな形になった。初期の頃って、ごちゃごちゃしていて8人の音が聞き取りづらいところが結構あったので、それぞれのパートがいかにクリアに聴こえるかっていうところを整理整頓していった感じですかね。


──8人のアンサンブルですが、各楽器の特性をどのように捉えていますか?

町屋:実は和太鼓が一番難しいです。ドラムと和太鼓という掛け合わせで考えると、ドラムが基本的にバチっとした縦を押さえるのに対して、太鼓の特徴ってアタックの後のブオンっていう遠鳴りする胴鳴りみたいな音なんです。もちろんアタックもありますし、役割としてはドラムとパーカッションみたいな役割には近いんですけど、パーカッションほど明るい音色でもないので、どういうチューニングでどういうフレーズを叩いてもらうかというところがすごく難しい。

──ワイルドな楽器なだけに、使う際には綿密さが欠かせないんですね。

町屋:黒流さんはそういうのが上手で、勢いでいきなり録り始めたりはしないんですよ。「ここはこんな感じで細かく打っていただいて、ここは逆にドラムが細かいから少なめの音数で打ってもらった方がそれぞれのパートが映えますよ」とかバランスを見ながら指示出しをして、それでちょっと曲に対して実際当ててもらって、はまるかどうかを確かめてみる。僕と黒流さんはディスカッションをしながらレコーディングを進めていく感じなんです。楽器としてすごく難しいところはありますけど、それを黒流さんの技術と僕らのコミュニケーションで補っているという感じ。

──確かに太鼓が大暴れしたら、全部のアンサンブルを埋め尽くしちゃうような暴力的な音圧と帯域があるでしょうね。

町屋:そうなんです。なのでローのピークとアタックのピークを決めて、あとはそこそこ勢いで削って他のパートの帯域を残してあげないと、音源の場合は成立しない。

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