フジロックはアウトドア低迷時代の光明だった!?【検証】フジロックが20年愛され続ける理由 ~キャンプよろず相談所編~
フジロックといえばキャンプ。キャンプサイトは会場から最も近い宿泊エリアでもあり、フジロック参加者にとっては一般的な滞在スタイルだ。日頃キャンプをしない人もフジロックではキャンプで参加という人も多い。しかし、フジロックもキャンプも未経験となると話は別で、「ハード」で「キツそう」というイメージが、大きく立ちはだかってしまうのも事実。
フジロックのキャンプサイト入口には、粋な藍色の日よけ幕が掲げられたブース「キャンプよろず相談所」がある。1万5千人以上が寝起きするキャンプサイトの管理を一挙に引き受けているのがここだ。今回は、その所長であり、フジロックのオフィシャルフリーペーパー『フェスエコ(Festival Echo)』の編集長、そしてアウトドアカルチャーのニュースサイト『Akimama』を主宰する滝沢守生さんに、「フジロックでのキャンプはキツいのか?」を単刀直入に訊いた。そして、アウトドアの専門家として、フジロックでキャンプを楽しむコツも滝沢さんが伝授してくれた。
ロックフェスとアウトドアというカルチャーに通じるルーツが見えてきたとともに、今回のインタビュー記事は、フェスキャンプの実用書としても活用できるものだ。
◆ ◆ ◆
■ アウトドアがなんだか気恥ずかしいレジャーみたいに思われていた時
■ キラリと光明が見えたのがフジロックだった
──フジロックのキャンプって、キツいのでしょうか?
滝沢守生:苗場の環境が特別厳しいわけではないんです。高原のさわやかな風に吹かれ…という、じつは夏のキャンプとしては最適な環境。ではなぜ“過酷”と言われるかというと、天気が読みにくいせいなんです。苗場は上信越国境稜線という新潟と群馬の間に位置し、山が急峻。そこに風が当たると雲ができやすい。だから豪雪地帯でもある。午後になるとモクモクと雲が垂れ込めて、天気予報では晴れだったのに突然ざーっと降ってくる。こうしたことは夏の穂高でも南アルプスでも八ヶ岳でも普通に起こるのですが、一般の天気予報では山岳気象の情報までは出てきませんからね。
──確かに、普段キャンプをしない人は天候の移り変わりにびっくりしちゃうのかも。
滝沢:ええ。だから、天候が変わりやすいことを覚えておけばいいだけなんです。あとは、標高が1000m近いので夜や朝方が冷え込むということもね。今はピンポイントで気象情報が出ますから、昔よりも断然読みやすくなっていますよ。ここ5年位は悲惨な人、“お前大丈夫か?”って人も会場で少なくなりましたしね。
──以前はたくさん見かけましたが。
滝沢:特に女の子たちはとてもアクティブだしマメに調べてきて、準備の段階から楽しめている。だいたいダメなのはボケっとした男(笑)。でもそれも大分少なくなったことが、この20年の積み重ねでしょうね。
──そもそも、滝沢さんがフジロックに関わり始めたきっかけは?
滝沢:僕が初めてフジロックへ行ったのは2001年。当時やっていた『Outdoor』という雑誌の取材で入りました。どうやら日本にもウッドストックのような野外フェスがあるらしいと聞き、アウトドアのルーツを間近で探る意味でも取材に行ってみようと。ロックフェスとアウトドアは、意外と源流が似ているんですよ。でも当時の日本のアウトドアのカルチャーはと言うと、オートキャンプ、ファミリーブームが一段落して、中高年の登山ブームだったりと、アウトドアがなんだか気恥ずかしいレジャーみたいに思われていて、若い人たちからはちょっと敬遠されていた。そんな時にキラリと光明が見えたのがフジロックだった。
──そうでしたか。
滝沢:フジロックで若い人たちが訳も分からずテントを頑張って背負って一堂に会している光景を見て、これはカッコいい、面白いなと。ここをうまく一緒に盛り上げて行けたら、日本のアウトドアが面白くなると強く感じた。その後、フジロックの運営スタッフの方から声をかけてもらいました。
──どういう役割を任されたのでしょうか?
滝沢:まずは、お客さんにちゃんと準備をしてきてもらえるようにしたいと。ひとたび雨が降ってゾンビみたいなのがいっぱい現れてインフォメーションに来られても対応できないから、一度キャンパーをサポートしに来てよと言われたんです。それで、『BE-PAL』さんやThe North Faceさん、音楽好きなアウトドアライターさんたちに声をかけてみんなで参加したのがよろず相談所の前身になります。ボランティアで2〜3年やった後、メーカーに協賛してもらいマーケットとして育てていこうとなったのが2004年。ColemanさんやThe North Faceさんなどたくさんのアウトドアメーカーに協力してもらい現在に至ります。
──よろず相談所は、フジロック以外にも全国のフェスやイベントに協力されていますよね?
滝沢:フジロックで始めて以降、他のフェスやイベントからお声が掛かるようになりました。参加者のサポート、キャンプサイトの運営について、どこも困っていたんでしょうね。僕もこれが商売になるとは思いませんでしたよ(笑)。その中でフジロックが特別なのは、お客さんの安全のためだけに雨風対策などの事前準備を促しているわけではなく、「もっと自然全体のことを考えよう」「環境について考えてみようよ」という思想を持っているところなんです。アウトドアの源流もそこにある。だからフジロックとアウトドアのマッチングはいいんです。フジロックを言い表すなら、“フェス”と“エコ”ということでそのまま“フェスエコ”なんですけどね(笑)。でも他の野外フェスで「キャンプサイトをやりたい」とか「アウトドアの協賛を付けたい」と案が出ても、イベント自体に思想的な背景がないので、どうしても興業目線になりがち。“夏フェス”とくくられ、見た目は似ているのかもしれませんが大きく違うのはそこです。
▲フェスエコ 創刊号〜第3号 |
滝沢:それでも、なぜ僕らが他のイベントにも協力しているかというと、フジロックが持つ思想を広めたいからなんですよ。せっかく自然の中でやるイベントなら、環境負荷についてお客さんにもオーガナイザーにも伝えたいですし。もともと僕らのチームはみんなアウトドアを背景に仕事をしてきたので、自然や環境に対する思想性、哲学はどんな活動においても大事なんです。
◆インタビュー(2)へ
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