【インタビュー】進化し続ける<フジロック フェスティバル>、変わらないのは「無駄」なこと
GREEN STAGE
2024年7月26(金)~28日(日)の3日間にかけて新潟県湯沢町苗場スキー場で開催される<フジロック フェスティバル’24>の全出場アーティストが7月5日に発表され、タイムテーブルも明らかとなった。
苗場スキー場に会場を移して25周年という<フジロック>の歴史は、そのままフジロッカーというフェス民を育て上げるという文化的側面を育んだ歴史でもある。全国津々浦々、春夏秋冬で大小さまざまな音楽フェスが活況となった現在の日本音楽シーンだが、その魁でもあり、音楽に留まらない自然との共存を楽しむことができる独自のスタンスは、今もなお<フジロック>の独壇場だ。
シザ(SZA)の出演キャンセルを受けながらもザ・キラーズをヘッドライナーに迎え、<フジロック'24>はいつものように全国から音楽好きを集結させるパワーを巻き起こしている。オフィシャルサポーターとして参画するAmazon Musicは、Prime VideoとTwitchにて<FUJI ROCK FESTIVAL ‘24>を無料で独占生配信するという特別施策も発表され、日本国内はもちろん、海外においても<フジロック'24>が楽しめることとなった。
音楽シーンが最も活性化し、多くの音楽ファンを刺激するパワーを放つ夏フェス文化の中で、今なお世界を代表するフェスティバルとして大きな存在感を放つ<フジロック>は、2024年はどんな景色を描くのか。主催のスマッシュ佐潟社長に、話を伺った。
株式会社スマッシュ佐潟敏博社長
──すべてのアーティストとタイムテーブルが発表されましたが、タイムテーブルの決定はパズルのようなもので大変そうですね。
佐潟敏博:でも例年やっていますので、そうでもないですよ。最後の調整としては、例えばGREEN STAGEとWHITE STAGEでなるべく演奏時間が被らないようにするとかですね。「この系のアーティストは同じ客層だから、ちょっとずらそうか」っていう。
──アーティストからのリクエストや希望を叶えるのも大変じゃないですか?
佐潟敏博:特徴があるステージ…例えばFIELD OF HEAVENなどは「こっちのステージに出たいです」というお話はあったりしますけど、特に混乱はないですね。実はGREEN STAGEじゃなくて、FIELD OF HEAVENとかWHITE STAGEに出たいっていう人も多いんですよ。自分の音楽の雰囲気に合ってるアーティストや違う見せ方をしたいっていう人たちですね。
──なるほど、わかります。
FIELD OF HEAVEN
WHITE STAGE
佐潟敏博:それぞれステージで個性があるので、その辺は<フジロック>の特徴かなって思います。お客さんにとっても今年はオレンジカフェ(飲食エリア)の後ろ奥側に新しいキャンピングエリアができたり、引き続き場内のシャトルバスも走らせますので、楽しんでいただけるかと思います。
──<フジロック>初心者や初めて参加する人たちに向けた、新たな施策などはありますか?
佐潟敏博:今年の施策としては、「金曜ナイト券」というチケットを用意しました。初日は金曜日なので、どうしても仕事や学校で参加できない方が多いんですね。そこで、会社員の方や学生さんが夕方から電車に乗ってフジロックに来てヘッドライナーとセカンドを2つ観て朝まで遊ぶという、金曜日の夜を楽しんでもらうチケットです。
──評判はどうですか?
佐潟敏博:チケット代も安くしているので、金曜日の来やすさっていう点には繋がっていると思います。
GREEN STAGE
──今更アホな質問ですが、チケットの売れ行きは出演アーティストのラインナップに左右されるものですか?
佐潟敏博:そこはどうしてもありますよね、やっぱり。
──<フジロック>って、<グラストンベリー>同様にラインアップに関係なくチケットが売れるフェスという印象がありますが。
佐潟敏博:それも元々立ち上げた時の目標でもありますけど、なかなか<グラストンベリー>のようにはいかないですよね。やっぱりお客さんもアーティストありきで来るというのがあります。もちろんヘッドライナーとかラインナップに関わらず<フジロック>に行きたいっていう人たちの需要も当然あるんですけど、でもちゃんとしたブッキングをして魅力的なラインナップで期待に応えていかないと、だんだん人数も減っていくでしょう。<フジロック>にずっと来てる人たちも来なくなるし、新しいお客さんも取り込むことはできないと思いますから。
──確かに、逆に期待は大きいのかもしれないですね。
佐潟敏博:そうですね。ちょいちょい裏切ってますけどね(笑)、ものによっては。
──今年の<フジロック’24>においては、特筆するようなエピソードは…
佐潟敏博:そりゃもうシザです。あのタイミングでキャンセルさせられてちょっとイラっとしてました(笑)。「アーティストサイドの都合で…」としかこの場では言えませんけど、このタイミングでよくキャンセルするなっていうのはちょっと内心思ってて(笑)。
──でも、よくあることですか。
佐潟敏博:いやいや、ヘッドライナーだとそんなないですよ。でもヘッドライナー・クラスでドタキャンになったのは3回目なんです。2004年のモリッシーと2014年のカニエ・ウェストで、今年がシザ。10年周期で「4」がやばいなっていう(笑)。
──面白い…と言ったら不謹慎ですが、なんか笑えますね。笑うのも不謹慎ですが。
佐潟敏博:そんな話をみんなでしていたので、2034年まで続けたら、その時はちょっと注意しないとって(笑)。
──<フジロック'24>でトピックに感じたひとつに、Amazon Music独占による無料生配信がありますが、これに関してはどういう経緯で決まったのでしょうか。
佐潟敏博:もともとは2018年からYouTubeで生配信を行いましたけど、その時も社内で議論はあったんです。「なんで無料で見せるの」という。
──わかります。
佐潟敏博:チケットを売っているものに対して、配信して無料で見せるということ自体に賛否色々あったんですけど、将来的に考えると「<フジロック>がどういうものか」を皆さんにみてもらうのもひとつあるし、今では行かなくなっていた元フジロッカーの方々が、この映像を見て「もう1回フジロックに行こう」って思う、そのプラスの要素が強いのかなと思っています。「ちょっと行ってみたいな」と思ってもらうだけでも効果がありますから。
──なるほど。
佐潟敏博:昨年は諸事情あってなかったんですが、でもなくなって思ったのは、世界的にも観られている映像なので、日本のアーティストにとっても世界へアピールする場にもなっていたということです。なので、今後も積極的に続けていきたいですね。
──そもそもYouTubeも「音楽が売れなくなる」と言われながら、結局は音楽を訴求させる強力なツールになっていますからね。
佐潟敏博:サブスクも一緒ですよね。結局今やそれが重要なツールになって、逆に音楽を展開しやすくなっている現実がありますから。
──音楽事情も業界構造も大きな変化と変革があるわけですが、<フジロック>というフェスイベントは何が変わり何が変わらないと考えていますか?
佐潟敏博:いろいろ紆余曲折はありましたけど、変わらないことは、ある意味ステージ以外の部分ですね。ボードウォークだったりちっちゃいステージだったり、あとパレス・オブ・ワンダーのサーカスだったり、「特になくてもいいんじゃないの?」って思う人もいるんですけど、この付加価値があってこその<フジロック>なので、単純にメインの4つのステージ…GREEN STAGE/WHITE STAGE/RED MARQUEE/FIELD OF HEAVENだけのフェスティバルじゃないっていうところは、ずっと変わってないところですかね。
ボードウォーク
パレス・オブ・ワンダー
──小さなお子さんも含め3世代で楽しめますからね。
佐潟敏博:そうですね。言い方は悪いですけど、ある意味「無駄」っていうか、無駄な部分でお客さんを楽しませるというそこかなとは思いますね。
DAY DREAMING
ボードウォーク
場内の川
モーニング・ヨガ
──逆に変わっていくだろうポイントは?
佐潟敏博:なんだろうな。ラインナップに関しては偏っている部分もなきにしもあらずなので、もうちょっと幅広いラインナップを取り組みたいなと思います。流行ってる音楽だけじゃなくて、例えばアジア系のバンドとかワールドミュージックとか、世界の音楽を紹介する場として発展させていきたいですね。
──今ではフェス自体が巨大なプレイリストでもあり音楽ムーブメントの発信源でもありますから、音楽文化を担うという意味でも重要な存在だと思います。
佐潟敏博:そうですね。誇りを持ってブッキングしているアーティストラインナップというのは変わらずですけど、ヘタなバンドは出せないっていうのは当然ありますね。
GREEN STAGE
──自分たちが思うところとオーディエンスが求めるところ、そのすり合わせの難しさはありますか?
佐潟敏博:どうしてもそこにギャップはあると思うんですけど、いい音楽を提供して、ある程度お客さんに聴いてもらって納得してもらう。今年で言えば、Awich(エイウィッチ)を観に来たお客さんが、たまたまFIELD OF HEAVENとかで見た音楽が気に入ってもらえれば、それもひとつのきっかけだろうし。
──今ではフェスも日本中で開催されていますが、老舗大型フェスとして、昨今のフェス事情をどう見てらっしゃいますか?
佐潟敏博:コロナ前とかはそろそろ落ち着くのかなと思ってたんですね。淘汰されていくのかなと思ってたんですけど、コロナが一旦収束してまたフェスに行きたいお客さんが2023年あたりから増えているような気もするんです。でも今後は地域に根差したり新しい見せ方なども考えていかないと、ビジネスライクでは多分淘汰されていくのかなという気がします。
──運営にとてもお金がかかりますし、そんなに美味しい商売じゃないとも聞きますし。
佐潟敏博:そうですね。ただ、運営主催者は楽しいんだと思うんです。自分でミュージシャンを交渉して、自分が作ったその場所でそのアーティストが演奏してくれて、お客さんも来てくれて、フェス自体を楽しんでくれる。ある意味快感のひとつだとは思いますから。
──そうか、やり甲斐や達成感がとてつもないのか。
佐潟敏博:ええ。その先でどう展開するのか。特化したりいろんなものを取り込んだり、ビジネス的にもその辺を考えていかないと…とは思いますけどね。
──そういう意味では<フジロック>のようなフェスは、未だ現れないですね。
佐潟敏博:ちっちゃい規模だったり、キャンプ型のフェスだとそういうのもあったりするんですけど、ここまで大きいのはないですね。<フジロック>の場合は、ある意味もはや街を作ってるイメージなので、それをお客さんに楽しんでもらうっていうところが醍醐味でもあるんです。
──新潟湯沢町の地元の方の協力も熱いですからね。
佐潟敏博:そうですね、もう今年で苗場で25回目なんです。ずっと地元の人とは付き合いもあるし、さすがに四半世紀も付き合うと何かと交流もあって皆さん協力的にやってもらっています。地元の方にもフジロック好きな人がやっぱり多いですね。
──世代交代もしながら。
佐潟敏博:青年会みたいな若い子たちも積極的に出てきたりします。ボードウォークをみんなで修理したり、新しく作ったりしてるんですよ。結構地元主導でやってもらっていることもあって、そこにうちのスタッフが合流するんです。
──<フジロック'24>、楽しみにしています。
佐潟敏博:サーカスもあり、ステージもあり、映画もあり、ピアノ弾く場所もあったり、ボードウォークもあったりするのが<フジロック>です。言葉ではなかなか言えないですけど、とりあえず1日でも体験してもらえると<フジロック>の魅力がわかってもらえると思うし、そこに当然音楽もありますから、その辺も楽しんでもらえると嬉しいです。
──子供向けのアトラクションもあるし。
PYRAMID GARDEN
PYRAMID GARDEN
ドラゴンドラ
佐潟敏博:そうですね。家族連れも多いので、その辺も楽しめるかなと思います。そういう世代が増えて、またその下に繋いでいってもらえればと思いますね。今の子供たちが大きくなって結婚して、子供と一緒に来てもらうのが今後のフジロックの夢でしょうか。
──今後もフェスという音楽文化が永久的に発展していくことを、何より期待しています。
佐潟敏博:頑張る。もう頑張るとしか言いようがない。ぜひ皆さん、<フジロック>に足を運んでみてください。
前夜祭
取材・文◎烏丸哲也(BARKS編集部)
<FUJI ROCK FESTIVAL '24>
新潟県 湯沢町 苗場スキー場
GREEN STAGE
◆ FUJI ROCK FESTIVALオフィシャルサイト
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