【BARKS編集部レビュー】秋葉原潜入、iPod用ドックケーブルを自作してみた
◆iPod用ドックケーブルを自作してみた<AUDIO MIJINKOドックケーブル自作講習会in AKIBA>画像
スマホの急速な拡大と共に、自分の音楽ライブラリーそのものを常に携帯するようになったのは、実は音楽にとって大きなパラダイムシフトである。古くはカセットウォークマン、近年ではiPodという形で音楽を連れ出してはきたものの、実はライブラリーの一部を簡易的に持ち出したにすぎず、音楽を聴くメインの場所は相変わらず自宅にあった。しかもプレイヤーを欠かさず常携していたのは一部の音楽マニアだけだったというのが、偽らざる真実だ。
「携帯できる」と「携帯している」とは意味が違う。ケータイがスマホとなったことで、簡易ポータブルではなく音楽ライブラリーそのものが常に手元にあるとなれば、音楽再生環境がスマホを中心に再構築されるのが当たり前の流れだ。今までよりもちょっといい音のするイヤホンを手にするのもいいだろう。スマホが音楽のベースステーションであれば、さらにいい音を鳴らすためのポータブルアンプを手にするという志向は意外と無理がない。一昔前の「部屋にミニコンポが欲しい」というごく普通のニーズが姿を変えるならば、決してPCオーディオではなく、スマホにドック接続をする発想になってくる。パラダイムシフトである。
現在のポータブルアンプは、iPodやウォークマンを常時携帯する一部のマニアに向けた設計思想だが、ポータブルアンプのニーズはもっと広がり、デザインはもちろんコンセプトそのものにも大きな局面が訪れることだろう。アンドロイドを愛用している女性をターゲットにしたアイテムだって登場するはずだ。それを今と同じ“ポータブルアンプ”と名付けているかはわからないけれど。
そんな時代の潮流を感じながら、<AUDIO MIJINKOドックケーブル自作講習会 in AKIBA>のイベント会場に潜入してきた。先日イヤホン自作教室の様子をレポートしたところだが、今回お伝えするのは、iPod/iPhoneとポータブルアンプを接続するためのドックケーブルの自作教室である。
前回同様e☆イヤホン主催によるユーザー参加型イベントで、オーディオみじんここと荒川敬氏を講師に招いてのオヤイデ電気全面協力で行なわれた。大阪で開催され好評を得たイベントを東京で実現させたもので、会場は予約ですっかり埋められていた。「これほどケーブル自作派がいるのか」と思うも、よく考えればケーブル自作派が講習会に出席するはずもなく、ここに結集したのは「自作ケーブルに興味があるものの、まだ実践には至っていない」という予備軍なわけで、逆にこれだけ多くの潜在層が水面下にいるところに、やはり裾野の広がりを感じさせられる。もちろん若い女性の姿もちらほらと確認できる。
イベントは1時間半にわたって行われ、ケーブルの編み込み、皮むき、はんだ付けに組み込みというシンプルな流れで、全員が無事iPod Dock to ステレオミニケーブルを自作することができたようだ。ただし、やはりそこには、荒川氏はじめサポートに尽力する3名のオヤイデ電気のスタッフ、e☆イヤホン西氏のサポートと、至れり尽くせりのセットアップが肝となっていた。
「やることは簡単」だったが、実はそれは「簡単にやれるようにお膳立てされていたから」だ。用意されていたのは、部材となるケーブル、ステレオミニプラグ、ジャックコネクタのキャップ、iPodドックキットはもちろんのこと、バイス(万力)、ラジオペンチ、はさみ、ハンダコテ、銀ハンダ、接着剤から、ハンダゴテをきれいに掃除するチップリフレッサーまでが準備されていた。接着剤が乾くまでに固定する為にあると便利な輪ゴムまで用意する気のまわり様で、実践を重ねてきたからこその必要にして十分なノウハウを、惜しむことなくそっくりそのまま伝授しようという、ありがたすぎる講習会でもあった。
いわゆる一般の家庭では、今どきはハンダゴテもないだろうし、ましてバイスなどあるはずもなし。しかしながら、きれいなケーブルの編み込みを行うには、一方をしっかりと固定したほうが作業も圧倒的に楽で仕上がりもきれいだ。ハンダ付けをするにしても一番頼りになるのはバイスなのだが、一本のドックケーブルを作るためだけにバイスを購入するのも気が引けるであろうことを思うと、セッティング完備のこの講習会の貴重さとありがたさが身に染みる。ハンダゴテもガス式が用意されており、わずらわしいコンセントケーブルがないだけで、操作性が格段に向上することも体感できた。もちろんガスボンベもふんだんに予備されており、不安要素は何もない。
難易度の高いiPodドックキット内の煩雑な下準備作業(いくつかの細かなハンダ付けと抵抗の取り付け)を、あらかじめ荒川氏が済ませておいてくれていたことも、製作工程がスムーズに進んだポイントのひとつだが、部材費込み参加費2000円で手に入るものは、完成したドックケーブルだけじゃない。予備ハンダのテクニックや、作業手順、「端子を少し手前に曲げるんです」といったさりげなくもはかどらせるためのちょっとしたコツなど、有形無形の実践アドバイスこそが、何よりもありがたい土産だった。
一通りの作業が終わり全員が無事にドックケーブルを完成させた後、この日は最後にうれしいサプライズもあった。オヤイデ電気から登場したSHURE SEシリーズ用の交換ケーブル「HPC-SE」がちょうど当日に発売を迎えたことを記念し、「HPC-SE」を1名様にプレゼントというじゃんけん大会だ。じゃんけん勝負のお相手はe☆イヤホン西氏だが、あろうことか勝ち残った最後の3人が、全員一発で西氏に負けるというオチに。うっかりe☆イヤホンさんがお持ち帰り…となるわけもなく、3人の再じゃんけんにより見事勝ち抜いた男性に「HPC-SE」がその場で受け渡された。当選された方はSHURE SEシリーズを持っていないというこれまた笑える状況だったが、帰りにe☆イヤホンに寄ってSHUREを買えば、皆ハッピーということで、イベントは大きな拍手で幕を閉じた。
できあがったドックケーブルを見ると、初めての自作としては上出来!と思いたいところだが、あそこで手を緩めなければもっと綺麗に三つ編みできた…とか、ジャック側のハンダがLRとも少なすぎたかもしれん…と、心残りと共に次作への欲求がむくむくもたげてくる。しかも手持ちのアンプを替えるとジャックの位置の関係上、微妙に長すぎたり短すぎたりで、それぞれにぴったりフィットするケーブルが必要じゃないかと思えてきた。昨日まではそんなこと全然思わなかったのに。やっぱり、そこには工作の楽しみもあって、もうなんだか目的もどうでもいいから、とにかくもう一回作りたい衝動が収まらない。はやく三つ編みしたい。とりあえず、万力買うか。
text by BARKS編集長 烏丸
<AUDIO MIJINKOドックケーブル自作講習会in AKIBA>
2012年6月30日(土)
講師:オーディオみじんここと荒川敬氏
参加費:部材費込み2000円
主催:e☆イヤホン
部材:iPodドックキット、ジュンフロン(FEP)被覆銀メッキ12/0.18(0.3sq)撚線(ブラック、シルバー、ブルー、レッド、イエロー、グリーンから3本選択)、オヤイデ電気ステレオミニプラグP-3.5GL、TICキャップ、ハンダ
◆オヤイデ電気オフィシャルサイト
◆オヤイデ電気のオーディオみじんこブログ
◆オヤイデ電気HPC-SE(SHURE用交換ケーブル)
◆e☆イヤホンオンラインストア
◆e☆イヤホン・ブログ
◆BARKSヘッドホンチャンネル
▲つなげてみた。左はiPodクラシック&Fiio E6、右はiPhone&Fiio E17。ポタぴたシートストロングで密着しているため、束ねるバンドも不要で、使い心地、サウンドともに大満足。
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