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美しい秋の夕べ、同時多発テロに見舞われた街のMadison Square Gardenに入る。なんだか、スリル満点。ニューヨークの宝クジじゃないが、「よお、次はアンタかも」ってね。なにしろここは未だに瓦礫がくすぶり、妙な匂いが鼻をつく。誰しもに何らかの辛い話があるという街。アリーナロックはU2のお得意、政治的見解もBonoのお得意とくれば、今夜はテロについて一席ぶつぞ、と観客が期待するのも当然だ。
ところがショウのオープニングアクトは、シリアスとは程遠いGarbage。出来の良いアルバム『beautifulgarbage』の曲など、新旧織り混ぜてプレイする。サウンドはテクノでも、ニューアルバムにみられるPhil Spector風でもない。タフで荒々しい、ほとんどパンク。Steve MarkerとDuke Erickson、それにイカレたButch Vigの3人が、ラウドでざらついたリズムを素早く叩き出すと、ヴォーカリストのShirley Mansonが、欲情を抑えられないブロードウェイの歌姫みたいにステージ狭しと徘徊する。プラチナブロンドを丸坊主に刈り上げ、白いTシャツにブラックジーンズ、ピエロのようなサスペンダーというすごくキッチュなスタイル。男とも女とも見える中性的な雰囲気だ。ただ、ヴォーカルだけは豊かでパワフル。意外にも1曲目は、1stシングル“Garbage”ではなく“Paranoid”。続いてぐっとメロウな“Drive You Home”に過激な“Stupid Girl”、レコードそのままの“Till The Day I Die”、そしてRamones風でぞっとするような“Happy When It Rains”と“Cherry Lips”。最後にShirleyはU2に礼を述べ、特にドラマーのLarry Mullen Jr.には「わざわざ声をかけてくれてありがとう」と言った。
さて、U2は自分たちの音楽をBGMにしてGardenのステージに登場した。ゆっくり堂々と歩いてくるさまはロック界の全能の神だ。大きなハート形のステージ上には、200人ほどのファンの特別席が設けられている。Bonoはすぐさま狂信的な観客に声をかける。 「やっぱり見逃せないだろう?」
Bonoは胸元に赤い星をあしらったブラックレザーのコートをはおり、EdgeはヤンキースのTシャツ。バンドのプレイが始まった。
“Beautiful Day”で「ソウルはあるか? ゴールこそソウル。ニューヨーク・シティはソウル・シティだ」と煽るBono。U2はメロドラマチックどころか、過剰演技でさえある。“End Of The World”でハート形のステージの周りをゆっくりと歩きながら歌うBonoは、まるで田舎サーカスの呼び込み屋だ。ニューシングルも披露されたが、“Big ideas/Out of control”という歌詞にしても、ブーガルー・ビートにしても、まるでPoliceのよう。
「ドラムス、Debbie Harry……」などとメンバー紹介をしながら、BonoはU2のこれまでの活動をかいつまんで話した。それが終わるとMullenの強力なビートが“Sunday Bloody Sunday”を叩き出し、Gardenがはじけた。今度はファンが差し出したアメリカ国旗をそっと抱きしめて佇むBono。テロについて何も口にはしなかったが、U2の歌詞は彼らの心情を充分に表していた。
コンサートのハイライトは、「ニューヨークのルース」という観客がステージに上がり、“Knocking On Heaven’s Door”をギターで弾き始めた時のこと。サクラっぽく見えたが、そうではなかった。“この戦争にはうんざり/ニューヨークは最高の町/天国の扉をノックしている気分”と替え歌で歌った彼女に、Bonoでさえびっくり。ぎゅっと抱きしめてもらってから、彼女はステージを降りた。続いてU2は“Staring At The Sun”“Where The Streets Have No Name”“Surrender”と立て続けにプレイ。“Still Haven’t Found What I’m Looking For”では巨大なビデオスクリーンを持ち出し、マーティン・ルーサー・キング牧師の演説「約束の地」の一部を流した。これはちょっとヘン。
アンコール1曲目はHendrix風の“Bullet The Blue Sky”。そして“What’s Goin’ On”と“One”。Bonoはこう言って締めくくった。「ニューヨークってとこは、強盗もロックスターも誇大妄想狂もピーナツ売りも、みんなが折り合いをつけて暮らしてる街なんだ」
最後にまたビデオスクリーンが出てきて、「世界に平和を」とメッセージがあり、世界貿易センタービルの犠牲者の名前がゆっくりと流れていった。名前は観客の上にも映写され、生存者と死者が一体化する。“Walk on、それでも歩き続けよう”と歌うBono。目が潤んでいない者は誰一人としていない。「Madison Square Gardenの聖なる心よ」と呼びかけたように、Bonoは今夜、U2という教会を提供したのだった。
By Ken Micallef/LAUNCH.com |