7月30日(水)、The Rolling Stonesを初めとするスターバンドのコンサートが、カナダのトロントで開かれた。50万人の観衆を集めたこのイベントは、ウッドストックならぬ“SARSストック”と呼ばれたほど。コンサートは空軍基地跡地のダウンズヴュー・パークで11時間に渡って行なわれ、Stonesは90分のステージを務めた。出演バンドはAC/DC、Rush、Guess Who、Isley Brothersほか。 コンサートの正式名は<Molson Canadian Rocks>で、トロントの政治家がSARSに苦しむ同市を救済するために企画したもの。42人の死者を出したトロント市は、観光産業の収益が20億ドルも減少した。Mick Jaggerはロングヘアにレッドパープルのコートを身につけ、ほかのアーティストたちと共にトロントに乗り込んだ。彼は観衆にこう語っている。 「トロントに来た。再び来たんだ。トロントは復活する。ブームを呼ぶんだ!」。 この言葉を合図にStonesのステージがスタート。ワールドツアー・ヨーロッパ公演の休暇中に組まれたこのコンサートのために、ヒット曲をふんだんに披露した。過去3回のワールドツアーのリハーサルをトロントで行なった彼らは、オープニング・ナンバーに「Start Me Up」を添え、「Brown Sugar」「You Got Me Rockin'」「Don't Stop」「Tumbling Dice」「Ruby Tuesday」「You Can't Always Get What You Want」「Honky Tonk Women」と次々と名曲を繰り出した。また、Keith Richards(G)が「Nearness Of You」と「Happy」の2曲でヴォーカルをとり、バンドは最後に「Sympathy For The Devil」「(I Can't Get No) Satisfaction」「Jumping Jack Flash」を演奏、花火を打ち上げてセットを終了した。 また、当日の夕方早くにパフォーマンスを終えた*NSYNCのJustin Timberlakeが、Stonesと共に「Miss You」を演奏。曲の途中、彼自身のヒット「Cry Me A River」の一部を交える場面も見られた。 このTimberlakeに対して観客がブーイングし、ボトルを投げつける行為があったが、それを見たRichardsは、ステージ中央に歩み寄って怒った顔つきで観客を睨んだ。また、AC/DCのギタリスト、AngusとMalcolm YoungがStonesのセットに参加、B.B. Kingの「Rock Me Baby」を演奏した。 Jaggerはライヴ前の楽屋で「今までで一番観客が多いと思う」と報道陣に語った。'77年に麻薬によってトロントで逮捕され、服役したKeith Richardsは、バンドがこのライヴを決めたのは「トロントを愛してるからだ」と話している。 7月29日(火)のリハーサル終了後、Stonesはトロントのツアー・プロモーター、Michael Cohlと共に、市長のMel Lastmanのプレイベート・セレモニーで、トロント市の鍵を贈呈された。鍵にはトロントを支援してくれた感謝の言葉が刻まれていた。一方、ステージには巨大なトロントの旗が飾られ、中央の“O”の文字からStonesのトレードマークである舌のロゴが突き出て描かれていた。 AC/DCのセットは70分で、これもまたヒット曲に満ちていた。「Hell Isn't A Bad Place To Be」からスタートし、「Back In Black」「Dirty Deeds (Done Dirt Cheap)」「Thunderstruck」「Hell's Bells」「T.N.T.」「You Shook Me All Night Long」「Whole Lotta Rosie」「Let There Be Rock」「Highway To Hell」といったナンバーを披露。Brian Johnson(Vo)はライヴに招かれて感謝していると観衆に語った。 「この機会を絶対に逃すわけにはいかなかった」と彼は言う。また「The Jack」の演奏中、Angus Young(G)が主催者側に敬意を表し、ストリップショウを披露、ボクサーパンツ1枚になった。そこにはカナダの国家シンボルであるカエデの葉が描かれていた。その後、彼は会場に向かって尻を出してムーニング。 地元トロント出身のRushは「Tom Sawyer」「Limelight」「Freewill」「Closer To The Heart」「Spirit Of Radio」をフィーチャーした40分のステージを展開。ファンを喜ばせた。フロントマンのGeddy Leeはステージに上がる前に、トロントへの旅行は危険という報道は“でっち上げ”とレポーターたちに語った。 「このコンサートがもとになって、トロント市はすばらしい場所との認識が高まればと思う。怖ろしい病気にかかるからトロントには行かないなんて思わないでほしい」 同じくトロント出身のGuess Whoはショート・ステージを披露。「Hand Me Down World」「No Sugar Tonight/New Mother Nature」「American Woman」「No Time」といったヒットをプレイし、Randy Bachman(G)のBachman-Turner Overdriveとの曲「Takin' Care Of Business」をパフォーマンスした。 R&Bのベテラン、Isley Brothersは午後の部を担当。オープニング・ナンバーとなったSly And The Family Stoneのファンクな名曲「I Want To Take You Higher」をはじめ、グループの曲「It's Your Thing」にジャマイカのラッパー、Sean Paulの「Get Busy」をブレンドしたりと、アフタヌーンのステージを沸き立たせた。Ernie Isleyは「That Lady」のギターソロで観衆を震撼させ、グループはパーティー・ミュージックの「Shout」でセットを閉じた。 当日はまた、オタワ出身のDan Aykroydが華麗なMCを披露。Aykroydと相棒のコメディアン、Jim Belushiが結成したHave Love Will Travel Revueは2セットをパフォーマンスし、出演バンドの合間に観衆を楽しませた。Aykroydは観衆にこう語っている。「僕は祖国を愛してる。国旗を愛してる。合衆国の兄弟姉妹も愛してる……。世界の人々にカナダを訪れてもらいたいんだ」。また、Aykroydのステージには映画監督のNorman Jewisonと女優のCatherine O'Haraの姿も見られた。 1日のコンサート費用はおよそ600万ドルで、このうち350万ドルがカナダ政府から提供され、200万ドルがオンタリオ州、そして残りが企業スポンサーから出資された。出演者にはギャラが支払われたが、詳細は発表されていない。 コンサートの模様はペルシャ湾とヨーロッパに駐留しているカナダ軍にウェブ放送され、衛星を通して生中継されたが、複雑な結果となった。この同時中継で技術的なトラブルが発生し、湾岸に停泊しているカナダ海軍のフリゲート艦、HMCS Frederictonでは、海兵隊員たちが戦艦のラウドスピーカーでStonesのアルバム『Forty Licks』をかけてその場を埋め合わせなければならなかった。一方でボスニア・ヘルツェゴヴィナ北西部に駐留する750の部隊では、問題なく放送されたものの、時差の関係で生中継でなく録画を見るものが多かった。 ライヴの主催者は、世界保険機構から感染地域の解除を受けた今、このコンサートでトロントの観光が復興することを願っている。市の政治家たちによれば、イベントはおよそ5,200万ドルの経済効果をもたらしたという。だが、トロントには未だに10件のSARS感染ケースが残ったままだ。 会場となったダウンズヴュー・パークには9つのビデオスクリーンと36のサウンドタワーが設置され、巨大なフィールドの奥にいる観客までステージの様子が届くようになっていた。また、売店が500件、仮設トイレが3,500個設けられ、1,300人の警察と警備員が場内を巡回して警備にあたった。政治家たちはQuarter Mile Barbecueと名付けられたフードスタンドで働き、コンサートに来た観客にチキン料理を振る舞った。 記念Tシャツやポスターなど、公式グッズも数多くあったが、会場の外では海賊版の販売も横行していた。公式Tシャツの中には、ウッドストックに似せて「SARSstock: One day, 14 bands(sic),one disease(SARSストック:1日14バンド、病気がひとつ)」と書かれたものがあった。また、海賊シャツにはロラパルーザをもじってSARSapalooza(SARSパルーザ)というものもあった。 (C)LAUNCH.com |