ミシェル・ブランチ、ノラ・ジョーンズ、ヴァネッサ・カールトン……。ここのところ、才能に溢れた早熟な女性アーティストが次々と台頭してくるアメリカの音楽シーンだが、その決定打はどうやらこのコで決まり! 彼女の名前はアヴリル・ラヴィーン。
この身長わずか152センチで17歳の金髪の美少女、とにかくシーンに登場するやいなや、のっけからその活躍がケタ違いなのだ。'02年6月にデビュー・アルバム『レット・ゴー』は発売と同時に全米初登場8位という、プロモーション期間の少ない新人としては破格のデビューを飾る。以後も売り上げは一向に落ちる気配はなく、発売1カ月後の現在もネリー、レッチリ、エミネムという強豪たちに混じって全米アルバム・チャートの第4位、そしてデビュー曲の「コンプリケイテッド」も全米3位と、これまでの歴史における女性ロックシンガーのデビュー記録を塗り替える(あのアラニス・モリセットをも大きく上回っている!)破竹の勢いだ。この動きは、世間が今はまだ彼女のことに気づきはじめたに過ぎない状態であることを考えると、まだまだ続いていくものと思われる。今年後半、何やら早くも“アヴリル・シンドローム”が起きそうな気配が濃厚に漂っているが、有能な若手女性アーティストは数多くあれど、なぜアヴリルだけがそれほどまでにセンセーショナルな話題を持ち得ているのだろうか。
「ハリウッド映画のヒロインばりの美人だから」「自分で曲を書いて歌い、しかもその楽曲の水準も高いから」「彼女がネリー・ファータドやSUM41、ニッケルバックなどを輩出する絶好調カナダの出身だから」。こうした意見ももちろん正しくはある。しかし、その最大の理由、それはアヴリルがブリトニー・スピアーズにとって替わる新たなる時代のヒロインとして機能しているからに他ならない。
アイドルに夢中になる世代と言えば、ローティーンから10代以下の小さな女のコたちである。しかし、そういう女のコたちだって、いつまでも乙女チックにお人形ちゃんのようなアイドルにばかり夢中になっているわけではない。年をとるにつれて、その感覚はより現実的になり、浮き世離れしたかわいいだけの存在が逆に疎ましくなってくるはずだ。まあ、それがまさに“思春期”にほかならないのだが、そうした生意気盛りの女のコにとっては、今度は逆に、男社会と実際に交わり、その中で自分の意見をハッキリ言うような勇ましい女のコに“共感”を抱くものだ。となるとアヴリルほど、そこにスッポリとハマる存在はいないのである。
ビデオクリップの中では、パンクやヒップホップ・ファッションに身を包んだ男のコたちに混じってスケーター姿を披露し、インタビューではブリトニーのことを「あんな露出の多い服を着て、あれで自分のことをヴァージンって言うなんて恥ずかしいわ」と一蹴。加えてダンス・ポップよりも本格的なロックを選び、“男の楽器”と見なされがちなエレキギターを、スレンダーな身体で弾きながら歌う……。アヴリルは、そんな“ブリトニーから卒業したい症候群”のコたちの「こうなりたい!」という理想を図らずも体現してしまっていたのであった。それに加えて、これまでブリトニーに対してアンチだったキッズの共感をも、同時に獲得していることは言うまでもない。これまで「アイドルなんてクソ!」なんて言ってたパンクスのお兄ちゃんたちも、タンクトップやブカブカのヒップホップ・パンツが実に良く似合うアヴリルを見て「こんなコを彼女にしたい!」とたちまちヴァーチャルな恋人としてアヴリルを愛することになるだろう。
“ポスト・アイドル時代のキュートなロック・ディーヴァ”。時代が図らずも望んだこのシンデレラ・ガールの今後の動きから目が離せない。
文●沢田太陽