【コラム】スカート、CDデビュー15周年で魅せるオリジナルアルバム『スペシャル』全曲解説

大きな体いっぱいに、永遠のポップスへの憧れを詰め込んで。オリジナリティのカタマリのような優れたソングライターでマルチインストゥルメンタリスト、澤部渡によるソロプロジェクト・スカートが今年でCDデビュー15周年を迎えた。
2010年に自ら設立したカチュカサウンズからリリースした初の全国流通音源『エス・オー・エス』をスタート地点に、2017年にはメジャーデビューを果たし、IRORI Recordsに所属して現在に至る。通算10枚目、メジャー5枚目、およそ2年半ぶりに届いたオリジナルアルバム『スペシャル』は、アニバーサリーを寿ぐファンへの特別な贈り物だ。早速中身を確かめよう。
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オープニングに登場するのは「ぼくは変わってしまった」。ガツン!とダイナミックなバンドサウンドで、ワルツのリズムだと思うがメンバーがそれぞれ違った音符の刻み方をして、ポリリズムのように聴こえるのが面白い。エコー感の薄い、かといってエフェクトをかけすぎない、裸の音がとても素敵。澤部が弾くソリッドなエレクトリックギターを筆頭に、ピアノもパーカッションも細部の輪郭までくっきり聴こえる。新しい僕を祝うために歌ってくれよ。歌詞は、15周年のアニバーサリーを自ら祝うかのようだ。
全11曲で31分だから、どんどん曲が出てくる。「緑と名付けて」は軽快なシャッフルビート、陽性のコード、ぶっといベースと踊るようなドラムスティックの弾み方がいい感じ。ノッてきたと思ったらわずか1分50秒で終わる、音のスナップショットのような愛らしい曲。少し視点をズラしてみよう。必要なものは多くないんだ。心の中の断捨離と発想の転換を推奨するような、歌詞のアプローチも面白い。
ドラムの4カウントから始まる「火をともせ」(すき家 牛すき鍋定食『冬の算数』篇 TVCMソング)は、どことなく60年代のマージービート、初期ビートルズっぽさを感じるドラムフレーズ満載で楽しく聴かせる。ギターがとても饒舌で、もう一つの声のようによく歌ってる。歌詞はけっこう切なくて、君がいない街に一人たたずみ、もう一度心に火をともせと自分を励ます言葉がじんわり沁みる。申し遅れたが、アルバム全曲の演奏はスカートのレギュラーメンバー、佐久間裕太(Dr)、岩崎なおみ(B)、佐藤優介(Pf)、シマダボーイ(Perc)、そして澤部の歌とギターによるもの。あうんの呼吸、一体感が素晴らしい。
ここで少し音色が変わった。「遠くへ行きたい」はいわゆるシティポップの匂いがする、軽やかにスウィングするビート、ワウを使ったファンキーなギターリフ、エレクトリックピアノのふんわりした響きがいかにも都会的。間奏とアウトロの気合の入ったリードギターも、繊細に重ねたコーラスもかっこいい。コーラスとコーラスアレンジで参加した重住ひろこ(Smooth Ace)のグッジョブが光る。散文のような歌詞は、ぼんやりとした不安と未来への憧れが相半ばして、後味はちょっぴりセンチメンタルかも。
前曲のセンチメンタルを引き継いで、さらりと聴かせるのが「ミント」。フォークロック風に単音で刻むギターフレーズがとてもジェントルで、間奏のリードギターかと思ったらアウトロだったという、1分36秒であっという間に終わるのがかえって後味を深くする。古い写真を見ながら寂しさと愛しさに身を任せる、一幅の水彩画のような淡い感情の色彩が映える曲。
「トゥー・ドゥリフターズ」はアコースティックギターとパーカッションの静かな導入部から、後半はバンドが一丸となってサイケデリックロック風に壮大に展開する、アレンジの妙が楽しめる曲だ。むきだしのバンドサウンドが文句なくかっこよく、メジャーとマイナーの間を漂うコード展開も妖しく魅力的。ラスト近くになって不意に現れる重住ひろこ(Smooth Ace)のコーラスも魔術的。「漂う二人」というタイトル通り、オールのないボートに乗った二人のすれ違う心を描く歌詞も秀逸。舞台は不穏な伝説のある井の頭公園かもしれない。違うか。
2023年9月にシングルリリースされた「期待と予感」だが、時間は経ってもアルバムの中にしっくり納まっている。シティポップを感じるファンキーでリズミックな曲で、力強いギターのカッティング、ジェントルなエレクトリックピアノ、シャキシャキと速足で進むドラム、すべてが軽快なのに骨太。間奏の短いリードギターもピリリと効いてる。スカートの曲はA、B、サビのどこがメインというわけでもなく、メロディが次々と溢れ出すようにゆったりと変わっていくのがポイントで、この曲もそう。澤部には珍しく、前向きな希望のイメージに満ちた歌詞がとても新鮮だ。
「四月怪談」はダンサブルなループ感覚のあるリズムを取り込み、アルバムの中で唯一無二の存在感を主張している。ドラムとパーカッションが刻む正確なビートが心地よく、歌のバックに徹するピアノ、重住ひろこ(Smooth Ace)の控えめなコーラスを始め、誰も変なことをしていないのになぜか不穏なムードが漂うのは、物悲しいメロディと、幽霊でもいいから僕の心を安らげてほしいと歌う歌詞のせいかもしれない。シタールっぽいエフェクトをかけたリードギターも妙に耳に残る、ちょっぴり怖い歌だ。
再び楽曲のムードががらりと変わり、2024年4月にシングルリリースされた「君はきっとずっと知らない」(松居大悟監督映画『不死身ラヴァーズ』主題歌)が始まると、アルバムも後半に入ったという気がする。頭打ちの元気のいいビート、柔らかい音色のエレクトリックピアノ、歪みを効かせた軽快なギターソロ。ポップでキャッチーな中に陰りと切なさを帯びたメロディは澤部の独壇場で、もう心の届かない場所にいる人を思う歌詞はあまりに切ない。名曲だ。
アルバムの中で唯一、弦楽四重奏を迎えたのが「ひとつ欠けただけ」。もしかして同時録音?と思うほど、バンドの後ろで弾く姿が目に浮かぶような、音の定置がとてもリアル。バラードと呼ぶにはリズミックだが、切なく愛おしいミドルチューンで、重住ひろこ(Smooth Ace)のアレンジしたコーラスを歌う畳野彩加(Homecomings)のたおやかな存在感もとても貴重。言葉にならない感情をポツリと呟くような、エレクトリックギターのエンディングに万感の思いがこもる。
アルバムのラストを飾るタイトルチューン「スペシャル」は、1曲目「ぼくは変わってしまった」と同じくガツン!とダイナミックなバンドサウンド。アップテンポで元気よくぶっとばし、ギターソロも痛快無比。コーラスアレンジは重住ひろこ(Smooth Ace)、そして歌うは柴田聡子。最初のサビから大活躍で、デュエットと言ってもいい存在感が圧巻だ。「性急なビートに情けない歌詞」と澤部自身はこの曲について語っているが、どんなに情けなくたって最後に「またね、元気でいこう」と歌われれば、すべてはオーライ。
タイアップ曲満載でサウンド的にも色彩豊かだった前作『SONGS』と比べると、バンドの一体感が際立つダイレクトでソリッドなアレンジと、臨場感あふれる音作り。良い意味で15年選手のベテラン感を感じさせない『スペシャル』は、スカートの新たなスタート地点と言ってもいい。ファンにはおなじみ、久野遥子のイラストによる美麗ジャケットもとても素敵。6月にはリリースツアーもある。あたたかい祝福ムードに包まれて、スカートの15周年を楽しもう。
文◎宮本英夫

メジャー5thアルバム『スペシャル』
2025年5月14日(水)リリース
購入:https://lnk.to/0514_CD
配信リンク:https://lnk.to/AL_special
CDデビュー15周年特設サイト:https://skirt15th.ponycanyon.co.jp
【CD+Blu-ray】PCCA-06380 / 税込4,950円
【CD Only】 PCCA-06381 / 税込3,300円
・CD収録曲
1.ぼくは変わってしまった
2.緑と名付けて
3.火をともせ
4.遠くへ行きたい
5.ミント
6.トゥー・ドゥリフターズ
7.期待と予感
8.四月怪談
9.君はきっとずっと知らない
10.ひとつ欠けただけ
11.スペシャル
・Blu-ray収録内容
「スカート Presents 炎のフリーライヴ2024」
2024年9月13日 代官山UNIT で開催されたライブ映像を収録
1. 波のない夏
2. さよなら!さよなら!
3. 君はきっとずっと知らない
4. 静かな夜がいい
5. いい夜
6. 1000 Lovesongs I Don’t Like
7. 期待と予感 (feat. 井上花月)
8. 君に会いに行こう (feat. 井上花月)
9. 粗悪な月あかり
10. 十月(いちおう捨てるけどとっておく)
11. Aを弾け
12. ストーリー
13. ODDTAXI (feat. PUNPEE)
14. ブランクスペース
【先着購入特典】
・優勝記念タオル
全国のCDショップにてスカート『スペシャル』をご予約・ご購入のお客様に、先着で上記オリジナル特典をプレゼント

【ショップ別先着購入特典】
スカート『スペシャル』を下記対象店舗でご予約購入いただくと、先着で下記ショップ別先着購入特典をプレゼント
Amazon.co.jp:メガジャケ
『Extended Vol.1』LPレコード
2025年6月4日(水)発売
PCJA-00182/12inch LP/3,850円(税込)
予約/購入:https://lnk.to/0604_LP
[収録曲]
Side – A
01. 地下鉄の揺れるリズムで feat. 村上基 (在日ファンク)
02. 波のない夏 feat. adieu
03. ブランクスペース feat. SPECIAL OTHERS
04. 君に会いに行こう feat. 井上花月 (Laura day romance)
Side – B
01.ストーリー – Remix Version feat. パソコン音楽クラブ
<スカート ライヴツアー2025“スペシャル”>
2025年6月6日(金)京都・磔磔
OPEN 18:00 START 19:00
2025年6月7日(土)愛知・TOKUZO
OPEN 17:00 START 18:00
2025年6月28日(土)東京・キネマ倶楽部
OPEN 17:00 START 18:00
TICKET
一般 4,500円 +1D
学割 3,000円 +1D
チケット受付リンク
https://eplus.jp/skirt2025/