『AMNESIAC』 東芝EMI TOCP-65800 2,548(tax in) 2001年5月30日発売 1 Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box 2 Pyramid Song 3 Pulk/Pull Revolving Doors 4 You And Whose Army? 5 I Might Be Wrong 6 Knives Out 7 Amnesiac/Morning Bell 8 Dollars And Cents 9 Hunting Bears 10 Like Spinning Plates 11 Life In A Glass House 『PYRAMID SONG』 東芝EMI TOCP-61053 1,500(tax in) 2001年5月16日発売 1 Pyramid Song 2 Fast Track 3 The Amezing Sounds of Orgy 4 Trans-Atlantic Drawl 5 Kinetic 『KID A』 東芝EMI TOCP-65777 2,548(tax in) 2000年9月27日発売 1 Everything In It's Right Place 2 KID A 3 The National Anthem 4 How To Dissapear Completely 5 Treefingers 6 Optimistic 7 In Limbo 8 Idioteque 9 Morning Bell 10 Motion Picture Soundtrack | | Thom Yorkeは迷子の小さな子供みたいに、大きなレザーのアームチェアに座っていた。バギーのデニムを穿いた彼は12歳くらいの少年のように見える。Yorkeはオックスフォード郊外のディドコットパークウェイにあるRadiohead Centralでインタビューに答えてくれた。Greta Garbo(Radioheadのドキュメンタリー:Meeting People Is Easyを参照)以降、最も苦悩に満ちたポップスターは、Radiohead、夢、エレクトロニカ、世界経済の悪、グループのニューアルバム『Amnesiac』、さらに個人的な面は抜きにせよ、息子のNoahについてまで楽しそうに語っている。傑作『OK Computer』で何百万人に対して自身の心情をさらけ出したものの、続くエレクトロニカ宣言となった『Kid A』で慌ただしく正気へと後退してしまったYorkeは、自身のエゴにこだわり続ける方法を学んだのである。例えば『Amnesiac』からのファーストシングルである最も美しいトラック「Pyramid Song」は、死後の世界や神、悪魔、Alan Greenspanなどといったものに対するYorkeの信仰をほのめかしているのだろうか? 「いやいや、とんでもない。あれは自伝的な曲で、そんな意図はないよ。そういうことにはまったく関係ないんだ。つまり曲を作るときにはいつでも、ちょっとした呪文を唱えているということさ。だからそんな質問に答えると呪文が解けてしまうんだ」 「Pyramid Song」はRadioheadがこれまでに発表した中では最良の呪文であろう。この催眠的なシンフォニーは、ゆったりと展開するピアノのコード、Johnny Greenwoodのスコアによる渦巻くようなストリングス、さらに転がるようにジャジーなドラミングなどで構成されており、歌詞は“小さな手漕ぎボートで全員が天国へ行った”飛行機事故の生存者について語っている。"There were nothing to fear and nothing to doubt" や"all my past and futures" といった陰鬱な囁き声が、死後の世界から聴こえてくる癒しのマントラのように曲中ずっと響いているのだ。 「あの曲は1日ずっと奇妙なエジプトの絵画を見た後で書いたのさ」とYorkeは回想する。「エジプト人は死んだときに手漕ぎボートを使って天の川を渡っていくんだ。その物語をベースに自分が夢で見た経験が融合されて曲になったんだよ。“過去と未来のすべてが見える”みたいなことが本当に起こったのさ。自分の目の前ではないにせよ、それよりもずっと奇妙な経験だったね。この曲はエジプトの一件と、僕が読んでいた古代の星図とかピラミッドが建設された場所とかについての、まじめなんだけどばかばかしい本にかなりインスパイアされているんだ。“チベットの死者の書”も読んでたな、あれには圧倒されること請け合いだよ」 「Pyramid Song」のビデオも同じくらいシュールなもので、私たちのヒーローが海の底へと飛び込み、最後には2つの星に姿を変えて、たわむれあうUFOのように雲を抜け、空へ昇っていく姿が描かれている。星たちは天国へ旅する手漕ぎ舟を象徴しているのだろうか? 「そうかもしれないけど」Yorkeはおどおどした調子で答えた。「ビデオは何度も見なくちゃだめだよ。そうすればもっと違ったことも見えてくるはずさ。しばらくしてからブッ飛ぶことになるだろうね」 『Amnesiac』は革新的だった『Kid A』セッションの延長線上にあり、『The Bends』や“Creep, Part 2”を求めるファンを失望させるかもしれない。だが、『Amnesiac』はギタリストのJohnny GreenwoodとEd O'Brienのファンの望みを少しはかなえており、美しいメロディと圧倒的な電子音に溢れたアルバムに仕上がっている。『Kid A』と同時期に録音されているのだが、どこかソフトでずっと取っ付きやすい。「Packt Like Sardines In A Crushed Tin Box」と「Pull/Pulk Revolving Doors」における虫のような騒音は、熱に溶けるアンドロイドのような形で酔わせてくれるが、じっと我慢して熱心に聴いていればやがて報われる。「Knives Out」はSmithsを思い出させ、「You And Whose Army」では囁き声によるチャレンジと「Hey Jude」スタイルのクレッシェンドによってぼんやりとした美を醸し出している。不気味な「Dollars And Cents」はWTOとIMFを口汚く批判するナンバーだ。 『Kid A』収録曲をリメイクした「Morning Bell」はJohn Lennonの「Across The Universe」のようにデリケートで魂を解放してくれる。『Amnesiac』はおせっかいなジャーナリストについての辛辣な歌詞を持ち、ちょっとニューオーリンズジャズ風にスウィングする「Life In A Glasshouse」で幕を閉じる。 Radioheadは現在スタジオに戻って大音量ギター賛歌タイプの曲を作っているという噂もあるが、『Amnesiac』はバンドが悪戦苦闘し、分裂しかけていた2年前の時期をカヴァーする作品である。 「この作品の大半は実際に音楽を作るプロセスよりもむしろ、過去数年間にわたる語られなかった不幸で構成されているんだ」。ベーシストのColin Greenwoodのリラックスした性質は、Yorkeの内向的なパーソナリティとは好対照だ。 「プロットさえ用意していなかったよ。自分たちが作ってきた作品の大多数を否定するつもりはないけど、Thomの感情面での性質には'93年に作った1曲にすべての思いを込めてしまったみたいなところがあってね。現在の彼はまったく違う人物だよ。それからテクノロジーに対する怖れがずいぶんとあったな。僕は1年かけてコンピュータの仕組みを学んだけど、“僕たちはギターバンドだし、どうしたらいいんだろう?”って考えてしまったのさ。でも僕らが気に入っているレコードの多くは、Kraftwerk、Neu!、Canみたいに浮遊感のあるインストルメンタルで意識の流れに訴えるタイプの音楽なんだ。それに僕らの音楽には常にダンスの要素が存在した。狡猾なバンドがよく言うセリフだけどね」 『Kid A』と『Amnesiac』でRadioheadは自身の偶像を破壊し、通常の音楽制作プロセスの替わりに、サンプラーとコンピュータを用いたスタジオでの実験に飽きるほどの時間を費やした。さらにAlice ColtraneとCharles Mingusの音楽からも大きな影響を受けている。Yorkeが方向を導き、Colinがぴったりとしたがった。残りのメンバーはあまりコンピュータに親しんでいなかったが、『OK Computer』ツアーでの行き詰まりの悪夢の後では他に道はないとYorkeは考えたのである。 「ずいぶんと思索する必要があったよ」とYorke。「Meeting People Is Easy(Radioheadのドキュメンタリー)の最後のころの僕らのように、長い間ずっと車に乗り続けているとダメージが大きいのさ。自信を失って、“頑張れ、僕らはこんなところにいるはずじゃない。こんなのおかしい”みたいに考えてしまう。ちょっと愚かしいことだけど“ひどい時代遅れになっているだけじゃなく、ちっともうまくいっていない。僕らは良い作品を書いていないし、すこしもエキサイティングじゃない”なんてことになる。それで正しかったと思えるところまで戻ってみる必要があったのさ」 「Thomが、自分には感情面での支えがあると感じているのはいいことだよ」とColin。「彼の傷つきやすい性格についてどう言おうと勝手だけど、彼のようなハードワークをこなしたうえに、毎晩1万人もの聴衆の前で演奏して、自分の感情を率直にさらけ出してごらんよ。彼は肉体的には強靱な人間だけど、感情面ではとっても繊細なんだ。みんなは彼がもろくて沈み込んでいると思っているけど、心底からそう考えている人はいないね。18カ月のツアーで世界中を回れば、どんな気分になるかわかるだろう」 このところYorkeの気分はかなりすぐれているようだ。長い答えを返せるようになったし、謎めいた話し方も覚えた。それに予定の時間がいつ終わるのかも正確に認識している。だが、彼はずっと落ち着いて、幸福で、より生産的になったようである。バンドのヴァイブレーションも良く、Radioheadの次作ではギターロックも望めそうなら、1、2曲のラヴソングが生まれるのもそう遠い将来のことではないのだろうか? 「そうだね、たぶん。うーん、どうだろう」。Yorkeは人生、愛、そして初めてのKid Aについて思索する。「いずれは作ると思うよ。僕がラヴソングを書くとしても、いわゆる“ラヴソング”にはならないだろうけどね。それと僕が何かについて大声で言い続けるとしても、そうした歌は必ずしも自伝的なものではないだろう。かつてはそうだったかもしれないけど、今後はそうはならないよ。だって生まれたばかりの息子もいるしね。とっても楽しいことだよ、僕と彼ににとってはね。それがすべてさ」 では、子供ができてYorkeの人生は変わったのだろうか? 「もちろん、そうだよ。彼はやがて宇宙を救うために生まれてきたんだ。今は木のおもちゃで訓練しているところだけどね」 By Antonio Walker/LAUNCH.com | |