ちょっとだけ外側にいるんだよね。…でも、そこが居心地良いんだ。
ちょっとだけ外側にいるんだよね。 …でも、そこが居心地良いんだ |
「小さい頃からジャズのファンだったから、他の人の歌を歌うことに抵抗はなかったね。僕が聴いていたジャズのヒーローはソングライターだったわけじゃない。題材を解釈して歌うだけなんだ。実際、いちばんビッグなふたりの歌手SinatraとElvisは歌を書いたことはない。解釈して歌っていただけだ」 Bryan Ferryはこう語る。ロックンロールの歴史の中で最も気品が高く雄弁なアイドルだ。うっとりするようなロマンス・バラード「More Than This」や「Slave To Love」のゴージャスなボーカルは際立っている。Ferryのディスコグラフィには、いつも普通より多くのカバーソングが含まれている。 彼が前にいたバンド、伝説のアートロック・グループRoxy Musicでは、Wilson Pickettの「Midnight Hour」やJohn Lennonの「Jealous Guy」をやって注目を集め、'73年のソロデビュー以来の活動でも他のアーティストの作品が目立っている。ソロデビュー・アルバム『These Foolish Things』は、全曲がカバーで、自身のラジカルな解釈によるBob Dylanの「A Hard Rain's A-Gonna Fall」、Stonesの「Sympathy For The Devil」、Smokey Robinsonの「The Tracks Of My Tears」、Beach Boysの「Don't Worry Baby」などが収録されている。 最新アルバムも従来どおりの作りだ。Ferryが以前、自分の解釈で歌った「These Foolish Things」や「Smoke Gets In Your Eyes」などの曲は、少々自意識がにじみ出すぎて鼻についたが、『As Time Goes By』では最高の敬意を払って「Falling In Love Again」「September Song」「You Do Something To Me」「I'm In The Mood For Love」「The Way You Look Tonight」といったスタンダードを熱唱しており、もちろん、不朽の名作であるこの「Casablanca」のテーマ曲は、このアルバムのタイトルとして最もふさわしいものとなっている。 Billie Holiday(「彼女はこれらの曲の多くのクラシックバージョンを出している」)、Fred Astaire(「彼はシンガーであるよりもダンサーであると思われているが、歌の内容をよく読み取ってストレートに表現している」)、Marlene Dietrich(「代表的なドイツのムードシンガー」)、Fats Waller、Peggy Leeなどの偉大なボーカリストたちにインスパイヤーされたFerryは、まるで水を得た魚のようで、その美しく繊細なクルーナー(低く感傷的に歌う)・ボイスは、まるで過ぎ去った別の時代から響いてくるように聴こえる。 '98年の秋に、ロンドンのLandsdowneという「目的にかなった昔流のスタジオで」モノラル・レコーディングされた(「モノの方が雰囲気が出るんだ」)このアルバムは、初めから「アコースティックでやることにしていた。何時間もスタジオを行ったり来たりしてドラム・プログラマーやMIDIやコンピュータなんかを使うかわりにね。こういうのには、ほとほと愛想が尽きてるんだ」とFerryは笑う。 実際、このアルバムに収められた15曲の中で唯一使われたシンセサイザーは、オンドマルトノという'30年代のフランスのアバンギャルドな仕掛けだけだ(「初期のSF映画で使われていたんだ。幽霊や空飛ぶ円盤が現れると、必ずテレミンのようなこの“ウゥゥゥゥ”という音がするんだよ」)。これ以外は、弦楽器、管楽器、ピアノ、ハープ、バンジョー、木管楽器で構成されている。「本当に、初めてアコースティックのアルバムを作ったような気がするよ」と言ってFerryはにやっと笑った。 Ferry自身は最近の'90年代のスイングブームには精通していないことを認めているが、一般論として、音楽の前向きな発展であると考えているようだ。 「おもしろいサウンドだよ」と熱を込めて言う。 「人間が演奏しているということは、何にしてもとても健康的だと思う。ここ数年、みんなマシンを使いすぎているんだ。いつも同じものばかりだと少々飽きが来る。少なくとも僕には、しばらくの間でもマシン音楽から解放されることでとても気分がすっきりする。生で演奏し、インタープレイを大切にする人たちには大賛成だ」 「とても難しいだろうね」と素っ気なく言う。 「レコードに参加しているそのままのバンドが必要になるだろう。このツアーのスポンサーになってくれるような金持ちの知り合いがいたら紹介してくれよ!」 Ferryがカバーからオリジナルへ、ジャンルからジャンルへ頻繁に変わることは、Ferryの経歴の助けになっているのだろうか、それとも妨げになっているのだろうか。 「どちらとも言えるな。確かに、元気でいられるし、興味を持ち続ける上では助けになっている」 少し考えた後、「つまり、退屈になるのが嫌いなんだ。音楽は大好きだし、自分の人生そのものだ。いろいろなものに興味を持つほど、前に進むことができる。ときには、僕が取り組もうとしていることに賛成じゃない人がいるのも知っている。“いつもRoxy Musicをやってくれたらいいのに”という感じさ。人によっては、とてもいらいらするんだろうね。申し訳ありません!」 丁寧に、人のよさそうな笑顔で付け加えた。 また、『Roxy/ Ferry best-of』も新しくリリースされ、最近'70年代、'80年代のバンドが次々に再結成されていることとも相まって、Roxy Musicにとっても新しくステップを踏み出す良い機会になりそうだ。 「それについてはいろいろと話を聞いている。やるの、やらないのといったたぐいの話だ。個人的には、来年ぐらいに、他に何も予定がなければ、Roxy Musicのコンサートをやりたいと思っている」とFerryは言う。 「楽しめると思うよ。ていうのは、最近Roxyのリマスタリングつまりテスト・プレスをチェックしてて“これを演奏しない手はない”って思ったんだよ。だから、いつの日かどこかで演奏できたらいいなと思っている」 ただ、Ferryはレコードのリリース間隔が何年も開くことで有名だ。反対に、'73年には1年で3枚のアルバムを出している。熱心なファンは、9月と聞いても、それを素直に受け止めるわけには行かないだろう。 「まったくひどいよね」と、Ferryは自分の気まぐれにうんざりといった様子でため息をついた。 「もちろん、僕は年をとっていくし、新作を約束どおりにリリースするのも難しくなっている。だから、これみたいに、違う面を持っていることはとても役に立つんだよ」と、自分のカバー・アルバムを指して言う。 「僕のことをそう言う人は確かにいるね。でも自分ではその言葉は嫌いだ。完璧なものなんて存在しないのだから! 正しいこともあったためしがない、って僕はいつも不服を唱えている。だから、よくトラブルに巻き込まれることも認める」 仕事の勢いが衰えることを心配したことはないのだろうか。 「もちろん、心配さ!人生の中で、一番の心配事だよ!だから、どうにか世の中に出せるものがまたできてほっとしているんだ。これが遅すぎてなくて、みんながまだ僕のことを覚えてくれているといいんだけどね」 「4人の子供を学校に行かせようとしてたら、それはとても重要なことだよ」と、Ferryはあえぎながら笑った。 「だけど、僕は所得額よりも仕事に誇りを持っているんだ」 このコンサートはNick CaveとHal Willnerが企画したものだが、Ferryにとっていい刺激になったようで、アーリー・アメリカン・フォークのアルバムを出したいとも言っている。 「何十年も前のことに取り組んで悪い理由はないだろう」とFerryは断言する。この野心的な宣言は例の陽気な笑い声で結ばれた。私にも、悪い理由は見あたらない。 by Lyndsey Parker |