馬鹿と阿呆が繰り広げた、さりげなき巧みの音世界
音が頭に巡り巡る… 馬鹿と阿呆が繰り広げた さりげなき巧みの音世界 '00年4月17日 渋谷公会堂 竹中尚人=CHARとIsiyanこと石田長生のユニット/馬呆(BAHO)の今回のツアーに付けられたタイトルは“今世紀最後のメインイベント『BA vs HO』2000年1本勝負”。真面目で可笑しいこのタイトルに“きっと一筋縄ではいかない”と思った人も多いはず。 そこにはリングを模したステージセットがあった。コーナーポールにロープも張ってある。青コーナーからはプロレス系衣装のIshiyan、赤コーナーからは空手系衣装のCHARが登場。互いに相手を威嚇するパフォーマンスをしつつゴングが鳴ると、対決アイデアが次々に繰り出される。 ロックをジャズふうに演るRozz(曲はディープ・パープルの「ハイウェイスター」)から始まって“漢字・ひらがな対決”“チョーキング禁止ルール”“ツェッペリン・ルール”“サウスポー・ルール”“ウクレレ対決”、そして最後に“エレキ対決”で両者ノックアウトという設定だ。個人的にはチョーキングをせずにブルースを弾くパートに笑いながら唸ってしまったが、どのルールも可笑しさの裏側に確かなスキルがなければ成立しないものばかりだったと思う。 2人の対決場面、対決音を聴きながら、僕らはBAHOのアコースティックギターの絡みにぐいぐいと引き込まれるのである。 ACT2は、青いスーツのIshiyan、赤いスーツのCHARがそれぞれの前に譜面台を置き、カヴァーを含む各人のソングを披露した。「Black Shoes」と「気絶するほど悩ましい」を合体させたCHARの「Blackするほど悩ましい」とIshiyanの「ラジカセ」に印象的だったことは、彼らはメロディメイクも歌心もギターテクと同様に磨いてきたのだということ。色褪せない曲を作っても歌い続けなければ歌は磨かれないと思う。 本編ラストの「Smoky」で、オーディエンスは、自然と総立ちになっていた。オトナで、なおかつ熱い雰囲気だった。アンコールの「Tremendous」では、早弾きを交互に演るCHARとIshiyan。練習をするだけでは到達できない領域が2人の間に横たわっていることを、聴き手はこの現場で知るのである。続く「Stories」では、2人の出会いから始まるギター交友をサラリと歌った。 ライヴ終了後、僕は僭越ながら、CHARとIshiyanのギターの特性(違い)を考えてみた。CHARはなにしろリズムが全て立っており、その特性はミドル系楽曲でもしかりである。一方のIshiyanはフィンガリングのねばりと深さに魅力があるのではないだろうか? 「俺は生まれたときから跳ねてるんだよ」というCHARの名ゼリフがあるのだが、その、跳ねるCHARギターと深みのあるIshiyanギターが重なると、スピードと広がりのあるBAHOギターワールドができ上がるのだ。 そんなことを考えながらふと思ったのは、ライヴ終了後、<音>に関していろいろと思いを巡らせてしまうコンサートが少なくなってしまったなということ。純然たる音でコミュニケイションをとっていくステージが1本でも増えて欲しいとBAHOのステージを観て思ったのだった。 佐伯 明 |