【ライブレポート】サミー・ヘイガー、日本への愛に満ちた極上の幸福感

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それはまさに夢のような至福のひとときだった。9月20日、名古屋にてサミー・ヘイガーのジャパン・ツアーが幕を開けた。会場となったNiterra日本特殊陶業市民会館フォレストホールにはさまざまな世代の音楽ファンが詰めかけ、サミー自身が言うところの「単なるコンサートではない音楽のセレブレーション」は、20曲以上、約130分間にわたって繰り広げられた。ステージ上の5人がすべての演奏を終えると、その背景には「THANK YOU」の大きな文字が点滅していたが、そのシンプルな感謝の言葉は、この夜のオーディエンスの気持ちが映し出されたものでもあったはずだ。





今回の日本公演は<THE BEST OF ALL WORLDS>と銘打たれた世界ツアーの一環としてのもの。2004年に発売されたヴァン・ヘイレンの2枚組ベスト・アルバム『THE BEST OF BOTH WORLDS』を想起させずにはおかないが(もちろんその表題は1986年生まれの名盤『5150』の収録曲タイトルに由来する)、そもそもは「双方のいいとこ取り」を意味するこの言葉が、このツアーでは「すべてのいいとこ取り」に拡大されているというわけだ。実際、その看板に偽りはない。なにしろ、あくまでサミー在籍期のヴァン・ヘイレンのレパートリーを軸としながらも、デイヴ・リー・ロス期の楽曲、ヴァン・ヘイレン以上に長いサミー自身のソロ・キャリアにおける代表曲なども、ふんだんに盛り込まれた演奏内容になっているのだから。



この先、大阪と東京での公演も控えているだけに、この場での具体的な演奏曲目に関する記述は必要最小限にとどめておきたい。ただ、特筆すべき事項として伝えておきたいことのひとつに、先頃の北米ツアー時には演奏されていなかった「キャント・ストップ・ラヴィン・ユー」が披露された事実がある。1995年発表のヴァン・ヘイレンの第10作『バランス』から生まれたヒット曲だが、サミーはこの楽曲に対する日本での人気の高さを把握しており、以前からこの国で披露することをほのめかしていた。実のところ当時の全米シングル・チャートでは最高30位に甘んじていたこの曲を彼が公の場で披露したのは、2007年10月に彼の誕生日に際してメキシコで行なわれたライヴ以来のことであるようだ。しかもステージ上でのサミーの発言によれば「ほんの3時間前に全員で合わせてみたばかり」なのだという。彼は「だから間違えたらゴメン」的な発言もしていたが、当然ながらそんな事態に陥ることはなかった。


ビッグ・ネームによるツアー、ことにテーマ性が明確な大型ツアーにおいては、各楽曲に伴う演出面の都合などからも、地域を問わずセットリストが一定であることが常だが、サミーのこうした配慮からは、彼の「またこうして日本に戻って来られて嬉しい。この国が大好きなんだ」という言葉が、単なる社交辞令ではないことがうかがえる。彼は公演中、名古屋の街自体もお気に入りであることを認めながら「俺がこの街を大好きであるように、みんなにもこのバンドを気に入ってもらえたら嬉しい」といった発言もしていたが、そうした気持ちの表明だけでもこちらとしては嬉しくなってくるし、当然ながらこの“バンド”の規格外の素晴らしさには、その場にいた誰もが感銘を受けていたに違いない。







家族の事情により英国に戻らねばならなくなり、先頃の北米ツアーからの途中離脱を余儀なくされたジェイソン・ボーナムが引き続き不参加となったことは残念ではあったが、ピンチヒッターに起用されたケニー・アロノフのパワフルな超絶ドラムは、ジェイソンを欠いたことによる穴を埋めて余りあるものだった。ジョン・メレンキャンプとの長い活動歴のみならず、ザ・ローリング・ストーンズ、スマッシング・パンプキンズ、ジョン・ボン・ジョヴィといったさまざまな大物たちとの演奏歴を持つ彼は、米国のローリング・ストーン誌の選出による「全時代を通じてのベスト・ドラマー100人」のひとりにも選ばれている人物だ。また、キーボード担当のレイ・シッスルウェイトは、楽曲によってはギターやヴォーカルでも貢献し、まさにマルチな活躍ぶりをみせていた。



ごく自然体のまま神業レベルの演奏を披露するジョー・サトリアーニ、そしてサミーにとっての良き相棒というべきマイケル・アンソニーの素晴らしさについても、言うまでもない。原曲キーのまま歌うことにこだわりのあるサミーの歌唱も圧倒的な素晴らしかったが、そのさらに上の音階でハーモニーを重ねるマイケルの歌声も見事なものだったし、敢えてこの場では曲名を伏せておくが、彼がヴォーカル面を主導する楽曲も、このショウにおける見せ場のひとつになっている。



ファンが求める楽曲が網羅された演奏内容もさることながら、サミーをはじめとする熟練者たちの人柄の素晴らしさも、この公演全体を支配していた幸福な空気感に繋がっていたように思う。余談ながらこの日の開演前、筆者はサミーの厚意によりバックステージに招かれたのだが、こちらが今回のツアーのオフィシャルTシャツを着用しているのを見たサミーは「いいTシャツを着ているな。楽しむ準備はできているようだね?」と声をかけてきた。そして「君は楽器をやるの?」と尋ねられ「あいにく演奏はしないんですが、ヴォーカルの経験は少々ありますよ」と答えると「奇遇だね。俺もそうなんだ」と返してきた。そして、少しばかり歓談したのちに客席に向かおうとすると「ちょっと待て!」と呼び止められたのだが、何事かと思えばテキーラを差し出され、その場で乾杯することになったのだった。



その際、他のメンバーたちとも少しばかり話をしたが、「今夜の終演後、超特急でこのライヴの記事を書かなければならないんです」と告げると、ケニーは「大変そうでいて実は簡単なことだ。たったひとつ言葉を書けばいい。“GOOD”とね」と言い、その発言を受けてマイケルは大笑いしながら、「そう、たった4文字でいいんだ」と言ってきた。開演直前とは思えないその和やかな空気は、彼らの演奏中にも保たれていた。完璧なライヴ・パフォーマンスを、張り詰めたような緊張感のもとで進めていくのではなく、穏やかな空気感の中で繰り広げてしまう彼らに、僕は、マイケルからの指定文字数を1字越えてしまうが、“GREAT”という言葉を捧げたい。もちろんそこに、感嘆符をいくつも付けて。





文◎増田勇一
撮影◎Kazunari Kimura

<サミー・ヘイガー 2024 TOUR『THE BEST OF ALL WORLDS』>

9月20日(金)
名古屋・Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール(公演終了)
開場18:00/開演19:00

9月22日(日)
大阪・堂島リバーフォーラム
開場16:00/開演17:00

9月23日(月・休)
東京・有明アリーナ
開場17:00/開演18:30

チケット
<東京・名古屋公演>
GOLD:35,000円(税込) ※グッズ付き
S席:20,000円(税込)
A席:19,000円(税込)

<大阪公演>
GOLD(スタンディング):35,000円(税込) ※グッズ付き
S(スタンディング):20,000円(税込)
2F指定席:19,000円(税込)

※未就学児(6歳未満)入場不可。6歳以上チケット必要。
※GOLDのグッズは後日発表予定
https://www.livenation.co.jp/sammyhagar-2024
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