【インタビュー】GLIM SPANKY、『The Goldmine』に全11曲の挑戦「誰しもが自分の中に金脈を持っている」
『Walking On Fire』(2020年10月)、『Into The Time Hole』(2022年8月)と来て、今回の『The Goldmine』でもGLIM SPANKYの新たな挑戦は止まらないんだから、新境地に挑み続けることがGLIM SPANKYにとって、もはやバンド活動の大きなモチベーションになっていることは明らかだ。今回のアルバムの完成目前に、とどめの一発を求め、作ったという「The Goldmine」の“僕らやりたいことばかりで 枯れないゴールドマイン”という一節は、その時の松尾レミ(Vo, G)と亀本寛貴(G)の快哉そのものなのだと思う。
◆GLIM SPANKY 画像 / 動画
その言葉通りアルバムリリースの1ヵ月前に代表曲中の代表曲と言ってもいい「怒りをくれよ」のGLIM SPANKY初挑戦となるリミックスバージョンを配信リリースしたところも頼もしい限りだ。
早速、ハードな方向にもポップな方向にも振りきりながらGLIM SPANKYらしさをしっかりと刻みこんだ『The Goldmine』の全11曲の挑戦を、松尾と亀本とともに紐解いていこう。
◆ ◆ ◆
■どんなに暗い表現をしていても
■そこから抜け出せる一筋の光を描く
──『The Goldmine』のリリースに先駆け、10月13日に配信リリースした「怒りをくれよ(jon-YAKITORY Remix)」は曲が元々持っているパワーがさらに増した強烈なリミックスバージョンになりました。GLIM SPANKYにとって初めてのリミックスは、どんなきっかけからやってみようと?
亀本:スタッフからの提案だったんです。「怒りをくれよ」はこれまでリリースしてきた曲の中でも一番認知されていて、必ずライブでもやっている曲なので、“このタイミングで新たなクリエイターと組んで、リミックスバージョンを発表してみてもいいんじゃないか”という提案をもらって、僕がずっと好きだったjon-YAKITORY君を、“この人がいいかもしれない”と松尾さんに推薦したんです。
松尾:「怒りをくれよ」は映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌だった曲だから、“突き抜けたリミックスをしてくれる人がいいんじゃないか。それにはjon-YAKITORYさんがぴったりだ”って薦められて、私はそれまでjon-YAKITORYさんのことを知らなかったんですけど、聴いてみたら、ロックだったり、ブルースだったり、ヒップホップだったり、そういう音楽的なルーツがjon-YAKITORYさんの曲の中に垣間見えたので、“こういう人だったら一緒にやりたい”と思って、まずは食事に行ったんだよね?
亀本:そう。食べたのは、焼き鳥じゃないけどね(笑)。
松尾:そうそう(笑)。そうしたら完全に同世代で、しかも音楽もいろいろなジャンルに興味があって、もちろんいろいろ聴いていて、楽器もやっているってことで、話もけっこう盛り上がったんです。それで、これはいい仲間になれそうだってことでお願いしました。深い部分で繋がった上でリミックスしてもらえたので、すごく満足のいくものになったと思います。
亀本:jon-YAKITORY君のオリジナルの楽曲もギターリフを生かしたものが多いんです。「怒りをくれよ」のようなテンポの速いギターロックをリミックスするって、そんなに簡単じゃないだろうなと思ったんですけど、普段からそういうギターロックの要素が色濃い、しかもギターリフを押し出している曲が多い人だったので、間違いないと思ってお願いしたら、ていねいにやってもらえて。
松尾:何回もいろいろなアイデアを出してくれて、すごく真剣にやってもらえたことがすごくうれしかったし、今までGLIM SPANKYを聴かなかった層にも刺さるような鋭いサウンドで、しかもBPMも少し速くなっていて。
亀本:ちょいテンション上げバージョンにね(笑)。
松尾:そこも含めjon-YAKITORYさんにやってもらえてよかったと思います。
──亀本さんは普段から、いわゆるボカロPには注目していたんですか?
亀本:めっちゃ詳しいわけじゃないですけど、花譜さんってバーチャルシンガーに、GLIM SPANKYとして「鏡よ鏡」という曲を提供したタイミングぐらいから聴き始めて、“けっこうぶっとんだ奴がいるぞ”って思ってました。音声ソフトの可不(KAFU)を使った「フォニィ」って曲があって、それはAメロ、Bメロ、サビがすべて、いわゆる丸の内サディスティック進行と同じコード進行なんですけど、それぞれにキーが変わるんです。だから、最初に1個作って。
松尾:それを転調してるんだ。
亀本:そう。そうすることによって、同じコード進行の繰り返しにもかかわらず、マンネリ感がなくなって、さらにジェットコースター感まで出ている。YOASOBIもそうなんだよね。場面が変わるごとにキーが変わって、キーが変わって、キーが変わって、でも実はずっと同じコード進行っていう曲の作り方は。“そんなのありだったんだ!?”っていうか、実際、歌おうとしたら難しいから、普通やらないんだけど、ボカロに歌わせているから、キーを変えても全然平気なんです。そういう自由な発想をする人が多い。
──なるほど。
亀本:しかも、ボカロPって実はギターを弾いている人が多い。ギターロックの延長上でやっている人が多くて、一番有名なのは米津(玄師)君。最初の頃の曲はギターロックバンドのボーカリストが曲を作って、でも、メンバーがいないから全部打ち込みでみたいな感じで、割とギターロックなんですよ。だから、方法論としてはバンドマン的な音楽作りをしている人が意外に多くて、個人的にはボカロPの人達がそんなに遠い存在には思えなかったんです。jon-YAKITORY君も同世代で、たぶんELLEGARDENがきっかけでバンドを聴くようになったと思うんですよ。アウトプットの形こそ違うけど、“一緒じゃん”って思いました。だから、今、いろいろなボカロPの音楽を聴きながら、“それってありなんだ”って発想はすごく勉強になってるし、楽しいです。
──ボカロPからバンドを始めたという人も少なくないですよね。
亀本:顔バレしてないから、普段、アーティストをやっている人がボカロPをやっているパターン、絶対あると思うんですよ。
松尾:ありえるね。
──そういう亀本さんも実は(笑)?
亀本:残念ながら、やってないんですよ(笑)。
──それはさておき、今回、リミックスバージョンを作った経験が今後、何かしらの形でGLIM SPANKYの音楽に反映されるかもしれない、と?
亀本:そうですね。「怒りをくれよ」のリミックスバージョンを今回、アルバムの最後に入れたことで、今後、GLIM SPANKYの音楽性が多様化していくというか、さらに開けていくというか、そういう可能性を感じられる締めになっていると思います。しかも、テンションを上げて終わるっていうのは、個人的にも続編があるように感じていて、これからの活動にもさらにポジティヴな影響を与えるだろうし、“次、何をやろう?”ってなった時に見える景色とか、視野が「怒りをくれよ」のリミックスバージョンを作ったことによって、ぐっと広がるような気がします。
──ただ、「怒りをくれよ(jon-YAKITORY Remix)」はボーナストラック的な位置付けではあるんですよね?
松尾:そうですね。曲間も10曲目の「Innocent Eyes」と11曲目の「怒りをくれよ(jon-YAKITORY Remix)」はかなり空けているんですよ。
──そうなると、『The Goldmine』のラストナンバーは「Innocent Eyes」になるわけですが、その「Innocent Eyes」は冒頭のシンガロングとキックの4つ打ちが新境地を思わせるダンスポップナンバーで。
松尾:かなり開けたと思います。大きなところでライブをすることをイメージして作りました。
亀本:冒頭のシンガロングは、僕らは知っているからなんですけど、松尾さんの声よりもアシスタントエンジニアちゃんの声のほうがデカいんだよね。
松尾:そうそう。
亀本:アシスタントちゃんの声が曲のエア(ライブ感)の質感に影響してるよね。
松尾:私一人で声を重ねちゃうと、シンガロング感が出ないので、みんなに歌ってもらったんです。亀本はもちろん、エンジニアさん、アシスタントエンジニアさん、マネージャー、ディレクターにも歌ってもらって、歌声を重ねたんですけど、今まで以上にスタジアム感を思い切り意識しました。
──「Innocent Eyes」を最後に持ってきたのは、やはりここから景色が広がることを予感させて、アルバムを締めくくりたかったからですよね?
亀本:そうですね。曲の内容も力強くて、エモーショナルで、締めにふさわしい。個人的にもこの曲が最後にふさわしいと割と早い段階から思ってました。
松尾:明るい気分、前向きな気分で終わりたかったんです。だから、「怒りをくれよ」はライブのアンコールみたいな位置付けですね。
──確かに「Innocent Eyes」は曲調も明るいし、歌詞も前向きなんですけど、前向きながらもちょっとビターにも感じられるところがGLIM SPANKYらしいのかなと思いました。
松尾:ありがとうございます。そうですね。ただ明るいだけじゃなくて、陰もあるんですけど、“そこから抜け出すために”という気持ちや、自分は器用には生きられないけど、それでもいいというメッセージを書いたんです。ロックってけっこうそういう劣等感というか。
亀本:はみ出し者の音楽ですからね。
松尾:そうそう。ブルースもそうだしね。だけど、一筋の希望があるっていう。そこに共感することが多いので、私が歌詞を作る時もどんなに暗い表現をしていても、悔しい思いがあったとしても、そこから抜け出せる一筋の光を描くっていうのは、ずっと大事にしているんです。だから、「Innocent Eyes」も、ただ明るいだけじゃないっていうか、そういう暗さと明るさが共存している曲だと思います。
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