【インタビュー】GLIM SPANKYデビュー10周年記念、全28曲収録ベスト盤が集大成であると同時に最新アルバムな理由「とにかく魂の込められたものを」

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メジャーデビュー10周年を迎えたGLIM SPANKYが11月27日、『All the Greatest Dudes』と題したベストアルバムをリリースする。CD2枚組の同アルバムにはロックナンバーからバラードまで、この10年の間にGLIM SPANKYが世に送り出してきた数々の楽曲から、今もGLIM SPANKYのライブのハイライトを飾る代表曲を収録。さらには「Fighter」「風にキスして」「ひみつを君に feat. 花譜」「赤い轍」「Hallucination」「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」といったこれまでCD未収録だった新曲6曲も加えられ、10年間の集大成であると同時に現在進行形のGLIM SPANKYを印象づけるものになっている。

◆GLIM SPANKY 動画 / 画像

「これはベストという認識ではなく、新しいアルバムなんです」──『All the Greatest Dudes』のリリースに寄せて、松尾レミ(Vo, G)はそうコメントしている。現役である以上、最新作がベストであるべきなのだと思うが、GLIM SPANKYの2人はこれまで発表してきた楽曲もさることながら、よっぽど新曲に自信があるのだろう。

ならば、過去曲はさておき、新曲についてたっぷりと語ってもらおうというわけで、今回は、「赤い轍」「Hallucination」「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」という直近の3曲におけるGLIM SPANKYの挑戦について、松尾と亀本寛貴(G)に訊いた。



   ◆   ◆   ◆

■タイトルもベストとかにしたくなくて
■過去のロックの名曲をオマージュした


──ベストアルバムではあるけれど、お二人が「新しいアルバム」と言っているところが興味深い。新曲も6曲収録されているし、松尾さんもおっしゃっていたとおり、このベスト盤からGLIM SPANKYを聴き始める人にとっては、もう全曲が新曲だから、本当に新しいアルバムだとは思うんですけど、それを抜きにしても、GLIM SPANKYとしては意地でもベストアルバムとは言いたくないという気持ちもあったんじゃないですか?

亀本:いや、単純に過去曲を集めただけのベストアルバムなんて、誰が欲しがるんだろうっていう気持ちです。それだったらサブスクにあるんだから、パッケージでわざわざリリースする理由がないし、お客さんも購買意欲が湧かないじゃないですか。ものすごいファンの人は買ってくれるかもしれないけど、買う必要のないものを出したくないっていうのは、正直ありました。

松尾:そうだね。ベストアルバムがそのアーティストの入り口になるっていうのは、確かにそうだと思います。私自身、中学生の頃、ベストアルバムとかグレイテストヒッツとかトリビュートアルバムとかウェストコーストロック集みたいなオムニバスアルバムとか、いっぱい聴いて、そこから“このバンド素敵だな”って掘っていくってこともしてきましたし、今だってサブスクのプレイリストで初めて知ったアーティストもいっぱいいますし。ただ、自分たちがベストアルバムをリリースするとき、亀本が言った通り、“過去曲を集めただけの、いわゆるベストアルバムじゃ、サブスクにもうあるんだから、出す意味がない”と思いました。だから、今回、タイトルもベストとかグレイテストヒッツとかにしたくなくて、過去のロックの名曲をオマージュして。

──モット・ザ・フープルの『All The Young Dudes (すべての若き野郎ども)』ですね。

松尾:そうです。ベストアルバムにもつけられるし、ニューアルバムにもつけられるタイトルだしっていうところで『All the Greatest Dudes』(=すべての最高な野郎ども)ってタイトルにしたんです。


▲初回限定盤


▲通常盤

──なるほど。タイトルにもGLIM SPANKYの信念がしっかり表れている、と。本当だったら、ファンのリクエストも鑑みつつ、お二人が選曲した過去曲のラインナップについても聞かせてほしいのですが、限られた時間の中では無理そうなので、今日は、「赤い轍」「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」「Hallucination」の3曲について絞って聞かせてください。まずWOWOWの『連続ドラマW ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人争奪編』の第4話のエンディングテーマとして書き下ろした「赤い轍」から。

亀本:これはタイアップのお話をいただいてから、原作のマンガを読んで、劇場版も見て、実写の雰囲気を掴んだ上で、最後に流れるならどんなものがふさわしいか考えながら作っていきました。

──スケールの大きな曲がふさわしいと考えたわけですね?

亀本:そうですね。スケールが大きくてダイナミックで。そういうものを目指したいという考えはありました。『ゴールデンカムイ』は『劇場版キングダム』の制作チームが手掛けているんですよ。だから、あれくらいの世界観っていうか、『キングダム』って宇多田ヒカルさんとか、ONE OK ROCKとか、Mr. Childrenとかが主題歌を歌ってたじゃないですか。そういう規模感をイメージしてましたね。

松尾:壮大なね。

亀本:ものすごく壮大な話なので、そこに参加させてもらう以上は、そういうレベルで戦えるものにしたいなってところで作っていったんですけど、アイヌ民族のカルチャーをフィーチャーしているお話で、なおかつ映画版からの連続ドラマでもあるので、エキゾチック感とか、シネマチック感とかも重視して。

松尾:そうだったね。これまでは私がメロディーを作って、亀本がリフを作ってという作り方だったんですけど、今回は亀本の中で世界観がかなりはっきりと決まっていたんでしょうね。それに基づくメロディーを最初に提案してくれて、そこから作っていったんですけど。あらかじめゴールを決めて、そこを目指して作っていけたっていうのがすごくよかったと思います。おかげで、本当に『ゴールデンカムイ』に似合う曲ができたと思うし、GLIM SPANKYとして、ここまで壮大でドラマチックな曲に挑戦できたのも楽しかったです。


──歌詞はオケができてから書いていったんですか?

亀本:メロディーが大体できたところで取り組んでいったよね?

松尾:そうだったね。今回、いしわたり淳治さんに入ってもらったんです。

──いしわたりさんは、「怒りをくれよ」「ワイルド・サイドを行け」他の歌詞の共作者としてGLIM SPANKYのファンにはお馴染みです。



松尾:淳治さんに、“こういう言葉を使いたい” “こういう気持ちを書きたい”と私が箇条書きしたものをまず投げて、淳治さんが書いてきた歌詞を基に話し合いながら作っていったんですけど、タイトルが最後まで決まらなかったんですよ。

──あ、タイトルが?

松尾:はい。タイトルってサビの言葉から選ぶことが多いんじゃないかと思うんですけど、この曲はサビの言葉が普遍的だから、タイトルにできる言葉がなくて。何かいい言葉はないかなって悩んでいる時に、果たしてこの歌詞は何を言いたいんだろってふと考えてみたんです。そうしたら、“流れた赤い血が 体を駆ける痛みが 生きてる証を 熱く胸に刻む”というサビの歌詞が痛みとともに人生を積み重ねていくことを歌っていることに気づいて。人生=道というイメージがぱんっと浮かんで、その連想から、「“赤い轍”ってどう?」って提案したら、「いいね」となって。それから“赤い轍を辿る 振り返れば 自分という名の 果てない歴史の旅”という大サビを付け加えたんです。


▲松尾レミ(Vo, G)/2024年3月24日@日比谷野外大音楽堂

──そういう順番だったんですね。「赤い轍」というのは、松尾さんが同曲についてコメントしていたとおり、「迷い悩みながら強く進んでいった」軌跡でもあるわけですよね?

松尾:人生ってそういうものなんだと思います、やっぱり一筋縄では行かない。だから、“まばゆい光の 一寸先を睨んで”と歌ってるんですけど、目標を目指して、そこにすべてを注ぎ込むのではなく、目標を越えた先までを見据え、生きていくしたたかさも含め、自分たちの生き様みたいなものもメッセージとして込めたかったんです。

──“一寸先を睨んで”というところがGLIM SPANKYらしい。

松尾:そうですね。“一寸先を願って”でもないし、“求めて”でもないし、“睨んで”が一番しっくり来たんですよ。

──歌詞についてもう少し聞かせてください。「自分たちの生き様みたいなものもメッセージとして込めたかった」とおっしゃっていましたが、そうなると、さらに興味深くなるというか、“不埒な欲望に 絡み付く不安殺して”というサビの一節が気になってくるのですが。

松尾:そこはすごく悩みました。最初、淳治さんから「“不埒な”って言葉を使ったらおもしろいんじゃないか」というアイデアが来たんですよ。

亀本:しかもサビの頭だったよね。

松尾:そう。“それはちょっと違うんじゃないか。攻めすぎだろう”って、最初はあまりピンとこなかったんですけど、ここで歌っている“不埒な欲望”っていうのは、「ワイルド・サイドを行け」で歌っていた“好奇心辿って 悪い予感のする方へ”に通じるのかなって思えてきて。そう考えると芯が通っている。自分の中ではそういう感情で歌いました。でも、私たちがエンディングテーマを担当した『ゴールデンカムイ』第4話は、とあるホテルの美人オーナーに男の人が魅せられるという、言葉本来の不埒なストーリーなんですけどね。しかも、その美女は実は男だったっていう(笑)。だから、ドラマのストーリーにも合うし、GLIM SPANKYがこれまで歌ってきた、良い予感のするほうじゃない、一寸先が見えないほうに向かうというメッセージにも合うし、ということで最初は抵抗があった言葉でしたけど、最後はすんなりと受け入れられました。



▲亀本寛貴(G)/2024年3月24日@日比谷野外大音楽堂

──「赤い轍」のアレンジについても聞かせてください。ピアノ、キーボード、ストリングスといったギミックも使いながら、ギミックが前に出すぎない、絶妙な匙加減もある意味、聴きどころではないかと思います。

亀本:そうですね。いろいろな音が鳴ってるんですけど、どれもけっこう歪んでるから、ギターと溶け合ってますね。だったらギターだけでもいいんじゃないかって思われるかもしれないけど、ハーモニーとして、たくさん音を積んだほうが世界は広がるし、空間も広く聴こえるんですよ。ただ、音の積み方がすごく難しくて。全部の音をきれいにずらして、ごちゃごちゃにならないように、かなりがんばって細かくちゃんとやりました。実は今回、僕のギター以外ほぼ打ち込みなんです。

──え、先入観もあるかもしれないけど、言われなきゃ、打ち込みには聴こえないですよ。

亀本:全部を打ち込みにしてきれいに混ぜちゃうと、音像として薄くと言うか、軽くなっちゃうから、ドラムは大井(一彌)君に叩いてもらったんです。スネアとバスドラ全部に重ねて張り付けているんですね。

松尾:だから、音色も含め、音のバランスは微調整を重ねながらかなり考えました。

亀本:ただ、松尾さんの声って打ち込みと合わないんですよ。キラキラしたシンセとか、エレクトロのドラムとか、まあ合わない。本当はめっちゃ使いたいんだけど、その世界観を壊さないよう入れる音を選ぶ、っていうのを一生懸命やってます。

松尾:ありがとう(笑)。

亀本:ちょっと歪んだ音とか、ダーティーな音とかがやっぱり合うんですよね。

松尾:そうだね。スモーキーさが合うというか、まとまるよね。

──なるほど。すごくダイナミックな曲ではあるけれど、かなり緻密に作り上げているわけですね。

亀本:そうですね。これはかなり細かく作りましたね。

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