【インタビュー】ジャザノヴァ、「本作に込められたメッセージは、先人へ感謝することを決して忘れてはならないということ」
2022年4月20日(水)にBBE MUSIC / 180 PROOFからリリースされる、DJ/プロデューサー・チーム“ジャザノヴァ”の新作アルバム『STRATA RECORDS - THE SOUND OF DETROIT REIMAGINED BY JAZZANOVA』。
DJアミールと彼主宰のレーベル“180 Proof Records”がBBE Musicとタグを組み、ジャザノヴァがStrata Recordsのカタログの中から傑出した楽曲のリワーク、再解釈とリイマジンした本作。ジャザノヴァは自身の拠点であるベルリン(電子音楽の代名都市)の趣を、その音楽基盤を取り組んだ都市(デトロイト)に恩返ししようと試みている意欲作と言えるだろう。
そんなジャザノヴァのステファン・ウルリッヒとステファン・レイセリングに話を聞くことができた。
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■ベルリンは今
■とても躍動感が溢れる時代にある
──コロナ渦、そしてロシアとウクライナの戦争状態の中、現在のベルリンをはじめとした街の状況はいかがでしょうか? また経済、医療についてベルリンは安定しているのでしょうか?
ステファン・ウルリッヒ:コロナの制限がやっと解除されたばかりなんです。他のヨーロッパ諸国はドイツよりも早く解除されました。ドイツはヨーロッパ圏内で最も厳重な規則が定められていたので、この2年間は誰にとっても非常に困難な状況でした。とはいえドイツでは広範に、及び頑強なシステムが構築されているので、医療事情は万全で安心して生活をできてます。
また主にロックダウン政策により物価の上昇を感じていますが、この戦争の勃発により、直接ガスやエネルギーの価格の高騰も感じているところです。ロシアとウクライナ情勢に関しては今ドイツではウクライナ人に対して、象徴的に、現実的(我々は多くの避難民を受け入れている)に多くのサポートをしている状況ですね。
──ベルリンには3つの著名なオペラハウスがあり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など世界に誇る芸術的なオーケストラがあります。また2005年、ベルリンはユネスコの創造都市ネットワークに「デザイン」部門で参加してます。そしてフューチャー・ジャズ・シーンはベルリンが世界に誇るジャザノヴァが君臨してます。あなたたちのシーン役割、誇り、アティチュードなどを教えてください。
ステファン・レイセリング:我々は1997年からベルリンのジャズ・シーンの一部であることを誇り、とても充実感を感じています。我々はベルリンのシーンをロンドン、東京と世界中にあるその他の都市の90年代のクラブ・ジャズ・シーンと繋げることができたと自負しているんです。また、現在我々の街に多くの新しいジャズ・ミュージシャンが活動していて、多くのジャズ系のプロジェクトが起きています。90年代からこの街のシーンが成長するのを見届けることができてうれしい限りですね。
──ベルリンのナイトライフは欧州の中でも多様性に富んだもののひとつであるかと思います。1990年代を通じて20代の若者が多くの国からやって来て、特に東欧や中欧からの若者がベルリンのヨーロッパでの最高のナイトライフ地としてのクラブシーンを作っているそうですが、現在はどんな状況ですか?
ステファン・ウルリッヒ:当然の理由で、もう2年近くクラブやバーを開店することができず、ベルリンのナイトライフがとても静かになりました。オープンできる、ごくわずかの期間でも、すごく制限が課せられていました。会場内でマスクを着けたり、ワクチン・パスポート・システムの導入などなど。パンデミック前にクラブ・シーンが陥っていた状況に対して、これらのコロナ禍の制限処置により、さらに状況の悪化に拍車をかけました。少なくとも私の個人的な経験では、ナイトライフとパーティの品質がだいぶ前から既に衰退していたと思う。その理由はベルリンの街事態が気味悪い商業化、寝返り、観光化を起こしたからです。
──とはいえ今、多くの若者や国際的なアーティストがベルリンの街には居住しています。ベルリンは若者や大衆文化の欧州での中心地として確立していると思います。どういった印象をお持ちでしょうか?
ステファン・レイセリング:私は1974年にベルリンの東部で生まれました。1989年にベルリンの壁が崩壊されてから、大変革が起きました。東ベルリンの住民である我々は、この街が変わり成長するのを見届けてきたし、大好きな街でもあります。世界中から多くの若者がベルリンに移住して、この都市に多くの創造性、アイディアと夢を持ち運んで来ている感じがします。ベルリンは今とても躍動感が溢れる時代にきていると思います。
──今回のイギリスのBBEからのリリースについて教えてください。アミール以外にもBBEオーナーのピーター・アダークワーなどとも企画を話し合ってきたのでしょうか?
ステファン・レイセリング:本作は、間違いなくアミールが発案した企画です。数年前にジャザノヴァのDJチームが彼とツアー中どこかで会ったのが最初ですね。現在、彼はベルリンに住んでおり、たまに我々のレーベルのオフィスに訪れます。ある日、アミールが遊びに来たとき、彼が管理しているStrata Recordsのカタログにある楽曲の新しいヴァージョンを手がけないかという話を提案してきました。同時にアミールは過去に何回も仕事をしているピーター(BBE)に並行にこの企画に関して相談していたわけなんです。しかし最初の時点ではこのプロジェクトの計画を進めようとしていたのは、我々とアミールでした。
──アミールはアメリカ人でDJや雑誌編集長だったりとても実績のある人物ですが、どのような形でプロジェクトに関わっているのでしょうか? また彼が関わることによって、今までのジャザノヴァに変化をもたらせたことはありますか?
ステファン・ウルリッヒ:アミールは全過程に置いて“お任せ”的な感じでしたね。彼は本作の制作の最初に、このプロジェクトを我々がピッタリ合い、正しい決断を下したのかを確認したかったので、すごく注意深くしており、気を配っていたのを覚えています。彼の中でそれを確信できた時点で、すごくリラックスし始め、我々のことをサポートしてくれ、このプロジェクトから発したいスピリットを我々に感じさせ、集中させてくれました。
■我々は空白状態で
■音楽を手がけている訳ではない
──本作品のコンセプトを教えてください。またレコーディングの方法論は? 参加メンバー、スタジオ、エンジニア、マスタリングなどどのくらいこだわったのでしょうか?
ステファン・ウルリッヒ:我々は最初から、生演奏するバンドを一堂にスタジオ入りさせ、演奏してもらい、レコーディングしようと思っていました。ジャザノヴァの過去作品を手がける際には、必ずしもいつもそういう方法ではなかった。本作を手がけるときに生演奏し、録音する方法を選ぶことで、我々にとってこのアルバムは特別で、胸躍らせる作品となりました。今まではシーケンエンサーやDAWの前で精緻を極め作業を進めてきましたが、今回の制作過程は事前に構想、スケッチとプリプロを練り、その後に録音するときにそれぞれの役割を理解してもらい遂行し、作業自体を楽しむことに集中し、専念することができたと思ってます。
──アミールが撮影したレコーディング風景はとても愛のあるアットホームでポジティブな印象を受けました。日本でもブルーノート東京で来日公演を果たしていますが、本作のライブはアルバム再現するライブになりそうでしょうか? バンドの編成や楽曲などうなりそうでしょうか?
ステファン・レイセリング:我々はまたぜひ日本に行き、本作のライヴを行いたいと思っています。今回のツアーでは新作に収録されている全楽曲を演奏する予定なんです。もちろん何曲かジャザノヴァの名曲も披露しますが。
──その中でクラブやライブハウス、今春から年内のフェス・ティバルの状況は明るい兆しが見えていますか? 本アルバムのリリース・パーティ、国内やヨーロッパ・ツアー、ジャパンツアー、ワールド・ツアーは開催されそうでしょうか?
ステファン・ウルリッヒ:この新作のツアーをヨーロッパで数カ所の公演を行い、スタートするつもりです。しかし年が進むごとに日程が多忙になり、アメリカと日本に2022年の下旬から2023年の初旬の時期に行くように願っています。
──参加メンバーはいかがでしたか? 今までのメンバーとは別のメンバーも参加されていますでしょうか?
▲Sean Haefeli |
ステファン・ウルリッヒ(トロンボーン、キーボード、編曲)、クリストフ・アダムズ(キーボード、編曲)、ヤン・ブルキャンプ(ドラム)、デヴィッド・レマイトリ(ギター)、ポール・クリーバー(ベース)、サバシチャン・ボルコスキー(サックス、フルート)、ステファン・レイセリング(打楽器、編曲とキーボード)とジャザノヴァ・ライヴ・バンドの2名の新加入メンバー:フロリアン・メンゼル(トランペット)とショーン・ハイフェリ(このストラタ・プロジェクト専任のリード・シンガー)。
ショーン・ハイフェリは、数年前からベルリンに住んでいて、我々は2年前に彼と会って、コラボレーションする機会を練っていました。Strataのプロジェクトをアミールから持ちかけられたときに、ショーンにコラボすることを提案したんです。
──Strata Recordsについて教えてください(デトロイトお音楽的歴史や伝統、音楽性、シーン、本作品など簡単に頂けたら幸いです)。
ステファン・レイセリング:デトロイトには、過去から現在まで素晴らしいジャズ・シーンが存在しています。デトロイトのミュージシャンであるケニー・コックスがStrataレーベルを創立し、その前にはBlue Noteから2枚のアルバムを発表していました。今やとてもレアなレコードになっているごく少数の作品を70年代に発表した以外にも、その時代に多くのアーティストのライヴを主催していたアート・ギャラリーも運営していました。例えば、アミールが主催しているレーベル(180 Proof Records/ BBE Music)から発表したチャールズ・ミンガスのライヴ盤もその一例です。我々一人のミュージシャンとして、レコード・コレクターとして、Strataのカタログの中からどの楽曲を作り直すか考えることは、むちゃくちゃ盛り上がりましたね。
──ジャザノヴァは95年にDJ集団としてドイツ・ベルリンで発足し、2002年にアルバム・デビューしました。ジャズ、ヒップホップ、ラテン、ファンクなどをブレンドしたサウンドで人気を集め、アメリカの「TIME OUT」誌では“極めて想像力に富む音楽世界”、イギリスのポール・ブラッドショーの「Straight No Chaser」誌では“完全に異なるクラブ・ミュージックを最も完璧に融合させた成功例の一つ”と賞賛され、現在もその地位に君臨していると思います。ジャザノヴァがつねにクオリティ高いユニットとして保っている秘訣を教えてください。
ステファン・レイセリング:私はスタジオで作曲や制作している際に、自分自身が何をしようとしているのかを自身に常に説得しようと試みています。その過程は、どのように自分が音楽を愛している様子に密着し続ける気持ちの複合であるのかと思います。例えば、特定なグルーヴ感、ハーモニー、音色、メロディなど。それをテイストと名付けましょう。しかし、同時に学び、新しいことを試みたく、たまに自身の守備範囲から脱皮し、新しいことをトライするんです。ジャザノヴァのDJたちも同じ思考を持っています。既存の感覚に新しい音楽的なインプレッションを追加し、その要素を音楽に反映します。またDJセットも同様に。
──アルバート・アイラーやジャイルス・ピーターソンが「音楽は癒しの効果がある」と言っています。今作もとても音楽愛が溢れる作品であり、かつ素晴らしい作品だと思います。本作品にどんなメッセージが含まれていますか?
ステファン・ウルリッヒ:このアルバムに込められたメッセージは、我々の前に活動していた先人へ感謝することを決して忘れてはならないということ。彼らが築いてくれた下地、開拓した道、特定のグルーヴ、ジャンルと音楽の作曲法を考える多くの方法論などに感謝することが大事です。我々は空白状態で音楽を手がけている訳ではないことを忘れないことが重要だと思う。常に歴史的な背景が存在していること……このプロジェクトにより、私はこの事実を受け止めることができました。これら巨人たちの肩に“坐らせて”もらっただけで、幸せでしたね(笑)。70年代のデトロイトのヴァイブと今のベルリンが互いに息が合う感じがしたので、結果的に何故か我々にとって容易なことでした。
──沖野修也(Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextet)さんから本作品のコメントをもらいました。「創造的再生が、時代とジャンルを超えた! JAZZANOVAによるSTRARA RECORDSの再解釈は、極上の音楽体験を与えてくれる。DJ感覚とバンド・サウンドとリスニング・ミュージックの理想的なハイブリッドが完成!!」。
ステファン・レイセリング:我々の音楽をどのようにリスナーが聴いてほしいのか、沖野さんは絶妙に表してくれていると思います。そんな訳で、我々のStrataのアルバムに取って完璧な発言なので、多くの人がこれを読み、興味を持ってもらい、聴いてくれることを願ってます。
──そしてザ・ルーツのクエストラヴさんからのコメントです。「大昔からのジャザノヴァの大ファンとして、彼らからは超一流な品質の音楽の卓越性他ならない完成度を常に期待しており、この新作も全くいつも通り変わりはない、最高品質な作品に仕上がっている。本作にはまた彼らの豊富な成熟ぶり、進化した成長と限界に挑む姿勢が大いに盛り込まれながら、彼らの心の奥底から来ている音楽創造の姿勢に対する使命に忠実であり続けている姿を明確に表している。ジャザノヴァ、頑張れ!」
ステファン・ウルリッヒ:私は彼のコメントを初めて読んだとき本当に言葉が出なかったです。我々はずっと前からザ・ルーツとトンプソンの大ファンで、彼らはレジェンドなので……そんな人が自ら書いてくれた、自分らの作品に対するコメントを読むのは、極めてショッキングです!
──最後に日本の熱烈なジャザノヴァのファンにメッセージをください。
ステファン・レイセリング:25年間も我々のことをサポートし、音楽を聴いてもらい、本当にありがとうございます! 皆さんのためにまた日本に行き、この新作アルバムに収録されている全楽曲の生演奏をしたいと強く望んでいます。毎回日本に行き、いつも楽しませてもらってます!
インタビュー・高山康志/RUSH! PRODUCTION
翻訳・日高健介
『STRATA RECORDS - THE SOUND OF DETROIT REIMAGINED BY JAZZANOVA』
BBE MUSIC / 180 PROOF
OTLCD2600 ¥2,300+税(ボーナストラック、日本語解説付き)
◆BBE Music オフィシャルサイト
◆180 Proof オフィシャルサイト
◆ジャザノヴァ オフィシャルサイト
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