【楽器人インタビュー】鈴華ゆう子(和楽器バンド)「全部ひとつにしたらすごい力になる」
和洋楽器各8人の演者が各々のこだわりと協調性をバランスさせながら、唯一無二のバンドアンサンブルを組み上げる和楽器バンドは、その上で鈴華ゆう子という稀代の歌い手が華を咲かせて完成を見せる。
◆鈴華ゆう子 ステージ使用アイテム
和楽器と洋楽器の融合という言葉の上では簡単な表現方法も、各パートの演者が歩んできた足跡とそのエピソードを紐解くことで、いかに斬新であり困難な道程であったのかがつまびらかになった。
8週にわたって各メンバーひとりずつに行ってきた楽器人インタビューの和楽器バンド編、いよいよオオトリはもちろん鈴華ゆう子の登場である。
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──音大ピアノ科出身なわけですが、そもそも和楽器との出会いというのは…。
鈴華ゆう子:それはやっぱり詩吟です。詩吟は5歳から始めました。詩吟と剣詩舞、踊りを同時に始めたんですが、詩吟の伴奏楽器が箏と尺八なので、詩吟の大会の本番のときには必ず生演奏を伴奏に詩吟を歌うんです。毎年コンクールがありまして、子供の頃からそれに必ずチャレンジをしてきたので、夏になると尺八と箏の音色に包まれてテンションがあがるという感覚がありました。
──詩吟の世界は、多くの人にとって未知の世界じゃないかと思います。
鈴華ゆう子:中学生になると古典で漢文とかやるじゃないですか。私は詩吟の大会で東京へいくのに学校をちょっと休んだりするときもあったんです。で、国語の授業のときに先生が「詩吟やってるんでしょ? ちょっと皆の前でやってみて」みたいなことがあって、それでみんな漢詩と詩吟がリンクしたりして。他の生徒たちも「さっきの授業中に聞こえてきたの、なんなの?」みたいな(笑)。
──えっと……詩吟と漢文ってどういう関係があるんですか?
鈴華ゆう子:詩吟自体が漢詩を読むものなんです。もともと江戸後期ぐらいから始まった伝統文化・芸能なのですが、詩自体は昔の中国、あるいは日本の武将とか……武将以外ももちろんたくさんあるんですけど、その人たちが残してきた漢詩や和歌や俳句などに、独特の節回しで読むものなんです。音階はミファラシドの五音構成が基本です。
▲鈴華ゆう子
──全然知らなかったです。
鈴華ゆう子:もともとは志士などが朗々と読んでいたんですけど、それに段々と旋律が付いていった。詩吟は、言葉の途中で節回しをするんじゃないんです。例えば「おは~よう♪」じゃなくて「おはよう~♪」って母音で延ばすのが特長なんですが、それはもともと詩を読むってところが中心にあるから、言葉を読みきってからその後に節をつけるようになっていったんですね。そこに、より音楽性を追加するために音程が付き、江戸時代に流行っていた尺八や箏が伴奏楽器として入ってきたんです。
──詩吟って、当時のエンターテインメントだったんですか?
鈴華ゆう子:うーん、エンターテインメントになったのはもうちょっと後ですね。明治以降いろんな流派がどんどん広がっていって、歌い方とかがちょっと変わっていった。剣詩舞も元々は武士の心得とか所作、立ち振る舞い…それがだんだん武芸になっていって、ステージ上のパフォーマンスにまでなっていったんです。そういう伝統をつないでいこうという流れになったんですけど、エンターテインメントという認識はもっと後々ではありますね。
──日本人なのに、近代日本の文化すら知らなかった。
鈴華ゆう子:もともとは、武士の詩文のなかにどういう心情が描かれているか。「戦いに行く前の言葉を直で言えないけれども家族を思う心」が歌われていたりとか、あとは「お金があるときは僕のもとにたくさん人が集まってきたけれど、なくなると人っていなくなるよね。でも燕は毎年この巣に帰ってきているな」みたいなことを歌っている詩とか。そういうところから得られる日本人の情緒だったり、日本人の気質とかを学ぶっていうものが、詩吟とか剣詩舞の中にはあるんです。私自身、漢字も平仮名も読めない幼いときから始めたので、なんにも分からなかったんですけど、もともとサウンドがかっこいいからやりたいっていうのが基本にあったので、深く知るのは後からついてくればいいって思っています。なんかカッコいいなとか、日本人としてすごく魂揺さぶられるようなサウンドだなとかをみんなに感じてほしいっていう気持ちがあって、私ができるものをひとつにまとめて気軽に届けられないだろうかっていうのが根本にあるんです。詩吟は着物を着て歌うのが主流ですが、吟にふさわしい色や柄を選び扇を持つ習慣があります。所作は今のパフォーマンスにも活きていますし、これまでの経験がオリジナルの衣装を考えるうえでも役に立っています。
──それでニコニコ動画にも活動の場を設けながら、和楽器バンドへと自然につながることになるんですね。
鈴華ゆう子:ちょうど詩吟の全国大会で優勝できた年と、ニコニコ動画内のミスコンで優勝したのが同じ年で、2011年の12月にコンテストで1週間おきに優勝がとれたのが私の転機なんです。その賞のなかのひとつに、幕張メッセのステージで歌えるというものがあって、それは私にとってチャンスだけど、真面目にやってもつまらないから、面白いことやらなきゃって思って、詩吟を採り入れたんです。DJと一緒に舞も詩吟もパフォーマンスして、それでいて若手の和楽器奏者がバックで一緒にパフォーマンスしてたらカッコいいだろうなって思って。
──そういう人ってこれまで現れなかったですよね。
鈴華ゆう子:詩吟で優勝すると、基本はさらにその世界に深く入っていって運営とか師範とかをやることがほとんどなんですけど、私は、今の時代はあえて伝統の世界に入らずにむしろ広げていく活動のほうが面白いんじゃないかと思って、そこから大さん(神永大輔)と(いぶくろ)聖志に出会うんですよ。
──詩吟の師範にまでなった人が、なにやっちゃってんのという逆風はなかったですか?
鈴華ゆう子:最初の頃、気軽に詩吟をYouTubeに上げたりするとあまりいい顔をされない方も少しだけいたんですけど、私が所属している流派である日本壮心流の宗家はすごく柔軟で、むしろ面白いこともどんどん演って、知らないことはもっと知りたいという気質の方なので、私の周りには反対する方はいなかったんです。恵まれていましたよね。そのうち大会にゲストとして呼ばれるようになり、宗家が色々な方を紹介してくれるようになったことで段々と広がっていきました。この8年でずいぶん空気も変わりましたね。
──詩吟と比べると、8人のメンバーが音を出す和楽器バンドという爆音環境は、それまで経験しなかった感覚や難しさを感じるものだったでしょう?
鈴華ゆう子:そもそも私は爆音が得意じゃないので、最初は大変でした(笑)。元々クラシックをやっていたので生音も好きで、空間の音を感じたいタイプなんですよね。ただ、町屋さんと出会ったことでロックをより深く知っていくことになるんです。お互いただの音楽好きなんですけど、彼は彼でクラシックにすごく興味があって、情報交換みたいな感じですね。私もジャンル的な隔たりをなくしたいという気持ちもあったから。なんとなく、クラシックの人・ジャズの人・ロックの人…みたいな隔たりがあるじゃないですか。そこで色々な音楽を聴くようになった時「私が詩吟をテンポ早く歌えるように技術を採り入れて歌ったら、絶対カッコよくなるんじゃないかな」って思ったんです。大さんや黒流さん、聖志と出会って、みんなおもしろいことを演っているから、全部ひとつにしたらすごい力になるんじゃないかなって。
──結果的に、イヤモニ必須な壮絶な音響の真ん中に立つ事になるんですね(笑)。
鈴華ゆう子:あそこのポジションに立つと、和太鼓とドラムの大音量が来て、三味線・尺八・箏という通常上物の役割の楽器がボーカルと同じような音域で折り重なり、そこへ更にギターとベース2つのアンプから音が鳴り響くのでビックリすると思うんです。和楽器バンドの中で歌うのって、一度体験して欲しいって思うぐらい(笑)。なので、イヤモニも最初は慣れなかったけれど、この音楽をやるうえで絶対にはずせない存在です。
──生音はなかなかのカオスでしょうね。
鈴華ゆう子:とんでもない世界なんですよ(笑)。初めてスタジオに入ったときなんか、歌なんて敵いっこなくて、自分の声が聞こえないから耳を塞いで歌うんですけど、ピッチをとるのは自分で養ってきた感覚でしかない。そこでピッチをバシバシあてていくためには、イヤモニがやっぱり欠かせないんです。あそこの立ち位置に立って、一番衝撃を受けるのは身体に伝わってくる振動で、立ってるだけで地震が起きてるみたいな感じ。それに背中をドカンと押されて、真ん中で歌うぞってなるんです。
──歌うのに覚悟が必要?
鈴華ゆう子:もともと私はちょっと系統が違う子だったので、「変身!」ってもうひとりの「鈴華ゆう子」になるみたいな。自分は自分なんですけど例えばセーラームーンとか、なんとかレンジャーみたいに、変身後の自分と変身前の自分っていう感覚はあります。そのスイッチがすごく入るのが和楽器バンドなんですね。まるで役者になったように、私はそこでのパフォーマンスを楽しんでいるんです。今ではイヤモニ自体は変身道具の装備のひとつです。
──やってみて初めて分かることもいろいろあったんでしょうね。
鈴華ゆう子:始動した当時は、音楽性以前にこのバンドを継続させるためには絶対資金が必要と思いました。なぜなら、ステージ上の演奏をCDのようなバランスで届けるためには、プロフェッショナルな外音を整える音響スタッフさんが、そしてパフォーマンスをかっこよく見せるためには照明さん、ビジュアルを整えるメイクさんが必要なので。自分達アーティストだけでは無理で、それ以外のプロの方々と関わって環境を整えていかなければいけないと、そのことを一番考えてました。もともと事務所に入ることやレコード会社と契約することが音楽においてすべてとは思っていないんですけど、和楽器バンドをインディーズで動かすには自己資金では難しいと思います。
──ビジョンをしっかりと立て、そこに向かって組み立てていく作業をしたわけだ。
鈴華ゆう子:このバンドが始まる前から、メンバーそれぞれがバンドを持っていたり、確立した音楽活動をやっていたりもしたし。それぞれの人生を抱えているみんなが私の話に乗ってくれたから、和楽器バンドを始めることに最初は負い目を感じていました。だから、誰もがやって良かったと思えるような世界を必ず築く!という強い思いがありました。
──責任と覚悟か。
鈴華ゆう子:とにかく生活ができるようにお金にもしていかなきゃ音楽は続けられないだろうし。私は最初にネットの配信から始めたんですが、ネットを見て声をかけてくれたいろんな方とお会いしてお話をして、この人だったらおもしろく一緒につくり上げられるかもって思ったのが、たまたまレーベルの人だったんですね。レーベルで選んだのではなくて、人で選ばせていただいて、一緒にやろうってタッグを組んでスタートした感じでした。
──とてもピュアだけど同時にパワフルでもありますね。だからこそ奇跡的な出会いや歯車の噛み合わせがあったのかも。
鈴華ゆう子:可能性とか夢を見れるような状況をつくらなきゃってことに必死だったので、とにかく最初に何の曲をやろうかって考えるところから始めました。ボーカロイドをやろうってなったときに、その中でも何をどうやろうか発想することと、それを現実にしていくひとつひとつが私にとって一番楽しいことなんです。アイデアを出したりそれを形にするところに関わっていかないと自己表現はできないと思っているから。そもそも音楽をやっているだけだと、自己満足のまま死んでしまうような気がして。
──そうなのか。
鈴華ゆう子:そういう発想をするところからボーカロイドのカバーを始めて、再生数もどんどん上がっていったし、メンバーも夢を見てくれた。そこで、何かお金になるような仕事を作って次のステップの夢を見させられないだろうかという話を仲良くなったレーベルの人にして、じゃあ契約はまだだけどアルバム出してみようかってことになったんです。動画を出して準備を進めていくうちに、いろんな契約の話などもいただくようになっていったんですね。そうやって、初期の頃はちょっとずつでも夢を一緒に見れるようにしていくことに必死だったんです。
──全ては偶然などではなく必然…というか当然の結果だったわけだ。
鈴華ゆう子:このメンバーじゃないとうまく回らなかっただろうし、8人って相性がとてもよくないと、なかなかまとまるのは大変だと思うんですけど、8人いるからこそバランスが取れるところもあるのかな。3人とかのほうが難しいかも知れないですよね。
──そんな大所帯のバンドのフロントに立つ歌い手ですが、これだけ歌がうまくなったのは積み重ねですか?それとも最初から上手かった?
鈴華ゆう子:歌、上手いですか?(笑)。私は好きっていうのが一番です。「詩吟をやってたから」って言われがちなんですけど、もともと自分の中では詩吟と歌は繋がっていないんです。とにかく歌が好きで、カラオケとかも小学生の頃は家族で行って、中学校ぐらいで友達と行くようになって、その時にみんなが「うまい、もっと歌って」って言ってくれるのが喜びになって、J-POPのトップ10はいつでも必ず歌えるようにしようなんて思っているうちに、どんどん歌を歌うことが好きになった。もともと好きだったけどもっと好きになったんです。
──歌のどういうところが好きですか?
鈴華ゆう子:ピアノと違って自由なところ。ピアノはむしろ頑張って努力しないと人前でやっちゃいけないみたいな、本気でやってたからこそ逆に自信が持てないところもあって、それが緊張になり本番になって「思うようにいかなかったな…」みたいな部分があるんです。緊張の方が大きくて、やったあとの爽快感より反省が多かったり。でも歌は本当にただ好きで楽しめるので、失敗があっても「まあ生き物だから、今日はこうだったけど次はこうしようかな」って楽しめるんです。
──なるほど、メンタルがぜんぜん違うんですね。
鈴華ゆう子:ただ今となっては、ピアノも愛せるようになりましたよ。幼いころからずっとソルフェージュのレッスンにも通っていたので、譜面がすぐ読めるとか、音を聞いただけですぐ曲が弾けるとかピッチがとれるとか、他の楽器もすぐ分かる柔軟性につながるとか、とてもプラスなことが多いんです。私の場合、歌がうまいというよりそういった経験が活きているんだと思うので、もっとうまくなりたいです。
──ボイストレーニングの経験はあるんですか?
鈴華ゆう子:ボイトレはあんまりちゃんとはしたことないんです。詩吟はやってますし、あと声楽…オペラはやったことあります。
──それらの経験が全てつながっているのかな。
鈴華ゆう子:親に感謝ですね。色々経験させてもらったことが活きているのかな。詩吟はたまたま実家のピアノ教室に習いに来ていた人が誘ってくれたのがきっかけ。声楽は、ピアノ講師として声楽科の子にピアノを教えたり伴奏ピアニストをしていた時に、「もっとピアノで伴奏うまくなりたい」「自分も声楽がうまくなりたい」と思って、東京音大の教授のところに行って「私も声楽やります」って言って習ったんです。ベルカントなどの歌唱法を習って、イタリア語で歌うみたいなことをやって歌心を知りました。
──ストイックなのかおおらかなのか、よくわからない(笑)。
鈴華ゆう子:すごい辛かったですけれど、子供の頃はバイオリンもやっていて「ピアノとバイオリン、将来はどっちで音大に行くんだ」「お前は暖簾に腕押しだ」とか言われながらピアノを選んだという時期もあったんです。
──そうなんですか。
鈴華ゆう子:早くに父の死があり、自分が音楽で生きるか家族を養うために一般企業ですぐに働きに出たほうがいいのかって悩んだこともありました。親子関係って、のちの人格形成にも大きく関わると私は思っているんですけど、私の母は音大出身で非常に厳しい教育で、父は建築系で趣味でジャズをやってるという家庭で。で、父は私のピアノがすごく好きで、仕事から帰ってくると、いつも聴きに部屋に入ってきて、それが嬉しくて私もしばらく聴かせていたことが癒しや甘えだったりしていたんです。でも父が49歳で亡くなって、ピアノを弾くと、聴きにきてくれない父のことを思い出して、どうしようもなくピアノを弾くのがつらくなってしまって。
──ええ。
鈴華ゆう子:自分の表現の矛先は音楽でしかないんだけど、そこで救われたのが作詞作曲だった。ピアノが弾けないときに、歌を作ってピアノの曲をかいて、それを残して自己実現をすることに没頭しました。元々「自分で曲を作って歌うことが私のやっていきたいことで、ピアニストじゃない」っていう思いがあって、母に相談したところ、歌手になるのはいいけど、どうなったらなれるのか分からないんだから、とにかく音大に行ってこれだけやってきたピアノなんだから卒業するまではやりきったら?と。その後は自由にやったらいいでしょって。
──なるほど。
鈴華ゆう子:音大に行けば東京に出られるし、そこからは自分次第だと思いました。ピアノと音楽を辞めたところでお父さんが喜ぶかといえばそうではないんだから。自分で音楽を作って表現する…そのために、音大卒業後は音楽教室で講師をやりながらも、楽器でチームを組んで「パーティーでこういうのどうでしょう」って企業さんにプレゼンして、色んなところで演奏することを仕事にしていました。他にはブライダル演奏なども。でもお金がないから、一般企業にも勤めながらですけどね(笑)。
──ミュージシャンとしての自分をプロデュースする作業を続けてきたんですね。
鈴華ゆう子:デビューして8年経ったけれど、あっという間に時代が流れている感覚があります。最近は、自分も常に変化しないと時代には置いて行かれるなってことをよく考えてます。
──引き出しや経験が尋常じゃないから、これからこそが楽しみです。
鈴華ゆう子:頭の中で思い描いているだけじゃ意味がないので、自分ができることをちゃんと届けられるようにするには、何をどうしたらいいかって試す行為を常にやっていかなきゃなって思ってます。SNSを含めて届ける方法が増えたので、どうやったら多くの人に届くかを試行錯誤して、私もそれ自体を楽しみながら未来を楽しみにしてます。
──勇気やチャンレンジ精神、自分に対する切磋琢磨…素晴らしいな。
鈴華ゆう子:ひとりだったらできないことも仲間がいることでできるところもあるかも知れない。音楽家としてはアウトプットがやりがいを感じるタイミングで、表現してる瞬間は言葉にならないぐらい最高なんですけど、皆さんの反応を見てる時の幸福度もかなり高いんです。同時に「次の世代の人たちがこれを見て、さらにすごいことやっていくんだろうな」「最近の子たちってすごいな」みたいなことを楽しんで生きていきたいなって感じもあるんです。今にして、それをすごく強く感じるようになりました。
──そんな中で和傘への支援を始めていますが、あれはどういった経緯だったんですか?
鈴華ゆう子:「たる募金」のことですよね。「たる募金」プロジェクトは、日本の伝統芸能・文化をサポートする活動で、第1弾が三味線の老舗メーカー東京和楽器さん、第2弾が広島県福山市の琴工房、そして今回第3弾として岐阜の和傘への支援を選ばせて頂きました。以前より自分の表現の道具として扇子や和傘を使ってのパフォーマンスをしてきていて、舞扇子の状況の大変さを京都の白竹堂さんや浅草のお店からよく聞いていたんです。また、数年前には岐阜県の和傘の職人さんと知り合うきっかけがあって、そのときにも和傘職人が大変だと聞いていました。ろくろっていう部分をつくる職人さんが70代になっていて最後のひとりらしいんです。和傘1本作るのに18工程あり、それぞれのパーツごとに職人さんがいます。後進の育成にも時間とお金がかかってすぐできるものでもなく、技術は一度絶えるともう戻ってこない。機械ではやはり全然違うものができてしまうんですよね。舞扇子とも迷いましたが、両者に改めて現状のお話を伺って、今回は和傘への支援をプロジェクトとして取り組むことにしました。
──なるほど。
鈴華ゆう子:和傘を1本作るにしてもすごく時間がかかるけれど、物価の価値が変わっているのに、その値段は当時から変わっていないんですって。値段を上げてもみんながついてこれないという現状もあるけれど、文化を守るためにはみんなが知って、進化していかないと。なので和傘を使うなかで「これはどこどこの和傘だよ」「同じものが作りたければ発注できるよ」と発信もしていたんですけど、「たる募金」第3弾では、より多くの人に現状を知ってもらえるきっかけになればと思ったんです。募金してもらうことが大事なのではなくて、まず「今はこんな状況だよ、どうする?」ってことを知ることが大事で、和傘を使ってもらわないと始まらないので「和傘って実は雨の日に普通に使えるんだよ」「高級って思いがちだけど、ずっと保つし、すごい技術がこんなところに使われていて粋だよね」「持つ人を美しく際立たせてくれて、凛とした気持ちにするよね」って、普通に道具としていいなと思える状況を残していけたらと思います。
──和楽器バンドのステージを通して、伝えたり見せたりすることができるわけだ。
鈴華ゆう子:はい。今回のライブツアーでもふんだんに和傘を使っています。私と同世代の河合さんという和傘の職人さんがいて、その方に私のオリジナルの和傘をつくってもらっているんですよ。パフォーマンスの中で和傘を持って歌いますし、和楽器をバックに舞う振り付けにも和傘を使うので、自然に和傘の美しさが目に入るような演出を考えています。和楽器バンドのステージやたる募金プロジェクトを通して、和傘の良さを知っていただけると嬉しいですね。
──素敵なメッセージにもなりますね。
鈴華ゆう子:和傘ではないですが、ツアーグッズとしても扇子をずっと続けているんですけど、一本一本全部手作りで職人さんが京都で作ってくれているんです。職人のグッズも珍しいので、触れてみて使って初めて知るのもいいですよね。「知ってた?これ手作りだったんだよ」みたいな自然な広がり方がいいなって思います。昔のものからコレクションして集めてくださってる方もいるんですよ。
──ものだけじゃなく、思いが伝わることこそが大事なことだから。
鈴華ゆう子:コロナ禍で外国人観光客も減りましたし、冬の時期に扇子が売れることって基本ないんだそうです。でも和楽器バンドのライブは11月まであるので、そういうタイミングで資金が回ることも未来へつながる重要なポイントになるかもしれません。今回のライブでは、8周年を記念した“インフィニティ(∞)”を入れた柄の扇子を使っているんですけど、これ、私がデザインしたんですよ。
──カッコいい。
鈴華ゆう子:楽器じゃないけど、扇子ひとつとっても、それを持ちながらそこに込められた技術をステージで披露するのも和楽器バンドならではだと思ってます。
──グッズで扇子を買ったら、まずは鈴華ゆう子を真似するよね(笑)。
鈴華ゆう子:TikTokやYouTubeで舞扇の使い方や回し方をレクチャーした動画をあげると、「できました」とかってファンの方が連絡くれたりしますよ(笑)。扇子も、ステージというエンターテイメントのための私の変身道具の一部なんですね。
──舞扇子、難しいですか?簡単ですか?
鈴華ゆう子:よく聞かれるんですけど…私5歳からやってるから、簡単なのか難しいのかわからなくて(笑)。でも、実は一枚目を片手で開くこと自体なかなかできないってよく聞きます。でもやれば絶対できるから、その段階を踏むのがおもしろいと思います。
──<8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity ->でも見どころはたくさん隠されていそうですね。
鈴華ゆう子:コロナが心配ですけれど、声を出さずに楽しめるライブを作るという意味ではだいぶ状況を把握できて、人の気をちゃんと浴びてパフォーマンスできますし、張り扇を使ったリズム遊びをみんなでやるような体験もあるので、歓声や掛け声がなくてもみなさんが非日常感を感じられ、例え1曲も知らなくても思い切り自分を解放できるような、そんなステージになっていると思います。
──楽しみ。
鈴華ゆう子:和楽器バンドを観に来る人が何を求めてるのかを、私は大事にしたいんです。せっかく来てくれた人の時間をいただいているので、「そう、これが欲しかった」「これこれ!」っていうのをたっぷり返してあげられるような、そんなステージ作りを意識しています。和楽器バンドらしさですよね。今回はコロナ禍でつくった新曲も多いですけど、昔からのファンの方が昔の曲を聞きたいシーンもあると思うので、そこも逃さずやっています。
──今までにやったことのないチャレンジは?
鈴華ゆう子:和傘をステージ上にどばーっと出すシーンがありますよ。新曲としては、NHK Eテレアニメ『あはれ!名作くん』の主題歌「名作ジャーニー」をライブでも披露します。ライブ会場で限定販売されている新曲のCDでは原曲どおりなんですけど、ライブでは曲中で日替わりのソロコーナーを作っているんです。「今日は○○」って指名された人がソロをするんですけど、その時にちゃんと演奏するかどうかは自由で、踊る人もいるかもしれない(笑)。そういうふざけるシーンが見れるかもしれないのは、和楽器バンドの全国ツアーならではだと思ってます。
──ライブの醍醐味だ。
鈴華ゆう子:私は和楽器バンドのメンバーを、ディズニーのキャラクターみたいな感じだと思っているんです。ミッキーは絶対的にセンターにいるんだけど、ドナルド、グーフィー、プルート…がいて、その瞬間瞬間ではどれかのイベントをして、みんなでその人のグッズを持って盛り上がる。ウォルトディズニーの世界って、和楽器バンドの参考になっているんですよ。
──みんなの存在感と愛くるしさ、ね。
鈴華ゆう子:ミッキーが皆から愛される理由って、居て当然という安心感だと思っているんです。だから私は居て当然なんだけど、それに気付かず忘れるくらいのセンターのボーカルでいたいなって思ってます。いるから安心して周りがふざけられるみたいな、そんな存在を目指して頑張っていきたい。ミッキーとドナルドが仲良くしていてみんなが幸せ…そういう平和な世界が今の世の中にはとても必要なんじゃないかなって。
──それは日本だけじゃなく世界的に必要かも。
鈴華ゆう子:そうですね。なので、和楽器バンドはかっこいいだけじゃなく、そういう楽しいシーンはどんどん見せていったほうがいいバンドなのかな。
──喉も大事にしてくださいね。
鈴華ゆう子:私、喉にはあんまり優しくしないタイプ(笑)。結構強いほうなので、喉自体をケアするってことはあんまりしなくて、むしろ身体のほぐしとか柔軟性とかを念入りにやっています。
──喉、強いんですね。
鈴華ゆう子:節調というんですが、こぶしを使うときって、お腹から声は出すんですけど喉を狭めて空気を通すことにはなるので、声帯の作り的に日本人に向いているんです。海外の人は逆にマライア・キャリーさんみたいなフェイクとかのほうがうまくいくと思うし、日本人は民謡とか詩吟みたいに声を転がして歌う方が喉に負担が少なくて得意なものなんですよ。
──ステージでのエンターテイメント、とても楽しみです。ありがとうございました。
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
写真◎KEIKO TANABE
■和楽器バンド「たる募金」プロジェクト 第三弾 岐阜和傘 支援
https://wagakkiband.com/contents/435522
■<和楽器バンド 8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity ->
2021年
10月16日(土)静岡・静岡市民文化会館 大ホール
16:15 / 17:00[問]ズームエンタープライズ 052-290-0909
10月17日(日)岡山・倉敷市民会館
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
10月23日(土)山梨・YCC県民文化ホール
16:30 / 17:00[問]ディスクガレージ 050-5533-0888
10月24日(日)東京・TACHIKAWA STAGE GARDEN
16:30 / 17:00[問]ディスクガレージ 050-5533-0888
10月28日(木)大阪・梅田芸術劇場メインホール
17:30 / 18:30[問]グリーンズコーポレーション06-6882-1224
11月5日(金)熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール (熊本市民会館)
17:30 / 18:30[問]BASE CAMP092-406-7737
11月7日(日)福岡・福岡サンパレス
16:00 / 17:00[問]BASE CAMP092-406-7737
11月13日(土)広島文化学園HBGホール
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
11月14日(日)島根・島根県民会館
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
11月20日(土)北海道・カナモトホール (札幌市民ホール)
16:00 / 17:00[問]ウエス 011-614-9999
11月23日(火・祝)新潟・新潟テルサ
16:00 / 17:00[問]FOB新潟 025-229-5000
11月28日(日)茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール
16:30 / 17:00 [問]ディスクガレージ 050-5533-0888
【一般指定席/着席指定席】
チケット料金:前売¥10,000(消費税込み)/当日¥11,000(消費税込み)
席種詳細:※着席指定席は、小さなお子様、ご年配のお客様、ファミリー、その他ライブを着席してご覧になりたいという皆様の為にご用意させていただく「着席観覧」用のお席です。※ライブ中は必ず着席して頂きます様お願い致します。※ステージからの近さを保証する座席ではございません。
※予定枚数に達し次第、終了となります。
チケット購入リンク:https://wgb.lnk.to/Tour2021
ツアーに関する詳細は、和楽器バンド 公式サイト:https://wagakkiband.com/まで。
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