【インタビュー】GLIM SPANKY、5thアルバム完成「進化し続けていることが伝わるような作品に」
GLIM SPANKYが10月7日、フルアルバム『Walking On Fire』をリリースした。彼らならではと言える確固たるスタイルを持ちながら、松尾レミ(Vo,G)も亀本寛貴(G)も「それをマイナーチェンジするだけではつまらない」と言った。
◆GLIM SPANKY 画像 / 動画
実際、GLIM SPANKYはアルバムを作るたびごとに新たな挑戦を繰り返してきた。そして今回、5枚目のアルバムとなる『Walking On Fire』で彼らの挑戦はさらに大胆なものに。ブルースロック、サイケデリックロック、フォーク/カントリーロックといった以前からの持ち味も存分に生かしながら、コンテンポリーなブラックミュージックや打ち込みのサウンドも吸収した全12曲から浮かび上がるのは、未来をしっかりと見据えた上で、今この時代と取っ組み合う若いバンドの姿だ。アルバムのことはもちろん、自らの音楽観についても率直について語ってくれたふたりの言葉に、ぜひ耳を傾けていただきたい。
◆ ◆ ◆
■ロックをやっているミュージシャンとして
■やっぱり時代を切り取らなきゃと思った
──『Walking On Fire』を聴かせてもらって、GLIM SPANKYらしさをしっかり感じさせながらも、新たな挑戦がとても痛快でした。閃きや、いわゆるバンドサウンドだけにとどまらない、いろいろな仕掛けが散りばめられ、聴くたびに新たな発見があって、とても聴き応えがありましたが、おふたりはどんな手応えがありますか?
松尾:私は今回、けっこう苦しんだんですよ。それは自分にとって新たな表現を開拓しなきゃいけないというか、進化し続けていることが少しでも伝わるような作品にしたいと思ったからなんですけど。“進化している”と自分の中でわかっていても、進化していることを伝えるのは難しいと改めて思いました。それをどういうふうに表現していくかというところに苦しんだというのがひとつと、あとはやっぱりコロナ以降の自粛ムードの中、音楽の聴き方とか、伝わる音楽というものの変化があったと思うんですよ。私たちで言えば、今まではライブをバーンとやって、フェスもいっぱい出て、ツアーもやってというやり方で表現していたロックというマジックを、今、ライブができないわけですから、一回、フラットに考えなきゃいけなかった。ライブパフォーマンスやファッションも含めての表現だったものを、ネットだけでも伝わる音楽にしなきゃいけないという時代の流れに、どう向き合っていけばいいんだろうというところでも考えましたね。それにはロックをやっているミュージシャンとして、やっぱり時代を切り取らなきゃと思ったんですけど、今の時代をいろいろな捉え方をして、いろいろな角度から書くというのはけっこう大変でした。
▲松尾レミ(Vo,G) |
松尾:はい、しっかりと完成できたというふうに満足しています。なおかつ、それだけで終わらずに、それだけ苦しんだ分、次の制作に向けての意欲も一緒に沸き上がってきたんですよ。
──このアルバムが今回、求めていたものの答えだという自信もある、と。
松尾:めちゃくちゃあります。今回、5枚目ですけど、これまでで一番悩んだんです。中でも「東京は燃えてる」は、歌詞を何回書き直したかほんとわからない。それぐらい悩んで、悩んで、やりきったので、私は満足しています。
──亀本さんはいかがですか?
亀本:コロナ禍以前には大体、曲も揃っていて、以降に作ったのは、自粛期間中に配信リリースした「こんな夜更けは」だけなんです。それ以外の曲は全曲、コロナ禍以前にできていたので。
松尾:歌詞は何もできていませんでしたけどね。
亀本:3月から6月までめちゃめちゃ時間があったので、音楽のインプットも増えたし、練習もできたし、そこでけっこうアップグレードできたんですよ、自分自身を。ただ、それをそこまで反映はできなかったかな、曲という枠自体はほとんど出来上がっていたので。もちろん、生音を録った後の打ち込みのアプローチなんかは、それなりにできたんですけど、基本的にはコロナ禍以前に作っていたサウンドではあるので、個人的には“この次、何を作ろうかな”ってところに意識は向かっているんです。だから、今回のアルバムをベースに、さらにバージョンアップしたものを──アルバムの出来にかなり手応えがあるし、それに自分にできることも増えたという感覚もあるので、それを推し進めたいと考えているんです。けど、リスナーにとっては、いいバランスになったのかなと思います。
▲亀本寛貴(G) |
亀本:もし、コロナ禍が明けてから作ってたら、たぶん既存のファンの方たちを置いてけぼりにするようなアルバムになっていたと思うんですよ。
──ああ、なるほど。
亀本:こういうことをやっていきたいというものと、元々のGLIM SPANKYの要素と言うか、元々僕らにできていたことのバランスがちょうどいい具合にはなっていると思いますし、さっき松尾さんが言っていた「東京が燃えてる」とか、コロナ禍中に作った「こんな夜更けは」とかは、リスナーさんのリアクションを見ていると、今まで絶対、GLIM SPANKYを聴いていなかったような人たちにも届いていると思うので、そこにも手応えを感じていますね。
──亀本さんは苦しまなかったんですか?
亀本:苦しんだことはあったかな。逆に言うと、いわゆるGLIM SPANKYのステレオタイプ的なイメージに応えるのは大変でしたね。
──そうなんですか?
亀本:だって、僕らからしたら、もうできることなわけだから。そういう意味で、自分たちとしてはそんなにワクワクしないけど、求められていることってあるじゃないですか、誰しも。だけど、アルバムにはそれが欠かせない。そういうところのモチベーションを、どう上げるかってところでは苦労しましたね。たとえば、前のアルバム『LOOKING FOR THE MAGIC』の話なんですけど、「愚か者たち」って曲があって、それってリリースする1年前には録り終えていたし、僕ら的には別に新しいこともやっていないから、安パイな曲かなと思いながら出したんですよ、僕は。だから、“いつものGLIM SPANKYだね”ぐらいの反応で終わるのかなと思ったら、その曲のリアクションがとても良くて、“あれ?”みたいな(笑)。“特にアップグレードされてないけど、この感じ、みんな大丈夫だったんだ。わざわざ新しいことをやらなくてもいいんだ”っていうのがあって、それって作る側からしたら、モチベーションは上がらないじゃないですか。今まで自分らがやってきたことをマイナーチェンジしているだけだから。そうじゃなくて、やっぱり今まで、これやってなかったとか、出来てなかったとか、そういうことをやる時のほうがエネルギーは出ると思うんですよ。あたりまえですけど。
──それは確かに。
亀本:でも、長く続けている人たちって、わかっているんですよね。“これを俺らがやれば、みんなが歓ぶ”ってことを。それを定期的に出せるわけじゃないですか。だから、長くやっている人たちの凄さを感じたところもあって。
──ああ、逆説的に。
亀本:これ、ずっとやっているんだからすごいよなって。
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