【インタビュー】和楽器バンド、「音楽ができている“今”を大切に」

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和楽器バンドが10月14日にニューアルバム『TOKYO SINGING』を発売した。本作はユニバーサルミュージック移籍後初のアルバムで、「TOKYOからイマ届ける」というメッセージをもとに制作された。

◆撮り下ろし画像・全曲ダイジェスト映像

EVANESCENCEのエイミー・リーとのコラボ曲が収録されていたり、久しぶりのボカロカバーに挑戦したりと、前作アルバム『オトノエ』とはガラリと趣きを変えた。そこにはどんな思いや挑戦が込められていたのか、鈴華ゆう子(Vo)、町屋(G &Vo)、山葵(Dr)の3名に話を聞いた。

なお、本作のリード曲「Singin’ for...」についてのインタビューは、コチラにて公開中。あわせて読んでいただきたい。

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■裏テーマは原点回帰

──『TOKYO SINGING』はどのように制作されましたか。

町屋:ちょうど自粛期間に制作していました。いつもは時間に追われながら曲を書いていたんですが、自粛期間でいつもより制作にかける時間がたっぷりとれて。それぞれが自分自身に向き合いながら作った作品というか、今のご時世だからこそできたアルバムではあると思いますね。

鈴華ゆう子:まっちー(町屋)の言う通り、デビュー以来、一番時間を使って曲を組み立てて作れた気がします。前作のアルバム『オトノエ』くらいから先にテーマを決めて楽曲を作るということを始めたんですが、「タイアップがついているからこの曲入れなくちゃ」とかなかなか思ったようにできない部分もあって。でも今回はみんなで曲を持ち寄って、一旦入れると決めた曲を落とすこともあったし、別の曲を急遽作って入れることもあったし、一番丁寧に作ることができました。メンバー同士でも「どういうアルバムにする?」ってことをたくさん話しましたね。


──そもそも、どういうアルバムにしようと思っていたんですか?

鈴華ゆう子:コロナ禍になる前から、「TOKYO」をテーマにするのはどうかと提案をもらっていまして。その上でそれぞれが思う「TOKYO」、つまり「日本の縮図」ってことにもなると思うんですけど、それを曲として書き下ろしていきました。

──なるほど、一貫したテーマがあったと。様々なテイストの曲が入っていながら統一感があると感じたのは、それが理由だったんですね。

鈴華ゆう子:そうかもしれません。和楽器バンドの要素をどうバランスよく配置するかということも、何度もリモート会議をして話し合いましたね。表題曲「Singin’ for...」を軸に、何曲目はこれ、全体の流れはこんな感じがいいんじゃないか、という風に作っていきました。

──と、なると選曲もなかなか悩んだのでは?

鈴華ゆう子:そうですね、全部で60曲くらい作ったかな? 

──それはすごい!

鈴華ゆう子:もう、和楽器バンドコンペですよ(笑)。私の場合だと、まず曲を書く。次にまっちーとアレンジするので、2人でどの曲を仕上げるか相談。ここである程度振り落とされる曲もあって、自分の中のコンペですね。そしてみんなが出してきた曲についても、私が歌ったらどうなるか考えて仮歌を歌って。最終的にスタッフさんを含めて選んでいきました。

町屋:お互いの曲について「こうしたほうがいいんじゃない?」と言い合うこともありますし、ひとつひとつの楽曲についても、さらに追求できるようになりましたね。

鈴華ゆう子:「バラード足りないね」「和楽器バンドっぽさが足りないね」とか、どんどん意見を言ってより良くすることができたので、すごくいいなと思いました。最初は11曲の予定で進んでいたんですけど、バランスを見て「やっぱりこういう曲入れたいね」って、さらに作曲の期間を設けて再募集したりもしました。

山葵:曲の再募集は二回くらいありました。時間がある分、一つの作品として突き詰められた気がします。


──サウンドの中心となっている町屋さんから見ると、『TOKYO SINGING』はどんなアルバムになっていますか?

町屋:今回は結構激しいですね。僕たちはバンド結成してすぐにデビューしたので、突き詰められないままに進んできてしまったところがあって。アルバムを作るごとにアンサンブルやチューニングを模索して、それぞれの楽器の音色がより聞こえるように工夫してきたんです。引き算をして極限まで削ぎ落としたのが前作『オトノエ』だったんですが、今回は「今の我々のアンサンブルで激しいナンバーをやったら別のものになるよね」ということに挑戦してみました。裏テーマは、原点回帰ですね。

──あーなるほど!最初に聞いた時に感じたロック感はそれだったのかも。あと、今作はボーカルがすごく生きているなと思いました。

鈴華ゆう子:嬉しい!最近、みんなが私の声をイメージしながら曲を書いてきてくれるのをより感じるようになったんですよ。みんなが「ゆう子が歌ったらこうなるんじゃないか」っていう想定のもと、私の声を鳴らしてくれているような。愛情を感じました。



──表題曲「Singin’ for...」を筆頭に、“今のこの状況”だからこその言葉が詰まっているところも特徴ですよね。「Calling」の歌詞では<大新年会>に向かう和楽器バンドの気持ちを想像しちゃいました。

町屋:確かに全曲メッセージ性が強いですね。「Calling」はこのアルバム全体のトレーラーみたいな、ダイジェストみたいなイメージなんです。一曲目にこれがあることで、アルバムの全体的なメッセージが伝わるし、「Calling」で始まって「Singin’ for...」で終わるのは美しい流れだろうなと思っていました。

鈴華ゆう子:「Calling」も「一曲目っぽい曲が欲しい」って再募集してできた曲だよね。曲の始まるところのワクワク感、すごく好きですね。

──さらに曲ごとの明暗というか、表裏一体感も面白くて。例えば「reload dead」の後に「生きとしいける花」で生死、という風に。

町屋:あぁ、それもありますね。この2曲は種明かしをすると、各ポジションで「ここはこういう曲だよね」っていうのが決まっていて、「reload dead」まではもともと固定。その後にミディアムバラードを入れたいなと考えた結果です。

鈴華ゆう子:「reload dead」の後はちょうど空いてて、「このバランスだったらこういう曲どうだろう」と思って「生きとしいける花」を書き下ろしました。

──ロックな曲の後にミディアムバラードが入ることで、より2曲が際立ちます。

鈴華ゆう子:「生きとしいける花」は最初はもっとバラード寄りだったんですよ。それにあえて“トコトコトン”というバスドラのフレーズを入れてくれたのが、やっぱりアレンジャーとしてまっちーはすごいなと思いました。

町屋:ゆう子が弾き語りで作ってきたものは、サビが8ビートで。ピアノの伴奏から考えるとそれがごく自然なんですけど、「reload dead」の流れを引き継ぎたかったので、割と激しめにリズムを入れ、Aメロで落としてBメロから復帰、サビでハーフに落とすという構成にしてるんです。サビのメロディは音符を結構間引いているので、そこに8ビートでリズムを入れちゃうと歌の良さが半減しちゃう。周りがダウンするのが、一番歌が生きますよね。

鈴華ゆう子:そう、これがすごく良かった!普通は激しい曲をピアノ弾き語りにするとシンプルになるんですが、私たちはその逆を仕掛けてるんです。「旋律がいいものが大事」という話はよくするんですが、まっちーは旋律を生かすようなアレンジを常に提案してくれます。

──「reload dead」と「生きとしいける花」の歌詞には、同じ「花束」がモチーフとして出てきていたりも。

鈴華ゆう子:リモートで会うこともできずにお互い曲を書いているので、意識したわけではないんです。でもメンバー同士、似た心境が生まれていたんでしょうね。ほかにも似たような言葉や意味は全曲通してあるかも。

山葵:「TOKYO」というテーマとコロナ禍で自粛中という、共通の状況で作ったからですよね。距離は離れてても、心情の寄った作品になったのかなって思います。

鈴華ゆう子:コロナ禍の影響で、ある意味世界が一度フラットになったことも私たちのアルバムに影響していると感じてました。いつもはメンバーそれぞれの世界観が全く違うから、「TOKYO」というテーマだけでは、ここまで共通点は生まれなかったかなと思います。

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