【レポート&インタビュー】首振りDolls、“現実”と向き合った新宿LOFT無観客ライヴ「ライヴがしたいの。とにかくそれが一番」

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北九州・小倉を地元とする首振りDollsにとって、新宿ロフトという場所は特別な場所だった。

憧れのアーティストが立った【ロックの聖地】の敷居は高く、彼らはそこに辿り着くために全国のライヴハウスで自らの音を我武者羅に掻き鳴らし、叫び続け、満を持してそのステージに立ったのだ。彼らが初めて新宿ロフトのステージにワンマンで挑んだのは昨年の夏。2019年の8月30日のことだった。


▲首振りDolls(@新宿ロフト 2019/8/30)

全国から首振りDollsのライヴを観るために集まった多くのロックファンと共に、最高のサウンドを届けた夏の日から約1年。コロナ禍の中、“無観客配信ライヴ”という形で、2度目の新宿ロフトのステージに立った首振りDollsは何を感じ取ったのだろう?

2020年の8月23日に行われた新宿ロフトでの配信ライヴを、レポートとアフターライヴインタビューで振り返ってみた。

※<首振りDolls 新宿LOFT one-man show〜CELL No.10〜>は、9月6日(日)23:59までアーカイブ放送。チケット発売中
https://loft-prj.zaiko.io/_item/328079
チケット価格¥3,000-(+手数料)

◆首振りDolls 画像


■ライヴレポート<首振りDolls 新宿LOFT one-man show〜CELL No.10〜>

2020年8月23日。本来なら1年前よりも更に多くのロックンロールファン達を巻き込み、新宿ロフトのステージで大暴れする首振りDollsの姿を観ていたに違いない。しかし、この日、新宿ロフトのフロアに居たのは、メンバーをはじめ、PA、照明、配信班と、最小限に絞られたスタッフ。“ライヴを行う上での必要最低限の人員”のみだった。

閑散とした現場。そこは、数時間後に熱が迸るROCK SHOWが繰り広げられる現場とは思えない静けさが漂っていた。それぞれが持つライヴに向き合う熱量はいつもと変わらず高いのだが、会場に入る際に徹底された検温や消毒や、有観客ライヴ時用に会場の床に貼られたガイドラインに沿ったオーディエンスの立ち位置印は、やはり“ライヴが日常から消えてしまった現実”を突き付けられる。

“配信”というシステムを使ったライヴが主流になった今、配信エラーが起きない様に各所が入念なチェックを行い、それぞれの持ち場で黙々と作業を行っていたこともあり、やはりいつもとは違う緊張感がそこにはあった。

ナオはこの日から新たに迎えた相棒(ドラムセット)を丁寧に組み立て、ジョニーとショーンはいつも通り自らの音と向き合い、リハーサルの時を迎えた。音出し、音量のチェック、照明の具合、通常のライヴリハーサルとやることは何も変わらない。しかし、何故か、そこには“ライヴ”という空気感ではなく、“収録”という空気感が漂うのだ。それは、“ライヴ”と“収録”の違いの大きさに改めて気づかされた瞬間でもあった。

リハーサル後に楽屋に戻った彼らはいつもの様に準備を始め、細かい最終チェックを話し合っていた。目の周りに黒いラインを引き、髪を立て、衣装に着替えていくことで、3人は“演者の魂”を纏っていく。楽屋まで届くことのないオーディエンスの声や熱気を精神感応によって感じることで、彼らは狂気を宿すのだ。

彼らを“バケモノ”に変えることが出来るのは、他でもない、オーディエンスの力なのだ。オーディエンスの体温が感じられないこの日、彼らはいつもよりも落ち着いた様子でステージへと向かっていった。


ライヴはオンタイムで始まった。10からのカウントダウン映像が始まる直前、ジョニーとショーンは何の合図もなく、自然とナオの元に集まると、ナオはドラムの上に自らの手を翳した。ナオの手の上に手を重ねるようにジョニーとショーンが手を伸ばすと、ナオは普段の穏やかな人柄からは想像のつかない荒々しい声で気合い入れをし、ジョニーとショーンの背中を見送った。

1曲目に選んでいたのは「welcome to strange night」。
ショーンのスラップが炸裂しまくる攻め曲だ。この曲の1音目が彼らのスイッチだったのだろうか、彼らが音を放ち始めると、そこには忽ち、コロナ前に観ていたライヴハウスの景色に変わったのだ。きっと彼らの目には、1年前に見たそこからの景色が鮮明に蘇っていたに違いない。彼らの意識を“収録”ではなく“ライヴ”に変化させたのは、“画面の向こうで観てくれていたオーディエンスの存在”であったことだろう。


新型コロナウィルス感染症の拡大を受け、3月からライヴ活動を中止してきた首振りDollsがワンマンで有料配信を行ったのはこの日が初だった。彼らがこの日用意したセットリストは、新たな首振りDollsの切り口である「welcome to strange night」から「鏡地獄」「ピンクの実」といった過去に大きく舵を切ったものだったのだ。タイトルが叫ばれるだけの、アグレッシブなインスト曲「welcome to strange night」から、スラップが存在しなかった過去曲「鏡地獄」「ピンクの実」への繋がりに違和感などは微塵も無い。ショーン・ホラーショー(B)という最強の武器が首振りDollsに持ち込んだテクニカルな個性と、ナオが個性とするおどろおどろしい世界観と、いなたく切なげなジョニーのギターサウンドの融合。他に無いこの独特な肌触りこそが首振りDollsの強みである。



MCを挟んで投下されたのは“この日の特別”として彼らが用意していた新曲だった。この日彼らは、それぞれが作った新曲を1曲ずつ、計3曲用意していたのだ。1番最初に届けられた新曲はショーンによって産み出された楽曲「SMILE」。ショーンが作り出す楽曲の絶対的な個性とされるのが跳ね感。リズミックさと怪しげな雰囲気は、一聴しただけでショーンが産み出した楽曲だと分かる。毒のあるファンクナンバー「SMILE」は、この曲によって自然と引き出されたナオのシニカルな歌唱も実に特徴的だった。

そこからロックンロール色の強い「籠の鳥」「蜃気楼」という激しく振り切った流れも、首振りDollsならではの魅せ方だった。荒々しい表現で生々しいライヴをぶつけた彼らは、2回目のMCを挟み、江戸時代に茶屋などで客を相手に男色を売った男娼“陰間”をタイトルとする激情的なロッカバラード「色子」が儚い叫びとしてフロアに放った。いつもなら、オーディエンスは3人が描き出すその情景に吸い込まれるように立ち尽くしている頃だ。

そんな激情を断ち切ったのは、ジョニー作詞作曲の新曲「サボテン」だった。泣きのメロディと、何故か温かな涙を唆る哀愁が寄り添う歌物を得意とするジョニーの“現時点での最高傑作”と言っても過言ではない「サボテン」。自分の気持ちよりも相手の幸せを願う主人公のあたたかさは、ジョニー自身の人間性と重なる。哀しいながらも、絶望的な哀しみを聴き手に与えないのは、描き手の“相手の幸せを願うことが自らの幸せ”という本当の優しさを感じ取れるからなのかもしれない。「色子」の儚さとは全く違った儚さである。


この曲ではなんと、ドラムボーカルのナオが途中で立ち上がり、ドラムを離れてステージ中央で歌うという、首振りDollsにとっては極めて稀なパフォーマンスが挟み込まれたのである。画面の前のファン達は、きっとその光景に胸を打たれていることだろう。そう思っていた。

しかし、現場の裏側では、配信上のトラブルが発生していたことを知り、必死で改善に向けて動いていたのだ。無観客であることを忘れてしまう程の熱量でライヴを届けていた彼らの耳に、配信の不具合で前半が観れていなかった人達が居るという事実が伝えられたのは、ここから更に数分後のことだった。なんと、ライヴ開始から約50分が経過した頃だったのだ。

スタッフから耳打ちされたジョニーが“業務連絡です!”と言って、その事実をマイクを通してナオとショーンに告げたのだが、まだこの時点では原因追究に至っていなかった為、画面の向こうで楽しんでくれていると信じて全力でライヴをしていたメンバーも、まさか「色子」の途中まで全く配信されていなかったという事実を知る由もなかったのである。

ナオもジョニーもショーンも、不具合があったことを知らされた瞬間、“ちゃんと届けられていなかったんだ”という落胆も大きかったと思うが、3人が1番に気遣ったのは、この日に届く様に送っていたTシャツとタオルを持って、生で一緒にライヴを体感してくれようと待っていてくれたファン達の気持ちだった。

「え!? そうなの!? 最初からやる?」(ナオ)
「何度だってやりますよ!」(ジョニー)
“当然でしょ!”と言わんばかりに、いつでもスタンバイOK状態で受け入れていたショーン。

彼らはオープニングナンバーだった「welcome to strange night」を再び届け、最初から始めるかの様な熱量で後半戦へと導いたのだった。



本編を終え、楽屋に戻った彼らは、ここで初めてライヴ開始から35分程、視聴者全員がライヴを観れていなかったことを知らさせる事となったのだ。
「もう一回最初から出来たらいいのに。ダメなの?」
と無理を承知でスタッフに問いかける3人。アーカイブでは残るものの、やはり、画面の向こうでこの日を待ち望んでいてくれた人達の気持ちを考えれば考えるほど、自分たちが200%の力で届けた時間を共有出来なかった事が悔やまれてしかたなかったのだろう。

限られた時間の中で何をしてあげられるのか。
彼ら3人が出した答えは、“この日の特別でもあった新曲をアンコールでもう一度やる”というものだった。その3人の想いに応えてくれたロフトのスタッフ。素晴らしい連携だと感じた。

1年前の彼らにとって、“前に進むための一歩”として目の前に開かる大きな壁の一つでもあった新宿ロフトは今、彼らと一緒に夢を創り、一緒に夢を叶える場所に変わっていた。

上京したての彼らが1年前にステージから見た最高のフロアの景色は、想像もしなかった閑散とした景色だったが、この日彼らは、改めて自分達の音を発信出来るこの場所と、自分達の音を求めてくれるオーディエンスの存在を何よりも大切に感じたに違いない。

アンコールでは、ダルさ全開で吐き捨てる様に歌われる “ナオ節”「チリチリ ロッキンショー(仮)」も届けられた。はすっぱさが魅力のナオの作った新曲だ。オーディエンスがフロアに入り乱れ、好き勝手に踊りまくる無法地帯が、既に目にしたことのある景色としてリアルに目に浮かぶ。「鏡地獄」「カラリカラマワリ」「化け猫」といった“ザッツ首振りDolls”を感じさせる力を持つナオの曲もまた、絶対的な個性である。

1日も早くオーディエンスでパンパンに埋め尽くされたフロアにこの曲が響き渡る日が戻って来て欲しい。“ライヴが日常から消えてしまった現実”を改めて悔しく思った瞬間だった。

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