【インタビュー】首振りDolls、全曲解説で『ジェットボーイジェットガール』を紐解く
3月13日に世に放たれた首振りDollsの新作アルバム『ジェットボーイジェットガール』が、各方面で絶賛の声を集めている。前作『DOLL!DOLL!DOLL!』から1年9ヵ月を経て登場したこの作品は、的が絞られていながらも多様性に富み、疾走感や爆発力ばかりではなく捻りのきいた独特のセンスとバランス感覚が光る1枚に仕上がっている。オリジナル・パンクから昭和歌謡、1990年代的ミクスチャーやオルタナに至るまでのエッセンスがごく当たり前のように盛り込まれたこのアルバムの全貌を明らかにすべく、今回はナオ(Dr, vo)、ジョニー・ダイアモンド(G, Vo)、ショーン・ホラーショー(B)の3人にたっぷりと語ってもらった。以下、去る2月下旬時点での彼らの言葉である。
──まずはアルバム完成に際しての手応えを聞かせてください。レコーディング自体は昨年のうちに終えていたはずですが、今になって改めて実感できていることなどもあるのでは?
ジョニー:こうして完成した状態で全曲を曲順通りに聴いてみると、自分でも改めてこのアルバムの良さを実感できるところがあります。しっかりと1曲目から飛ばしていって、いい感じに進んでいって、全10曲の並びがすごくいい感じに嵌まっていて。いい曲が揃っただけじゃなく、ひとつのアルバムとしていい形にまとまったんじゃないかと思うし、名盤感があるな、と感じてます。
ナオ:大事なことは今、ジョニーがほとんど言っちゃいましたね(笑)。でも実際、ミックスとかの段階では「ここはこのままでいいのかな?」という感じで細かいところを確かめるような聴き方をしがちじゃないですか。最近になってようやくそういうのを抜きにしてフラットな耳で聴けるようになってきたんですけど、正直…すごくいいですね、このアルバム(笑)。
ショーン:僕にも同じような感覚があって。1曲ずつ聴いてる段階ではまだわからない感じだったのが、この流れで聴いてみて初めて気付けたような部分もあるし、なんだか映画を観てるような感覚もあったりして。ジャケットも映画っぽいし。べつにそういうコンセプトで作ったわけじゃないんですけど、そういう面白さを感じてます。
──『ジェットボーイジェットガール』は収録曲のタイトルでもあるわけですが、この言葉をアルバムの表題に掲げることにしたのはどんな理由からなんでしょうか?
ナオ:最初に言い出したのはジョニーだっけ?
ジョニー:いや、俺はまさかこのタイトルになるとは思ってなかったから、言い出したのはナオだと思う。
ショーン:うん。ただ、LINEで3人同時にタイトル候補を提出し合ったことがあって、その時に全員が共通して挙げてたのが『ジェットボーイジェットガール』だったんです。
ナオ:その時点ではまだ曲の収録順も決まってなくて。ただ、各自が曲順の案を出したことがあったんですけど、その時に全員がこの曲を1曲目に選んでたんですよ。だからアルバム・タイトルが決まる前の時点で、この曲がオープニングになることは決まってたんです。あと、古い話になるんですけど、どうやら俺とジョニーが出会ったのは、地元の小倉での某イベントの時のことで、そのイベントのタイトルが『ジェットボーイジェットガール』だったんですね。そういう意味でも思い入れのある言葉だったので、いつか大切なところでこの言葉を使いたいな、と思ってたんです。
ジョニー:そうそう。あと曲順については、2人が考えたアイディアを踏まえながら俺の意見を足した形ですね。だけど実際、全員ほぼ一緒な感じの流れを考えていて。
ナオ:そこについてはショーン君が一番こだわりが強かったかな。会話をしてる中で、彼が「どうやらこれはちゃんと考えたほうが良さそう」みたいなことを言ってたことがあったので「どうぞどうぞ」という感じでまずは任せて(笑)、もちろん自分でも同時に考えて。
ショーン:結構悩みましたね。ナオ君からは、わりとすぐに案が出てきたけど。
ナオ:俺はそういうの、わりと早いんで。直感で並べたものを叩き台として提示した感じでしたね。
──曲順についてもそうですが、全10曲というサイズ感も絶妙ですね。ここにもう2~3曲加えてしまうと、曲同士の噛み合い方が変わってきそうな気がします。
ナオ:そうなんですよ。この10曲が並んだ感じが、なんか聴きやすいんですよね。それに「ジェットボーイジェットガール」って、1周目に聴いた時と2周目に聴いた時とで印象がちょっと違うんです。カウントからすぐに始まるから、1周目の時はいきなり走り出す感じになるんですね。マリリン・マンソンに言わせると、そういうやり方はNGらしいんですよ。前にインタビュー記事で読んだんですけど、リスナーをアルバムの世界に連れていくための導入を設ける必要があるから自分は絶対そういう幕開けにはしない、みたいなことを言っていて。確かにそういうのもアリだとは思うんですけど、俺としてはのっけからちょっとビックリさせたかったというか、それもリスナーとのコミュニケーションの仕方のひとつだと思ってるところがあって。そういうこともあって、これは1曲目がいいなと思ったんです。ただ、アルバム全体を聴き終えて2周目に入ると、1周目のビックリとは違う感触があるというか、より腰を据えて聴ける感じがあるんです.
──面白いですね。実際、僕も「ジェットボーイジェットガール」に相応しいポジションは1曲目以外にはないと思いますし、同時に、ライヴ会場限定で発売されていた先行シングルに収録されていた3曲「PSYCHO SISTER!!!!!」「surrender」「Esc」の配置の絶妙さも感じさせられます。
ナオ:あの3曲は存在感が強いですね。それはこうして並べてみても改めて感じます。
ショーン:しかもそれに勝るとも劣らない曲たちが、ここには入ってるわけで。あの3曲にはすでに馴染みのある人も多いはずですけど、アルバムの中で聴いた時に「次にどんな曲が来るんだろう?」って感じるだろうと思うんですよね。
──ええ。いわばアルバムを形成しているパズルのピースのうち3つが先行公開されていたわけですけど、実際、その時点では他7つのピースがどんなものなのかは想像できないところがありましたし。
ナオ:結果、曲のヴァリエーションが結構すごいことになってますからね。
──しかも同時に、一気に突き進んでいく感じがある。アルバムの全体像を先に描いたうえで曲を持ち寄るという流れではなかったわけですよね?それなのにこんなにも見事な合致感があることに驚かされます。
ジョニー:奇跡が起きたのかもしれないですね(笑)。それぞれの曲がちゃんと個性的で、しかもこの収録順によって綺麗にピースが嵌まった感じがするし、それによってアルバムとしてのパワーが強くなったというか。「ジェットボーイジェットガール」については、レコーディングしてた頃から「これが1曲だったら面白いかな」というのがなんとなくあったんです。ザ・ダムドの「マシン・ガン・エチケット」みたいにオープニングからドカーンと行く感じがいいんじゃないかな、と。曲作りの段階から、どこか原点回帰みたいなことを意識してた部分もあったし。
──確かに原点回帰の匂いのする曲も目立ちますが、そればかりではない。たとえばショーンさんの場合、このバンドにあっては飛び道具的な立ち位置の曲を持ってくることが多かったですよね?今回はどんな意識で曲作りに取り組んでいましたか?
ショーン:根本的にはこれまで通り、やりたいことをやってるだけではあるんです。そこで意識するのは、やっぱり「他にないもの」ですね。今のリスナーがすぐさま喜びそうなものじゃなく、首振りDollsのファンが待ち構えてるど真ん中のところにあるものでもなく(笑)。ただ、そういうものを素直に作っていくと、おのずと2人とは違うものになってくるんで。
ナオ:俺の場合は今回「画舫(ゴンドラ)」とか「みちづれ」のような、このバンドのことを知ってる人たちなら「多分これがナオの曲だな」とわかっちゃうような、なんか自分らしいことができたかな、と。このバンドに昭和歌謡とかのテイストを持ち込んできたのは俺なんですけど、今までで一番そういう色の濃い曲ができたんじゃないかとも思ってるし、そういう嗜好を素直に出し過ぎてるくらいのところがあって。そういうモロ出し感というか、自分が好きなものに対するオマージュみたいなことを、全然怖がらずにやれるようになってきた気がします。素直に作れたものを自分の作品として堂々と出せるようになった、というか。
──オマージュの得意な大先輩(=今作でもプロデューサーを務めている戸城憲夫)からの影響もあるのかもしれません。
ナオ:確かにそれも、少なからずあるのかも(笑)。
──今やナオさんと戸城さんはTHE DUST’N’BONEZでのバンド・メイトでもありますしね。さて、今回はせっかくなので、ここから先は収録順通りに各曲について話を進めさせてください。
【1】ジェットボーイジェットガール
──わずか2分間の、まったく贅肉のない曲。これ以上加えるべきものがないというか。こちらは作詞・作曲ともジョニーさんですね。
ジョニー:これは最初に持ってきた時点では、速い曲では全然なかったんですよ。わりとゆっくりめ、ブルージーな感じで、後半に速くなっていく感じをイメージしてたんです。ただ、3人で合わせていくうちに、より面白い方向に進んだというか。歌詞もたった6行しかないんですけど、これだけでいいから、と。二番が必要ないんですよね、これだけで完結してるんで。ある意味「ロックンロール」(2018年発表の『真夜中の徘徊者~ミッドナイトランブラー』に収録)的なものを作りたかった、というのもあります。しかもごく短い曲でありながら、ライヴではめちゃくちゃ長くアレンジすることも可能だったりする。
ナオ:それをやると、しんどいだろうけどね。
ジョニー:これはメンバーにも言ってるんですけど、いつか「ロックンロール」の中に「ジェットボーイジェットガール」をぶち込んで演奏してみたいんですよね。
ナオ:わっ、その件、まだ諦めてなかったんだ(笑)。
ジョニー:うん。「ロックンロール」をやってるところで突然「ジェットボーイジェットガール」に転じて、それがまた「ロックンロール」に戻る、というのを企んでます。
ナオ:曲作りの過程で「ここはどうしようか?」みたいなことを検討するプロセスがあるじゃないですか。この曲の場合そこで、よりダサい選択肢、よりロック的に面白いほうを選んでいった結果、こういう形になったんです。あと、フレーズを繰り返す回数とかがちょっと変なんですよ。そこがいわゆる往年のパンクに通じるところでもある。しかもそういうことをナチュラルにやろうとするから、やっぱジョニーってロックンロールの人なんだな、と思いました。俺はわりと普通の感覚の持ち主なんですけど。
ジョニー:俺も自分のことは普通だと思ってるよ(笑)。
──普通じゃない人ほどその自覚がないものです(笑)。でも実際、いかにも4回繰り返しそうな箇所が3回だったり5回だったりすることで、そこが面白いフックになったりするわけですよね?
ナオ:そうそうそう。そこで面白くはみ出した感じになったり、繰り返されるんだろうと思ってたら1回だけで終わったり。この曲の場合、そういう部分で普通じゃないところがあるから、俺、ショーン君のベース・ソロに入るタイミングがレコーディングしてるその時までよくわかってなかったですもん(笑)。
ショーン:ふふっ。でもこの曲は、ホントに最初に聴いた時から面白さがありましたね。ゆっくりの曲が速くなっていく感じだった当時から。歌詞も最初からあったし。
ジョニー:そう、最初からこのまんまの歌詞だった。その時から一切いじってないんです。
ショーン:そこから最終形に到達するまで、どんどん面白さを増していって。だからこんなに短い曲でありながら、ここに至るまでに結構長いスパンをかけてたりもするんです。
ジョニー:とはいえ最初持ってきた時は、むしろボツになるレベルだったんですけど。
ナオ:うん。どう料理していいかわかんなくて、危うくボツになりかけてました。結果、そこで変に足し算をすることなく、この形で世に出て良かったなと思ってます。
──ゆっくりした曲調から加速していくヴァージョンも、いつか聴いてみたいところです。
ジョニー:もう憶えてないなあ、最初のヴァージョン(笑)。
ショーン:でも、確かにそういうアレンジでやるのも面白いかもしれない。
ジョニー:そういう意味でも、いろいろポテンシャルを持ってる曲ですね!
【2】PSYCHO SISTER!!!!!
──2分間の爆走の直後に、すでに馴染み深くなりつつある「PSYCHO SISTER!!!!!」へと雪崩れ込んでいく展開。高いところから飛び込むような落差を感じます。
ジョニー:なんか、2曲目というポジションがこの曲にはいいですよね。リスナーの人たちも「ジェットボーイジェットガール」が終わった直後にこの曲のイントロが聴こえてきたら、アガるんじゃないかな。ある種の安心感もあるだろうし、改めてこの曲が良く聴こえるんじゃないかという気がします。
ナオ:なんか陽キャなんですよね、この曲。キャラクター的に、カーストの上位にいる感じがするんですよ(笑)。実際、この曲はライヴで受け入れられるのも早かったし、ここからさらにもっともっと変わっていくんだろうな、と思います。
──先日のライヴでは、すでに導入部のアレンジが変わっていたりもしました。
ナオ:うん。そういうことが早くも起こり始めてるんです。
ショーン:それこそライヴでも毎回やってるんで、自分たちでもそうやって新たなアレンジを探し始めてるくらいだし、これから先もやり続ける曲であって欲しいなあと思いますね。改めて思います、ホントにいい曲ができたなって。
【3】NEVERMiND
──こちらはショーンさんとナオさんの共作という形になっていますね。
ショーン:当初は違う仮タイトルを付けてたんですけど、この言葉は歌詞にも出てくるし、元々考えてたタイトルが「Esc」とかと印象がちょっと被る感じだったので、こう改題しました。まさに自分の中にベース・リフが下りてきた曲で、そのリフでずっと押していく感じの展開になっていて。ぶっちゃけ、新しく手に入れたファズを使いたくて、それを楽しみながらいろいろ弾いてた中で生まれたものでもあるんですけど。
──新しいおもちゃを手に入れることが、新鮮な発想に繋がることがあるわけですね?
ショーン:そういうケース、結構ありますね。曲調としてはダンスっぽい感じもありつつ、サビなんかにはストレートさもあって、「あの頃のオルタナ」みたいな感じかな。
ナオ:あの頃って、それこそ(ニルヴァーナの)『ネヴァーマインド』な頃?
──それだと1991年ということになりますけど。
ショーン:そういう部分もありつつ、自分的には若干、UKっぽさもあって。フランツ・フェルディナンドとか、そのへんもちょっと意識しました。
──なるほど。歌詞はナオさんによるものですが、テーマは誹謗中傷ですか?
ナオ:そんな感じですね。なんか昨今、そういうのがやたらと目に付くなあと思って。あまり詳しくは説明せずにおきますけど「お前の気持ち、俺には興味ないぞ」という感じですね。
ジョニー:さっきのショーンの発言を聞いてしっくりきました。なんかオルタナ感があるんですよ。この曲、俺的にも結構好きで、しかもこの3曲目というポジションがいい。なんかまた同じようなこと言ってますけど(笑)。
──しかしこの冒頭3曲の流れがとてもいいのは確かです。もちろん4曲目以降についてもそうですけど。
【4】アンビー!
──こちらはジョニーさんのコマーシャルな持ち味が出た曲だと思います。
ナオ:さすが、ミスチルを目指してるだけはありますよね。
ジョニー:いや、目指してるのは戸城憲夫です(笑)。
──「ジェットボーイジェットガール」のような曲は直感的に出てくるものだろうと思うんですが、こういう曲の場合はどうなんでしょうか?
ジョニー:まったく別の発想ですね。むしろ「アンビー!」の場合は、曲がどうのという前にテーマ設定があって。架空のバンド、というテーマで書いてるんです。要するに自分たちとはまったく関係ないバンドの世界、ひとつのバンドの物語。それを曲にしたいとずっと思ってたんです。歌詞から先に作ったというわけじゃないんですけど、そのテーマに沿って作っていったんで、「ジェットボーイジェットガール」とはまったく違いますね。
──つまり、「アンビー!」というのはバンド名なんですね? そのバンドは歌詞にも出てくるように、3分半のラブソングをたくさん持っているわけですか?
ジョニー:おそらく(笑)。一番の歌詞はバンドをやり始めの頃、二番はバンドとしていちばんイキってる時。ホントにバンドが楽しい時って、何をやっても無敵な感じがするというか、何をやっても上手くいくという時期ですね。そして三番以降は現実にぶつかっていくストーリーですね。そういうイメージです。
ナオ:この曲があるから安心して自分なりの曲をいろいろ書けた、というのがあります。アルバムの中のポップな部分というか聴きやすい部分をこの曲が担ってくれたから、自分でもバランスを考えずに好きなように曲が作れたというか。ジョニーの書いた歌詞に関しては、今の話を聞いて初めて「ああ、そうだったんや」と思ったけど(笑)、相変わらずドラマティックだなって。ただ、たいがいジョニーは歌詞の中でいつも恋しては振られてるんですけど、今回はそこが違っていて。
ジョニー:そうなんですよね。恋愛的な要素が今回はない。だから次作ではしっかり振られに行こうかな、と思ってますけど(笑)。
ナオ:ただ、やっぱりジョニーはロマンティストだなって思います。
ショーン:もうホントにジョニーさんだなーっていう曲だし、物語がありますよね。ストーリー性がいつもすごい。
ジョニー:実は構想に2年ぐらいかかってたりもするんで、頑張ってこの続きも書いてみたいと思ってます。
【5】画舫(ゴンドラ)
──ゴンドラは漢字で書くと画舫となるんですね。
ナオ:夏目漱石の当て字です。飾り船的な意味らしいですね。
──勉強になります。こちらも3分に満たないコンパクトな曲。確か仮タイトルは「グルグル」でしたが、歌詞を見てみると観覧車の歌のようですね。
ナオ:まさしく観覧車です。先に曲ができて、あとから詞を付けたんですけど、音が回ってる感じがしたんですよね、しかも早送りで。視界が遊園地のコーヒーカップぐらいのスピード感で回ってる感じのイメージの景色が浮かんで、そこからグルグル回るものというのを発想していってこの曲になりました。
──コーヒーカップのスピードで回る観覧車があったら怖いですけどね。
ナオ:ヤバいですよね(笑)。でも、それぐらいのスピード感でグルグル回ってるというのを、人生に置き換えて、自分に照らし合わせてみたというか。
ショーン:音が面白いんですよ、バンド・サウンドが。なんか電撃な感じの音ですよね、ビリビリする感じというか。あと、確かに回ってるような感じでもある。しかも実際に録って、いざ音を作っていってみたら、当初思っていた以上に面白い曲になったところがあって。
ナオ:曲調自体は、もろにザ・ピーナッツの某楽曲なんですよ。もちろんメロディとかは全然違うんですけど。
ジョニー:俺はずっとそこには気付かずにいて、むしろ普通にナオらしい曲だなと思ってましたね。昔、このバンドが始まった頃のような曲を持ってきたな、と。で、個人的には「ここでガレージ感、出したろ!」と意気込んで臨んだんですけど、最終的にはガレージとも言い切れない不思議なギターの音になって、それがいい雰囲気出してるかなって。
【6】雨の街
──アルバムの中盤、「画舫」から3曲、歌謡ショウが続いていくかのような趣があります。
ナオ:そうですね、この流れはまさに。
──この曲では、ファルセットのコーラスの絡み方がとても印象に残ります。
ナオ:なんかすごく印象的な仕上がりになりましたね。もちろん全部自分の声なんですけど、またちょっとキャラクターが増えた気がします。サビ部分のコーラスの付け方についてはちょっと迷っちゃって。迷って迷って、エンジニアのKENさんと相談して結果的にこの形になったんですけど、自分的にもすごく気に入ってます。荒井由実さんの「雨の街を」という曲があるんですけど、それは「誰かやさしく私の肩を抱いてくれたら、どこまでも遠いところへ歩いてゆけそう」という歌なんですね。で、これは、そんな気持ちの女の子を迎えに行く歌なんです。実は子供の頃、母がこの曲をカラオケでよく歌っていて、それが気に入ってたことがすごく印象に残ってるんです、自分の記憶の中で。すごく大好きな曲なんですよね。そしてこの曲ができあがった時も、なんとなく自然とそういった歌詞を書き始めていて。
──自然にナオさんの中にこの物語が刷り込まれていたわけですね。この曲については、メランコリックなギター・ソロも印象的です。
ジョニー:逆に、ちょっと俺らしくないかも。俺の中では、これは(エリック・)クラプトン的というか、自分がクラプトンになったつもりで弾きましたね。
ナオ:いや、だいぶジョニーらしいと思いますけどね(笑)。
ジョニー:なんか自分にしては上手過ぎるかなと思ったんです。なんか“弾きに行ってる感”があるというか。
ショーン:この曲ではベースについても“歌う”ことを意識しました。いつもの派手さ、激しさではないものを求めたというか。自分でもしっかり歌えたな、と思ってます。
【7】みちづれ
──タイトルは演歌的ですが、実際にはファンク歌謡というかなんというか。
ナオ:これもモロ出しですよね。昭和歌謡そのものって感じで。自分で歌ってる時のイメージとしては、昭和のアイドル。だから発声の仕方とかも含めてそういう感じで歌ってみたんです。同時にこの曲は「雨の街」から繋がってると言っても差し支えないかな。
──荒井由実さんの名前が先ほど出てきたところにも重なるんですけど、ユーミン作の楽曲で石川ひとみさんがヒットさせた「まちぶせ」に通ずる女性心理を歌詞に感じました。
ナオ:わかるー(笑)。あの曲もとても好きです。この曲は「なんか聴いたことがありそうだけど、実は聴いたことがない」という不思議なところに着地してますよね。そこには自分でもちょっとビックリしてます。
ジョニー:それこそ昭和歌謡っぽい曲というのは最近あんまりやってなかった気がするけども、こうしてやってみると、やっぱりなんだかんだで首振りDolls感があるというか、自分たちっぽい曲に仕上がるところが面白いですよね。
──ここ最近、こうした傾向の曲があまりなかったことについては、何か理由や意図があったんでしょうか?
ナオ:いや、特にそういうわけじゃないんです。単純にたまたまそういう曲をしばらく作ってなくて、スタジオでビール飲んでる時にショーン君に「最近、昭和歌謡みたいなやつ、なくない?」と指摘されて。その直後にできたのがこれだったんです。
ショーン:最近、新曲としてそういうのがなかったな、と思って。そういう意味ではあの時に言って良かったなと思います(笑)。それに自分のルーツの中にもあるファンクの要素、ちょっと跳ねる感じも楽しめるものになったし、面白い曲になったな、と。
ナオ:うん。イントロの雰囲気は、ちょっとネオン街が見える感じで。雨に濡れてネオンがぼやけて見える映像みたいな感じというか。あのフレーズはジョニーから出てきたんですけど、いいものを持ってきてくれたな、と思いましたね。
ジョニー:そこはもう、音とかも完全に昭和のイメージを意識してましたね。
【8】Esc
──先行シングルに収録されていた、ショーンさんの作による曲。もはや、作った当初とは感触も違ってきていたりするんじゃないですか?
ショーン:確かにもう、全然違いますよね。
ナオ:なにしろサークルモッシュが起きたりする曲になってるからね(笑)。
ショーン:作ってる時は、そんな曲になるとは全然思ってなかったんです。
──ただ、フロアを熱くする曲にしたいという気持ちはあったはずですよね?
ショーン:サビの広がりのところで、いつかダイヴとかする人が出てきたら面白いかもな、という程度には思ってましたけどね(笑)。それがこうして早々に激しい反応を呼ぶことになったのは、自分でも想定外でした。
──これもまさに「他にはないもの」を作ろうとして生まれた曲だろうと察します。
ショーン:まさしく。実際、こういうのってなかったと思うんですよね。
ジョニー:もうまさにショーン節ですね、この曲は。
──全体的には激しくありつつも、サビ部分はたった1行の歌詞で突き抜けていきます。最初からこのような構成だったんですか?
ショーン:そうですね。言ってみれば、90年代ミクスチャーみたいな感じを出したくて。最初からずっと激しい音で、ラップとかも絡んでくるんだけど、サビだけはポップに開けていく感じを求めてました。自分自身、そういう音楽で育ったようなものなんで。デカい会場でのライヴで、フロアにサークルがいくつもできたりすることがあるじゃないですか。いつかこの曲でそういうことになればいいな、と思ってます。
ナオ:俺、ライヴで演奏するうえでは、今、一番気に入ってる曲なんですよ。めちゃくちゃ楽しいんです、叩いてて。ハジケられるというか。細かいビートをシーケンスとか使わずに人力で再現してるんですけど、あの感じのリズムを叩きながら歌えるのって、多分、俺しかいないと思う(笑)。しかも、大変ではあるけど、それが楽しいんです。
──それを楽しいと思えているのは素晴らしいですね。
ナオ:だんだんライヴでやるうちに、サボり方をが身についてくるんですよ(笑)。ちょっと力を抜いても大丈夫なところがわかってきて、それに従ってどんどんラクになっていく。だから、やればやるほど楽しくなってくるんです。
ジョニー:そういや、このためにエフェクター1個買いましたね。この曲に合うのはあれしかない、と思って、メタルゾーンってやつを使いました。高校時代以来でしたね、あれを使ったのは(笑)。
ナオ:ちょっと頭悪そうでいて、しかもサイコーな選択やなと思った(笑)。
ジョニー:そのせいで、どんなギターを弾いてもあの音になるんです(笑)。
【9】surrender
──この曲も先行リリースされていたうちのひとつ。作者のナオさんとしては、今にして思えば、という部分も含めてどんな感触を持っていますか?
ナオ:やっぱり力の強い曲だな、と改めて思いますね。アルバムの終盤、9曲目にしてこの存在感を放ってるというのは強いですよね。昭和歌謡ショウのような流れを経ながら、「Esc」が登場した後のポジションに置く曲としては、これ以上に相応しいものはなかったと思うんです。なにしろ切れ味が鋭いというか。この曲も、レコーディングの段階で思い描いてた形じゃない感じになっていったものなんです。サビにギターのリフを乗せたのが大正解で、それを機にすごく良くなって。そこはジョニーのおかげでしたね。
ジョニー:我ながらいい仕事、しましたね(笑)。先行シングル用に選んだ3曲の中で、これがリード曲になるんじゃないかなと俺は思ってたくらいなんです。キャッチーで、わかりやすくて、首振りDollsではなかなかやらない転調とか、新しい試みも入ってるし。
ショーン:なんか、この曲によってアルバムを上手くまとめられたなって思います。壮大さもあって、劇場版ナントカのエンディングとかに流れそうな感じでもある。まさに「ここに着地できた」みたいな感じがあるんです。
【10】あなたに
──「surrender」が着地点だとすれば、10曲目の「あなたに」は、アンコール的というか、映画で言えばエンドロール的な存在でもあると思います。
ジョニー:確かに。これは最初から、絶対締めの曲というか、最後に持ってくるべき曲だな、と思ってました。このポジションしかないな、と。パンク寄りのストレートな感じで、最後はウォーウォー言って終わる、という曲を作ろうと考えたんです。途中にはレゲエっぽい要素も出てくるんですけど、あれは自分の頭の中にはまったくなかったもので、スタッフのタカツキ君の提案によるものなんです。テンポを変えてそういうのを入れてみたらどうか、と。結果、それによって曲自体の完成度が上がりましたね。
──ストレートなパンク・ソングという意味では、これまた原点回帰的といえそうですね。
ジョニー:そうですね。この曲は特にそうかもしれない。
ナオ:ジョニーらしいな、と思いましたね。歌詞もジョニーが書いてるんですけど、メッセージに毒っ気がないんです。自分では毒っ気のない言葉を歌うことがあんまりないから、そこで声色というか喉の使い方にちょっと注意して、まっすぐに歌うよう心がけました。ジョニーの真心が届きますように、みたいな気持ちで(笑)。ただ、よくまとまってるようでいて、結構まとまりのない歌詞だったりもするんですよ。
ジョニー:そうだね(笑)。
ナオ:逆にそういう言葉のひとつひとつを、歌で包み込んでまとめていくというか、そういうことを意識しました。ジョニーがこういう歌詞を書く時は、わりと言いっぱなしというか、言葉を投げっぱなしみたいなところがあるんです。俺の場合は逆に、聴き手の感情や目線を誘導しちゃうようなところがあるんですけど、ジョニーはそれをしない。
──面白いですね。ジョニーさんの場合、「アンビー!」のように物語を作ることもあれば、投げっぱなしで完全に聴き手に委ねることもある。
ナオ:うん。物語を作ってる場合でも、わりと言いっぱなしなんですよ。
ジョニー:答えは出さないというか、俺の側から「これはこうだ」ということは言わないようにしてるんです。
ショーン:それは…宮崎駿的な考え方?(笑)
ジョニー:『君たちはどう生きるか』的なね(笑)。
ショーン:この曲自体は青春パンク的な感じで……だからというわけじゃないですけど、今回に限ってはピックで弾いてます。多分、首振りDollsでは初だと思うんですけど、青春パンクっぽさを出すために。途中のレゲエ部分は指弾きなんですけど、それ以外はピックでガーッと弾いてるんです。
──この曲は、将来的にはライヴでナオさんが歌わずに済む曲になるんじゃないかという気もします。つまり、オーディエンスが勝手に大合唱することになる、という意味ですけど。
ナオ:おおっ!
ジョニー:確かにライヴで育っていくはずの曲だと思いますね。
──このアルバムの発売前から各地でライヴも頻繁に行なわれてきましたが、アルバムの世界をじっくり堪能できるのは4月14日、東京・池袋CLUB Mixaでのワンマン公演ということになりそうですね。
ナオ:そうですね。首振りDollsはコロナ禍以前にはあちこちでワンマンをやっていて、その渦中の頃もいろんな制限がある中でライヴをやってきて、コロナ収束後は対バンにも力を入れてきましたけど、規制のない状況になってから、あの規模でのワンマンというのをまだやってないんですよ。だから、やっと時計の針がふたたび動き出すのを待つような感覚で、その日を待っていて。そういう意味でも、すごく大切な1日になるはずです。もちろん『ジェットボーイジェットガール』からの曲もたくさん聴いてもらうことになりますし。
ジョニー:しかも今回のアルバムには、前作以上にみんなで歌える曲というのが豊富にあるから、これまで以上の一体感をライヴに求めてみたいですね。そこで問題なのは「ジェットボーイジェットガール」のポジションかな?さて、どの位置に来るのか?(笑)
ショーン:さっきナオ君が「1周してもう一度聴き直した時にあの曲の印象が違う」ってことを言ってましたけど、最初はジェットボーイ視点、2周目はジェットガール視点という感じでもあると思うんです。主人公が変わる感じというか。そして最後は「あなた次第で」という感じで、ライヴで楽しんでもらえたらなって。
──なるほど。当日、このタイトル曲がどんな役割を果たすことになるのかも含めて楽しみにしています。その日までにファンの皆さんにもこのアルバムをしっかりと聴き込んで、一緒に歌える状態になっていて欲しいところですね。
ナオ:ナオ:そうですね。そして、このアルバムを携えて各地でたくさんライヴをしながら、今年は思いっきり開花したいと思ってます。
取材・文◎増田勇一
写真◎TATSURO KIMURA
6th ALBUM『ジェットボーイジェットガール』
KICS-4134 3300円
1.ジェットボーイジェットガール
2.PSYCHO SISITER!!!!!
3.NEVERMiND
4.アンビー!
5.画舫
6.雨の街
7.みちずれ
8.Esc
9.surrender
10.あなたに
<首振りDolls NEW ALBUM『ジェットボーイジェットガール』リリースツアー『JETBOY JETGIRL!!』>
池袋・CLUB Mixa(レコ発ワンマン公演)
※上記のワンマン・ライヴを皮切りに各地での対バン、イベント等も含めたライヴが続々と確定。もちろん3月中にもさまざまなライヴが予定されている。最新版スケジュールはオフィシャルサイトを参照。
◆首振りDollsオフィシャルサイト
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