クリス・ハート「9月といえば聴きたくなる曲」/【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ
このコーナーは、音楽家/プロデューサーのトベタ・バジュンが毎回素敵なコンシェルジュをお迎えし、オススメの10曲のプレイリストを紹介していく連載企画だ。
コンシェルジュの「音・音楽へのこだわり」を紐解きながら、今の音楽シーンを見つめ、最新の音楽事情を探っていく本企画第5回目は、クリス・ハートをコンシェルジュとしてお迎えした。3年半ぶりとなるカバーシングル「いのちの理由」では、さだまさしの名バラードに、子供が生まれて日本人として生きて行くというクリスの決意表明の意味合いが込められている。今後はカバーアルバム『Heart Song Tears』のリリースも控えているクリスに「9月といえば聞きたくなる曲」をセレクトしてもらった。
●クリス・ハート「9月といえば聴きたくなる曲」
(1)Earth Wind & Fire「SEPTEMBER」
(2)スピッツ「楓」
(3)Mr.Children「HANABI」
(4)徳永英明「Rainy Blue」
(5)中西保志「最後の雨」
(6)山口百恵「秋桜」
(7)井上陽水・安全地帯「夏の終わりのハーモニー」
(8)木山裕策「home」
(9)クリス・ハート「あなたへ」
(10)ジェイソン・ムラーズ&コルビー・キャレイ「Lucky」
◆ ◆ ◆
(1)Earth Wind & Fire「SEPTEMBER」
この曲は、アメリカに住んでた時も9月になるとよくラジオで流れていました。「あの頃は良かったなぁ」という歌詞なんですね。アメリカに住んでいた頃は歌ったことはなかったんですけど、日本に来てたくさんの友達から「歌ってください」というリクエストをもらうようになった曲です。Earth Wind & Fireは好きです。懐かしさもあってよく聴きます。
(2)スピッツ「楓」
日本に来た時に恋の経験があって…でもうまくいかなかったんですよね(笑)。日本の別れの歌のいいところは、別れてからも会いたくなるような思いがあるところですね。アメリカの別れた曲はバイバイだけです。「二度と会いたくない」みたいな(笑)。「楓」の場合は「君の声を大事にしたい」「思っていきたい」という、「思い出を残したい、大切にしたい」という気持ちが素晴らしいなと思いました。全部ネガティブじゃなくて、いいところもあったわけだから。「これから一人で歩む世の中だけど、でもちょっと、あの頃の大切な思い出を持って行こう」っていう。「戻りたい」という意味じゃなくて「その経験があってよかった」という意味がやっとわかってきて、大切にしたいと思います。
(3)Mr.Children「HANABI」
サラリーマン時代に友達と一緒に花火を観に行った時に「HANABI」が流れてて、すごい特別な思い出になっています。夏の終わりでみんなで呑んで盛り上がって、今年の夏も「みんながんばったね」みたいな感じでミスチルの「HANABI」を聴きながら花火を楽しむ。周りの人もみんな集まって花火を楽しんでるのがすごいなと思って。本当にいい思い出になりました。
(4)徳永英明「Rainy Blue」
アメリカの夏のイメージは暑いだけ。みんな海に行ったりするんだけど、日本では夏でも雨が降りますよね。それにびっくりした。雨をテーマにしている曲をもっと聴きたくなってよくこの曲を聴きました。雨には「涙」という意味があって、その別れの曲がすごい好きになったんです。アメリカでは雨が降らない地域もあるから、「私の心も雨模様」と言っても、意味が伝わらないんです。そういう意味では、この曲は日本に住んでいるからこそみんなで共有/共感できる曲なんですね。特別だなぁと思いました。
(5)中西保志「最後の雨」
よくカラオケでリクエストされます。(雨に)感謝の気持ちを持たせているのは珍しいなと思う。アメリカとは別れ方がやっぱり違いますね。別れた後にこういう気持ちを大切にするってことに感銘を受けました。この曲には、そういう日本らしさが出ていると思います。スピリチュアルなつながりもあるし、どんな悩みでもちょっと力になれるところがあることもわかって、すごくいいなと思う。
(6)山口百恵「秋桜」
秋といえば、山口百恵さんの「秋桜」ですね。よく聴きました。日本に来て初めて聴いたのは徳永さんがカバーした「秋桜」だったんですけど、その後に百恵さんのオリジナルを聴いて、原曲の良さもカバーの良さもよりわかってきました。シンガーのアレンジによってこんなにも違う曲になるのもてすごいなと思って。「秋桜」に載せたメッセージがすごい好きだったんです。最後の「もう少しあなたの子供でいさせてください」っていうフレーズがすごく好きだった。最近は親になったから、そういうことも考えますよ。
(7)井上陽水・安全地帯「夏の終わりのハーモニー」
よく聴きました。デビュー前なんですけど、音楽仲間と一緒に群馬の夏祭りで一緒に歌ったことがあります。歌いながらすごく曲のメッセージを感じました。その時のハーモニーが素晴らしくてすごく気持ちよかった。僕の担当は高いほうだったんですけど、いい感じで2人の声がミックスされて、この曲は他の人とは歌えないなぁと思ったくらい。
(8)木山裕策「home」
真っ先に紹介したほうが良かったかな(笑)。僕が入籍したのは2012年の春なんですけど、結婚式の前に仕事がクビになっちゃって(笑)、すっごい大変だったの。そんな帰り道の夕方の景色を見ながら「home」を聴いていた。新婚の僕としては毎日大変だったけど、家族がいたから頑張れたんですよね。
(9)クリス・ハート「あなたへ」
9月によく歌ってるのは「あなたへ」。たしかに秋ですね。この曲は8月26日リリースだったんですが、ちょうど僕に子供が産まれることがわかってから、この曲を作りたいと思って作った曲です。家族への感謝の気持ちを伝えた曲なので、子供が産まれる前からも歌ってたけど、産まれてからまた歌ってみたら涙が溢れそうになった。リアルになりました。子供の影響僕も変わってきて、自分のことなんかより、この子が毎日元気でいてくれるように頑張りたいなって思っています。
(10)ジェイソン・ムラーズ&コルビー・キャレイ「Lucky」
うちの妻との出会いの曲。あなたに出会えてラッキーだなとか、ベストフレンドと結婚できるって本当にラッキーだなという曲で、この曲と初めて出会った時に、(奥様と)コラボで動画を作りました。指輪の中にも「Lucky」の文字が彫られているんです。この人と一緒なら絶対成長できるなぁと思って、この曲も大切。本当にそういう出会いがラッキーだなぁと思っています。
◆ ◆ ◆
――3年半ぶりのカバーシングルはさだまさしさんの「いのちの理由」ですね。
クリス・ハート:この曲を初めて聴いたのは去年の夏頃でした。その頃から自分に子どもが生まれることがわかっていたのもありますし、コンサートにいてくれるお客さんには病気で悩んでいる人、苦しんでいる人も多くて、その人のことがずっと気になっていたんです。ファンとの時間を大切にしたいなという気持ちと同時に、「いのちの理由」を聴いていろんな出会いを大切にしたいなと思ったんです。この世界ではいつ何が起きるのかわからないし、傷つくこととかいろんなことがあるけど、生まれた理由は「出会うため」とか「愛するため」とか全部に大切な意味がありますよね。「今を生きて頑張ったほうがいい」っていうこの曲のメッセージと重なりました。
――カップリングの「ひまわりの約束」(秦基博)、「蕾」(コブクロ)は、どうやって選んだんですか?
クリス:「歌ってください」っていうリクエストが多いんです。僕は秦さんの曲もすごく大好きで歌ってみたいなとは思ってたけど、リクエストが多すぎてそろそろなんとかしないとなと思って。ちょうど今年の夏にファンクラブツアーもやって、リクエストを受けてやってみたらすぐファンから「CDにしてください」って言われて。いい曲だからこそ自分なりに歌いたいだけですね。越えることはできないけど、別バージョンとして自分なりに歌いたいです。
――クリスさんって日本語の歌詞をメッセージとして歌うのが日本人以上に上手ですよね。
クリス:毎回その曲の歌詞を読んで、原曲のシチュエーションとかストーリーとか考えて調べてみて、スタッフの皆さんと話し合って、そこから歌うんです。
――お子さんが生まれてからの家庭風景にも変化がありましたか?
クリス:変わりましたね(笑)。自由な楽しさはなくなった気がするけど、真剣になりました。子どもが生まれてからはどんなことよりも子どものことに真剣になっています。以前のように「旅行したい」とか「動画作りたい」という気持ちもありますけど、今はやっぱり何よりも「子どもが育つため何が必要か」「何をすればいいか」を考えていますね。
――お子さんが産まれることで、今まで思い描かなかったテーマも出てきそうですね。
クリス:そうですね。少し成長した気がします。(自分が)大人になって…親になってもっと強くなった気がする。子どもが頑張っている姿を見ると、すごい力になりますよ。
――そもそもクリスさんは、アメリカの邦人向けチャンネルでJ-POPを聴いてカルチャーショックを受けたんですよね?
クリス:はい。この音楽をもっと知りたいと思いました。でも歌手になりたいとは思わなかったんです。
――アメリカのショービジネス/エンターテイメントではなく、何故J-POPに興味を持ったんでしょう。
クリス:J-POPが僕の理想の音楽だったからです。アメリカのポップスはロックとかラップが中心ですけど、初めて日本の音楽を聴いた時に、綺麗なメロがあって、歌詞があって、深い内容があって、自分の理想の音楽に初めて出会った気がしました。自由にいろんなジャンルを使っているアレンジとかあって「すごいな」と思った。
――初めてカルチャーショックを受けた曲がKiroroの曲?
クリス:「未来へ」でした。
――それ以外の曲でショックを受けた曲はありますか?
クリス:全部ショックでしたよ。相川七瀬さんの曲もあって、X JAPANさんの曲とかGLAYさんとか小田和正さんの曲とか。「いろんな音楽があるな」ってすごくびっくりしました。アメリカって結構決まっていますからね、いろんなアーティストがいて、ロックバンドはロックだけ、ラッパーはラップだけとか。でもなんかKiroroさんでも「未来へ」とか「Best Friend」とか「冬の歌」とかいろいろあって、X JAPANさんなら「Forever Love」やヘヴィメタルな曲もあって、自由にいろんな曲を楽しめるのはすごいなと思って。
――実際シーンの中心に立ってみて、今の時点でJ-POPをどう思いますか?
クリス:相変わらず特別だと思います。あの頃は音楽として「すごく面白いな」と思ってたけど、日本に住んで、日本の生活リズムをわかって音楽を聴いてからより深くなりました。日本人なら誰でも共感できる内容だけど、季節の変わりとか景色とか故郷のイメージとか梅雨の話とか、日本に住まないと理解できない話ですね。だから、それを僕も日本に住んで同じ経験をして、同じ生活をしてもっと好きになりました。
――これからのJ-POPに何を求めたいと思います?
クリス:何が大事って、日本の文化がやっぱり大事ですね。日本人の気持ちとか見てる景色とか季節とか、全部大事だなと思う。変に海外の音楽みたいな感じで無理やりストレートな表現にする必要はない気がする。日本人にしか理解できない本当に特別な音だから。
――最近よく聴くJ-POPってありますか?
クリス:安田レイさんとか、SoulJaさんとか、西野カナさんの曲とか勉強になってます。歌詞の作りがすごい面白くて、時代を感じます。今にピッタリの言葉を使ったりしていますよね。あとはロックバンドならback numberとか。移動の時とか、ちょっとだけリラックスしたい時とか、車でも新幹線でもいつも聴いてます。
――ダウンロード派ですか?
クリス:いや、CDを買います。
――音質が違うから?
クリス:やっぱり持ちたいし歌詞カードも見たいし。僕は元々歌詞カードで日本語を勉強しましたから。
――配信には歌詞カードは付いてこないですもんね。
クリス:イメージも見えないし歌詞カードもないですし。
――音楽流通のマーケット事情は大きく変わりつつありますが。クリスさんはどう見ていますか?
クリス:変わるしかないですね。いいか悪いかという話じゃなくてね。レコードやテープからCDになったように、いつか変わる。確かにダウンロードのほうが便利ですしね。でも音楽を聴いてくれるだけでも嬉しいです。
――一方で、ライブはどういうものだと思っていますか?
クリス:CDリスニングとは全然違いますね。CDで聴いてる音楽は「独りごと」っていうか、ひとりで聴いて自分のストーリーを考えてるけど、ライブは一体感があるでしょ?みんなと同じスペースで、歌っている時に、それを聴いて泣いている人もいて、その泣いている涙の音が聞こえるから、僕も自分だけじゃないんだって気持ちになる。死別の曲でいろんな人が泣いているのをみると、たくさんの人が同じ経験をしていることがわかります。それは逆に僕の力にもなりますよね。僕だけが悩んでるんじゃなくて、いろんな人が同じ経験があって、ひとりじゃないって感じる…それがライブ。
――そういう思いをシングルに込めているんですね。
クリス:「いのちの理由」も武道館のライブで一番最後に歌って、一体感を感じました。僕も自分のストーリーを考えながら歌っていたんですけど、聴いてるファンの皆さんも聴きながら自分の人生を考えて、涙が出てくる。僕も同じで、そこからひとつになった気がしました。普段の人生はみんなひとりで悩むからね。でもライブはみんなで一緒になって力になると思う。妻との出会いからその影響も大きいし、そのつながりでもっともっと日本のことも好きになって、帰化することとかにも、すべてつながってくる。
――この後の秋の予定は?
クリス:この後は2回目の47都道府県ツアーで10月から始まります。
――子どもと会えなくなりますね。
クリス:できれば一緒に連れて行きたいね。ファンの皆さんとも家族のような楽しい時間を過ごしたいなぁと思う。ファミリーイベントのような感じにしたいな。家族で楽しめるようなライブで人生ストーリーを歌いたい。
――いいですね。大成功になるように、応援しています。
クリス:ありがとうございます。
インタビュー:トベタ・バジュン
クリス・ハート「いのちの理由』
UMCK-5609 1,200円
◆クリス・ハート・オフィシャルサイト
◆【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュまとめ
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