パンクからキャラソン・アニソンまで、SONARを駆使するパフォーマー&コンポーザー、エンドウ.(GEEKS)の曲作りの秘密を聞く vol.3
自身がフロントマンを務めるバンド、GEEKSでほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がけるほか、他アーティストへの楽曲提供も積極的に行っているエンドウ.。ゴリゴリのパンクから、かわいい女の子キャラが歌うアニメソングまで、幅広い楽曲づくりの秘密はどこにあるのか? エンドウ.に音楽経験や制作環境について聞くインタビュー。第3弾では曲作り、編曲、そしてSONARの使いこなしについてよりディープに聞く。なお、今回のインタビューは、エンドウ.が楽曲制作においてはDAWソフト「SONAR」を使用しているという縁から、SONARの国内販売元であるティアック/TASCAMの加茂尚広氏とともに同社のショールームであるGibson Brands Showroom Tokyoで行われた。
◆エンドウ.(GEEKS)~画像~
今回はSONARの話からスタート。オーディオの録音・編集はSONAR、MIDIの打込みにはCubaseを併用してきたが、2016年の初頭より打込みも含めSONAR一本で作業するように移行を進めているというエンドウ.。サンプルを使ったリズム構築やワンショットの効果音にはCubaseのGroove Agent SEを使ってきたが、現在はNative InstrumentsのBatteryを使用中。SONARにもリズム向けサンプラーはあるものの、Cyloneという古いインストゥルメントしかないのが残念だと語る。「僕、DAW付属のソフトを使いたい派なので。外部のものは、あまり好きじゃないんです。DAWを一つで済ませたいのはみんなの願いですよ。」とも。
一方、ミックス、音作りではWAVES製品を使用。「RvoxとL3くらいしか使わないので。逆に似たようなのがSONARに入っているのがあれば使いたい。」SONARの機能では、ProChannelの存在が大きいようだ。ProChannelはSONARのオーディオトラックにビルトインされたチャンネルストリップで、歴史的なアナログコンソールのエミュレーター、コンプレッサーやEQ、チューブサチュレーターなど各種モジュールが用意されている。
「僕、ProChannelを使いたいがためにSONARを使ってるようなものですからね。ProChannelのエフェクトって全部軽い。200トラック全部にコンプを入れてもぜんぜん平気。動作もサクサク」と、その魅力を語ってくれた。
また、あまり目立つ機能ではないが、「すごく便利!」と紹介してくれたのが、バンドルファイルというSONAR独自のファイル形式。バンドルファイルは、プロジェクトファイル内にオーディオデータを内包しており、ファイル1つを持ち運び、あるいはメールで送信すれば、別の環境でプロジェクトが再現できる(サードパーティのエフェクトは除く)というものだ。今回はこのバンドルファイル形式でセーブされた、エンドウ.のSONARプロジェクトを見せてもらうことができた。
■GEEKS&ももクロ、SONARプロジェクトファイル
まず見せてもらったのがGEEKSの楽曲。「シンプルな曲なのでトラック数は少ない」とはいうものの、50トラック以上のトラックが使われている。「だいたいこの曲は全部オーディオなんですけど。MIDIは一個もないのかな。」と構成を紹介してくれた。
▲GEEKSの楽曲「スナッグワールド」のプロジェクト。複数のトラックから成るドラム、ギター、キーボード(効果音含む)、コーラスはフォルダで管理。また、10以上あるコーラスの一部はバスでまとめてからミックスされている。
▲ドラム、ギターのトラックを拡大したもの。ドラム、ギターともに10トラックを使用。ギターは各フレーズごとに2本のマイクで録音されているのがわかる。また、ドラムはトップ(Air L/R)とそれ以外で別のバスを用意してミックスされている。
トラックウィンドウを開くと、ドラムやギター、キーボード、コーラスなど、パートごとにフォルダに整然をまとめられている。「フォルダ分けがすごくSONARはやりやすくて。フォルダの感じとかSONARのビジュアルが好き」とそのルックスも気に入っている様子。
続いて見せてくれたのが、ももいろクローバーZの「バイバイでさようなら」のプロジェクト。エンドウ.自身が32トラックのコーラスを録音する前の段階とのこと。
▲ももクロ「バイバイでさようなら」のプロジェクトファイル。打ち込みトラックはドラム、ベース、ブラス、ピアノに加え、ベルやグロッケン、錫杖やお鈴などさまざまな効果音を含む約20トラックからなる。画面に映っているのは20トラックを超えるバッキング。シンセや効果音などをCubaseからインポートしたオーディオのトラックだ。
「この曲は打ち込みを全部Cubaseでやっていた時のもの。それを書き出していちいちSONARに入れてやっていたんです」と、ギターレコーディングの途中段階でも50を超える膨大なトラック数を解説。
「(シンセなど打ち込みの音は)いちいち全部Cubaseから書き出しているんです。この量を。ほんとはここで完結したいんですよ!」と、改めて、DAWを1つで済ませたいという要望を語った。
そのタイミングで再生されたのが、ギターの特徴的なフレーズ。「これ、クイーンですね」とはエンドウ.。
▲こちらも、ももクロのファイルで全部で15本のギタートラック。4本1組のギタートラックを組み合わせてクイーン的なギターサウンドを構築している。一番下に見えるのはメンバーのボーカルトラック。メンバーそれぞれのトラックに加えコーラス2トラックがフォルダにまとめられている。
―― ギターでいくと何トラック?
エンドウ. ギターは全部2本のマイクで録っていて。これが左からのバッキング、これが右からのバッキングで、合計4本です。これがウワモノを2本。サビがこれ。要するに全部左右さらにそれが2本ずつ、4つずつぐらいをいくつか録ってる。
―― トラック名に4100と57とありますが、これはオーディオテクニカとSHURE?
エンドウ. そうです。
―― ギターはすべてマイクで録るんですか?
エンドウ. そうです。あっ、これだけシミュレーターかな? (カッティングのトラックを聴きながら)そうですね、これ、リズム悪かったんで直しまくってるんですけど。リージョン……クリップを切って。すごく直してるんですけど。
―― 切ったリージョンはトリミングして一本にしたりとかはしませんか?
エンドウ. ああ、それはあんまりしないですね。また、動かすかもしれないし、っていうのもありますし……。
■ミックスリコール使えますよ、超感動的ですね
インタビューの時点ではエンドウ.がSONAR Platinumに移行してまだ日が浅いということで、同席したTASCAMの加茂氏に対していくつか質問が飛び出した。
「気になっているんです」と、まず挙げられたのが現行バージョンのSONAR Platinumの発売後に追加された新機能「VocalSync」について。VocalSyncは複数のボーカルパートのタイミングをぴったり合わせてくれる、ダブリングやハーモニーの構築にもってこいの機能。画面上のノブを回すだけでタイミング補正の度合いが調整できる。SONARのタイムストレッチの音質には満足していないというエンドウ.は、「まだ怪しんでるんです(笑)」といいつつも、TASCAM加茂氏の「ハモリのパートにはいいと思います。びっくりしますよ!」との解説に、「実際に使ってみたい」と答えた。
▲ボーカルトラックのタイミング合わせの強い味方Vocal Sync。調整するトラックを選択してRegion FXを作成、ガイドとなるトラックを選択すると調整用ノブが現れる。
続いてTASCAM加茂氏からは「ミックスリコール」が解説された。これはエフェクトやトラックの設定をプロジェクト内に「シーン」として複数保存し、いつでもその状態を呼び出せるもの。たとえば、ProChannelのコンソールエミュレーターをSSLからNeveに切り替える、複数のドラムキットを聴き比べるといった作業で、別途ファイル名を変えてセーブして、ロードし直すといった手間が不要になる。プロジェクトファイルを増やす必要はないのだ。さらにエクスポートによるファイル書き出しも便利。複数のシーン=ミックス違いを1度の操作でファイルに書き出すことができるのだ。
▲ミックスリコールのメニュー(左)と設定(右)。左の「Mix 1」「Mix 2」がシーン名。もちろん好きな名前で保存可能。設定画面ではリコールの対象となる動作を選択することができる。
「すごいっすね。知らなかった!」と驚きを隠せないエンドウ.は、「Cubaseのトラックバージョンのように、トラックのエディット結果も保存できるのか?」と質問。答えは、No。ミックスリコールで保存・再現できるのはオートメーションや、エフェクトやインストゥルメントの設定などに限られ、オーディオ、MIDIクリップの編集結果を保存することはできない。しかし、テイクレーンを使えば同様のことは可能だ。SONARではループ区間のレコーディング時に、同じトラックに重ねて録音していくことが可能。それぞれのテイクがトラック内のテイクレーンに保存され、気に入ったテイクを選んだり、複数のテイクの一番良いところを結合して最終的な1つのトラックを作成するといったことができる(コンピング)。このテイクレーンをクリップの編集結果の保存先として使えばよいとのこと。
エンドウ. すごいですね。これ、誰が言い出して搭載されたんですか(笑)。そういうの、ほんと欲しいんですけど。
―― これ、DAW初心者には「ふーん」って感じですけど、普段から作曲やレコーディングをしてる方には刺さりますよ。
エンドウ. 刺さりますね。
―― リバーブの具合とかけっこうこだわりありますよね? それが、「さっきのやつどうだったかな」みたいな時に、実はこれで、リバーブ違い、とか。CDとネット動画でミックスを変えるたりします?そういう用途にもいいかもしれません。
エンドウ. 変えますね。ローの感じとか圧縮具合とか、コンプの感じとか。
―― 最近よくある、スマホからヘッドホンで聴く音を意識した、モノとステレオであんまり差がないミックスを作るとか……。
エンドウ. すごい。使えますよ。超感動的ですね。
◆インタビュー(2)へ
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