パンクからキャラソン・アニソンまで、SONARを駆使するパフォーマー&コンポーザー、エンドウ.(GEEKS)の曲作りの秘密を聞く vol.2

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■アニメ用楽曲のオキテ「89秒」とは?

―― なるほど。

エンドウ. ベースとドラムだけがあって。あと、テンプレートはアニメ用だと「89秒で作ってくれ」という指定が絶対に来るので、89秒のWAVを上に乗っけて、「もう89秒はここまでだ」ってわかるようなプロジェクトを作ってます。

―― 89秒ってなんですか?

エンドウ. あのー、アニメは全部、オープニング、エンディングの長さが89秒って決まってるんです。もう10年、20年ずっとそうなので。

―― そこの尺に絶対合う形で……。

エンドウ. そうでね。で、リバーブの余韻とか含めても89.5秒までなので。だから、89秒のWAVファイルのクリップを置いて……。そうしたらテンポを変えてもこいつの長さは一緒じゃないですか? 曲、プロジェクトのテンポが変わっても、目印にして。

―― でもそれって、誰かが教えてくれることじゃないですよね?

エンドウ. そうですね。あっ、でもこれは、知り合いがやってるのを聞いて、話してる時に「あっ、それいいね」ってなって。「ああ、時間が過ぎちゃった」ってなってる時に、目視できるんですよ。以前は「ここ何秒だろ?」って、いちいちカーソルを持って行って、「ここ80.8かあ」みたいなことをやってたんですけど、目視できるようになって。

―― 普通にフルで曲を作って、あとでなんとなく合わせてるのかと思ってました。

エンドウ. 違うんですよねえ。アニメだと最初に必要になるのが89秒で。何より、「オープニングの絵を作るから、もう、仮でいいから構成と長さが決まってるのくれ」って言われて……。


―― もうラフで?

エンドウ. ラフでやって、向こうはアニメーター達がそれでオープニングとかを作ってるんです。で、こっちもその間に仕上げたりとかして(笑)。で、全部できて、宣伝だって時に「そろそろこの曲リリースするから、フルサイズにして」って言われるのが普通ですね。

―― 逆に89秒を作ってから悩むことってないですか?

エンドウ. あります。

―― ですよねえ。

エンドウ. これ、89秒で完結してたのに!って思いますけど。でもまあ、だいたいは作ってる時にアイディアも出てるから、盛り込みきれずボツにしたアイディアを、「2番でこれ使おう」とか、なんとなく考えながら。

―― なるほど。いやあ、89秒ってのは初めて聞きました。先ほどテンプレートのベースはTrilianという話がありましたが、ドラムの音源は何を?

エンドウ. SONARにしてからAddictive Drumsを使いたかったんですけど、Addictive Drumsはシンバルのソロマイクがないのが残念で。だからBFDを使ってるんですけど。BFD3かな。


▲エンドウ.が使用しているベース音源「Trilian」(右)とドラム音源「BFD3」(左)。「Trilian」は、Spectrasonicsのベース専用音源。5弦を含むエレクトリック・ベースを多彩な奏法で収録しているのに加え、シンセ・ベースも多数収録。文中の「Addictive Drums」はSONARにバンドルされるるXLN Audio社のドラム音源。「BFD」はFXpansion社のドラム音源で、大容量ドラム音源というジャンルを築いたソフトウェアとして有名。

―― BFDのいいところを教えて下さい。

エンドウ. BFD3は、マイクとか、マルチアウトがシンバルだけのアウトとかが出せるので、すごく便利なんですよ。それは、僕にとって便利というよりもミックスエンジニアが喜ぶんですよ。トップで音がまとまっちゃうと、「ちょっと、僕がマイキングしたドラムじゃなくて、打ち込みだから作りづらいよ」って言われちゃうんですよ。

―― ああ。

エンドウ. それで、昔、Addictive Drumsの1を使ってた時は、全部出来上がった後で、シンバルのノートだけを削除して、シンバルだけを出力して、っていうのを繰り返してたんです。それがすごく面倒で。BFDは太鼓やシンバルが並んでる1個1個をパラで出力できるので、すごく便利なんです。それ以外はどれも一緒じゃないですか? もう、ドラム音源は気に入ったライブラリに出会えれば。

―― 確かに

エンドウ. 1個1個の音、スネアの余韻とかピッチとかの調整は、Addictive Drumsはやりやすかったんですけど。

―― 僕がAddictive Drumsでいいなと思ったのは、打ち込みしなくてもよかったということ。フィルインも含め、いろんなジャンルのドラムフレーズがいっぱい入ってます。

エンドウ. ああ、確かに。

―― ブルース・ルンバっていうタンタララランスッタッタみたいなのって、ちょっとブルース・バンドをやってる人間だと叩けないんですよ、実は。そういうのも、B.B. Kingの「Woke Up This Morning」みたいなやつとか、ちゃんと入ってるなあ、とか。

エンドウ. こういうループ集ってのがほんとは使えるんですよね。僕、使ったことがそういえばなかったなあ(笑)。

―― そういうのはまったく使わずに自分でフレーズを作って?

エンドウ. そうですね。だからもうドラムのフィルなんてネタ切れもいいとこで(笑)。ここ何年かネタ切れ状態です。枯渇してます、アイディアが……。

―― (一同笑)

エンドウ. こっから引っ張ってくりゃいいのか! やった!今度からそうします(笑)。


▲SONARにバンドルされるドラム音源「Addictive Drums」。画面はリズムパターンを検索するBEATS画面。Gridサーチではグリッドをクリックして似たパターンをカンタンに絞り込める。パターンを試聴、気に入ったものをトラックにドラッグすればすぐに自分の曲に取り入れられる。トランスフォーム機能を使えば直感的にリズムパターンをカスタマイズすることも可能。SONARでエディットしたリズムフレーズはメディアブラウザに登録すれば、自作ライブラリとして使用可能に。

エンドウ. 僕、ずっとSONARだったんですけど、打ち込みをやるようになってからCubaseも使ったんですよ。でも、Cubaseがオーディオの使い方がしっくりこなくて。Cubaseで打ち込みを作って、オーディオ録音を全部SONARでやってを繰り返してたんですね。Cubaseのメディアベイみたいなのがあって、そっちで慣れてたんですが。今年の頭からMIDIの打込みも含め、作業を全部SONARにしたいって思ってたんですよ。

―― SONAR Platinumを買ってたんですよね?

エンドウ. ええ。そんで、あんまりやってこなかったSONARのMIDIを、すごく勉強してるんですけど。それがなかなか難しくて。あと、曲を作ってるときに、パーン!みたいなアタック音が欲しい時に自分の音素材集からばっと出して、聴きながら選ぶんですがそれをいつもCubaseでやってたんですよ。これもSONARでやりたいな、と。この時に(SONARのメディアブラウザーに)波形が出てほしいんですよ。どっかで波形を見たいんです。あと、音の長さを見たいんです。これ、どれぐらいの音の長さのファイルなんだろう?って。Cubaseにはそれがあるんですよ。

TASCAM加茂 Cakewalkに言います。

エンドウ. あはは(笑)。

TASCAM加茂 今、SONARはローリング・アップデートというアップデートを毎月やってますから。少しずつでもお客様の声を取り入れようっていう。

エンドウ. 僕、リストにまとめて送っていいですか? 「こうしてください!」って。もう、超いっぱいあるんです! ほかのDAWのいいとこを(笑)。

■Melodyne editorを使ったらもう戻れない

―― SONARは他のDAWのいいところを取り入れていくという面があります。

エンドウ. それ、すべきですよね。それってほとんどのクリエイター達が望んでる機能だったりしますから。

―― 割りとほかのDAWがやってなくてSONARがやってる……たとえば、Melodyneとの連携とか使われます?

エンドウ. Melodyne、バージョンアップしてeditorにしてるんですけど、めっちゃくちゃいいです!


▲Melodyneは、オーディオを音楽的に視覚化し、ピッチやタイミングの編集が行えるCelemony社のソフトウェア。いくつかグレードがあるが、SONAR Platinumには「Melodyne essential」がバンドルされる。SONARのトラックウィンドウ内にMelodyneが組み込まれ、ビルトイン機能と同様に使えるのが便利。上位グレードの「Melodyne editor」ではポリフォニック素材の処理、超高精度のテンポ検出・編集が可能なDNA(Direct Note Access)を搭載。SONAR付属のessentialからのアップグレードも可能。エンドウ.は「Melodyne editor」にアップグレードして使用中。

―― SONARとMelodyne、すごくいいですよね。

エンドウ. めちゃくちゃいい! もう、ほんとにすばらしいです。

―― なんにも悩まなくていい。ほかのソフトだと一回読みこまないといけないじゃないですか。

エンドウ. そうですね。一番楽なのが、ちょっとデモを作る時に、仮歌をぱーっと録った時に、まず他のピッチ修正ソフトと比べて、検出力が高いんですよ。で、やった時に音の1個1個が出るじゃないですか。それを全部選択してピッチをびゅっと揃えると、一応まず大雑把に揃えてくれる。それが他のソフトはできないんです。しかもスタジオで一番多いソフトが。それができなくて、エンジニアがいつもしこしこがんばってるんですよ。「いやいや、Melodyne買って、今ラフミックス作る時だから、そんな細かくやる必要ないんだから、もうオートでやったほうがいいよ」って。

―― SONARにはMelodyne essentialが入ってますけど、上位グレードのMelodyne editorにしたら戻れないですよね。

エンドウ. 戻れないですねえ。

―― Melodyneでの修正はご自身のボーカルにやるんですか? それともほかの方?

エンドウ. 自分のボーカルはがなってるんで、他のピッチ修正ソフトではほとんど拾えなかったんですよ。ちょっとがなったり、倍音が出過ぎたりするとぜんぜんだめなんですけど、Melodyneは全部イケるので、今後自分の声も直そうかな(笑)と思っちゃうぐらいで。

―― editorって1つ1つのボリューム変えられるじゃないですか? あれもいいですよね。

エンドウ. いいですね。でも、ミックスでは最終的にコンプとか、いろんなエンベロープ書く方がたぶん本格的な用途としては、有用なんですよね。あの1個1個の声の粒を大きくするかどうかの機能って僕は使ったことなかったです。

―― VOCALOIDで作ったトラックの調整にも便利です。VOCALOID Editorでボリュームを調整しようとすると面倒なんですが、Melodyne editorだとそれぞれの音を個別にひゅっひゅっとできるんで、あれが意外といいんですよ。

エンドウ. 確かに。僕はサークル活動でVOCALOIDでやってるんですけど。

―― そうなんですか?

エンドウ. そうなんです(笑)。歌い手とVOLCAOID系をやってるんですけど。

―― ああ、伊東歌詞太郎さんとやってらっしゃいましたよね。

エンドウ. そうです。VOCALOIDってなんかオンチじゃないですか? なんでVOCALOIDってオンチなんだろう? って思って。でも、一発でシュッとやると、とりあえず聴けるようになって、その後微調整ができるじゃないですか、これを通せば。すごいですよ、Melodyne。

(近日公開予定の第三回に続く)


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