【ライブレポート】キング・クリムゾン、渋谷オーチャードホールにてあの名曲の数々を披露
キング・クリムゾンは予定調和を許さない。ロバート・フリップの理想の下、1968年に結成したこのバンドは、数回の活動休止を挟みながら、常に新しい音楽表現を行ってきた。真の意味での“プログレッシヴ”なグループととして前進することを求められてきた彼らが最もファンにショックを与えるとしたら、グレイテスト・ヒッツ・ショーをやることだろう。2015年12月、約12年半ぶりの来日公演は、ファースト・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)からの曲を含む名曲の数々を披露するという、まさか!?...のステージが実現することになった。
◆キング・クリムゾン@渋谷オーチャードホール~画像~
過去のクラシックスを多く演奏する今回のツアーだが、メンバー構成は新しいラインアップだ。ステージ前方にはパット・マステロット、ビル・リーフリン、ギャヴィン・ハリスンの3台のドラム・キットが置かれ、他4人のメンバーは後方の壇上で演奏することになる。そんなステージ・セットを見るだけで、今回のツアーがただのレトロ・ショーでないことが明らかだった。
「ライヴの撮影は禁止。撮っていいのはトニー・レヴィンがカメラを構えているときだけ」「演奏中の再入場は禁止」など、フリップ自らが開演前のアナウンス(姿は見せず)。相変わらずの偏屈ぶり…と思わせて、最後は「以上を守って、キング・クリムゾンとパーティーしましょう」と締めくくり、観衆を沸かせている。
東京公演2日目となるこの日のオープニングは、『ポセイドンのめざめ』(1970)からの「平和/終章」だ。ジャッコ・ジャクスジクが歌い上げるこの曲を導入部にして、効果音が流れ始める。観客はもちろんそれが何かを知っている。そう、「21世紀のスキッツォイド・マン」のイントロだ。キング・クリムゾンというバンドを世界に知らしめた名曲で斬り込むこの日のセットリストは、ジャパン・ツアーで最もインパクトのあるものだった。もちろん演奏も素晴らしいもので、トリプル・ドラムスの応酬も“現代のキング・クリムゾン”を感じさせるものだ。不動のオリジナル・メンバーでありながらスポットライトを固辞するロバート・フリップ翁も、熱を込めたギター・プレイで応戦する。
そして続くのが、同じく『宮殿』からの「エピタフ」だ。観客たちは着席していたが、その興奮ぶりは曲が終わったときの拍手と声援から伝わってきた。
バンドの過去に新たな光を当てた後は、現在進行形の彼らが姿を現す。「ラディカル・アクション1」~「メルトダウン」~「ラディカル・アクション2」とメドレー形式で演奏された新曲は、21世紀のクリムゾンが提唱する“ヌオヴォ・メタル”に当てはまる曲で、続いてプレイされた「レヴェル5」と呼応しあう重低音空間を生み出していた。元ミニストリーのビル・リーフリンがバンドに加入した当初、意外な人選だとも思われたが、バンドのヘヴィ・サイドを表現するナンバーでの存在感を見ると、改めて納得させられる。トニー・レヴィンもベースからスティックに持ち替えて、リズムとメロディが交錯する絶妙のプレイを見せつける。
新ラインアップによって書かれた「ザ・ヘル・ハウンズ・オブ・クリム」、そして「ザ・コンストラクション・オブ・ライト」は好意的に迎えられたが、場内にどよめきが起きたのが「再び赤い悪夢」だ。ジャッコのヴォーカルはエイドリアン・ブリューのようなアクの強さはないが、クリアーなヴォーカルで初期の楽曲を歌いこなしており、『レッド』(1974)でジョン・ウェットンが歌ったこの曲も伸びやかな歌声で再現していた。1958年生まれの57歳と、決して若くはない彼ではあるものの、現在のクリムゾンの“鮮度”の高さは、彼の存在が少なくない影響を及ぼしているだろう。
『ライヴ・アット・ザ・オルフェウム』で初登場となった「バンシー・レッグス・ベル・ハッスル」の短いイントロから、過去曲のリ・コンストラクションが続く。「レターズ」「船乗りの話」「イージー・マネー」のいずれも、メル・コリンズのサックスとフルートが入ると、1970年代のクリムゾンの香りが漂ってくる。特に「船乗りの話」では彼の参加した『アースバウンド』(1972)のテイクとオーヴァーラップするフレーズがあったりして、落涙せずにいられなかった。
本編のクライマックスとなったのが「スターレス」だった。それまでほとんどメンバーを照らすだけだった照明が、まるで演奏の熱気をヴィジュアル化するように真っ赤になる。『レッド』の裏ジャケットよろしく、バンド7人のプレイがレッド・ゾーンに突入していった瞬間だった。
曲が終わると、まだ場内が赤いまま、メンバー達は立ち上がって観客に挨拶する。事前の予告どおり、トニー・レヴィンがカメラを手にして観客を撮影。観客もバンドを撮影する(何故かフリップも観客を撮影していた)。
そしてアンコールである。派生バンドでない、“キング・クリムゾン”と名のつくバンドが「クリムゾン・キングの宮殿」を演奏するという事実は、それだけで胸にこみ上げるものがあった。バンドの演奏もそれに相応する見事なもので、全員が一丸となったオーケストレーションは、神々しいほどの荘厳さを伴っていた。
そしてラスト、「トーキング・ドラム」から「太陽と戦慄パート2」へと雪崩れ込む。「宮殿」の荘厳さから一転、本能的でトライバルに暴れまわるトリプル・ドラムスと、ヘヴィに胸をえぐるギター・リフは、キング・クリムゾンの名前が単なる金看板でなく、未だ殺傷力に満ちていることを証明していた。
この日の公演以外でも日替わりで「冷たい街の情景」「太陽と戦慄パート1」そして「レッド」などをプレイ。さらに公演ごとにチケットのデザインが異なるということで、筆者の周囲もリピーターが多かった。物販コーナーも長蛇の列。しかし、主役はもちろんバンドの音楽だ。キング・クリムゾンは久々の来日で“コンフュージョン=混沌”を巻き起こしたが、まだ“エピタフ=墓碑銘”を刻むには早いことを証明してみせた。
text 山崎智之
photo by Claudia Hahn
<セットリスト 12/8(火)@オーチャードホール>
1. Peace
2. 21st Century Schizoid Man
3. Epitaph
4. Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)I
5. Meltdown
6. Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)II
7. Level Five
8. Hell Hounds Of Krim
9. The ConstruKction Of Light
10. One More Red Nightmare
11. Banshee Legs Bell Hassle
12. The Letters
13. Sailor's Tale
14. Easy Money
15. Starless
Encore
16. In The Court of the Crimson King
17. The Talking Drum
18. Larks' Tongues In Aspic Part II
ライブ・イベント情報
東京:12月7日(月)Bunkamuraオーチャードホール
東京:12月8日(火)Bunkamuraオーチャードホール
東京:12月9日(水)Bunkamuraオーチャードホール
東京:12月10日(木)Bunkamuraオーチャードホール
大阪:12月12日(土)フェスティバルホール
大阪:12月13日(日)フェスティバルホール
東京追加公演:12月16日(水)Bunkamuraオーチャードホール
東京追加公演:12月17日(木)Bunkamuraオーチャードホール
高松:12月19日(土)サンポートホール高松
名古屋:12月21日(月)名古屋国際会議場センチュリーホール
リリース情報
・紙ジャケ仕様(DVDA+K2HD+HQCD)\4,500+税
・デジパック仕様(DVDA+K2HD+HQCD)\3,300+税
・BOX(Web+ディスクユニオン限定) \25,000+税
●LP「キング・クリムゾンの宮殿」(ピクチャーディスク)\5,500+税も絶賛発売中
http://wowowent.co.jp/
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