【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話006「ロバート・フリップという人」

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取材のたびにエピソードは生まれるんだけど、今回はロバート・フリップについてライトな実体験を。

あれは2002年だからもう22年も前の話なんだけど、キング・クリムゾンが『しょうがない/Shoganai:happy with what you have to be happy with』というミニアルバムを出した。ミニアルバムと言っても10曲収録されてる…けど、多くは間奏曲のようなものなので、重量感という点ではミニアルバム。とはいえ聴きどころは色々あって、クリムゾンが提唱するブルースだとか、どえらいカッコいいバージョンの「太陽と戦慄」が収録されていたりして、そんなアルバムに関し、ロバート・フリップにインタビューする機会を得た。

訊きたいことは山ほどあるけど、もらっていた時間がタイトだったので、できるだけ時間のロスを避けるべく、あらかじめ紙に質問事項を印刷しておき、インタビューを始める際に「今日質問する内容はざっくりこういうものです」と通訳さんに手渡した。

するとその様子をみていたロバート・フリップが、眼光鋭く突っ込んできた。

「その紙は何だ。今何を渡した」

怖っ。突然どうした。

「今日これからあなたに質問する内容を、予めお渡ししたまでです。通訳が少しでもスムーズになるように…」

「捨てなさい」

このおっちゃん、おもろすぎる。取材スタイルもプログレッシブなのか?

「君が訊きたいことはここ(心臓を指して)にある。紙の上ではない。そんな紙は今すぐ破り捨てるのだ」

手厳しい。なんか、一瞬にしてキング・クリムゾンのメンバーになったような気分だ(笑)。僕と通訳さんは、その場で紙をしまおうとすると「破るんだ」と追撃。「あ、はい」とビリビリーと破り捨てると、満面の笑顔で「さあ、はじめよう」とご満悦になった。私がインタビュアーとしてどれだけ準備しているのかを試すようでもあり、ミュージシャンとインタビュアーのガチンコバトルを楽しむようでもあり、不敵な笑いを浮かべていた。あの丸いメガネで。

そもそも訊きたいことは山積みで、いくら時間があっても足りなさそうと思っていたけれど、スケジュール通りに進めるために用意された「紙」を本人が破棄させた時点で、「こりゃ、いくらでも質問ができる。ラッキー」とほくそ笑んだ。こっちの勝ちだ(笑)。

私は高校時代はプログレにどっぷりハマっていた。初めて聴いたキング・クリムゾンはラジオから流れてきた「レッド」だったから、そこから『クリムゾン・キングの宮殿』まで遡るという聴き方だったけれど、あれだけのめり込んだキング・クリムゾンのあのロバート・フリップが目の前にいるのだから、私の質問は止まらない。もちろん『しょうがない/Shoganai:happy with what you have to be happy with』は聴き込んである。


結局インタビューはタイトにまとめることになったけど、ロバート・フリップは紳士的にインタビューに応え、彼らしい発言が満載となった。余談も含めていろいろなお話を聞くことができた。一貫して学者風な佇まいと強烈なオーラは、噂で聞くそれと全く違わぬものだった。

あれから20年以上の年月が経ち、奥方トーヤの影響なのか、それともパンデミックが彼を変えたのか、今ロバート・フリップはチュチュにタイツ姿でバレエを踊り、2024年4月1日のエイプリルフールではフルヌードになるという、突き抜けた殿方となった。今なおとんでもないプログレッシブな年輪の刻み方である。フリップ卿、あのときのこと、憶えていらっしゃいますか?




文◎BARKS 烏丸哲也

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