【インタビュー】Tetsu [D'ERLANGER]、「作りものじゃなくて、リアルに感じられるもの」

■本当に最高のものができた時
■「最高だ！」っていう実感は意外とないものなのかも

──音のことって理屈じゃない部分もあるじゃないですか。でも明らかにいい音なんですよ。最初にデータで聴かせてもらった時は、データだと思って聴いているところがあったんですね。あくまで試聴、という気持ちで。でも、盤ができてちゃんとオーディオで聴いた時、「うわっ！」と思ったんですよ。もちろん前作も素晴らしかったですよ。音も良かった。だけど今作を聴くと、あのアルバムですら何かヴェールがかかっていたかのように思えてしまうというか。

Tetsu：確かに。俺としても、アルバムを出す時って、結局かならず反省点が出てくるし、そこで過去の盤と比べたりもするし、そこで見つけた問題を改善していくために、いろいろ議論もするわけですよ。だけどね、今回は……なんか無責任な言い方になりますけど、なんかもう「やっちゃえ！」という気持ちがあって。正直、あらかじめ確かな勝算があったとはいえない。

──でも、そこに賭けたいという気持ちがあったわけですよね？

Tetsu：うん。ということは、おそらくどこかに“勝算めいたもの”というのはあったんだろうけども。

──変な話、「やっちゃえ！」という気持ちでやってみて、結果的に「あちゃーっ！」ということになったとしても、「最高に楽しい経験になったし、これでいいじゃん」と思えるほどのことができたってことなんですよね、きっと。

Tetsu：そうそうそう！　そういうことなんだよ。なんかね、アメリカに居て何が楽しいかっていえば、なんかラクに居られるところがあるわけですよ。結局、俺はこれまで何度も行ってるとはいえ、向こうでのレコーディングというのは初めてのことだったわけじゃないですか。だけど、なんかラクな気分で過ごせるし、CIPHERじゃないけども、住みたいなと思ったことだって何度もあるんです。だけどやっぱ現実的なところを見た時に、「それでおまえ、やっていけんの？」ということになる。「向こうでドラムだけで食っていけんの？　裏で皿洗いでもすんだろ？」って（笑）。「結局、いいところしか見ずにそういうことを言ってんじゃねえのか？」って自分に言い聞かせながら、今回も帰ってきたし（笑）。今回はホントにそういう意味でもすごく勉強になって……。

──実際、そういう思い切りのいい音が録れていると思うんですけど、それが日本で録られた音からも感じられて……。すごく抜けのいいアルバムじゃないですか、今作って。

Tetsu：うん。歌が象徴的だよね。そんなに歌の音量が大きいわけじゃないんですよ。でも、歌って、聴こえてくるもんだと思うんだ。聴かせなきゃ、という感じでぐわっと押し付けなくても。実際ね、今のkyoちゃんの歌というのは、そんなに押し売りしなくてもちゃんと聴こえるんだよなって、俺は思った。

──ええ。抜けもいいし、若々しく聴こえるんですよ、歌声が。

Tetsu：それはあるかもしれない。しかも歌だけじゃなく、全員が若いじゃないですか。全体的にね。

──成熟度は増しているはずなのに、変に落ち着いていないというか。

Tetsu：うん。できた時に、もちろん常に今が最高じゃないといけないんだけど、今回は本当に感覚が違っていて。「最高！」とかそういうのとも違うんですよね。「どうですか？」って反応をうかがいたくなるのとも違っていて、「最高です！」って自分で宣言したいというのでもなくて……。なんかね、ポツンとひとつそこにある、という感じ。でも、本当に最高のアルバムができた時ってそういう感覚なんじゃないかって、ふと思ったんです。本当に最高のものができた時、「最高だ！」っていう実感は意外とないものなのかもなって。

取材・文◎増田勇一








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