MUSIC LIFE+ Vol.6 THE ROLLING STONES特集「ミック・ジャガーの若さの錬金術」

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iPhone、iPad用の無料アプリとして好評配信中の「MUSIC LIFE+(ミュージック・ライフ・プラス)」。洋楽ロック雑誌の草分けである「ミュージック・ライフ(1951-1998)」のデジタル版として貴重な写真・記事の宝庫であるとともに新たなコンテンツもプラスした音楽ファン必見の内容だ。そのVol.07はTHE ROLLING STONESの徹底特集。その記事の中ではバンド結成50周年を迎え、御年69歳にしていまも超人的なルックスとプロポーションを誇るヴォーカリスト/ミック・ジャガーの若さの秘密にも触れている。

Old Habits Die Hard
ミック・ジャガーの若さの錬金術
彼は賢者の石を見つけたのか?

西川公子:ミュージック・ライフ+スタッフ。エディター、ライター。MLで洋楽の洗礼を受ける。音楽、コスメ、老年研究がメイン・フィールド。

若いミュージシャンからはダイナソー(恐竜)とも揶揄されるローリング・ストーンズは、2012年で結成50年。半世紀近くの経歴の持ち主で、今なお第一線で活躍しているロック・ミュージシャンは少なくない。85歳のチャック・ベリーは、2011年1月のライブ・ステージで過労により倒れるまでは、相変わらずブリーフケースひとつ持って全米各地を飛び回るライブを精力的にこなしていた。70歳のボブ・ディランは、1988年から24年以上も世界を回るネヴァー・エンディング・ツアーを続けており、2010年には日本でもライブを行ったのはいうまでもない。NMEの「すぐ死にそうな有名人リスト」に1970年代前半から10年連続1位にチャートインしていたキース・リチャーズは、体内のすべての血を入れ替えたと、まことしやかに噂されていたが、結局のところタフに20世紀を生き延びた。若い頃「45歳で『サティスファクション』を歌っている自分なんて想像できない」と言い放ったミック・ジャガーは、現在68歳。2011年は、デイヴ・スチュワート、ジョス・ストーン、ダミアン・マーリー、A.R.ラフマーンという異色の組み合わせで新ユニット、スーパー・ヘヴィーを結成したばかり。ミックは、派手なピンクのスーツに身を包んでライブ・パフォーマンスを行った。ストーンズだけに限らず、太く短く生きることが一種の美学のように思われていた旧世代のロック・スターたちがここまで長生きし、しかも現役で活動を続けるとは、本人たちはもちろんファンだって想像もしなかったことだ。

なかでも20代と変わらぬスタイルのままのミックのスーパー・アンチ・エイジングぶりには、誰もが目を見はる。いったいミックは悪魔と契約して、錬金術でいう不老不死を約束する賢者の石でも手に入れたのだろうか? メディアも彼の若さの秘訣を追いかけるのが好きだ。2011年デイリー・メール紙は、ミックの若さの秘訣は、ハードなエクササイズやオーガニックな食生活、ラグジュアリーな高級コスメに加えて、美しい恋人や若い友達との交流だという記事を掲載した。実際ミックは、ツアーに備えての体力づくりのために、トレーニング、ランニング、キックボクササイズ、水泳、バレエやヨガ、ピラティスなどのあらゆる有酸素運動を取り入れているし、いまや11時には眠るとまで言われている。日本政府の入国拒否により幻の初来日に終わった1973年当時のインタビューでは、「理解しがたいイエロー人種は生魚でも食べていろよ」と毒づいていたミックだが、ヘルシー・ライフに転向した1981年には健康のために積極的に日本食レストランの寿司などのロー・フードを好んで食べるようになったのだから、人生わからない。

デイリー・メールの記事で面白かったのは、クラランス、ランコム、ドゥ・ラ・メールなどのハイ・ブランド・コスメの他に、ミックが特に好んでいるのが、500ポンドもするラ・プレリーのスキン・キャビアのラックス・クリームだということだ。スイス生まれのラ・プレリーは、世界最高水準のアンチ・エイジング・クリニックを持つ、セレブが愛用するラグジュアリー・ブランド。ファーミング効果の高いゴージャスなスキン・キャビア・シリーズは、アンチ・エイジングの最終兵器的なコスメである。エイジングの行き着くところは、男女関係なくやはりスキン・ケアなのだ。

ゴージャスなエイジング・ケアは、世界のスターたるサー・ミックならあたりまえに甘受できるものだが、ミックが意識的に体力維持を意識して行動し始めたのは、1978年頃からだった。3年振りのストーンズのツアー再開に備えて、ウェイトリフティング、ランニング、サイクリング、エクササイズにハードに励み、ドラッグや酒三昧のロック・スター生活を止めていた。ツアーでも強い酒は飲まず、睡眠をたっぷりとって、いまは健康が何よりの宝だと考えていると、当時のインタビューで答えている。どんどん巨大化していくストーンズのステージ・セットと共に、メイン・ヴォーカリストのミックが1ステージで歌って踊って走る距離は約19キロ。若さの衰えと共に、意識的に努力して体力を増強する必要があると考えたのも無理はない。

1970年代前半のツアー人生から考えると、360度変わったといってもいいミックの新しいライフ・スタイルは、キースにはさぞ評判が悪かったことだろう。ミックが、ストイックに生活を切り換えることができたのは、彼の育った環境にあるかもしれない。ミックの父ジョーは、イギリス北部のメソジスト派の環境で育った。メソジスト派は、厳格なピューリタン的性質を持っており、父ジョーもまた、酒を飲まず、慎ましく勤勉な生活を好んだ。子供に対する躾も厳しく、教師として体育を教えていた父は、息子たちにも毎日のウェイトリフティングやエクササイズの習慣をつけさせた。ダートフォードのグラマー・スクールの同級生だったディック・テイラーによると、ミックが夜ジャズ・クラブへ遊びに行く前には、父に言われて必ずウェイトリフティングとエクササイズをやらされていたという。ミックのライフ・スタイル転換は、父から厳しく躾けられたこうした習慣が体に染みついていたからスムーズに進んだのではないか。映画『アルフィー』のエンディング・シーンでミックが歌った名曲「オールド・ハビッツ・ダイ・ハード」が思い起こされる。そう、長年染みついた習慣は変えられない。しかしミックの場合には、古い習慣(オールド・ハビッツ)が、うまく甦ったようだ。サンディ・タイムスのインタビューで、ミックは「どんなばかなことをやっても一線を越えなかったのは、両親のおかげだった。父親の倫理観が、いつもお手本になっていた」と答えている。父ジョーは、96歳で亡くなった。もしかすると、ミックの家系は遺伝的に長寿かもしれない。しかしそれ以上に、意識的にstay young, stay healthyであり続けようという勤勉な努力が、彼のアンチ・エイジングを成立させているのだといえる。

セックスとドラッグと酒にイメージされる破滅的なロックン・ロールの時代は消え去り、これからはいかにスマートに、かっこよく老いて、なおロックし続けるか、そのことに焦点が移っていく。人類史上かつてない高齢化社会に突入した21世紀のいま、これまでの老いの概念は機能しない。ただ、「若い老い」を体現した錬金術師ミックのようなロック・スターが、これからの老年世代にとってファッショナブルなアイコンになっていくのは間違いないだろう。

『ガリヴァー旅行記』の作者スウィフトが言ったように、人間は、誰もが長生きしたいと切望しながら、しかし誰もが年寄りにはなりたくないと考える。我々はそんな相反する思いを抱きながら、不老不死の夢を見続けているのだから。

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