第44回グラミー賞 大胆徹底分析!

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第44回グラミー賞 大胆徹底分析!

来る2002年2月27日(日本時間28日)、洋楽ファンお待ちかねの、音楽界最大の祭典、第44回グラミー賞が発表される。

“音楽のアカデミー賞”とも呼ばれるこの祭典は、毎年幾多のドラマや新たなるスーパースターを輩出しているが、今年もまたここから何かが生まれていきそうな、そんな予感を漂わしている。

このグラミー、ひとくちに“音楽賞”といっても、その対象となるのはロックやポップス、R&Bといったわかりやすいものだけではなく、カントリーやブルース、ジャズ、ゴスペル、クラシック、そしてポエトリー・リーディングや子供向け音楽に至るまで賞が非常に多岐に渡って細分化しており、その部門数はなんと101に及ぶ!

本来なら、こうしたあらゆる部門を俯瞰してはじめてグラミーが語れるのかもしれないが、とりあえず、その年度の音楽の象徴の目安となるのは、“主要4部門”と呼ばれている●最優秀レコード賞●最優秀アルバム賞●最優秀楽曲賞●最優秀新人賞の4部門なので、今回はそこにスポットを当てて、今年の傾向を紹介していこう。

文●沢田太陽

主要4部門を大胆に分析!

アリシア・キーズ
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インディア・アリー
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ネリー・ファータド
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デヴィッド・グレイ
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リンキン・パーク
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最優秀新人賞

まずは最優秀新人賞から。こちらにノミネートされたのは、アリシア・キーズインディア・アリーネリー・ファータドデヴィッド・グレイリンキン・パークの5組。注目はアリシア・キーズとインディア・アリーの二人だろう。


『SONGS IN A MINOR』

Alicia Keys
BMG International
2001年9月26日発売
BVCP-21197 2548(Tax in)
アリシアは昨年6月、“ローリン・ヒルの再来”と騒がれデビューした、21歳の女性R&Bシンガー。クラシック・ピアノと70'sソウルとヒップホップの要素を混ぜ合わせたサウンドで大きな話題となり、6月にデビュー・アルバムが初登場1位、9月にはシングル「フォーリン」も1位を記録。これにより彼女は2001年にもっとも話題をさらったヒットメイカーとなり、今回のグラミーでも予想通り6部門にノミネートされている。


『ACOUSTIC SOUL』

INDIA.ARIE
2001年4月25日発売
UICT-1006 ¥2,548(tax in)
しかし、そうした大本命アリシアを上回る勢いの対抗馬が、ソウルの老舗/モータウンから久々に登場したオーガニック・ソウルの新星/インディア・アリーだ。本人自ら“アコースティック・ソウル”と名乗るギターの弾き語りによるフォーキーで生音重視のシンプルなサウンドは、チャート上の成績こそトップ10前後だったものの、評論家筋から高い評価を獲得するのに成功。その結果、インディアは、アリシアを上回る7部門にノミネートされ、今回のグラミーの台風の目に一躍躍り出た。


『ネリー・ファータド!』

NELLY FURTADO
ユニバーサルインターナショナル
2000年11月23日発売
UICW-1004 2,548(TAX IN)


『White Ladder』
David Gray
east west japan
2000年10月12日発売
AMCE-7198 2,400


『HYBRID THEOTY』

Linkin Park
2001年02月07日発売
WPCR-10877 2,079(tax in)
アリシア、インディア共に落ちついた70'sフィーリングのクラシカルなソウルを身上としている女性R&Bアーティストだが、こうした傾向はここ数年のグラミーでは強く、一昨年はメイシー・グレイ、昨年はジル・スコットがこの路線で多数のノミネートを獲得している。メイシー、ジルの場合は、結局派手な受賞がなかっただけに、アリシアとインディアがどこまで受賞の数を伸ばすかが期待されるところ。

そして、3番手ながら侮れないのがカナダ出身の23歳の美人女性シンガーソングライターのネリー・ファータド。

ロックやヒップホップ、ワールド・ミュージックといったジャンルの壁を軽々と飛び越える独特の音楽性と、英米で2曲のトップ10シングルを記録した実力はダテじゃない。彼女は先頃、アメリカの芸能誌『エンターテイメント・ウィークリー』でアリシアとインディアと並んで表紙を飾ったが、それだけこの3人の女性による争いが今回のグラミーの肝となるポイントとなっている。

こうした3人の女性に押されデヴィッド・グレイとリンキンの影が薄いが、グレイは英米でミリオン・セラー、リンキンは昨年のアメリカでのアルバム年間セールス1位と、その実績は侮れない。
アリシア/インディア/ネリー
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トレイン
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最優秀楽曲賞

続いて、その1年におけるもっとも優れた楽曲に贈られる最優秀楽曲賞。


『ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND』

U2
ユニバーサルインターナショナル
2000年10月25日発売
UICI-1002 2,548(Tax in)




『DROPS OF JUPITER』

Train
2001年06月20日発売
SRCS-2469 2,520 (tax in)
こちらの方も、先ほどのアリシア(「フォーリン」、インディア(「ヴィデオ」)、ネリー(「アイム・ライク・ア・バード」)の“3人娘”がそろってエントリー。

そこに今回のグラミー賞最多の9部門にノミネートされたU2の「Stuck In A Moment You Can't Get Out Of」。

そして4部門にノミネートされたサンフランシスコのAOR調のさわやかロックバンド、トレインのピースフルな大ヒット・ナンバー「ドロップス・オブ・ジュビター」がエントリー。

この部門に関して言えば、あの米同時多発テロの後の積極的なチャリティ活動とリーダーシップを評価してU2を推す声が強いが、しかし例年思わぬ伏兵が賞をさらうことの多いこの部門、何が獲得してもおかしくはない。
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U2

ボブ・ディラン
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映画『オー・ブラザー!』
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アウトキャスト
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最優秀アルバム賞

続いて最優秀アルバム賞。こちらの争点は“3人娘”からは一転、大人たちによる味わい深い作品の勝負となりそうだ。


『Love And Theft』

Bob Dylan
Sony Records International
2001年9月12日発売
SRCS-2535 2,520(tax in)



『オー・ブラザー!オリジナル・サウンドトラック』

映画「オー・ブラザー!」
ユニバーサル ミュージック
2001年8月29日発売
UICM-1015 2,548(tax in)


『Stankonia』

Outkast
BMG International
2000年11月22日発売
BVCA-21062 2,427(Tax in)
大本命は昨年の欧米の音楽誌でこぞって年間ベストアルバムに選出されたボブ・ディランのアメリカン・ルーツ・ロックを極めた名作『ラヴ・アンド・セフト』、そしてこれまた1930年代のアメリカ南部音楽をフィーチャーし、その素朴なサウンドが密かなブームを呼んだ映画『オー・ブラザー!』のサウンドトラック。

この2つが争うことになりそうだ。これにインディア、U2、そしてアメリカ南部のアトランタが生んだ奇才ラップ・デュオで今回のグラミーでも5部門にノミネートされている大穴・アウトキャストの『スタンコニーヤ』がエントリーされている。
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インディア/U2
インディア/アリシア/
アウトキャスト/トレイン/U2
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最優秀レコード賞

そして、“アメリカのレコード大賞”とも呼ばれる、グラミーにおけるもっとも重要な部門、最優秀レコード賞。

こちらにノミネートされたのは、
●インディア・アリーの「ヴィデオ」
●アリシア・キーズの「フォーリン」
●アウトキャストの「Ms.ジャクソン」
●トレインの「ドロップス・オブ・ジュピター」
そして昨年「ビューティフル・デイ」でこの賞を受賞した
●U2の「ウォーク・オン」となっている。

こちらの方も最優秀楽曲賞と同じく、テロ後のU2の功績を称える声が多いが、しかし2年連続でこの賞を受賞した例は過去に存在せず、なおかつこの「ウォーク・オン」が「ビューティフル・デイ」と同じアルバムの収録曲であることから新鮮味に欠ける点が指摘されることは避けられない。

順当に考えれば、あのテロの起こったニューヨーク出身にして、数々のチャリティにおいて印象深い歌声を聴かせていたアリシア・キーズの受賞が考えられる。

と言うのが、今年のグラミーの主な傾向だが、いかがだっただろうか。

こうして見ると、今年もまた音楽界には新しい潮流やアーティストたちが台頭してきていることを実感させられるのだが、悲しいかな、ここ数年間、ここ日本ではそうした世界の音楽シーンの新たな胎動をリアル・タイムでとらえきれていない脆弱さがある。

そうした悪しき傾向を止めるためにも、僕個人としては日本でまだあまり馴染みのないアーティストたちにできる限り賞をとってもらって話題になっていただきたいのであるが、その気になる結果はいよいよ月末。

さあ、運命の女神は誰に微笑むか?
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