『Actual Size』 イーストウエスト・ジャパン AMCY-7300 2001年08月08日発売 2,625 (tax in)
1 Lost In America 2 Wake Up 3 Shine 4 Arrow 5 Mary Goes Round 6 Suffocation 7 One World Away 8 I Don't Want To Be Happy 9 Crawl Over Me 10 Cheap Little Thrill 11 How Did I Give Myself Away 12 Nothing Like It In The World 13 Deep Dark Secret
リッチー・コッツェンを迎えた新ラインアップでの2枚目(通算6枚目)。ブルースやソウル・ミュージックに傾倒しているリッチーのカラーが出た前作『ゲット・オーヴァー・イット』はファンの間で賛否両論を呼んだ。しかし、バッド・イングリッシュやチープ・トリックといった歌を聴かせるハード・ロックを得意としているプロデューサー、リッチー・ズィトーを起用した、この『アクチュアル・サイズ』は、MR.BIGらしいメロディアスなハード・ロック路線に戻っている。
前半は若干、軽めという印象はあるものの、キャッチーな歌メロが冴える一方で、リッチーもテクニカルかつファンキーなギター・プレイを閃かせている。その点、MR.BIGらしさとリッチーの持ち味が、ちょうどいい具合に混ざりあっている、なんて言えるかもしれない。
ソングライターとして4曲(日本盤ボーナス・トラックを入れると5曲)を提供しているパット・トーピーの成長ぶりも聴き逃せない。リッチーの曲だとばかり思いっていたファンキーな「サフォケーション」が、パットの曲だと知り、ちょっとびっくりさせられた(逆にリッチーは'80年代テイストあふれるポップ・ナンバーを提供している)。因みに「クロール・オーヴァー・ミー」はパットと、ガンズ・アンド・ローゼズを経てカルトに出戻ったドラマー、マット・ソーラムの共作。
また、エリックとナイト・レンジャー~ダム・ヤンキーズのジャック・ブレイズは「アロウ」という美しいバラード・ナンバーを共作している。
ハード・ロックあり、ファンキーな曲あり、バラードあり……まったくもってMR.BIGらしい一枚である。 |
パットとリッチーからスペシャルなメッセージが届いています! | ──相変わらずMR.BIGらしい、曲が粒ぞろいでスケールの大きいアルバムですね。
パット: ありがとう。良いアルバムだった…と、取っていいのかな?
──もちろんですよ。今作のポイントってなんでしょう?
パット: どの収録曲も…そうだな、それぞれに個性のある楽曲が集まったアルバムで、いろんな物事にインスパイアされて生まれてきた。ある時起こった出来事、その時の気持ち…いろいろね。もちろん一方で、曲のテーマなんか考えずに、純粋に自分が「楽しむために」作った曲もある。MR.BIGには決まった作曲スタイルはないからね。即興やノリで手を加えながら、練り上げていった曲が多かったかな。
──ロック・バンド然としたやり方と言えそうですね。
リッチー: というよりは、個々の楽曲の雰囲気を重視したやり方って言ったほうがいいかもね。メンバーそれぞれが温めておいた曲なり素材なりを持ち寄って、その中からMR.BIGのアルバムに相応しい曲、好きな曲を選んでいった。それがまず7~8曲。アルバムの中核を成す部分になってるよ。で、その後あえて、いったん一人一人になってよく考えてみたんだ。何か加えるべき要素はないか?とか、こっちのほうがバンドに合ってるんじゃないか?とか。そしてもう一度、額を寄せ集めて、時にはジャムって、出来上がったのが今作さ。そういう作り方をしたからだと思うんだけど、この新作は、バンド・レベルにおいても、個人レベルにおいても、今、僕たちが立ってる場所、僕たちのあり方をよく代弁したモノになってる。出来にはすごく満足してるよ。
──今回のアルバムは、リッチーには特に挑戦しがいのあるモノだったと思うんです。後任ギタリストとしてバンドに加入して作った前作『ゲット・オーヴァー・イット』は、ある意味、自己紹介的な作品だった。でも、今作ではそれをさらに掘り下げて、「俺ならではのMR.BIG」というものをファンに見せつけないと…っていう、意欲もプレッシャーもあったんじゃないですか?
▲左:パット・トーピー(Dr)、右:リッチー・コッツェン(G) | リッチー: 確かに。前作は、僕のお披露目っていう点においては成功もしたし、いいアルバムだったよね。でも、今回の大きな違いは、メンバーうんぬんじゃなくて、曲とか音楽そのものに焦点を当てた作品だったってこと。前作を出して、ツアーもして、とりあえず新生MR.BIGがどんなものかはみんな把握してくれた。その後、問題は行く末だ。それを示したのが新作なわけで、結果はご覧の通りさ。楽曲がとにかくパワフルになった。これって、すごく大事なことだと思う。
パット: そうさ。前作では確かにリッチーは「新入り」だったけど、もう「新入り」じゃない。立派にバンドのひとつの核=MR.BIGな男さ!(笑)
──メンバーそれぞれの音楽的背景も、それから個性も、MR.BIGっててんでバラバラじゃないですか。どの作品でも思うことなんですが、そのバラバラなモノをMR.BIG色にまとめ上げることができるのは、やっぱり力量なんですかね?
パット: そうだな、さっきも言ったけど、MR.BIGには決まった作曲プロセスがない。たった一人の人間によって書かれる曲もあれば、二人、あるいはメンバー全員で書く曲もある。友達や外部のソングライターと共作する場合だってね。そういう様々な方法で書かれた曲をひとつの色にまとめてるのは、僕たちが“MR.BIGマシーン”って呼んでるモノなんだ。フィルターみたいな存在だな。その“MR.BIGマシーン”を通す…つまり、スピードを上げて演奏してみたり、逆にスロー・ダウンしたり、温めたり冷やしたり(笑)することで、MR.BIGらしさが映える曲に変わっていくんだよ。最終的には、聴いて自分たちが「気持ちいい!」と思える曲だったら合格!
──有能そうなマシーンですね(笑)。
パット: バンドとソロって、全く次元の違うモノなんだ。バンドっていうのは簡単に言えば、共同作業だ。その分、維持するのは大変だよ。ケンカもあるだろう、妥協だって必要だろう。でも、僕たちがMR.BIGというバンドを続けてるのは、何年も何年もかけて、協力して作り上げるモノの良さを知り尽くしてるからじゃないかな。だから……そうだな、“MR.BIGマシーン”は、数多くの部品から成っている。だけど、部品ひとつひとつは単体じゃあ機能しない。すべて必要な部品同士だと。それらが全部うまく働きあってスムーズに回っているのが、“MR.BIGマシーン”…こう言えばいいかな。
──なるほど。ところが、残念なことに最近、その部品がひとつ、欠けてしまいましたね。ビリー・シーンの脱退というのは、ファンにとってすごくショックなことだと思いますよ。
パット: MR.BIGっていうバンドは、10年以上にわたる長い関係において存在してるよね。その長い付き合いの中では、やっぱり衝突とか摩擦ってどうしても起こってしまうものなんだ。彼がバンドにいなくなったことはすごく残念なことには変わりないけれど、実は、今回プロモーションで来日する直前にみんなでビリーに会って、前向きな話し合いをしてきたんだ。お互いに抱えていたわだかまりをまず溶いて、ビリーには来年明けに行われる予定の日本ツアーに参加してもらうことが決まったよ。
リッチー: 日本のファンにとってビリーの存在がいかに大きいか、それはビリーを含め、みんながわかってる。ファンのために、日本で彼にプレイして欲しかったし、その気持ちはビリーも同じだったみたいだ。快くOKしてくれたよ。
──でも、衝突の発端は? 音楽的な方向性の違い?
パット: なんて言ったらいいんだろう? ……詳細にはあまり触れたくないんだ。というか、僕たち4人以外の人間にとって、詳細というものは重要じゃないと思うんだ。こういう人間同士の衝突には、必ず両面性がある。2つの対立する立場があれば、その2つの側面から見たストーリーがあるんだよ。だから僕が話をすれば、自分サイドの話だけになるのは当然で、でもそれはフェアじゃない。ただでさえ真実ではないことが世間ではウワサされがちだしね。今ハッキリと言えるのは、僕らとビリーとの間のわだかまりはなくなったこと、だからこそビリーも日本ツアーに参加すること、そしてバンドの内情なんかよりも大事なのはファンだということ。いつも支えてくれるファンに感謝の気持ちを表すために最上の方法は、ビリーと共にプレイすることだと思ったんだ。
──わかりました。さて、新作がリリースされて、改めて“実物大”のモノを俯瞰してみると、どうですか? 大きく見えますか、それとも…?(笑)
パット: まあ、実物大っていうのは、バンド名のBIGに引っかけたシャレみたいなモノだから(笑)。実際のところ、僕はすごくポジティヴな作品だと思う。'91年の『リーン・イントゥ・イット』以来の傑作と言ってくれるファンの声をよく聞くよ。知っての通り、『リーン~』は僕たちにとって記憶に残るヒット作だからね。僕は、『アクチュアル・サイズ』みたいないいアルバムを、こうしてリリースできてすごく嬉しい。いい曲がたくさん詰まってるけど、中でもファースト・シングルの「シャイン」、リッチーが書いた曲だけど、これって長いこと人々に歌い継がれるべき、 MR.BIGの新たな代表曲だと思うんだよね。だから、今からライヴでやるのが待ち遠しいんだ。この曲に生の息吹を吹き込んだら、もうスゴイことになるだろう、ってね!
──ポップ・センスとテクニックと作曲能力の合体で、もはやMR.BIGはMR.BIGGERですね。
パット: だと嬉しいね。まあでも、リスナー、一人一人が感じる“サイズ(大きさ)”で聴いてくれればいいと僕は思ってるよ。
──テクニック自慢がそろってるバンドもあるし、それからソングライティングの優れたミュージシャンぞろいっていうバンドもある。でも、よく考えてみると、その両方を兼ね備えたMR.BIGみたいなバンドってなかなか無くはないですか? そういう自負はあります?
リッチー: そう思ってくれるのは僕らとしては、とってもありがたいよ。それに「そうなんだよ、僕らってすばらしい音楽集団だよ」なんて、のけ反ってみせるのも簡単だ。けど、それをね、認めてしまったら、そりゃあまりにもエゴイスティックな人間だよ(笑)。そういう態度って大キライなんだ。それにね、MR.BIGがユニークかつクールなバンドである理由って、もっとベールの陰に隠れててほしいんだよね。秘密めいてるというか。「なんであんなにスゴイんだろ?」と不思議に思ってもらうぐらいがちょうどいいんだよ。 |
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