初対面だけど、なごんじゃいましたね。
この人、ちょっとルーズでほんわかしたムードを持っていて、とてもしゃべりやすい人。しかしこと歌となると、静と動の振り幅がとても広く、情念爆発型のシンガーでもあるというギャップがとても面白い。
特に心に刺さるのは、しゃべるようなイントネーションの歌と、風景描写に優れた情緒豊かな歌詞の世界。 「記憶をたどれば、聴覚よりも視覚のほうが明確に覚えてるじゃないですか? たとえばちっちゃい頃、あたしはあんまりしゃべんなかったけど、でも見てるものは憶えていたり…とか、そういうのが影響してると思うんだけど。詞を書く時に映像から入ることは多いですね。それと、たとえば“海”が何の象徴であるとか、自分の中で決めてあるんですよ。いちいち説明すると、全部歌うことがわかっちゃうから言いたくないんだけど…(笑)。“風”がこうで“光”がこうで、しかも“○色の光”っていったらこうだとか、自分の中ではっきり分かれてるんですよ、使い方が。だから、風景のようなものを描写してるように見えてても、実際はこういうことを言ってる、っていうのが自分の中だけにあって。目で見えなくても感じられるものをこまめに使うのが好きなんですよね」 この、独特の鋭い感性で編み上げられたニューアルバム『虹盤』は、前作から2年半振りというから本当にお待ちかねの作品で、しかも期待にたがわぬ素晴らしい内容。
哀しくも穏やかなアコースティック・バラードや、ドカンと切り込むヘヴィなギターロックや、ピコピコの電子音が流れるねじれたポップソングや、そのバラエティ豊かさにおいて過去最高の作品だと言って間違いない。 「タイトルは“人工的な虹”の意味を持ってるんですよ。大自然の大きな虹みたいに、偶然性の高いものじゃなくて。ホースの水で作ったり、絵の虹だったり、そういう意味ですね。“偶然でできた”とは言わせねぇ、みたいな(笑)。どうにか作ったぞ、っていう(笑)。いろんな色が入ってるっていう意味にとってもらってもいいんですけどね。アルバムを時間かけて作って、曲数がけっこうあったから自分でベスト盤みたいにしたんですよ。大きなコンセプトがあって作ったアルバムじゃなくて、好きな曲を引っこ抜こうっていう単純な発想から来てるんです」 ところで、松崎ナオといえば思い出すのが例の「呪いのビデオ」。テレビドラマ「リング」の中で使われた彼女の曲「白いよ」が、あまりにも設定にハマッていたために生じた先入観をまだ持っている人は、速攻捨ててくださいな。彼女自身も以下のように申しておりますので。 「とりあえず、一般の人はそういう印象しかないかもね。まぁでも、古い話なんで、あんまり気にせず。実はあれ、あたしが出演OKした理由は“黒木瞳さんに会いたいから”っていう理由だけだったんだけど、“コワイ”とか言われて失敗したかなと(笑)。黒木瞳さんはすげぇキレイで会ってよかったけど、やっぱり失敗したかなぁ?(笑)でも、ほんっとキレイでしたよ。目を合わせた瞬間に吸い込まれる、マジで。全人類に会ってほしいな、黒木瞳さんには」 目の前でミーハー話を繰り広げる女の子・松崎ナオと、2年半かけて最高の作品を作り上げたアーティスト・松崎ナオ。
嘘のないこのギャップが、彼女のミステリアスな魅力の源なのだと確認できたことが、なんだか嬉しい。 |