ロサンゼルスのFM局、The Beatのウィークリーショウ『WestSide Radio』が主催したソールドアウトのコンサートは、その収益をチャリティに寄付するためのものだった。しかし、DJ Quikがステージを徘徊し、オーディエンスの興奮を煽りに煽った様子を見るにつけ、一番得をしたのは彼だったのではないかとさえ思えてくる。そして今はショウが終わって午後11時を回ったところ。Quikはカリフォルニア州アナハイムのSun Theaterの裏に停めたトレイラーの中で腰掛け、考えを整理しようとしている。地元の熱狂的ファンがゲットーのスーパースターを一目見ようとトレイラーの外に集まる一方、中では詰め掛けた多くの取り巻き連中がQuikの強烈なパフォーマンスについて長々と大声で語り合っている。しかし、コンプトン出身のQuikは、そうやって注目を浴びていることをあまり大げさに受け止めてはいないようだ。 オレンジ色のジャージ上下に、きつく編んだ髪を軽やかにきめたDJ Quikは、より静かなトレイラー後部に移動し、彼を音楽業界の最前線に復帰させるプロジェクトとして最近完成させたアルバム『Balance & Options』について、穏やかに語り始めた。 「このアルバムでは様々なコラボレーションが楽しめるぜ」とQuikは説明する。 「El DeBargeだろ、Digital Undergroundだろ、Erick Sermonにxzibit、Kam……。俺たちはすごくたくさんの人間に声をかけたんだ」 Quikはアルバムを作るにあたって、敬意を払っている仲間や師に接触を試みた。「俺は自分の先駆者たる人たち、つまり俺たち後進のミュージシャンに道を拓いてくれたDon Corneliusをはじめとする年長の人たちと親しくなったんだ。El DeBargeなんか、俺たちが子供の頃から聴いて育った音楽を作ってきたんだからな」 『Balance & Options』がヒップホップの可能性の領域を広げてくれれば、とQuikは願っている。最近結婚し、3人の子供を持つ父親でもあるこのラッパーは、アルバムタイトルどおり、よりバランスのとれたアーティストになってきたのだ。これは彼が音楽的なテーマの焦点を、“ギャングスタ”的なものからもっと軽めのもの、例えば彼がここ数年楽しんできたパーティやその他の集まりのことなど、より広範なものに拡大してきたことをも意味している。人生の浮き沈みの両方が、このアルバムに結実しているのだ。 しかしながらQuikの人生にとっては、良いこと以外は何も見当たらないように思える。Aristaが今回着手している大々的な広告キャンペーンから判断しても、『Balance & Options』が彼のキャリアの中で最も待ち望まれているアルバムであることは間違いない。「Arista Recordsが俺のアルバムのプロモーションのために、かなりのマーケティング計画を展開してるのは知ってるよ」とQuikは当惑気味に語る。 「連中は50フィート×30フィートの看板を、(ロサンゼルスの)ウェスタン通りと54丁目の角にあるビルの両側に掲げたんだぜ。あんなでかいのは見たことないね。彼らは社外に優秀なストリートチームを抱えてるんだ。俺にとっては今までで最大のマーケティングだよ」 ともあれ、たとえどれだけDJ Quikが成功を収めようとも、どんなに高く昇りつめようとも、彼がバランスを失うようなことは決してないだろう。 |