| 「Mariah Careyのいちばんのファンは僕らだ」 Chris Frantzはそう言って笑う。彼はあちこちで頻繁にサンプリングされているグループ、Tom Tom Clubの片割れだ。Talking HeadsのドラマーだったFrantzと、Tom Tom Clubで彼とパートナーを組んだTina Weymouth(同じくHeadsの元ベーシスト)は、彼らの“クラブ”を8年間閉めたままだったが、Tom Tom Clubの音楽を熱心にサンプリングするCareyのようなアーティストが支払う著作権使用料によって、快適な生活を送ってきた。 「僕らの了承を得ていれば、問題はない。自分たちの曲のサンプルをラジオで聴くのは楽しいよ。もとの曲が第2の──あるいは第3か、第4か、第5の──生命を吹き込まれたような感じがする」 とFrantzは分析する。 「信じがたいことに、みんなオリジナルを知らないんだよね。僕らが初めてTom Tom Clubの曲を書いたころは、“ヒップホップ”なんて呼び方はなかった。そのうち認められるときが来るかもしれないけど、まあどうでもいいことだ。ショウビジネスだからね。柔軟性をもたないと」 '77年に結婚し、ティーンエイジャーの男の子2人の両親であるFrantzとWeymouthは、Tom Tom Clubの活動休止中も、ほかのアーティストをプロデュースするのに忙しかった。今は亡きMichael Hutchenceや、やはり故人のOfra Haza、これもすでに存在しないHappy Mondays、それにLos Fabulosos Cadillacsといった面々が、このデュオが有する音楽的専門技術の恩恵に浴した。が、彼らが再び自分たちのために曲を書き、録音しようという気になったのは、ほかでもないBette Midlerのおかげだ。 数年来、Tom Tom Clubの音楽がやたらにサンプリングされていたことから、FrantzとWeymouthは、新曲を加えたバンドのグレイテストヒット集を出して、巷にあふれるサンプルの出所を知らない若いリスナーに、彼らのマテリアルを紹介しようと考えた。ところが、オリジナルマスターは散逸し、行方不明になったり盗まれたりして、いくら探しても見つけ出すことができなかった(「頭にくるよ。ほんとに、人にはわからないくらい頭にきてる」とFrantzが言うのも無理はない)。ちょうどそのころ、MidlerからFrantzとWeymouthに“Tom Tom Clubっぽい”曲を書いてほしいという依頼があった。しかし、Midlerが別のプロデューサーとアルバムを完成させてしまった結果、Tom Tom Clubのもとには2曲の名作“Happiness Can't Buy Money”(タイトルはFrantzの父親の名言にちなむ)と“Who Feelin' It”が残った。マスターテープの不可解な消失により、昔の曲をコンピレーションにするというもともとの計画がボツになった今、デュオはこの2曲をはじめとするオリジナルマテリアルのニューアルバム『The Good, The Bad, And The Funky』を発表することにした。 ソリッドなレゲエやファンクの要素、それにもちろんヒップホップもミックスした『The Good, The Bad, And The Funky』は、最初から最後までグルーヴに満ちた作品だ。Charles & EddieのCharles Pettigrewをフィーチャーした“Holy Water”や“Surrender”、Pettigrewと独特なヴォーカルを聞かせるMystic Bowieが参加した“Time To Bounce”などのオリジナル曲。Lee“Scratch”Perryの“Soul Fire”(これもMystic Bowieをフィーチャー)と、Donna Summerの“Love To Love You Baby”(ちなみにこの曲のマスターも行方不明)という2曲のカヴァー曲。いずれも、Tom Tom Club本来のグルーヴィなフィーリングが最大限の効果をあげている。 長年メジャーレーベルに所属し、8年におよぶ休息期間には音楽業界のさまざまな変化を目にしてきた彼らが望んだのは、もっとささやかな形でのカムバックだった。『The Good, The Bad, And The Funky』は、Chris Blackwellのインディペンデントレーベル、Ryco Disk/Palm Picturesからのリリースになる。 「以前は最大手のレコード会社に所属していた。それがクールな時代もあったけれど、もうそうじゃない。今はインディーしかないよ」とFrantz。「人殺しをしないですむ時代なんだから、どうやったって食っていくことはできると思ってるんだ。先のことはわからないじゃないか。不思議なことが起きて、このアルバムが何百万枚も売れるかもしれないし。僕らが昔、実際に経験したことさ!」 |