マルチスタイル・ミックスマスター
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そこは北アイルランドのベルファスト。まもなく真夜中という時刻に、David Holmesは電話でインタビューに応えながら、友人に送るミックステープを包装している。そのタイトルは『For Making Love To, Taking Drugs To, And Breaking Up To』。電話が終り次第、外へ飛び出し、「Menagerie(風変わりな人々)」というパブでガールフレンドと一杯やる予定。明朝はロンドンへ向かい、リミックスの仕上げ。で、そのあとは? なんとイスラエルでバケーションとくる。どう考えても、スターが遊びに行きそうな土地とはいえない。 イスラエルでいったい何を見たいのだろう? 「オレのずっこけた頭の中さ」とHolmes。 「つまり、ちょいと頭を冷やしたいってこと。めちゃくちゃハードなスケジュールだったからね。好きでやってる仕事だけど、やっぱ煮詰まっちまうから、たまには息抜きしないと。ま、アドベンチャーさ。持っていくのはCDとテープに、着替えを2、3枚」 ベルファスト生まれの彼は、ミュージシャンであり、DJであり、プロデューサー。最新作『Bow Down To The Exit Sign』に関する質問攻めから逃げ出したいのだ。前作の『Let's Get Killed』は、Holmesがニューヨーク・シティを歩いて耳にしたシーンをベースにしたものだったが、今回のアルバムは当初、『Living Room』のサウンドトラックとなる予定だった。だが今のところ、Lisa Barros D'Sa原作のこの映画はまだ出来上がっていない。ストーリーは、ソニーという田舎生まれの少年が行方不明の兄弟を探しに大都会へやって来て、都会の裏街道を経験するアドベンチャー。 『Bow Down To The Exit Sign』に参加しているバックバンドは、ギターとベースのPhil Mossmann、キーボードのDarren Morris、それにシンガーのBobby Gillespie(Primal Scream)、Martina Topley-Bird(Tricky)、Carl Hancock Rux。このアルバムはHolmesの作品の中でも最も一般受けしやすいものだが、それ以上に、自分の成長が表れたアルバムだという。 「一歩前進したんだ。あるがままの俺がそこにある。これまでも自分にできそうもないことを無理してやったことはないし、流れに身を任せてきた」 成長の過程で、Stevie WonderやSimon & Garfunkel、Sex Pistols、Whoなど(20ほど名前を挙げてくれた)、様々なアーティストを聴いてきたHolmesは、どんなジャンルも好きだという。 「いろんなジャンルを聴いていると、自分で音楽を創るときになって、いろんなものが参考になる。実際の創作に取りかかる前から感じるものがあるんだ」 Holmesの音楽におけるアイデアや意義は、いつも心をオープンにしておくこと。 「音楽は自分自身のために創ってるんだ。アーティストでありたいと同時に、自分にできるだけ正直でいたい。何ごとに対しても心をオープンにして、人生もそのように生きていきたいということ。人を説得したりしないし、自分の考えを押しつけたりもしない。心がオープンであれば、それは音楽にも反映されると思うよ」 なるほど『Bow Down To The Exit Sign』を聴いてみれば、それがよく分かる。さて、Holmesはもっとおしゃべりしていたいようだが、なにしろ先がつまっている。パブでの1杯に、明朝のフライト、そうそう、それにイスラエルの聖地行きも。 by David John Farinella |