ベテランラッパーのサバイヴァルゲーム
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「開いちゃダメだよ」 これまでに見た最も大きな「小さな黒い本」を指してIce-Tは言った。 その3×2フィートの本「Pimpology」はIceのCoroner Recordsの会議室の壁にもたれかけさせてあり、アルファベット順の区分けタブが側面に上から並んでいる。 「映画のJumanjiは観たかい?」、Iceは尋ねた。 「ええ、まあ」、私は答えた。 「その本はあれと同じようなもんだ」 Robin Williamsの映画のように本を開いてしまえばPimpologyのキャラクターが命を吹き込まれて大騒ぎを起こすことになると、彼は言いたいようであった。 この世で最もクールなラッパーとなったIce-Tが、黒い革張りのソファに座って、自身のロックグループBody Countによる未完成のアルバムからの曲をプリヴューしている。 彼は自身の名義で8枚のラップアルバム(5枚はゴールドに輝いた)を発表した正真正銘のスーパースターで、レコーディングのキャリアに関する限りバリバリの現役であるが、ざっくばらんでユーモアのあるきさくな態度で人に接しているようだ。先頃VH-1が悪名高いBehind The Musicのシリーズで彼にインタビューしたが、彼はその番組のことについて笑わずに話すことはできなかったのである。 Iceは番組のプロデューサーの一人が用いた姑息な取材方法を面白く感じたという。その女性プロデューサーはIceにインタヴューしてから、彼の友人にコンタクトしてゴシップを探ろうとしたが、友人は彼女には協力せずに電話があったことをIceに話したのである。Iceは驚いたが、次のインタビューに現われたとき、彼女はその件に一切触れなかったという。 だが、彼女はIceの友人にフード地区のツアーガイドを頼もうとしたときにしっぺ返しを受けたのだ。 「彼女は俺の仲間の一人に強盗されたのさ」 Iceは真顔を保とうと努力しながら平然と言ってのけた。 「あの女がフードに行きたいって言うから、ダチは600ドルだ、600ドルくれたら案内してやるって言ったんだ」 しかし、彼女は気が変わって600ドルは高すぎると判断、ツアーガイドに200ドルしか払わなかったため、事態は悲惨な結果になってしまった。 「それでヤツは彼女の生活を脅かすようになったんだ」 Iceはあたかも毎日そんな仕打ちを目撃しているかのように冷静に話した。 「だけど、できればこの件を番組に追加して欲しいもんだね。ストリートのガキに幾らか払うと言っておいて、ちゃんと払わずにVH-1の中に逃げ込めると思ったら大間違いだ。ヤツは待ち伏せしてでもそのメスブタを見つけるだろうよ。50ドルで人を殺したこともあるんだからな」 結局はIceが仲裁に入り、その友人を呼び出して金を返すように命じたのだ。だが、そのプロデューサーもSnoop DoggのスペシャルをBehind The Musicで制作するときには、そう簡単にはいかないだろうとIceはジョークを飛ばした。 「あの女はそのあたりで撃たれてしまうだろうよ、連中に輪姦されながらね」と彼はSnoopの取り巻きについて語っている。 「アイツの仲間は俺のダチほど大人じゃねえからな」 Behind The Musicはアーティストを取り巻く論争に関して深く探ることで知られているが、Ice-Tは番組が彼に関して暴露しようとしているスキャンダラスと考えられるような情報についてはまったく気に留めていないようだ。 「自分に関して本当に良かったと思えるのは、俺は大きな浮き沈みを経験していないということだね」とIceは説明する。 「映画に関する俺のキャリアと人生は、まだまだ好調だ。連中がいつも人のキャリアのどん底をどのように描くかは知っているだろう? 俺に関する限りその部分に持って行けるのは、おそらく「Cop Killer」についての忌まわしいごたごたくらいのもんだろう」 Iceが無関心でいられるのには理由がある。 孤児として育ち、10代で父親となり、一度はポン引きにも手を染めたことがあるという彼の若き日の経歴は、長年にわたる数多くの率直なインタヴューですでに語られているからだ。 「正直なところ俺の人生は、学校に飾られている絵のようにオープンにされている。それに俺はキャリアを築くのにあまり時間がかからなかった。長い苦闘時代を過ごしたとか、実際はCrenshaw高校には行っていなかったなんてことはないのさ。そんなことは有りえない」 Behind The Musicの収録に関してIceは、 「いやあ、あれは面白かったね。放送が待ち切れないよ。きっと体重250ポンドのメスブタが出てきて、アイツが赤ちゃんの父親よ、Dope Jamツアーの時にやられたの、とか話すんだろうな」 しかし、西海岸のヴェテランラッパーはVH-1スペシャルの放映数週間前にリリースされた自分のベストアルバム『Greatest Hits: The Evidence』が、この番組によって火がつくことを期待している。 このアルバムには「6'N The Mornin'」「I'm Your Pusher」「Colors」といったIce-Tの名曲が収録されており、新旧のヒップホップファンにギャングスタラップにおける彼の重要性を再認識させる内容となっている。 「『The Evidence』は俺の存在証明さ」とIce。 「つまり俺がキャリアの中でヒップホップに何をもたらしたのかについての証拠、それから忌まわしいことに俺のレコードが数多くの訴訟における証拠品だったということの記録なんだよ」 しかし、このコンピレーションのタイトルに彼の重要性を再強調する意図はまったくない。彼はこの数年間に自分が受け取ったリスペクトの量に満足しているという。 「みんなはいつも俺に言うんだ、“君には充分な支援者がついていない”ってね」 「これ以上支援者が増えたら、俺はストリートを歩けなくなっちまう! 人込みに街を運ばれていくことになるだろう。今でも誰かに“ヨー、アンタがオレの人生を変えてくれたぜ”と声をかけられることなしに、2フィートも歩けないっていうのにさ」 ベストアルバムの収録曲をコンパイルする作業は、Iceにとってノスタルジックな経験を完了させることにもなった。 '88年のセカンドアルバム『Power』からの「Girls L.G.B.N.A.F.(Let's Get But Naked And F--k)」のように極めて露骨な作品のいくつかについて考えさせられたという。彼は自分の音楽を現在Eminemがやっているようなラップのスタイルと比較せずにはいられなかったのである。 IceはBody Countの次のアルバム『Facial Cum Shots: The 13th Hour』用のタイトル未定の新曲に、「The Real Slim」の最初のヴァースを引用するほどのEminemの大ファンである。 「アンタは黒人なんて一度も見たことがなかったように振る舞う」とIceはEmの詞を少し変えて、ザラザラしたラップロックのトラックに乗せている。 このフレーズを例に挙げながら彼は、 「俺達がこんなふうに感じているのは確かだからな。“人々の目はみんなフロアに落ちる/PamとTommyが突然ドアから現われた/お返りだぜェ/いや、ちょっと待ってくれ/ヤツは確かにそう言った/ホントかい?/俺達は戻ってきた”、いつもこんな調子なのさ」と語っている。 だが、Iceが興奮しているプロジェクトは自身のレコーディングだけではない。彼はInternetのプロジェクトを立ち上げたいと熱望しており、1年以上もこれに取り組んでいるのだ。 自分のウェブサイト「www.coronerrecords.com」を通じて25組のアーティストをプロモートするというのが彼の計画である。各アーティストの曲は『The Game Of Death』というタイトルのコンピレーションにフィーチャーされ、Internet通販と店頭の両方で販売されるのだ。 これらのアーティストはIceと包括的な契約を結ぶわけではなく、他のレーベルと契約にこぎつけた場合には、レコーディング経費を彼に支払えば済むという形をとる。さらにコンピ盤の利益はすべて各グループの間で分配されるという。 「アルバムから各曲のレコードを500枚程度プレスするつもりだ」とIceは説明する。 「そのうちの200枚くらいをアーティストに渡して、ストリートでプロモーションさせるんだ。残りの300枚は俺の方で郵送するのさ」 いまやオフィスのデスクに座っているIceは、Macintoshを操って現在建設中のCoroner Records社屋の現場をヴァーチャルツアーで案内してくれるのだ。新しいクリスマスプレゼントのおもちゃを見せびらかす子供のように、彼はマウスを使ってコンピュータ画面上の携帯電話番号をクリックしてみせる。 「こうやれば俺にメールを送れるんだ」 スクリーンのE-mailメッセージボックスを開けながらIceは言った。 「こいつはホットになるぜ」 確かにホットになるだろう。ラップ業界で16年間も闘ってきたというのに、Ice-Tの目の中にはいまでも興奮の色が読み取れるからだ。 Billy Jhonson Jr |
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