アートの結晶

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アートの結晶

俺は昔から“スマイル!”って人に笑いかけるような人間じゃなかったからね

Everclearのフロントマン、Art Alexakisはニタッと歯をむき出しにして笑う真似をしながらこう言う。

だから、どうやったらあんな風に笑えるのか分からない。今、笑い方の勉強をしてるところさ

もちろんこれは、Everclearの最新アルバムのタイトルをそのままネタにした言葉だ。Alexakisは続けてこう語る。

あのアルバム名は文字どおりの意味じゃなくて、かなり比喩的な含みを持たせて付けたものだ。ここ2~3年、俺は物事をあまり気にせずに、ただ楽しむってことを心がけている。それは簡単に言い換えれば、笑うことを学んでるってことなんだ

幼いころに両親が離婚、女手ひとつで育てられ、若くして兄を亡くし、23歳の時にはドラッグの過剰摂取であやうく命を落としかけ、さらに自身も2度の離婚を経験しているAlexakisにとって、陽気な外見を手に入れることは非常に長い道のりであった。

Everclearが過去にリリースした3枚のアルバムで、このシンガーはそのダークな部分をさらけ出している。皮肉なことに、その多くは「I Will Buy You A New Life」や「Father Of Mine」など、アップビートで威勢の良い曲に収められているのだが。そして今回、『Songs From An American Movie』と名付けられた2部作のうち最初の1枚『Learning How To Smile』もまた、この現代オルタナティヴロック界のパラドックス王のほろ苦い経験を映し出す作品となっている。

悲しい曲をめちゃくちゃハッピーなメロディで書くのは得意なんだ」と自認するAlexakisは、しかめっ面をしてこうつけ加える。

それが俺のやり方なのさ。誰だって得意分野ってのはあるだろ

Everclearのメジャーレーベルでの2ndアルバム『So Much For The Afterglow』が、ダブルプラチナムセールスという大きな成功を収めると、Alexakisはすぐにこのアルバムのプロモーションツアーを終わらせ、ソロ作品を発表すべく自宅にこもって制作に取りかかった。

しかし、当初アコースティック作品を予定していたAlexakisだったが、バンド仲間のCraig MontoyaとGreg Eklandを招いて何曲か一緒にプレイした後、突如として路線を大幅に変更。楽曲がソロよりもバンド向きであることに気付いた彼は、その作品をEverclear名義による2つのアルバム…1枚はメロディックでソフトな曲を収めたもの、もう1枚はよりロック色の強いものとして、立て続けにリリースすることを決めたのである。

『Songs From An American Movie』のコンセプトは、Alexakisのレコードコレクションの中にある名盤から生まれた。

俺は昔からずっとNeil Young『Rust Never Sleeps』が大好きでね。あのレコードは片面が美しいアコースティック曲、片面がノリノリのロックソングで出来ている。で、俺たちも全く毛色の異なるディスクを2枚作れたらカッコいいんじゃないかと思ったのさ。最初は2枚組にしようって話だったんだけど、後から誰かが…誰だったか憶えてないけど、違うアルバムとして出したらどうかってアイディアを持ち出したんだ

めちゃくちゃクールなアイディアだと思ったよ」と彼は続ける。

商業的な観点から見ると危険かもしれないけど、大成功する可能性もある…もし2枚とも優れた作品だったらね。昔からのファンが気に入ってくれて、さらに新しいファンを獲得できたら成功と言えるかもしれない。とにかく、クリエイティヴ的に俺は素晴らしいチャレンジだと思ったのさ

だがAlexakisは、『Learning To Smile』での静かでメロディックな傾向が、一部のファンには聴き古されたような印象を与えるかもしれないと認めている。

“おいおい、お前ら『World Of Noise』以来、ちっともいい作品ないじゃねえか”って言うファンもいると思う。でも俺にしてみれば、“いいかい、あんたたちが『World Of Noise』みたいなのを期待してるんだとしたら、悪いけどこれは違うぜ。これっぽっちも似てない。もしかしたら次のは『World Of Noise』風になるかもしれないから、それまで待ってた方がいいかもな”って感じさ

みんな俺に絶叫系を期待してるんだろう。けど、こっちは何度も同じものを作り続けるなんてまっぴらだ。そんなのは退屈きわまりないね

Alexakisは残念そうな表情でこう語る。

ファンってのはいつも同じ音楽を聴きたがってると思うんだ。大体似たようなバンドのCDばかり買うだろ。俺は全く逆なのさ。色んなタイプの音楽が好きだから、そういうのは1つの型にはめ込まれるみたいな気がして嫌なんだ

一方で、このシンガーソングライターは『Learning To Smile』が多くの人々の心をつかむだろうと確信している。

こういうメロディックなものを好むファンも絶対いると思う。特に「Everything To Everyone」はかなりウケるんじゃないかな

この作品のハイライトの1つであり、メロディックというテーマに対するAlexakisのヴィジョンを完璧に表わしているのは、何といってもVan Morrisonの名曲「Brown Eyed Girl」のカヴァーだろう。

Alexakisはこの選曲についてこう説明する。

このレコードの雰囲気にあまりにもピッタリだったんだ。この曲は前から大好きでね。常に俺のフェイヴァリット・ソングの1つだった。自分たちのヴァージョンはとても気に入ってるよ。Everclear風だけど、曲本来の素晴らしさはちゃんと保っている。基本的にはあの曲のいい部分を採って、そこに俺たちなりの攻撃性を加えたつもりだ。めちゃカッコいい出来になってるよ

『Songs From An American Movie』の2作目『Good Time For A Bad Attitude』は、ギターサウンドを軸とした、極めてロック色の強い作品になると言われている。

しかし、それでもAlexakisは「
俺は世界一の絶叫屋じゃないよ」と言い切る。

それに、世界一のシンガーでもない。でも、『Learning To Smile』ではストーリーを語るってことにハマったよ。映画みたいにロマンティックにね。恋愛小説のような、というか、もっと壮大な感じで。次のアルバムはそれほどリリカルじゃないし、言葉も少ないけど、反対に音楽により重きを置いたものになっている

といっても、Everclearのことである。どんなアルバムであっても聴き手は本物のエモーションを感じることができるに違いない。

俺が書く曲はすべて俺自身の心の中から来るものなんだ。それが自伝的であろうと、そうでなかろうとね。自分が経験していないことであれば、もしそれが起こったらどうリアクションするかってことを書いている」とAlexakisは説明する。

今回のアルバムだと、そうだな、去年離婚して、当然のごとく心に傷が残ったこと。けど、今は娘ともその母親とも凄くいい関係を保ってるし、結果オーライさ

そんなことがあったから、今じゃバラの香りを楽しむ心の余裕もできたよ」と彼は感慨深げに言う。

このアルバムからの1stシングル「Wonderful」のミックスを終えた後なんか、太陽の光を浴びながら散歩したぐらいだからね。その時、“この感じ、ちゃんと覚えておこう。俺たちにとってあの曲はもの凄く大切なものになるはずだから”って思ったんだ。そういう悟りみたいなものを得るのはいいもんだよ

常に逆説的なAlexakisは、少し考えた後、顔をしかめてこう語った。

もちろん、かなり的外れと言えばそうかもしれないさ。でも、その時はそうしたい気分だったんだ

by Wendy Hermanson

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