【ライブレポート】誰かを救う、キズの言葉

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年末年始の連休明けにあたる1月6日、この時期ならではの極度の乾燥状態にあった列島各地は久しぶりの雨に見舞われた。その時点で何やら神がかった力のようなものを感じずにはいられなかったし、脳内には2022年10月の日比谷野外大音楽堂での記憶が蘇ってきていた。

◆ライブ写真

その日の公演に掲げられていたタイトルは<そらのないひと>。開演前から降り続いていた雨がアンコールを待つ間に止むという、あまりにも完璧すぎる空からの回答のあり方に軽い眩暈をおぼえつつも、このバンドには天候さえも意のままにコントロールする不思議な力が備わっているのではないか、などと感じさせられたものだった。そして、それから2年2ヵ月ほどを経たこの日も雨。まるでキズの大切な日には雨が降ることがあらかじめ決められているかのような気がしてくるほどだ。

この日、彼らは自己初となる日本武道館での単独公演、<焔>を実施した。焔というのは単なる炎ではなく、負の感情を燃料とするものを指し、妬みや怒りといった激情が燃えさかるさまを表す言葉である。一世一代の晴れ舞台には似つかわしくない言葉選びのようにも思われるが、これまで抱えてきた負の感情をこの場で燃やし尽くしてやろうというような心情を汲み取れないこともない。

もちろんそれはこちらの勝手な想像でしかないし、彼ら自身の意図と重なるところがあるのか否かはわからない。ただ、彼らの音楽が、こちらが想像力を働かせずにいることを許さぬかのような示唆に飛んだものであることも間違いない。もちろん、ライブを楽しみ尽くすうえでは無心でそれを楽しむことが何よりも大切だろう。だが、ふとした場面や言葉に思いがけない気付きをもたらされたり、真意のようなものが見えてきたりすることがある。この<焔>もまたそんな瞬間の連続だった。


場内が暗転したのは、開演定刻を少し過ぎたころだった。不穏な空気を漂わせながら映像を伴ったオープニングSEが流れ、メンバー4人がスモークの立ち込めるステージ上に悠然と姿を現す。そのゆったりとした足取り自体にさえも何か意味が込められているのではないかと勘繰りたくなるほどだった。歴史あるこの場所での第一歩をしっかりと踏みしめようという彼らの気持ちが伝わってきていたからかもしれない。

オープニングチューンは「ストロベリー・ブルー」。《極楽よりも極上の雨が》というフレーズに耳が反応し、「さあ、こっちへ」という言葉が呪文のように誘い込んでくる。その余韻をかき消すかのように「傷痕」が炸裂すると、ステージ背景の巨大LEDスクリーンが4分割され、メンバー個々の姿が大きく映し出される。まるで巨大なモンスターたちが高いところからアリーナ全体を見下ろしているかのような図だが、オーディエンスはステージに視線を返すのではなく激しいヘッドバンギングで4人の激音に応えている。バンドの本気度が伝わってくるからこそ、観衆も受け身のままではいられなくなる。そうした熱意の交感が早くも感じられた瞬間だった。


それ以降の細かな事実関係の流れについて追うことは、敢えてせずにおきたい。ただ、最終的にダブルアンコールを経てトータル2時間10分ほどに及んだステージを観終えた際に僕が味わっていたのは、純度の高い感動だったように思う。来夢は「この先も俺に任せてくれ。ありがとう!」とオーディエンスに呼びかけ、さらに「またすぐやるよ、ココ。じゃあな!」という言葉を残してステージから去っていった。

そしてスクリーンには「この命でお前の全てを救いたい」というメッセージが映し出されていた。その際に気付かされたのは、ステージ全体を通じて何度も感謝の言葉を投げ掛けていながら、来夢が一度も武道館というワードを発していなかったことだ。この場所に立ったなら誰でも「武道館!」と声高らかに叫び、頭上から歓声が降ってくるのを体感したくなるものではないだろうか。まさか言い忘れたわけではないだろうし、敢えて武道館という万能のワードを口にすることを控えたのだとしか思えない。その理由についてもこちらは想像するしかないわけだが、僕自身が感じたのは「武道館だからこそ起こり得るマジック」のようなものに甘えたくなかったからではないか、ということだった。教科書通りの感動のセオリーに則ることを拒絶した、と言い換えてもいいかもしれない。


そこでふたたび思い出したのは、前述の<そらのないひと>の際に、来夢が日比谷野外大音楽堂について「特に思い入れ深い場所ではない」と語っていたことだ。ところが公演後に話した際、彼は「実はその時点で、ひとつ嘘をついていた」と認めた。「実はめちゃめちゃ思い入れがある。ただ、事前にそう言ってしまうとみんながそういう気持ちで来ちゃうじゃないですか。だから敢えてそんな言い方をしていたんです」と。あの時と同様に、今回も彼は、「特別な何かが起きること」を過度に期待することなく、自然体でライブに接して欲しいと願っていたのではないだろうか。どんなに特別な出来事だろうと、二度目にはその特別さが薄れてしまい、当たり前のことになってしまうからこそ。

しかし実際、この<焔>が結果として特別な機会になったことは疑いようもない。この日のライブ全体を通じて僕が何よりも強く感じさせられたのは、1本のライブに向き合ううえでのバンドの真摯さだった。音楽的な多様さに富んだこのバンドの楽曲には、演奏面での正確さを少しばかり欠いただけで崩壊しかねない危うさを孕んだものも少なくない。確かにそのバンドサウンドには4人分の音だけではなく、必要に応じて同期音源も絡んでいるわけだが、reiki、ユエ、きょうのすけのミュージシャンシップの高さはもっと評価されて然るべきだし、来夢の圧倒的歌唱についても当然ながら同じことがいえる。このバンドならではのアンサンブルが確立されているのも魅力だ。


そして、そうした真摯な演奏と歌唱から伝わってくるのは弱者の視点を持ち合わせているからこそ誰かを救うことができる言葉の断片の数々であり、愛情の深さだった。加えて、アンコールの冒頭で披露された新曲「R/E/D/」に伴う映像には、X JAPAN、DIR EN GREY、ギルガメッシュ、MUCCなどさまざまな先達に対するオマージュがちりばめられていて、彼ら自身が歴史に対して抱くリスペクトの深さが感じられた。彼らが標榜する“VISUAL ROCK”は昨日や今日になって生まれてきたものではなく、長い時間経過の中でさまざまな世代感を吸収しながら熟成されてきたものだ。そして重要なのは、そのカテゴリー名自体は音楽性を指すものではないものの、そこで音楽が軽視されているわけではないということだろう。彼らがこの日、この場に立てていたのは、そうした歴史からの影響を受け継いできたのみならず、この先に繋げようとする立場にあるからこそ。来夢が最後の最後に「またすぐにやるよ、ココ」と再会の約束を告げた理由の一端も、そうした自覚にあったのではないかと思えてならない。


彼らの楽曲の歌詞にはたびたび「ごめんね」という言葉が登場する。この夜も「人間失格」や「鬼」でそれが耳に飛び込んできた。その「ごめんね」には贖罪ばかりではなく慈愛も含まれているように思うし、裏を返せば「ありがとう」と同義なのだろうと思えることがある。そして終演後に僕が味わっていたのも、鬼気迫るライブパフォーマンスを通じてさまざまな気付きをもたらしてくれた4人に対する感謝の気持ちだった。だからこそ、次なる再開の機会が待ち遠しいところである。たとえその日が、どのような空模様であろうとも。

文◎増田勇一
撮影◎浜野カズシ

セットリスト

01.ストロベリー・ブルー
02.傷痕
03.人間失格
04.蛙-Kawazu-
05.銃声
06.地獄
07.鬼
08.平成
09.My Bitch
10.0
11.リトルガールは病んでいる。
12.おしまい
13.R/E/D/
14.鳩
15.豚
16.雨男
17.ミルク
18.黒い雨

「R/E/D/」


2025年4月9日(水) RELEASE

※詳細後日発表

「R/E/D/」- rough mix ver. - LYRIC VIDEO
https://x.com/ki_zuofficial/status/1876282577834918335

<<キズ×DEZERT 「This Is The “VISUAL”」>


2025年3月1日(土) 日比谷野外大音楽堂
[開場 /開演] 16:00 / 17:00

[チケット料金]
指定席¥8,000

キズ ブログマガジン会員/DEZERTオフィシャルファンクラブ「ひまわり会」2次先行
※TicketTown
受付期間:1/14(火)12:00~1/21(火)23:59
入金期間:1/24(金)12:00~1/30(木)23:59
販売ページURL:https://e.tickettown.site/tickets/kizu_dezert_this_is_the_visual

<キズ 単独公演「雨男」>


2025年3月2日(日) 日比谷野外大音楽堂
[開場 /開演] 16:30 / 17:30

[チケット料金]
VIP席(前方エリア/VIP限定グッズ/先行物販優先レーン)¥15,000
通常指定席¥6,000

ブログマガジン会員2次先行
※TicketTown
受付期間:1/14(火)12:00~1/21(火)23:59
入金期間:1/24(金)12:00~1/30(木)23:59
販売ページURL:https://e.tickettown.site/tickets/kizu_ameotoko

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